普通の歯周外科手術では真の新付着は得られません。
新付着と再付着は、どちらも歯周治療後の治癒形態を表す用語ですが、その本質は大きく異なります。この違いを理解することが、歯周治療の予後を正確に評価する第一歩です。
再付着とは、切開または外傷などによって健全な歯根面から一時的に離断された歯肉結合組織が、再び歯根面に付着することを指します。つまり、元々健康だった組織同士が再び結合する現象です。この場合、歯根面には病的な変化が起きていないため、セメント質の新生を必要としません。外科手術でメスを入れた部分が元通りにくっつくイメージですね。
一方、新付着は歯周病によって露出した病的な歯根面に、治療的手段によってセメント質が新生され、歯根膜が形成されることで生じる歯根面への歯肉結合組織の結合を意味します。歯周病で一度失われた付着を、新たに形成された組織で再び獲得する治癒様式です。これには新生セメント質の形成が不可欠で、より複雑な生物学的プロセスが必要となります。
この二つの違いを一言で表すなら、「元々あった健全な組織の再結合」が再付着で、「病的に失われた部位への新しい組織の形成と結合」が新付着ということですね。
臨床現場では、この違いを正確に理解していないと、治療後の予後判定を誤る可能性があります。レントゲン写真上では両者を区別することが困難な場合も多いため、治療前の組織の状態と実施した術式から判断する必要があります。
OralStudioの歯科辞書では、再付着と新付着の定義について詳しい解説が掲載されており、基礎知識の確認に役立ちます。
新付着の最大の特徴は、新生セメント質と歯根膜の形成を伴う点にあります。この組織学的な違いが、長期的な予後に大きな影響を与えるのです。
歯周病によって露出した歯根面は、病的なセメント質や細菌の侵入により汚染されています。スケーリング・ルートプレーニングで徹底的に根面を清掃しても、通常の治療では上皮が最も早く創面を覆ってしまうため、接合上皮性付着(長い接合上皮)として治癒します。
この場合、真の新付着は獲得できていません。
真の新付着を得るためには、セメント質の新生が必要です。セメント質は歯根膜にある細胞から分化して作られますが、この形成には時間がかかります。組織の修復速度は、歯肉上皮が最も早く、次いで歯槽骨、歯肉結合組織、歯根膜の順となっているため、特別な処置なしでは上皮が先に根面を覆ってしまうのです。
新生セメント質には大きく分けて二つのタイプがあります。象牙質に直接接着している無細胞セメント質と、接着していない有細胞セメント質です。より理想的な再生は、エナメルマトリックスタンパク質の関与により形成される無細胞セメント質による新付着とされています。
新付着が獲得されると、コラーゲン線維が新生セメント質に封入され、反対側は歯槽骨に埋入することで、歯根膜を介した強固な結合組織性付着が形成されます。この付着様式は、歯に加わる咬合力を歯槽骨に適切に伝達し、クッションとしての役割も果たします。
付着の幅はおよそ1mm程度です。
歯根膜線維が適切に配列された新付着は、単なる上皮性付着と比較して、細菌に対する抵抗性が高く、長期的な安定性に優れています。つまり、同じ「ポケットが浅くなった」という結果でも、内部の組織構造が大きく異なるということですね。
再付着は、比較的限られた臨床状況でのみ生じる治癒形態です。どのような場合に再付着が期待できるのかを理解することが重要です。
再付着が得られる代表的なケースは、歯周外科手術で歯肉弁を剥離し、再び縫合する場合です。例えば、フラップ手術において、健全な歯根面に付着していた歯肉結合組織を一時的に剥離し、根面の処置後に元の位置に戻して縫合すると、根尖側の健全な線維が残っている部分で再付着が起こります。
歯周ポケット掻爬術や新付着術(ENAP)でも、健全な歯根面が残存している部分では再付着が生じます。ただし、スケーリング・ルートプレーニングを行った歯冠側の部分は、接合上皮が面することになります。つまり、一つの歯の中でも部位によって治癒様式が異なるということです。
外傷によって歯が脱臼したり、歯肉が裂けたりした場合も、適切な処置を行えば再付着が期待できます。この場合、組織が元々健全であることが前提となるため、迅速な対応と清潔な環境の維持が重要です。受傷後の時間経過が長いと、組織の壊死や感染により再付着が得られにくくなります。
注意すべきは、再付着はあくまで「健全な組織同士の再結合」であり、歯周病で失われた付着を回復するものではないという点です。したがって、進行した歯周病の治療では、再付着だけでは不十分であり、新付着の獲得を目指す必要があります。
臨床では、術前の歯周組織の状態を正確に把握し、どの部分で再付着が期待でき、どの部分で新付着を目指すべきかを判断することが求められます。
この判断が適切な術式選択につながります。
多くの歯周外科手術では、結合組織性の新付着ではなく、上皮性付着(長い接合上皮)として治癒します。この違いを理解することが、治療計画立案に不可欠です。
上皮性付着とは、歯根表面への歯肉の付着様式のうち、上皮によるものを指します。通常の歯周外科手術後、組織の修復速度の違いから、歯肉上皮が最も早く創面を覆い、接合上皮が長く伸びた状態で治癒します。これをロングジャンクショナルエピセリウム(長い接合上皮)と呼びます。
接合上皮は通常、歯冠側に約2mmの幅で存在しますが、歯周外科後はこれが数ミリメートルにわたって根面に沿って伸びた状態となります。プローブで測定するとポケットが浅くなったように見えますが、組織学的には上皮と歯根面の間に結合組織性の付着が形成されていないのです。
