ルフォーI型骨折の症状から診断、治療、合併症まで

ルフォーI型骨折は上顎骨の下半分が骨折する外傷です。咬合不全や顔面腫脹などの症状があり、早期診断と適切な治療が重要ですが、あなたは骨折の判定方法や術後合併症のリスクを把握していますか?

ルフォーI型骨折の基礎から臨床対応

上顎は血行が豊富なため骨髄炎は稀です。


この記事の3つのポイント
🦴
ルフォーI型骨折の骨折線と診断

梨状孔下部から上顎洞を通り翼状突起まで水平に走る骨折線が特徴。CT画像による3次元的評価が診断の鍵となります

⚕️
受傷後2週間以内の手術が原則

観血的整復固定術とプレート固定、術後の顎間固定が標準的治療。早期介入により咬合の回復と顔面変形の予防が可能です

⚠️
気道管理と出血のリスク

大量出血や気道閉塞のリスクがあり、初期対応で気管切開や経鼻挿管による気道確保が必要になる場合があります


ルフォーI型骨折の定義と骨折線の特徴

ルフォーI型骨折は、上顎骨の下半分が水平に骨折する外傷です。骨折線は梨状孔の下部から始まり、犬歯窩を通過し、上顎洞の前壁・側壁・後壁を経由して、翼口蓋裂を通り、翼状突起の下部に達します。この骨折により、上顎歯列が歯槽突起とともに一塊として可動性を持つようになるのが特徴的な所見です。


Le Fort(ルフォー)という名称は、1901年にフランスの外科医René Le Fortが顔面骨折の分類を提唱したことに由来します。彼は死体を用いた実験により、顔面に外力が加わった際の骨折線のパターンを3つの型に分類しました。


つまり1世紀以上前の研究です。


ルフォーI型は別名「上顎水平骨折」または「Guerin骨折」とも呼ばれます。交通事故や転落、スポーツ外傷など、顔面中央部に強い衝撃が加わることで発生します。骨折線が水平方向に走行するため、上顎骨の下部が頭蓋底から分離される形になります。


日本形成外科学会の上顎骨骨折に関する解説ページでは、ルフォーI型、II型、III型の違いについて詳細な説明があります。


上顎骨は顔面の中央部に位置し、鼻腔の底部、口蓋の大部分、眼窩の底部を形成しています。


血行が非常に豊富な骨であることが特徴です。


この血行の豊富さが、後述する合併症のリスクに影響を与えます。顎動脈からの血流が上顎骨全体に分布しているため、骨折時には大量出血のリスクがある一方で、骨髄炎などの感染性合併症は稀とされています。


ルフォーI型骨折の症状と臨床所見の見極め方

ルフォーI型骨折の患者は、受傷直後から特徴的な症状を呈します。最も重要な症状は咬合不全、つまり歯の噛み合わせの異常です。上顎歯列が一塊として動揺するため、患者自身が「歯が全体的に動く」と訴えることがあります。この動揺性は、上唇を持って前後に動かすことで確認できます。


顔面腫脹は必発の症状です。上唇と中顔面下半分が著しく腫れ、皮下出血や血腫を伴います。受傷直後は浮腫が強いため、骨折による変形が見えにくいことがあります。腫れが引いてくる数日後に、顔面の平坦化や非対称性が明らかになることも多いです。


鼻出血も頻繁に見られる症状です。骨折により鼻腔底が損傷されるため、持続性の鼻出血が生じます。とりわけルフォー型骨折では、下口蓋動脈などの顎動脈領域の動脈損傷により、高度の出血をきたす可能性があります。出血量が多い場合には、出血性ショックに陥るリスクもあります。


一時的な意識喪失を伴うこともあります。これは頭部外傷を合併している可能性を示唆する所見です。開口障害、眼窩下の知覚低下(眼窩下神経の損傷による)、頬骨下稜部の圧痛なども認められます。ただし、ルフォーI型では上唇の知覚異常は通常見られません。これはII型やIII型との鑑別点になります。


歯科辞書のルフォーI型骨折の解説では、症状の詳細な記述があり、診断の参考になります。


患者が「口が閉じにくい」「噛めない」と訴える場合、咬合異常の程度を評価することが重要です。前歯部のみが接触し、臼歯部に隙間がある開咬状態や、左右の噛み合わせのずれが見られることがあります。これらの所見は、骨折片の転位の程度を反映しています。


ルフォーI型骨折の診断とCT画像評価

ルフォーI型骨折の診断は、視診と触診から始まります。顔面の腫脹、皮下出血、咬合異常の有無を確認し、上顎の動揺性を触診で評価します。


しかし、確定診断には画像検査が不可欠です。


単純X線検査では、Water法(ウォーター法)、後頭-前頭方向、側方向の撮影が基本です。Water法は顔面骨、特に上顎骨と副鼻腔を評価するのに適した撮影法です。頭を後ろに反らせた状態で正面から撮影することで、上顎洞や眼窩底の骨折線を捉えることができます。


CT検査は現在の標準的診断法です。骨折部位を正確に把握するには、最低でも軸位断と冠状断の2方向のCT画像が必要とされています。3次元CT画像(3D-CT)はさらに有用で、骨折の空間的把握やLe Fort型骨折の各型が混合した複雑骨折の診断に優れています。


3次元CT画像は、骨折線の走行、骨片の転位の程度、副鼻腔への血液貯留などを立体的に評価できます。これにより手術計画の立案が容易になり、術中の骨片整復の指標としても活用できます。単純X線や2次元CTと比較して、3D-CTの診断精度は明らかに高いことが報告されています。


