ルフォーII型骨折診断から治療法

ルフォーII型骨折は上顎骨に鼻骨を含む複雑な中顔面骨折で、適切な診断と治療が咬合回復の鍵となります。歯科医療従事者が知っておくべき重要な骨折線走行、固定法、合併症リスクを詳しく解説していますが、見逃すと患者の予後に重大な影響を与えることをご存じでしょうか?

ルフォーII型骨折の診断と治療

II型では3点固定が治療成功の分かれ目です。


この記事の3つのポイント
🔍
ルフォーII型骨折の骨折線走行と診断

前頭鼻骨縫合から眼窩下縁、頬骨上顎縫合を経て翼状突起に至る錐体型骨折で、3DCT画像による立体的な骨折線把握が診断精度を高めます

⚕️
ルフォーII型骨折の3点固定法

上顎前頭縫合部、眼窩下縁、頬骨下稜部の3箇所をミニプレートで固定することで3次元的な整復位を確保し咬合回復を実現します

⚠️
ルフォーII型骨折の合併症リスク

頭蓋底骨折による髄液漏や眼窩下神経損傷による知覚障害など重篤な合併症を伴うため早期診断と適切な初期対応が必須です


ルフォーII型骨折の定義と骨折線走行

ルフォーII型骨折は、上顎錐形骨折またはピラミッド型骨折とも呼ばれる中顔面骨折の一型です。この骨折の特徴は、鼻骨から始まる骨折線が錐体状のパターンを描きながら上顎骨を貫通する点にあります。


骨折線の具体的な走行は以下の通りです。前頭鼻骨縫合から両側に分かれて、上顎骨前頭突起、涙骨、篩骨を経由し、眼窩内側壁から眼窩底に進みます。さらに下眼窩裂を通過し、眼窩下縁を横断した後、頬骨上顎縫合部から上顎洞側壁および後壁を経て、最終的に翼口蓋窩から翼状突起に達します。この複雑な骨折線のパターンは、中顔面の中央部分を錐体状に分離させることになります。


ルフォーI型骨折が上顎骨の下半分のみに限局するのに対し、II型では鼻骨複合体を含む広範囲が骨折の影響を受けます。一方、III型骨折では頬骨も含めた顔面中央部全体が頭蓋骨から離断されるため、II型はその中間的な位置づけとなります。骨折線が眼窩を含む範囲に及ぶため、眼症状や神経症状を伴いやすい特徴があります。


実際の臨床では、純粋なII型骨折だけでなく、I型やIII型との複合骨折として出現することも少なくありません。骨折のパターンは受傷機転や外力の方向によって変化するため、画像診断による正確な骨折線の把握が治療計画立案の第一歩となります。


つまり教科書的な分類が基本です。


ルフォーII型骨折の受傷機転と発生頻度

ルフォーII型骨折は、顔面への高エネルギー外傷によって引き起こされる骨折です。主な受傷機転としては、交通事故が最も多く、特に自動車やバイクによる衝突事故が大半を占めています。次いで高所からの転落事故、暴行による顔面への強い衝撃、作業中の事故などが原因となります。


疫学的には、顔面中央部の骨折は顔面外傷全体の約25%を占めるとされています。発症年齢のピークは21歳から25歳の若年成人層に見られ、特に男性の発生頻度が高い傾向があります。これは若年男性の社会活動が活発であることや、交通事故や労働災害への曝露機会が多いことが関係していると考えられます。


顔面中央部の骨折は下顎骨骨折と比較すると発生頻度は低いものの、受傷時の外力が非常に大きいため、頭部外傷や頸椎損傷などの重篤な合併損傷を伴うケースが多いです。そのため初期診療では全身状態の評価と生命維持が最優先となり、顔面骨折の治療は状態が安定してから行われることが一般的です。


高エネルギー外傷による中顔面骨折では、単独の骨折よりも複数の骨折が合併する全顔面骨折(Panfacial fracture)の形をとることもあります。受傷機転を正確に把握することで骨折のパターンを予測しやすくなりますし、見落としのリスクも減少します。


危険な受傷機転を認識することが基本です。


Le Fort型顔面骨折の画像所見と臨床について詳細な解説が掲載されています(日本耳鼻咽喉科学会論文)


ルフォーII型骨折の臨床症状と初期診断

ルフォーII型骨折の症状は、骨折部位の圧痛、顔面中央部の著明な腫脹、皮下出血がほぼ必発で認められます。顔面全体が腫れ上がり、特に上唇から中顔面下半分にかけての浮腫が顕著です。眼窩周囲には皮下出血による「パンダの目徴候」が出現することもあります。


咬合不全は重要な症状の一つで、歯のかみ合わせが明らかに異常になります。内側翼突筋が上顎骨後方部を下方に引っ張るため、前歯部が接触せず臼歯部のみが接触する前方開咬を呈することが特徴的です。また、上顎骨全体に動揺性が認められ、鼻根部や眼窩下縁部を触診すると異常可動性を確認できます。


眼窩下神経の損傷により、頬部や上唇、歯茎にしびれ感が生じます。この知覚障害は骨折による神経の直接損傷や圧迫によるもので、術後も数週間から数ヶ月かかって徐々に回復するか、場合によっては後遺症として残存することもあります。


