第三世代セフェム内服は吸収率25%で薬代も無駄になります
セフェム系抗生物質は第一世代から第四世代まで分類されており、歯科領域で使用される内服薬は主に第一世代と第三世代に集中しています。開発された年代によって世代が区分されていますが、実は世代分類が正式に適用されるのはセファロスポリン系のみで、セファマイシン系やオキサセフェム系には本来世代の概念がありません。しかし臨床現場では便宜的にこれらも世代分類に含めて理解されています。
第一世代セフェムの代表的な内服薬には、セファレキシン(商品名:ケフレックス)やセファクロル(商品名:ケフラール)があります。これらは黄色ブドウ球菌やレンサ球菌といったグラム陽性菌に強い抗菌活性を示すため、皮膚感染症や軟部組織感染症の治療に適しています。歯科領域では歯周組織炎の初期治療に選択されることがあります。
第三世代セフェムには、セフカペンピボキシル(商品名:フロモックス)、セフジニル(商品名:セフゾン)、セフジトレンピボキシル(商品名:メイアクト)、セフポドキシムプロキセチル(商品名:バナン)などがあります。グラム陰性菌に対する抗菌活性が強化されており、広域スペクトラムを持つことが特徴です。
しかし、第三世代経口セフェムには重大な問題があります。バイオアベイラビリティが14~25%と極めて低く、投与した薬剤の大部分が血液中に到達せずに排泄されてしまうのです。例えば100mgを服用しても、実際に全身循環血中に到達して作用するのは25mg程度に過ぎません。つまり、75%の薬剤が無駄になっているということですね。
歯科領域における抗菌薬適正使用の観点から、現在では第三世代経口セフェムの使用は推奨されていません。
歯科領域でセフェム系内服薬が適応となる主な疾患は、歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎の3つのカテゴリーに分類されます。JAID/JSC感染症治療ガイドラインでは、これらの歯性感染症を重症度によって1群から4群まで段階的に分類しており、各段階で推奨される抗菌薬が異なります。
1群の歯周組織炎は、歯の周囲組織に限局した比較的軽度の感染症です。この段階では、ペニシリン系のアモキシシリンが第一選択薬とされ、セフェム系は第二選択以降となります。歯性感染症の原因菌は、好気性菌と嫌気性菌が混在する混合感染の形態をとることが多いのですが、セフェム系抗菌薬は基本的に嫌気性菌に対する活性が弱いという特性があるためです。
2群の歯冠周囲炎は、主に埋伏智歯の周囲に発症する感染症で、1群よりやや重症化した状態です。開口障害や嚥下痛を伴うこともあり、適切な抗菌薬選択が求められます。この段階でも、ペニシリン系が第一選択となり、ペニシリンアレルギーがある場合の代替薬としてセフェム系が考慮されます。
3群の顎炎、4群の顎骨周囲の蜂窩織炎は、感染が顎骨や周囲組織に波及した重症例です。これらの症例では、ドレナージ(排膿処置)が必要となり、抗菌薬療法と外科的処置を組み合わせた治療が基本となります。重症化した段階では、経口抗菌薬の効果が不十分な場合があり、注射薬への切り替えも検討されます。
セフェム系を歯科で使用する場合、第一世代のケフラールやケフレックスが選択肢となりますが、嫌気性菌への効果が限定的であることを理解しておく必要があります。ペニシリンアレルギーがある患者さんでは、約10~15%の確率でセフェム系にも交差反応を示すリスクがあるため、慎重な問診と投与が求められます。
抗菌薬適正使用の手引きでは、歯性感染症に対するアモキシシリンの有効率が歯周組織炎で78.6%、歯冠周囲炎78.6%、顎炎66.7%であったのに対し、第三世代セフェムではこれより低い有効率が報告されています。
厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 歯科編」では、歯科領域における抗菌薬選択の詳細な指針が示されています
第三世代経口セフェム系抗菌薬(セフゾン、フロモックス、バナンなど)が歯科領域で推奨されない最大の理由は、バイオアベイラビリティの低さにあります。消化管から吸収されて血液中に到達する割合が14~25%程度しかなく、他の系統の経口抗菌薬と比較して著しく低い値です。例えば、第一世代セフェム系やペニシリン系の経口抗菌薬は80~90%の吸収率がありますから、その差は歴然としています。
吸収率が低いということは、投与された薬剤の75~86%が吸収されずに消化管に残り、そのまま排泄されてしまうことを意味します。体重60kgの成人が飲む500mlペットボトル1本分の水の量と比較すると、100mg錠剤のうち約75mgが無駄になるのは、ペットボトル1本のうち375mlを捨てているようなものです。
これは医療経済的にも大きな問題ですね。
薬価の面でも問題があります。第三世代経口セフェムの1日薬価は、推奨されているペニシリン系やマクロライド系と比較して高額です。例えば、セフカペンピボキシル100mg錠の薬価は1錠あたり約35~40円で、1日3回服用すると約105~120円になります。一方、アモキシシリン250mg錠は1錠あたり約10円程度で、1日3回服用しても約30円と、3分の1以下のコストです。
さらに深刻なのが、薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)対策の観点です。吸収されずに腸管に残った抗菌薬は、腸内細菌叢に影響を与え、耐性菌の選択圧となります。つまり、効果が十分に発揮されないにもかかわらず、耐性菌を増やすリスクだけは高めてしまうのです。2016年に策定されたAMR対策アクションプランでは、経口第三世代セフェム系の使用削減が明確に目標として掲げられています。
