毎日歯ブラシで舌を磨いているのに、スコアが下がるどころか口臭が悪化している人がいます。
舌苔スコアの正式名称は「Tongue Coating Index(TCI)」といいます。歯科医院での口腔機能低下症の診断に使われる客観的な評価指標で、2007年に清水らによって発表された国際的な評価法です。
計算の手順は、まず舌を前に出して観察し、舌の表面(舌背)を前後・左右の3列×3行で合計9つのエリアに分割します。その後、各エリアごとに舌苔の付着状態を以下の3段階で判定します。
| スコア | 状態 | 目安 |
|---|---|---|
| 0点 | 舌苔なし | ピンク色の舌がきれいに見える |
| 1点 | 薄い付着 | 苔が面積の半分未満に付着 |
| 2点 | 厚い付着 | 苔が面積の半分以上を覆っている |
9エリアの合計点(最大18点)を算出したら、次の式でTCIを計算します。
$$TCI(\%) = \frac{\text{スコアの合計(0〜18点)}}{18} \times 100$$
たとえば、9つのエリアすべてで「1点(薄い付着)」だった場合、合計は9点となり、TCI = 9÷18×100 = 50%となります。合計スコア9点以上(TCI 50%以上)が口腔衛生状態不良の判定基準です。これは口腔機能低下症の診断における7項目のうちの1つに当たります。
つまり、スコアが9点を超えると「要注意」です。
ちなみに判定の目安として、0〜3点(TCI 0〜16%)はほぼ清潔な状態、4〜8点(TCI 22〜44%)は中等度の付着で要注意、9点以上(TCI 50%以上)は清掃不良・口腔機能低下の可能性が高い状態とされています。歯科医院でのチェックを受けることが望ましい状態です。
判定基準が一つあれば十分です。
参考:舌苔指数(TCI)の評価方法と口腔機能低下症の診断基準について(マス歯科医院)
https://www.masu-dc.or.jp/blog/1403/
スコアが上がると何が怖いのでしょうか?
舌苔は白または黄褐色のこけ状に見える付着物で、食べかず・剥がれた粘膜細胞・口腔内の細菌が集まって形成されます。口臭の原因物質である揮発性硫黄化合物(VSC)のほとんどは、この舌苔に生息する細菌によって産生されることがわかっています。
つまり、スコアが高い=口臭リスクも高い、ということですね。
さらに深刻なのが誤嚥性肺炎とのつながりです。舌苔の中で増殖した大量の細菌は、飲み込みの際に気管へ流れ込むことがあります。特に高齢者や嚥下機能が低下している方は、舌苔の細菌が肺に達して誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まります。日本では肺炎による死亡の多くが誤嚥性肺炎によるものとされており、口腔衛生状態の管理がいかに重要かがわかります。
口腔機能低下症の研究では、舌苔の付着(口腔衛生状態不良)は、舌口唇運動機能低下・低舌圧・嚥下機能低下など他の7項目とも密接に連動していることが示されています。スコアが高い状態を放置すると、「食べる力」全体が衰えていく可能性があります。これは健康寿命に直結する問題です。
また、舌苔が厚く覆われると、食べ物の味を感じる細胞(味蕾)への刺激が妨げられるため、味覚が鈍くなる「味覚鈍化」のリスクも高まります。食事の楽しみが減ることは食思不振にもつながるため、栄養面での影響も無視できません。
痛いですね。
参考:オーラルフレイル・口腔機能低下症の診断(公益財団法人長寿科学振興財団)
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/aging-and-health/2023-31-4/orarufureiru-kokukinoteikasho-shindan.html
舌苔を見て「とにかく磨けばいい」と思うのは自然な発想ですが、やり方を間違えるとかえってスコアが上がります。
最も多い間違いが「歯ブラシで舌を磨く」行為です。通常の歯ブラシは毛先が硬く、舌の繊細な粘膜を傷つける可能性があります。舌が傷つくと、傷の溝に細菌や汚れが溜まりやすくなり、炎症を起こした部位からさらに細菌が増殖します。結果として、口臭が悪化し、舌苔スコアが下がらないという悪循環に陥ります。
