PD-L1が高発現している癌細胞は、免疫チェックポイント阻害薬に「効きにくい」ケースが実は3割以上存在します。
PD-L1(Programmed Death-Ligand 1)は、細胞膜上に発現するタンパク質で、T細胞が持つPD-1受容体と結合することで免疫応答にブレーキをかける分子です。 がん細胞がこの分子を高発現させることで、本来なら攻撃すべき免疫細胞(細胞傷害性T細胞=CTL)の働きを抑制し、免疫からの逃避を成立させます。 seikagaku.jbsoc.or(https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2022.940374/data/index.html)
つまり、PD-L1は免疫の「オフスイッチ」です。 tmd.ac(https://www.tmd.ac.jp/press-release/20230619-1/)
通常、PD-L1は樹状細胞やマクロファージ、腫瘍細胞の表面に発現します。 口腔扁平上皮癌では、がん細胞自体が産生するIFN-γなどのサイトカイン刺激によってPD-L1を高発現するようになり、周囲のCTLの細胞傷害活性を減弱させることが確認されています。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K09355/)
PD-L1/PD-1の結合は、T細胞内のチロシン残基リン酸化を通じて抑制シグナルを伝達します。 この経路を遮断するのが免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体・抗PD-L1抗体)であり、近年の口腔癌治療においても注目されています。 med.kobe-u.ac(https://www.med.kobe-u.ac.jp/maxillo/information/faq/q4.html)
免疫回避が基本です。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K09355/)
PD-L1は免疫抑制だけでなく、がん細胞内でも細胞増殖・上皮間葉移行・治療抵抗性獲得を直接促進する「細胞内シグナル機能」もあることが判明しています。 具体的には、PD-L1がEGFRシグナルを増強することで悪性化を加速するという「PD-L1/EGFRループ機構」が口腔癌細胞株で確認されています。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K09355/)
参考リンク(免疫チェックポイント分子PD-L1の細胞内機能と発現制御機構の詳細が記載されています)。
PD-L1の細胞内機能と発現制御機構|生化学(日本生化学会)
口腔扁平上皮癌の中でも、PD-L1の発現には部位によって大きな差があります。 研究によると、舌と下唇では口底や口蓋と比較してPD-1・PD-L2の発現が統計学的に有意に高く、舌では特に顕著な差が認められています。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/8e9ac32b-254a-452d-8d4e-efb076922542)
意外ですね。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/8e9ac32b-254a-452d-8d4e-efb076922542)
つまりp53変異が関与しているということです。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K11697/)
東京科学大学(旧東京医科歯科大学)の研究では、舌癌を免疫サブタイプで分類した結果、PD-1発現T細胞密度とPD-L1発現マクロファージ密度はタイプが進むにつれて低下する一方、PD-L1発現がん細胞の比率ではタイプ間に大きな変化は見られないという独自のパターンが確認されています。 このことは、「PD-L1陽性=免疫チェックポイント阻害薬が必ず効く」という単純な図式が成り立たない可能性を示しています。 isct.ac(https://www.isct.ac.jp/ja/news/d2vbsdy3nosv)
| 部位 | PD-1・PD-L1発現傾向 | 臨床的注目点 |
|---|---|---|
| 🔴 舌 | 高発現(統計的有意差あり) | 免疫チェックポイント療法の感受性評価が重要 |
| 🟠 下唇 | 比較的高発現 | 部位特異的な治療戦略の検討が必要 |
| 🟡 口底・口蓋 | 低発現傾向 | 他の免疫抑制機構の関与を考慮 |
参考リンク(舌を含む口腔内各部位のPD-1/PD-L1発現差について報告されています)。
口腔扁平上皮がんでPD-1/PD-L1発現に部位差、舌で高発現|CareNet
PD-L1は癌だけの話ではありません。 慢性歯周炎患者の歯周組織でも、健常者と比較してPD-L1の発現変動が確認されており、組織損傷に影響することが示唆されています。 ir.tdc.ac(https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/5383/1/120_488.pdf)
これが骨吸収を加速させます。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K19036/)
科研費研究(KAKENHI-PROJECT-19K19036)では、マウス歯周炎モデルで結紮側のPD-L1 mRNA発現が増加し、PD-L1で処理した破骨細胞様細胞はCat-KおよびC-fmsのmRNA発現が減少することが確認されています。 これはPD-L1が破骨細胞分化を抑制し、歯槽骨吸収を防御する可能性を示す重要な知見です。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K19036/)
この研究は、将来的にPD-L1経路を利用した歯周炎の遺伝子治療基盤構築につながる可能性があると研究者たちは指摘しています。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K19036/)
参考リンク(歯周炎におけるPD-1/PD-L1機構の関与と破骨細胞制御について報告されています)。
歯周炎におけるPD-1/PD-L1機構の関与解明:遺伝子治療の基盤構築|KAKEN
口腔癌の再発・転移症例に対して、抗PD-1抗体であるニボルマブ(オプジーボ)やペムブロリズマブ(キイトルーダ)が国際共同試験(CheckMate141試験・KEYNOTE048試験)を経て実臨床に導入されています。 toyama.bvits(https://toyama.bvits.com/rinri/publish_document.aspx?ID=1434)
さらに、分泌型PD-L1バリアントという概念も注目すべきです。 AMEDの研究(2019年)によれば、腫瘍細胞の中でわずか1%の頻度で分泌型PD-L1バリアントを発現する細胞が存在するだけで、抗PD-L1抗体薬の治療耐性を誘導する可能性があることが示されています。 amed.go(https://www.amed.go.jp/news/release_20190314-02.html)
1%の細胞が治療全体を無効化する可能性があるということです。
参考リンク(分泌型PD-L1バリアントと免疫チェックポイント阻害薬の耐性機序について詳しく解説されています)。
分泌型PD-L1バリアントを介した免疫チェックポイント阻害薬耐性機序の解明|AMED
免疫チェックポイント阻害薬の適否を判断するためにPD-L1発現を評価するタイミングが、実は治療成績を大きく左右します。 術前化学療法(NACT)後の口腔扁平上皮癌の組織を解析した研究では、NACT後にPD-L1発現が有意に変動することが明らかにされています。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/50ff9e37-a46c-4288-81d0-01beadd5f7ca)
特にT1腫瘍ではPD-L1のTPS(腫瘍比例スコア)が治療前の43.4%から治療後は13.0%へと著明に減少した(p=0.039)というデータがあります。 これはほぼ3分の1以下への急落で、治療前に「免疫チェックポイント阻害薬が効きそうな患者」と判定された方が、術前化学療法を受けた後は判定基準を大きく下回る可能性があることを意味します。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/50ff9e37-a46c-4288-81d0-01beadd5f7ca)
数字がガラリと変わるということです。
東京科学大学の研究グループは組織定量イメージ解析を用いて患者ごとの免疫プロファイルを評価するアプローチを開発しており、将来的にはPD-L1発現のみに依存しないパーソナライズド免疫治療の実現が期待されています。 口腔外科・歯周科・補綴科を含む歯科医療チーム全体がPD-L1発現の動態を理解しておくことが、これからの口腔癌診療において不可欠な知識となります。 isct.ac(https://www.isct.ac.jp/ja/news/d2vbsdy3nosv)
参考リンク(術前化学療法後のPD-L1発現変化と臨床的意義について報告されています)。
口腔扁平上皮がんにおける術前化学療法後のPD-L1発現変化|CareNet
参考リンク(舌癌の免疫プロファイル評価と個別化治療への応用研究について掲載されています)。
舌癌の組織定量イメージ解析でパーソナル免疫プロファイル評価|東京科学大学