エムドゲインは保険適用外で1本7万円以上かかります
エムドゲインは、スウェーデンで開発された歯周組織再生療法の代表的な治療材料です。幼若豚の歯胚組織から抽出されたエナメルマトリックスタンパク質(EMD)を主成分とし、アメロジェニンというタンパク質が中心的な役割を果たします。
歯周病によって破壊された歯周組織に対して、エムドゲインゲルを塗布することで、歯が生えてくる時と同じような生物学的環境を再現します。このメカニズムにより、歯槽骨、セメント質、歯根膜といった歯周組織の再生が促進されるのです。
エナメルマトリックスタンパク質は、もともと歯の発生過程において重要な役割を果たす物質です。胎児期の歯の形成時に、エナメル質だけでなく、セメント質や歯根膜の形成にも深く関与していることが近年の研究で明らかになっています。エムドゲインは、この生理学的なプロセスを応用した治療法といえます。
つまり、人工的な再生ではないのです。
体が本来持っている組織再生能力を、エナメルマトリックスタンパク質によって引き出すことで、より自然な歯周組織の回復を目指す治療法なのです。厚生労働省が2002年に認可し、現在では世界40ヶ国以上で使用されている実績があります。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のエムドゲインゲル添付文書には、使用方法や安全性に関する詳細な情報が記載されています。
エムドゲイン療法は、すべての歯周病に適用できるわけではありません。
適応症は主に三つの病態に限定されます。
第一に、垂直性骨欠損です。歯の周囲の一部分が垂直方向に深く骨が失われている状態を指します。具体的には、歯周ポケットが6mm以上、X線写真上で深さ4mm以上、幅2mm以上の骨欠損がある中等度から重度の歯周病が対象となります。逆に、歯の周囲360度が水平的に骨吸収されている「水平性骨吸収」には適応できません。
第二に、根分岐部病変です。奥歯のように歯根が複数に分かれている歯において、その分岐部分まで骨吸収が進んだ状態を指します。ただし、著しい骨吸収がある場合は適応外となります。
第三に、歯肉退縮です。
歯茎が下がり、歯根が露出してしまった状態においても、エムドゲインによる組織再生が期待できます。ただし、歯根の露出が著しい場合は効果が限定的になります。
禁忌症についても理解しておく必要があります。エムドゲインはブタ由来の材料のため、宗教上の理由で使用できない患者さんがいます。また、抗凝固療法を受けている患者さんに対しては、出血のリスクがあるため細心の注意が必要です。十分に管理されていない歯周病に対しては使用できません。
喫煙者には特に注意が必要です。
喫煙は血流を悪化させ、歯周組織の治癒を著しく妨げるため、エムドゲイン療法の成功率を大幅に低下させます。術前2週間から術後数週間は必ず禁煙する必要があり、理想的には治療を機に完全に禁煙することが推奨されます。
成功率は50~90%と報告されており、骨が溶けてしまった部分すべてが再生できるわけではありません。個人の口腔衛生状態、全身の健康状態、骨欠損の形態などによって、再生可能な量は大きく異なります。
エムドゲイン療法は健康保険が適用されない自由診療です。これは患者さんにとって大きな経済的負担となる可能性があります。
治療費は歯科医院によって異なりますが、一般的に1歯あたり4万円から12万円程度が相場となっています。多くの医院では、1本あたり7万円から8万円程度に設定されているケースが多いようです。隣接歯を追加で治療する場合は、追加料金として3万円程度が加算されることもあります。
これに対して、リグロスという歯周組織再生療法は保険適用となります。リグロスは、ヒト由来の成長因子(bFGF)を主成分とする薬剤で、2016年に保険適用されました。保険適用の場合、3割負担で1歯あたり約1万円程度の自己負担で治療を受けることができます。
費用だけで判断すべきではありません。
エムドゲインは1990年代から世界中で使用されており、30年以上の豊富な臨床実績があります。一方、リグロスは比較的新しい治療法で、長期的な臨床データはエムドゲインほど蓄積されていません。また、リグロスには口腔癌の既往がある患者さんには使用禁忌という制限があります。
エムドゲイン療法には、手術費用以外にも術前の歯周基本治療(スケーリング、ルートプレーニング)の費用や、術後の定期メンテナンス費用も発生します。歯周組織が再生するまでには8ヶ月から数年かかる場合があり、その間の継続的なケアが不可欠です。
治療を検討する際は、複数の歯科医院で見積もりを取り、治療計画や術後管理の内容も含めて総合的に判断することが重要です。歯周病専門医や日本歯周病学会認定医が在籍する医院であれば、より高度な専門知識と技術を持つ治療を受けられます。
