頬骨骨折では整形外科ではなく形成外科を受診します。
頬骨骨折の治療を行うのは形成外科です。多くの方は「骨折なら整形外科」と考えるかもしれませんが、顔面の骨折に関しては異なります。顔面骨折の治療目標は、骨を元に戻すだけでなく、顔の見た目と機能の両方を回復させることにあるからです。
形成外科は顔面の複雑な神経、血管、筋肉などの軟部組織に関する専門知識を持っています。頬骨骨折では、骨の整復だけでなく、顔面神経の損傷や眼球の位置異常、咀嚼筋の動きなど、多岐にわたる問題に対応する必要があるのです。顔という目立つ部位だからこそ、整容面への配慮も欠かせません。
実際の臨床現場では、頬骨骨折の患者が最初に訪れる診療科はさまざまです。救急外来から形成外科へ紹介されるケースもあれば、耳鼻咽喉科や口腔外科が最初に診察することもあります。
つまり形成外科が基本です。
地域の医療機関によっては、耳鼻咽喉科頭頸部外科が主体となって顔面骨骨折の治療を行う施設もあります。ただし、複雑な症例や多発骨折の場合には、形成外科、耳鼻咽喉科、口腔外科、眼科、脳神経外科など複数の診療科が連携して治療にあたることが一般的です。
歯科医療従事者として知っておくべきことは、患者が歯科医院に来院した際、頬骨骨折を疑う症状があれば、速やかに適切な医療機関へ紹介する必要があるということです。形成外科のある総合病院や大学病院への紹介が基本となります。
頬骨骨折の診断には、症状の確認とCT検査が不可欠です。レントゲン撮影も行われますが、現在ではCT検査が診断の中心となっています。CTでは骨折の位置、骨のずれの程度、骨折線の走行などを詳細に把握できるためです。
特徴的な症状は複数あります。
📌 主な症状リスト
• 口の開きづらさ(開口障害)
• 頬と唇から歯にかけてのしびれ(知覚障害)
• 物が二重に見える(複視)
• 目の動きの異常や白目の出血
• 目の下や頬を押したときの痛み
• 頬部の平坦化(顔の変形)
• 顔面の腫れや内出血
開口障害は、折れた頬骨弓が側頭筋(口を閉じる筋肉)に食い込むことで生じます。奥歯が浮いた感じや、物を噛むときの痛みも訴えられることがあります。これは下顎骨骨折ではなく頬骨骨折でも起こる現象です。
複視は眼球運動障害によるもので、頬骨骨折によって眼窩(眼球を収める骨の空間)が拡がり、眼球が陥没することで起こります。ただし、受傷直後は眼窩内の出血によって一時的に眼球が突出する場合もあるため、経時的な観察が必要です。
しびれの症状は、頬骨の中を通る三叉神経第二枝(上顎神経)の損傷によって生じます。頬部、鼻の側面、上口唇、歯肉などにしびれを感じるのが特徴的です。このしびれは、術後すぐに消失するわけではなく、回復には数週間から数ヶ月かかることが一般的です。
受傷直後は骨折部の腫れが強く、頬の平坦化などの変形が分かりにくいことがあります。腫れが引いてから変形が目立つようになるケースも少なくありません。このため、受傷直後の診察だけでなく、経過観察を含めた総合的な判断が求められます。
診断には視力検査、眼球運動検査など眼科的な検査も必要になります。CT画像を三次元構築(3D画像化)することで、骨折の状況をより正確に把握できるため、多くの施設で3DCTが活用されています。
頬骨骨折の治療には専門的な設備と知識が必要です。全身麻酔下での手術が基本となるため、手術室や入院設備を備えた医療機関での治療が必要になります。形成外科のある総合病院や大学病院が主な治療施設となります。
手術のタイミングも重要な要素です。通常、受傷後7〜10日以内、遅くとも2週間以内に手術を行うことが推奨されています。これは、時間が経過すると骨が癒合し始めてしまい、整復が困難になるためです。眼球や視力に影響がない場合は、1週間程度待って腫れが落ち着いてから手術を行うこともあります。
ただし小児で高度な眼球運動障害を認める場合など、受傷後早期の手術が望ましいケースもあります。症例によって適切な手術時期が異なるため、専門医の判断が不可欠です。
🏥 医療機関選択のポイント
• 形成外科の常勤医がいる
• 全身麻酔と入院設備がある
• CT検査が可能である
• 24時間救急対応ができる
• 複数の診療科(耳鼻科、眼科、口腔外科など)との連携体制がある
地域によっては、耳鼻咽喉科や口腔外科が顔面骨骨折の治療を担当している施設もあります。その場合でも、複雑な症例では形成外科との連携が行われることが一般的です。医療機関を選ぶ際には、各施設の診療体制を確認することが重要です。
手術費用は保険適用となります。頬骨骨折整復術と吸収性骨接合プレートを用いた場合、3割負担で27万〜28万円程度が目安です。入院期間は最短で2泊3日から1週間程度となることが多く、症状や合併症の有無によって異なります。
歯科医療従事者が患者を紹介する際には、受傷の経緯、症状の詳細、応急処置の内容などを紹介状に記載することが望ましいです。特に開口障害の程度、しびれの範囲、複視の有無などは、受け入れ側の医療機関にとって重要な情報となります。