開口障害も高頻度で認められますね。


頭蓋底骨折を合併するII型骨折では、髄液鼻漏が発生することがあります。透明でさらさらとした液体が鼻から流出する場合、髄液漏を疑う必要があります。嗅覚障害や鼻閉感、鼻出血なども伴いやすい症状です。眼球の位置異常や陥凹、複視などの眼症状が出現するケースもあり、眼窩骨折の合併を示唆します。


これらの症状を見逃さないことが大切です。


ルフォーII型骨折の画像診断と3DCT評価

ルフォーII型骨折の確定診断には、視診や触診による身体所見に加えて、画像検査が不可欠です。顔面骨は立体的で複雑な構造を持つため、単純X線写真だけでは骨折線の全容を把握することが困難です。CT検査、特に3次元CT(3DCT)画像が診断精度を大きく向上させます。


CT検査では薄層スライスでの撮影が推奨されており、軸位断、冠状断、矢状断の多断面再構成画像を作成することで、骨折線の走行を立体的に評価できます。3DCT画像は骨折部位の空間的把握に極めて有用で、Le Fort型骨折の各型が混合した複雑な骨折パターンの診断にも優れています。骨片の転位や変位の程度、眼窩や副鼻腔への影響も明確に可視化されます。


診断時には、II型骨折に特徴的な骨折線の走行パターンを確認します。前頭鼻骨縫合部、眼窩内側壁、眼窩底、眼窩下縁、頬骨上顎縫合部、上顎洞壁、翼状突起の各部位で骨折線が連続していることを確認することが重要です。また、I型やIII型との複合骨折、矢状骨折の合併、頬骨骨折眼窩底骨折の併発がないかもチェックします。


3DCT画像は手術計画の立案にも役立ちます。固定すべき骨折部位の数や位置、アプローチ方法の選択、必要なプレートやスクリューのサイズ決定などに活用されます。術後の骨接合状態の評価にも3DCTが用いられ、骨片の位置や固定の安定性を確認します。


画像診断は治療の成否を左右します。


日本形成外科学会の公式サイトで上顎骨骨折の診断と治療について一般向けの解説が掲載されています


ルフォーII型骨折の治療法と3点固定の重要性

ルフォーII型骨折の治療目標は、骨折による変形の改善と咬合の正常化です。治療法は骨折の転位の程度によって決定され、転位がほとんどない場合は顎間固定のみで経過観察することもありますが、転位を伴う骨折では観血的整復固定術が必要となります。手術は受傷後1週間から2週間以内に行うことが推奨されています。


II型骨折の外科的治療では、3次元的な整復位を重視するため「3点固定」が原則とされています。具体的には、①上顎前頭縫合部、②眼窩下縁部、③頬骨下稜部の3箇所をミニプレートとミニスクリューで固定します。この3点固定により、上顎骨の前後・左右・上下の位置関係を正確に再現し、安定した骨接合を得ることができます。


手術アプローチは複数の切開を組み合わせます。上顎前庭部の口腔内切開で梨状口縁と頬骨下稜部にアプローチし、下眼瞼切開または経皮切開で眼窩下縁部にアプローチします。


鼻根部切開を併用する場合もあります。


まず咬合位を回復させるために顎間固定を行い、その状態で骨折部を整復してプレート固定を行う手順が一般的です。


術後は2週間程度の顎間固定を継続し、その後は積極的な開口訓練を開始します。プレート固定により強固な固定が得られるため、従来よりも顎間固定期間は短縮されています。骨折部は約1ヶ月で癒合しますが、完全な骨性癒合には数ヶ月を要します。手術時間はII型骨折で3時間から6時間程度、入院期間は2週間前後が標準的です。


3点固定が治療の要です。


ルフォーII型骨折の合併症と後遺症リスク

ルフォーII型骨折では、骨折自体による合併症と治療に伴う合併症の両方に注意が必要です。最も重大な合併症は頭蓋底骨折による髄液漏で、II型およびIII型骨折で高率に発生します。髄液漏は髄膜炎のリスクを伴うため、脳神経外科との連携のもと厳重な管理が必要です。安静臥床と抗生物質投与で自然閉鎖することが多いですが、持続する場合は外科的閉鎖術が検討されます。


眼症状も重要な合併症です。眼窩骨折の合併により、眼球の位置異常(眼球陥凹や眼球突出)、眼球運動障害、複視が生じることがあります。これらの症状は骨折の整復とともに改善する場合もありますが、眼窩内容物の損傷が高度な場合は後遺症として残存する可能性があります。術後数週間から数ヶ月かけて徐々に回復するケースも多いですね。


知覚障害は頻度の高い合併症で、眼窩下神経の損傷により頬部、上唇、歯茎の知覚が低下します。多くは時間経過とともに改善しますが、神経の断裂や高度な損傷がある場合は永続的な知覚鈍麻が残ります。また、咬合異常が残存すると顎関節症や咀嚼障害の原因となるため、術後の咬合管理が極めて重要です。不正咬合が残った場合、二次的な矯正治療が必要になることもあります。


感染症のリスクも考慮すべき点です。開放骨折や副鼻腔との交通がある骨折では、細菌感染により骨髄炎や副鼻腔炎を引き起こす可能性があります。ただし、上顎骨は血流が豊富なため、適切な抗生物質投与により感染症の発生頻度は比較的低いとされています。涙道損傷による流涙も鼻骨・篩骨合併骨折を伴うII型骨折で併発することがあります。


合併症管理が予後を左右します。


形成外科診療ガイドライン第5巻に上顎骨骨折の治療に関する推奨事項が詳細にまとめられています