公益社団法人日本歯周病学会の公式サイトでは、認定医・専門医の検索や歯周病治療に関する信頼できる情報を得ることができます。
エムドゲイン療法の成功は、術後の適切な管理にかかっています。手術当日から数週間の過ごし方が、歯周組織の再生に大きく影響します。
手術直後は、麻酔が切れると痛みを感じることがあります。処方された鎮痛剤を適切に使用し、無理をしないことが大切です。また、感染を防ぐために抗生剤が処方されるため、指示通りに服用する必要があります。
患部の清潔を保つことが重要ですが、直接刺激を与えてはいけません。
手術部位に歯ブラシを当てないように注意し、うがいも強く行わないようにします。手術後1週間程度は、やわらかい食事を心がけ、患部の反対側を使って咀嚼することが推奨されます。刺激物、辛いもの、熱いものは避けるべきです。
喫煙は治癒を著しく妨げます。血行が悪くなり、治療効果が薄れるだけでなく、再生された組織の質も低下します。術前2週間から術後数週間、理想的には完全に禁煙することが強く推奨されます。飲酒も血流を促進し、出血や腫れの原因となるため、少なくとも2~3日は控える必要があります。
激しい運動や、湯船で体を温める行為も避けるべきです。体温が上がると血流が増加し、患部の出血や腫れを引き起こす可能性があります。手術当日から数日間は、シャワーで済ませ、安静に過ごすことが望ましいです。
定期的な通院も不可欠です。
術後1週間程度で抜糸を行い、その後も定期的に歯科医院で口腔内の清掃とチェックを受けます。歯周組織が再生するまでには8ヶ月から数年かかるため、長期的なメンテナンスが成功の鍵となります。
患部に指や舌で触れることは厳禁です。傷口からの感染リスクが高まり、再生プロセスが妨げられます。違和感があっても、触らずに歯科医院に相談することが重要です。
睡眠不足や過労も歯周組織の炎症を悪化させる要因です。十分な休息を取り、バランスの良い食事を心がけることで、体の治癒力を最大限に引き出すことができます。特にビタミンCやタンパク質は、組織の修復に必要な栄養素です。
エムドゲイン療法の長期的な成功には、術後のセルフケアと定期的なプロフェッショナルケアの両立が不可欠です。再生された歯周組織を維持するためには、継続的な取り組みが求められます。
エムドゲイン療法で再生した骨は、2年後、3年後も継続して少しずつ再生が進むという報告があります。しかし、これは適切な口腔衛生管理が行われている場合に限ります。プラークコントロールが不十分だと、再生した組織も再び破壊されてしまう可能性があります。
毎日のブラッシングが基本です。
歯周病の原因となるプラーク(歯垢)を確実に除去するためには、正しいブラッシング技術が必要です。歯科衛生士による指導を受け、自分の口腔内に合ったブラッシング方法を習得することが重要です。歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやデンタルフロスの使用も推奨されます。
定期的なメンテナンスは3~6ヶ月に一度が理想的です。歯科医院でのプロフェッショナルケアでは、自分では除去できない歯石を取り除き、口腔内の状態をチェックします。再生した組織の状態や、新たな歯周病の兆候がないかを確認することで、早期に対応することができます。
エムドゲイン療法は、GTR法(歯周組織再生誘導法)に比べて術式が難しくなく、合併症のリスクが少ないというメリットがあります。GTR法では人工膜を使用するため、膜の露出や感染のリスクがありますが、エムドゲインはゲル状の材料を塗布するだけなので、そのようなリスクが低いのです。
治療効果はほぼ同等です。
多くの研究で、エムドゲイン法とGTR法の歯周組織再生量はほぼ同じという結果が報告されています。そのため、近年では技術的な難易度が低く、患者さんへの負担が少ないエムドゲイン法が選択されることが多くなっています。
リグロスとエムドゲインを比較すると、主成分の違いが挙げられます。エムドゲインはエナメル質形成に関わるタンパク質を主成分とし、リグロスは細胞増殖因子を主成分としています。作用メカニズムは異なりますが、両者とも歯周組織の再生を促す効果があります。
骨補填材を併用することも一般的です。エムドゲイン単独では骨の再生量に限界がある場合、Bio-Oss(ウシ由来の骨補填材)などを併用することで、より確実な骨の再生が期待できます。ただし、骨補填材を使用する場合は、自費診療となり費用も増加します。
エムドゲイン療法の成功の鍵は、患者さん自身の取り組みにあります。歯科医師の技術や材料の品質も重要ですが、最終的には患者さんの口腔衛生管理と生活習慣が長期予後を左右するのです。禁煙、適切なブラッシング、定期メンテナンス、この三つを継続することが、再生した歯周組織を守り、歯を長く保つための最善の方法です。