CTで確認すべきポイントは複数あります。梨状孔下部から翼状突起に至る骨折線の連続性、上顎洞内の血液貯留(血腫)、骨折片の転位方向と程度、副損傷(鼻骨骨折や篩骨洞の損傷)の有無などです。骨折線が不明瞭な場合でも、上顎洞内の血腫や気泡の存在が骨折を示唆する所見となります。


頭蓋底骨折の合併がないことを確認することも重要です。ルフォーI型では頭蓋底骨折は通常伴いませんが、II型やIII型では髄液漏のリスクがあるため、鑑別が必要になります。


ルフォーI型骨折の治療方針と手術適応

ルフォーI型骨折の治療は、骨折の転位の程度によって選択されます。転位がほとんどない、または軽度の症例では、保存的治療として顎間固定のみで対応することがあります。顎間固定とは、上下の歯をワイヤーやゴムで固定し、骨折部位の安静を保つ方法です。


固定期間は約2週間が標準的です。


しかし、多くの症例では観血的整復固定術が必要になります。骨折による転位が大きい場合、咬合を正確に回復させるために、手術で骨片を正しい位置に戻し、プレートとスクリューで固定します。手術の時期は受傷後2週間以内が推奨されています。


これには理由があります。受傷後時間が経過すると、骨折部位で仮骨形成が始まり、骨片が不適切な位置で固まってしまいます。そうなると整復が非常に困難になり、手術時間も長くなります。また、陳旧例では骨切りを追加する必要が生じることもあります。


1〜2週間以内の手術が好ましいのです。


ほとんどの顔面骨骨折で緊急手術は必要ありませんが、大量出血や気道閉塞のリスクがある場合は、初期対応として気道確保と止血処置が最優先されます。気管挿管や気管切開による気道確保、頸椎保護などの救急処置が必要になることがあります。


Le Fort型骨折の治療法に関する詳細な解説では、手術のタイミングや固定方法について具体的に説明されています。


手術は全身麻酔下で行われます。上顎前庭部(歯肉と唇の間)を切開し、上顎骨の前面と側面を露出させます。骨折部を確認した後、顎間固定により正常な咬合を回復させます。その状態で、骨折部をミニプレートとミニスクリューを用いて固定します。ルフォーI型では、上顎前面の垂直バットレス部にプレートを配置することが一般的です。


手術時間は2時間程度が目安です。術後は約2週間の顎間固定を継続し、その後ゴム牽引による顎間牽引を数週間行います。完璧な咬合の回復には、術後の歯科矯正治療が必要になることもあります。


ルフォーI型骨折の合併症と長期予後

ルフォーI型骨折では、初期治療から術後にかけて複数の合併症リスクに注意が必要です。


最も緊急性が高いのは気道閉塞です。


鼻腔からの出血、嘔吐物、唾液、破折した歯や義歯などの異物により気道が閉塞する可能性があります。顔面の解剖学的変形と大量出血により、経口挿管が困難な場合もあります。


大量出血は、ルフォー型骨折に特有のリスクです。下口蓋動脈などの顎動脈領域の損傷により、出血性ショックに至ることがあります。止血が困難な場合には、血管造影による塞栓術が必要になることもあります。輸血の準備や、自己血貯血を行うこともあります。


気管切開による気道確保は、出血、偶発的な脱管、感染、瘢痕形成などの重大な合併症をもたらす可能性があります。一方、経鼻挿管は頭蓋底損傷がある場合に頭蓋内進展のリスクがあるため、ルフォーII型やIII型では慎重な判断が求められます。ルフォーI型では頭蓋底骨折は稀なので、経鼻挿管が比較的安全に行えます。


感染性合併症については、上顎骨は血行が豊富であるため、骨髄炎などの合併症は稀とされています。


これは下顎骨と比較した際の大きな違いです。


下顎骨は血流が悪く、骨髄に達した細菌が死滅しないため、骨髄炎になりやすい傾向があります。上顎骨では、適切な抗菌薬投与と創部管理により、感染リスクは低く抑えられます。


知覚障害は比較的頻度の高い後遺症です。眼窩下神経の損傷により、眼窩下の感覚低下やしびれが生じることがあります。多くの症例では数週間から数ヶ月で回復しますが、完全回復しない場合もあります。骨折が重度の場合、後遺症として残る可能性が高まります。


咬合異常が術後も残存する可能性があります。骨折の整復が不完全だった場合や、骨片の癒合位置がずれた場合、開咬や咬合平面の傾斜などが残ります。このような場合には、術後矯正治療や、場合によっては再手術が必要になることもあります。


歯科との連携が重要です。


顔面の変形や非対称性が後遺症として残ることもあります。骨折による骨片の転位が大きかった症例や、手術のタイミングが遅れた症例では、顔面の平坦化や陥凹が改善しきらないことがあります。整容的な問題は患者のQOLに大きく影響するため、初期治療での正確な整復が重要になります。


術後の呼吸器合併症にも注意が必要です。腫脹や気道分泌物、血液のたれ込みなどにより、術後気道閉塞や肺炎などの呼吸器合併症をきたすことがあります。術後は上半身を起こした体位で管理し、気道の開通性を維持することが大切です。


長期的な予後は一般的に良好です。適切な時期に正確な整復固定術が行われれば、咬合機能は回復し、顔面の形態も概ね元に戻ります。ただし、知覚障害や軽度の咬合異常が残存する可能性があるため、術後の定期的なフォローアップが推奨されます。


歯科医療従事者としては、初診時の迅速な評価と適切な専門医への紹介、術後の咬合管理と矯正治療の連携が求められます。ルフォーI型骨折の患者を見逃さず、早期に形成外科や口腔外科へつなげることが、良好な治療成績につながります。