歯科医院に頬骨を打撲した患者が来院した場合、まず全身状態の確認が最優先です。意識レベル、呼吸状態、出血の程度などをチェックし、生命に関わる問題がないか判断します。顔面外傷では、頭部外傷を合併していることも少なくありません。
初期対応として重要なのは、患者の訴えを丁寧に聞き取ることです。「口が開けにくい」「頬がしびれる」「物が二重に見える」といった症状があれば、頬骨骨折を強く疑います。視覚的にも、頬の腫れ、変形、内出血(青あざ)の範囲などを観察します。
応急処置としては、受傷後24時間は氷嚢や氷のうを頬に当て、20分冷却したら10分休憩するというサイクルを繰り返すことが推奨されます。
冷却することで腫れと痛みを軽減できます。
ただし、凍傷を防ぐため、氷を直接皮膚に当てることは避けます。
出血がある場合は、清潔なガーゼで軽く圧迫止血を行います。10分以内に止血しない場合や、鮮血がボタボタと出続ける場合は、緊急性が高いと判断します。口腔内からの出血がある場合は、歯槽骨骨折や軟組織損傷の可能性も考慮します。
歯科医院での対応には限界があります。頬骨骨折の確定診断にはCT検査が必要であり、一般の歯科医院では実施できません。骨折を疑う症状がある場合は、速やかに適切な医療機関へ紹介することが、患者の予後を良くするために重要です。
紹介先としては、以下のような医療機関が適切です。
🔄 紹介先の候補
• 形成外科のある総合病院
• 大学病院の形成外科または口腔外科
• 救急指定病院の救急外来
• 地域の中核病院の耳鼻咽喉科
紹介する際には、患者が自力で移動できる状態か、救急車が必要かを判断します。意識障害、激しい出血、呼吸困難などがある場合は、迷わず救急車を要請します。自力で移動可能な場合でも、できるだけ早く受診するよう患者に伝えることが大切です。
患者への説明では、「骨折の可能性があるため、専門的な検査が必要です」と明確に伝えます。ただし、確定診断は専門医が行うものであることも説明に含めるべきです。患者が不安を感じないよう、丁寧で冷静な対応を心がけます。
また、受診までの注意点として、患部を無理に押さえたり動かしたりしないこと、激しい運動を避けることを伝えます。食事は柔らかいものを選び、痛みが強い場合は無理に食べなくてもよいと説明します。
歯科医療従事者にとって、頬骨骨折の患者への対応は、他の医療機関との連携能力が問われる場面です。特に口腔外科を標榜している歯科医院では、顔面外傷の患者が直接来院することも少なくありません。どの程度まで自院で対応し、どのタイミングで紹介するかの判断が重要になります。
実際の診療現場では、下顎骨骨折は歯科口腔外科が治療を担当することが多い一方、頬骨骨折は形成外科が主に対応します。ただし、頬骨骨折と下顎骨骨折が合併している場合や、歯槽骨の骨折を伴う場合には、歯科口腔外科と形成外科が協力して治療にあたります。
多発骨折のケースでは、診療科間の綿密な連携が不可欠です。頬骨骨折に上顎骨骨折が合併している場合、咬合(噛み合わせ)の回復が治療の重要な目標となります。この場合、形成外科医だけでなく、口腔外科医や矯正歯科医がチームに加わることもあります。
歯科医療従事者が連携で果たすべき役割は、初期段階での適切な評価と情報提供です。紹介状には以下の情報を含めることが望ましいとされています。
📝 紹介状に記載すべき情報
• 受傷日時と受傷機転(どのようにして怪我をしたか)
• 主訴(患者が一番困っている症状)
• 現症(観察した客観的所見)
• 応急処置の内容
• 現在服用中の薬や既往歴
• 緊急連絡先
特に受傷からの経過時間は、手術のタイミングを決める上で重要な情報です。また、抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を服用している患者の場合、手術前に休薬が必要になることがあるため、薬剤情報は必ず記載します。
歯科医院で撮影したパノラマX線写真やデンタルX線写真がある場合、それらの画像も紹介先に提供すると有用です。頬骨骨折では、上顎洞の混濁や気泡像が見られることがあり、これらの所見は診断の参考になります。
連携における一つの課題は、患者が「まずは歯医者に行こう」と考えて歯科医院を受診するケースです。顔面を打撲した患者が「歯が痛い」と訴えて来院した場合、実際には頬骨骨折による知覚障害や関連痛である可能性があります。歯に明らかな破折や脱臼がない場合でも、頬部の腫れや開口障害がある場合には、頬骨骨折を疑う視点が必要です。
逆に、形成外科で頬骨骨折の治療を受けた患者が、治療後に歯科的な問題で歯科医院を訪れることもあります。頬骨骨折の手術では、口腔内から切開を加えることがあるため、術後の口腔衛生管理や歯肉の状態確認が必要になる場合があります。このような患者に対しては、形成外科の主治医と連携を取りながら対応することが望ましいでしょう。
地域医療連携の観点からは、日頃から近隣の総合病院や大学病院との関係を築いておくことが重要です。顔面外傷の患者をスムーズに紹介できるよう、形成外科や救急外来の連絡先を把握しておくことをお勧めします。また、逆紹介(専門病院から地域の歯科医院への紹介)の体制も整えておくと、患者にとって継続的なケアを提供できます。