マクロライド系抗生物質 一覧と種類・特徴・使い分け

歯科臨床で頻用されるマクロライド系抗生物質の一覧と使い分けを解説します。14員環、15員環、16員環の特徴や副作用、薬剤耐性への対策について知っていますか?

マクロライド系抗生物質 一覧と特徴

クラリスロマイシンを処方する前に患者の服薬歴を確認しないと薬物相互作用で重篤な不整脈を招くリスクがあります。


この記事の3つのポイント
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マクロライド系の分類

14員環・15員環・16員環の構造による違いと各薬剤の特性を理解し、適切な選択が可能になります。

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薬物相互作用の注意点

クラリスロマイシンは肝臓のチトクロームで代謝されるため併用注意薬が多く、特に心疾患患者では致死的不整脈のリスクがあります。

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薬剤耐性への配慮

マクロライド系の不適切な使用は耐性菌の発生を促進するため、適応を見極めた処方が求められます。


マクロライド系抗生物質の基本的な分類と一覧


マクロライド系抗生物質は、ラクトン環を構成する原子の数によって14員環、15員環、16員環の3つのグループに分類されます。この分類は単なる構造上の違いではなく、抗菌スペクトラムや薬物動態、副作用のプロフィールにも影響を与える重要な要素です。


14員環マクロライドには、エリスロマイシン、クラリスロマイシン(商品名:クラリス、クラリシッド)、ロキシスロマイシン(ルリッド)が含まれます。これらは主にグラム陽性球菌に対して強い抗菌活性を示し、歯科領域では歯周組織炎や歯冠周囲炎の治療に使用されます。エリスロマイシンは最も古いマクロライド系抗生物質で、1952年に発見されました。その後、酸安定性を改善したクラリスロマイシンが開発され、胃酸による分解を受けにくくなったため経口投与での吸収率が向上しています。


15員環マクロライドの代表はアジスロマイシン(ジスロマック)です。14員環のエリスロマイシンから誘導された薬剤で、グラム陰性桿菌やクラミジアなどへの抗菌スペクトラムが広がったことが特徴です。組織移行性に優れており、特に歯周組織への移行率が高いため、歯周病治療での使用頻度が高まっています。3日間の服用で7日間の抗菌効果が持続するという独特な薬物動態を持ち、服薬コンプライアンスの向上にも寄与します。


16員環マクロライドには、ジョサマイシン(ジョサマイ)、スピラマイシン、ミデカマイシン、ロキタマイシンが含まれます。14員環マクロライドと比較して苦味が少ないため、小児への投与において有利です。ジョサマイシンは単一成分からなる点が他の16員環マクロライドと異なる特徴で、安定した薬効が期待できます。歯科領域では歯冠周囲炎に適応があり、歯性感染症の治療選択肢の一つとして位置付けられています。


それぞれの構造により薬理学的特性が異なるということですね。


マクロライド系抗生物質の歯科における使い分け

歯科臨床におけるマクロライド系抗生物質の使い分けは、感染症の種類、患者のアレルギー歴、併用薬の有無、そして地域の薬剤耐性状況を総合的に判断して行う必要があります。第一選択薬はペニシリン系やセフェム系ですが、βラクタム系抗生物質にアレルギーがある患者では、マクロライド系が重要な代替薬となります。


歯周組織炎での第一選択は組織移行率を考慮してマクロライド系が推奨されます。特にアジスロマイシンは歯周組織への移行性が優れており、Porphyromonas gingivalis(P.g.菌)やPrevotella intermedia(P.i.菌)などの歯周病原細菌に対して高い抗菌活性を示します。投与法は1日1回500mgを3日間継続する方法が一般的で、血中濃度は低下しても組織内濃度は長期間維持されるため、7日間程度の抗菌効果が期待できます。この特性により、患者の服薬忘れのリスクを低減できるメリットがあります。


クラリスロマイシンは14員環マクロライドの中でも組織移行性が改善された薬剤で、通常成人には1回200mgを1日2回投与します。グラム陽性球菌スペクトラムを強化しているため、連鎖球菌による感染症に対して有効性が高いです。ただし、後述する薬物相互作用が多い点に注意が必要で、特に心疾患を持つ患者や複数の薬剤を服用している高齢者では慎重な投与判断が求められます。


歯冠周囲炎にはエリスロマイシンが適応を持っており、1回200mgを1日4回から6回投与します。ただし、エリスロマイシンは胃酸による分解を受けやすく、消化器症状の副作用が比較的多いため、現在ではクラリスロマイシンやアジスロマイシンに置き換えられることが増えています。


組織移行性が治療効果に直結するわけです。


抗菌薬の選択において重要なのは、単に「効く」というだけでなく、感染部位への到達性や作用持続時間を考慮することです。マクロライド系は細胞内への高浸透性を持ち、白血球や食細胞に取り込まれて感染部位に運ばれる特性があります。この性質により、血中濃度が低下した後も組織内では高濃度を維持できるのです。アジスロマイシンの組織内半減期は約68時間と非常に長く、これが3日間投与で7日間効果が持続するメカニズムの根拠となっています。