また、1日に何度も繰り返し磨くのもNGです。舌磨きは1日1回が推奨されており、それ以上行うと舌の表面にある味蕾(みらい)を傷つける恐れがあります。専門家によれば、舌に加える圧力は100g以下(ごく軽く表面をなでる程度)が目安です。ヒリヒリ感がなくても、過剰な刺激が粘膜にダメージを与えている場合があります。
磨きすぎは禁物ということです。
正しい舌苔ケアの手順は次の通りです。
舌苔がひどいからといって力を入れて磨く必要はありません。毎日続けることで少しずつ付着量が減っていきます。舌ブラシにはブラシ型とヘラ型(スクレーパー型)がありますが、粘膜への刺激が少ないヘラ型が初心者に向いているとされています。
参考:厚生労働省e-ヘルスネット「口臭の治療・予防」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-07-002.html
歯科医院に行く前に、まず自分のTCIスコアをおおまかに把握しておくことは有益です。自宅でのセルフチェックは簡単にできます。
必要なものはスマートフォンのライト(または明るい照明)と手鏡だけです。朝の起床後・水を飲む前のタイミングが最も正確に評価できます。就寝中は唾液が減少し、細菌が活発に増殖するため、起床直後が舌苔が最も厚くなっている状態だからです。
セルフチェックの手順を以下に示します。
ただし、自宅での評価はあくまで目安です。注意点として、「乳頭の角化」(舌の表面の突起が白く見える状態)と舌苔を混同しやすいことが挙げられます。歯科の現場でも両者の区別が難しいケースがあるほどです。正確な診断は歯科医師・歯科衛生士による視診が基本です。
また、スコアが高い状態が続く場合には、舌の運動機能低下(自浄作用の低下)や薬の副作用による唾液分泌低下、免疫力の低下が背景にある可能性があります。単に「清掃不足」だけが原因ではないため、口腔機能低下症の可能性を含めて歯科医院での精密検査を受けることが望ましいです。
セルフチェックはあくまでも入り口です。
ここでは「スコアを下げるために実生活で何をするか」という視点で、見落とされがちな習慣をまとめます。
まず、唾液の分泌量を増やすことが舌苔スコア改善の核心です。唾液には口腔内を洗い流す自浄作用があり、舌苔の形成を自然に抑える働きを持っています。唾液が少ない状態(口腔乾燥)では、いくら丁寧に舌磨きをしてもすぐに舌苔が再形成されやすくなります。
唾液分泌を増やす実践的なアプローチとして、食事のときにゆっくりよく噛むことが最も効果的です。硬い食材(根菜・りんご・全粒パンなど)を意識的に食べることで咀嚼回数が増え、唾液腺が刺激されます。また、梅干しやレモンなど酸味のある食品も唾液腺を刺激するとされています。
これは使えそうです。
水分補給も重要です。1日1.5〜2リットルの水分摂取が目安とされており、特に起床後・食後のタイミングで水を飲む習慣をつけると口腔内の乾燥を防げます。口呼吸をしている方は口腔内が乾燥しやすいため、意識的に鼻呼吸を心がけることも舌苔の増加を防ぐうえで有効です。
食生活の偏りも見直し対象です。やわらかい食品ばかりの食事が続くと舌が動く機会が減り、舌の自浄作用が落ちて舌苔がたまりやすくなります。野菜・食物繊維が不足するとさらに細菌が繁殖しやすい環境になります。食事内容の見直しがスコア改善の隠れたカギです。
一方、口腔機能低下症の診断(7項目中3項目以上で該当)が出た場合は、自己ケアだけでなく歯科医院での「口腔機能管理」を受けることが保険診療でカバーされます。2018年から口腔機能低下症が医療保険の対象となり、検査・管理・訓練が保険適用で受けられるようになりました。スコアが高止まりしている場合は、こうした専門的なアプローチを検討する価値があります。
口腔機能低下症の検査について、より詳しい診断基準や保険診療の流れが解説されています。
https://www.gerodontology.jp/committee/file/oralfunctiondeterioration_document.pdf(日本老年歯科医学会・口腔機能低下症 保険診療における検査と診断)