上皮性付着は、結合組織性付着と比較して脆弱です。上皮付着と歯肉線維の抵抗力により、プローブの挿入はある程度防げますが、細菌の侵入に対するバリア機能は結合組織性付着より劣ります。良好なプラークコントロールが継続されなければ、再び炎症が起こりやすい状態といえます。
一方、新付着で得られる結合組織性付着は、コラーゲン線維が新生セメント質に封入され、歯根膜を介して歯槽骨と連結する強固な構造を持ちます。この構造は、咬合力の分散、細菌侵入の防御、長期的な安定性において上皮性付着より優れています。
しかし、上皮性付着であっても、良好なメインテナンスを継続することで長期的に安定する症例も報告されています。場合によっては、上皮性付着が結合組織性付着に変化することもあると推察されています。つまり、治癒形態だけで予後が決まるわけではなく、術後の管理も同様に重要ということですね。
歯周ポケット掻爬術、新付着術(ENAP)、フラップ手術などの組織付着療法は、基本的に長い上皮性付着で治癒する術式です。一方、GTR法やエムドゲインを用いた歯周組織再生療法は、新付着の獲得を目的とした特別な術式です。
真の新付着を獲得するためには、組織再生誘導(GTR)法やエムドゲインなどの特別な処置が必要です。これらの術式は、組織の修復速度の違いをコントロールすることで新付着を実現します。
GTR法(Guided Tissue Regeneration)は、遮断膜(メンブレン)を用いて、歯周組織の治癒過程中に歯肉上皮や歯肉結合組織細胞の歯根面への接触と増殖を遮断する方法です。最も早く創面を覆う上皮の侵入を物理的にブロックすることで、歯根膜組織にスペースを提供し、新付着形成を可能にします。
GTR法による治癒は、厳密には「修復」に分類されます。象牙質とは接着していない有細胞セメント質による新付着と、歯槽骨の新生が起こります。本来あった形態とは若干異なる組織の再生ですが、臨床的には十分な結合組織性付着が獲得できるため、長期的な予後は良好です。
一方、エムドゲイン(エナメルマトリックスタンパク質)を用いる方法は、より理想的な「再生」を目指します。エムドゲインは、歯の発生過程で重要な役割を果たすタンパク質で、無細胞セメント質の形成を誘導します。無細胞セメント質は象牙質に直接接着しているため、より強固で生物学的に理想的な付着が得られます。
エムドゲインゲル処置後の歯根表面では、セメント質と歯根膜を伴う新付着が形成されます。エムドゲインには上皮細胞の増殖抑制活性があり、上皮の根尖方向への侵入を防ぎます。同時に、歯根膜細胞や骨芽細胞の増殖を促進することで、歯周組織の再生を導きます。
理想的な歯周組織の再生は、接合上皮付着が必要最小限であることに加えて、コラーゲン線維が封入された新生セメント質の形成による新付着と、これに伴う新生骨を獲得することです。GTR法とエムドゲインを併用することで、より確実な再生が期待できる場合もあります。
これらの再生療法は、通常の歯周外科と比較して技術的に高度で、適応症も限られます。骨縁下欠損の形態、残存する歯槽骨の量、患者のプラークコントロール能力などを総合的に判断して適応を決定する必要があります。費用面では、エムドゲイン治療は自費診療となり、1歯あたり4万円から8万円程度が相場です。
FUMI's Dental Officeの解説では、治癒反応の詳細なメカニズムと各術式の特徴がイラスト付きで説明されており、理解を深めるのに有用です。
臨床現場で新付着と再付着を区別することは、実は非常に困難です。しかし、いくつかの判断基準を組み合わせることで、ある程度の推測が可能になります。
最も重要な判断材料は、術前の歯周組織の状態です。術前に深い歯周ポケットがあり、歯槽骨の吸収が進行していた部位では、新付着が得られたと判断します。一方、術前から健全だった部位や、浅いポケットしかなかった部位では、再付着が起きたと考えられます。
つまり、出発点の状態が判断の鍵ということですね。
実施した術式も重要な判断基準です。GTR法やエムドゲインを使用した場合は、新付着の獲得を目指した治療ですので、成功すれば新付着が得られたと判断できます。通常のフラップ手術や歯周ポケット掻爬術では、基本的に上皮性付着または再付着として治癒すると考えます。
プロービング時の抵抗感も参考になります。結合組織性の新付着が得られている場合、プローブの挿入に対して強い抵抗があり、一定の深さ以上は入りません。一方、長い上皮性付着の場合は、やや柔らかい抵抗感となります。ただし、この判断は経験に基づく主観的なものなので、他の情報と合わせて総合的に評価する必要があります。
レントゲン写真では、歯槽骨の新生が確認できれば、新付着が得られた可能性が高いと判断できます。ただし、接合上皮性付着の外側に骨の新生が見られる場合もあり、これは「修復」に分類されます。レントゲン写真だけでは、新生セメント質の有無や歯根膜の形成を確認することはできません。
アタッチメントレベル(付着レベル)の変化も重要な指標です。アタッチメントゲイン(付着の獲得)が認められれば、何らかの形で結合組織性の付着が得られたと推測できます。新付着の獲得と再付着の獲得は、どちらもアタッチメントゲインとして表れるため、これだけでは区別できませんが、術前の状態と合わせて判断します。
臨床的には、組織学的な厳密な区別よりも、「結合組織性の付着が得られたか」「長期的に安定するか」という実用的な評価が重要です。良好なプラークコントロールと定期的なメインテナンスを継続することで、治癒形態に関わらず長期的な安定が得られる症例も多くあります。