実際の臨床現場では、継続的な教育介入により第三世代経口セフェムの処方割合を大幅に削減できた事例が報告されています。東京医科歯科大学歯学部附属病院では、薬剤師による介入により、介入前には100抗菌薬処方あたり約60%を占めていた経口第三世代セフェムの処方が、介入後には約10%まで減少したという成果が発表されました。
この削減は、患者さんの治療効果を損なうことなく達成されています。つまり第三世代セフェムが無駄だったということです。
セフェム系抗生物質の内服で最も頻度が高い副作用は、消化器症状です。下痢は使用患者の5~15%程度に発現すると報告されており、軽度のものから重篤なものまで幅広く存在します。抗生物質が腸内細菌叢のバランスを崩すことで、腸内の善玉菌が減少し、悪玉菌が増殖することが原因です。
特に注意が必要なのは、偽膜性腸炎(偽膜性大腸炎)と呼ばれる重篤な副作用です。これはクロストリジウム・ディフィシル(Clostridioides difficile)という細菌が異常増殖することで発症します。抗生物質の投与により正常な腸内細菌が減少すると、この菌が産生する毒素が腸粘膜を障害し、偽膜と呼ばれる白っぽい膜状の病変を形成します。症状としては、1日10回以上に及ぶ水様性下痢、腹痛、発熱、血便などがみられ、重症化すると脱水症状や電解質異常から生命に関わる状態になることもあります。
偽膜性腸炎は抗生物質の服用中だけでなく、服用終了後数週間経ってから発症することもあるため、患者さんへの説明が重要です。セフェム系の中でも、特にリンコマイシン系と併用した場合や、長期間使用した場合にリスクが高まると報告されています。
アレルギー反応も重要な副作用です。発疹やかゆみなどの皮膚症状は比較的軽度ですが、まれにアナフィラキシーショックという重篤なアレルギー反応を起こすことがあります。アナフィラキシーは、薬剤投与後数分から数十分以内に発症し、呼吸困難、血圧低下、意識障害などを引き起こす緊急事態です。発症頻度は極めて低いものの、万が一の事態に備えた準備が必要となります。
ペニシリンアレルギーの既往がある患者さんにセフェム系を投与する場合、交差反応のリスクを考慮しなければなりません。日本の添付文書では、ペニシリンアレルギーの既往がある場合、セフェム系の使用は原則禁忌とされています。ただし、近年の研究では実際の交差反応率は従来考えられていたよりも低く、約10%以下であることが明らかになっています。それでも慎重な対応が求められることに変わりはありません。
その他の副作用として、肝機能障害、腎機能障害、血液障害(白血球減少、血小板減少など)、横紋筋融解症なども報告されています。発現頻度は不明ですが、これらは重大な副作用に分類されており、定期的な血液検査によるモニタリングが推奨される場合があります。
副作用のリスクを最小限にするためには、適切な投与期間を守ることが重要です。
ペニシリン系抗生物質とセフェム系抗生物質は、どちらもβラクタム環という共通の化学構造を持っています。この構造的類似性から、ペニシリンアレルギーのある患者さんではセフェム系にも交差反応を示す可能性があるとされ、長年にわたり臨床現場では両者の併用が避けられてきました。しかし、最近の研究により、実際の交差反応率は従来の認識よりもはるかに低いことが明らかになっています。
過去には、ペニシリンアレルギー患者の約10%がセフェム系にも交差反応を示すと考えられていました。しかし、これは1960~1970年代の古いデータに基づいており、当時のセフェム系製剤にはペニシリンの不純物が混入していたことが原因の一つだったのです。現在製造されているセフェム系抗生物質の純度は99%以上に向上しており、交差反応のリスクは大幅に低下しています。
最近のメタアナリシスでは、ペニシリンアレルギーの既往がある患者に対するセフェム系抗生物質の使用において、IgE介在性の即時型アレルギー反応が生じる確率は約1~3%程度と報告されています。これは一般的にペニシリンアレルギーと自己申告する患者全体の約10%しか真のIgE介在性アレルギーを持っていないという事実を考慮すると、さらに低い確率となります。
交差反応のリスクは、セフェム系の世代や個別の薬剤によっても異なります。第一世代セフェムのセファゾリン(注射薬)は、特有の側鎖構造を持ち、他のβラクタム系薬との交差反応が比較的少ないとされています。一方、セファレキシンやセファクロルなどの経口第一世代セフェムは、ペニシリン系と側鎖構造が類似しているため、交差反応のリスクがやや高い可能性があります。
それでも実際のリスクは低いということです。
カルバペネム系抗生物質についても、ペニシリンアレルギーとの交差反応が懸念されてきましたが、研究によればその確率は約0.87%と極めて低いことが示されています。これらの新しい知見は、過度に広範な薬剤制限を避け、適切な抗菌薬を選択する上で重要な情報となります。
ただし、ペニシリンで重篤なアナフィラキシー反応を起こした既往がある患者さんでは、たとえ交差反応の確率が低くても、セフェム系の使用は慎重に判断すべきです。このような場合は、マクロライド系やキノロン系など、βラクタム環を持たない抗菌薬を選択するのが安全です。
歯科臨床では、ペニシリンアレルギーを申告する患者さんに遭遇した際、まず詳細な問診を行うことが重要になります。過去のアレルギー反応の具体的な症状(発疹だけか、呼吸困難を伴ったか)、発症時期(投与直後か数日後か)、診断の根拠(医師の診断か自己判断か)などを確認することで、真のアレルギーかどうかを評価できます。
日本感染症学会「JAID/JSC感染症治療ガイドライン 歯性感染症」では、ペニシリンアレルギー患者への代替抗菌薬選択について詳細な推奨が記載されています
歯科医療従事者がこの最新の知見を理解し、過度な薬剤制限を避けることで、より適切な抗菌薬療法が実現します。
Please continue.