歯性感染症の第一選択はセフェム系抗生物質ですが、アレルギーがある場合や、骨髄炎など薬剤の移行が不十分な部位への感染ではマクロライド系の選択も検討されます。ただし、嫌気性菌が優勢な重症化した歯性感染症では、マクロライド系単独では効果が不十分な場合があり、外科的処置の併用や他の抗菌薬への変更が必要になることもあります。


嫌気性菌への効果には限界があるんですね。


マクロライド系抗生物質の副作用と注意すべき薬物相互作用

マクロライド系抗生物質は比較的安全性が高いとされていますが、特有の副作用と薬物相互作用に注意が必要です。最も頻度の高い副作用は消化器症状で、吐き気、下痢、腹痛などが報告されています。特にエリスロマイシンでは消化管の運動促進作用があるため、下痢の発現率が他のマクロライド系と比べて高い傾向にあります。アジスロマイシンでも約10%の患者で消化器症状が見られますが、3日間という短期投与のため継続困難となるケースは比較的少ないです。


重大な副作用として警戒すべきなのが心血管系への影響です。マクロライド系、特にエリスロマイシンとクラリスロマイシンは、心電図のQT延長を引き起こす可能性があり、心室頻拍や心室細動などの致死的不整脈のリスクがあります。心疾患を持つ患者への使用は特に注意が必要で、投与前に心疾患の既往歴を確認することが重要です。QT延長症候群の患者や、QT延長を起こす他の薬剤を服用している患者には禁忌となります。


肝機能障害も報告されている副作用の一つで、AST・ALT値の上昇が見られることがあります。通常は軽度で可逆的ですが、まれに重篤な肝障害に進行する例もあるため、長期投与が必要な場合は定期的な肝機能検査が推奨されます。また、まれに腎機能障害や血液障害(好酸球増多、白血球減少)を引き起こすこともあり、投与中に異常な症状が現れた場合は速やかに中止を検討する必要があります。


心疾患がある場合は特に慎重な判断が必要です。


マクロライド系抗生物質の中でも特にクラリスロマイシンとエリスロマイシンは、肝臓の薬物代謝酵素であるチトクロームP450(CYP)3A4を強く阻害します。この阻害作用により、同じ代謝経路を持つ多くの薬剤の血中濃度が上昇し、予期せぬ副作用や毒性が現れるリスクが高まります。15員環のアジスロマイシンや16員環マクロライドは、14員環と比較してCYP3A4阻害作用が弱いため、薬物相互作用のリスクは相対的に低いとされています。


具体的な併用禁忌薬としては、抗ヒスタミン薬のアステミゾールやテルフェナジン、消化管運動促進薬のシサプリド、抗精神病薬のピモジドなどがあります。これらの薬剤とクラリスロマイシンまたはエリスロマイシンを併用すると、致死的不整脈を引き起こす可能性があるため絶対に避けなければなりません。また、ワルファリンなどの抗凝固薬との併用では出血リスクが増大し、テオフィリンとの併用ではテオフィリン中毒のリスクが高まります。


併用注意薬も数多く存在します。スタチン系の脂質異常症治療薬、免疫抑制薬のシクロスポリンやタクロリムス、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬、カルシウム拮抗薬などがその例です。高齢者では複数の薬剤を服用していることが多いため、歯科治療で抗生物質を処方する際は、必ず服用中の薬剤を確認し、薬物相互作用のリスクを評価する必要があります。患者にお薬手帳の提示を求め、必要に応じて主治医や薬剤師と連携を取ることが安全な薬物療法につながります。


お薬手帳の確認は必須ということですね。


服用時の注意点として、マクロライド系抗生物質はスポーツ飲料やジュースなどの酸性飲料と一緒に服用すると苦味が増すことが知られています。特に小児用の製剤では苦味が服薬コンプライアンスを低下させる要因となるため、水や白湯で服用するよう指導することが重要です。また、食事の影響については薬剤によって異なり、エリスロマイシンは空腹時投与が推奨される一方、アジスロマイシンは食事による影響を受けにくいという特性があります。


マクロライド系抗生物質と薬剤耐性の現状

薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)は世界的な健康問題として認識されており、マクロライド系抗生物質においても耐性菌の増加が深刻化しています。2050年には薬剤耐性菌による死亡者数が年間1000万人に達し、がんによる死亡者数を上回るという予測もあり、抗菌薬の適正使用が強く求められています。


日本においても、肺炎球菌のマクロライド系抗生物質に対する耐性率は高く、一部の地域では80%を超えるという報告もあります。マイコプラズマ肺炎の原因菌であるマイコプラズマ・ニューモニエに対しても、マクロライド系抗菌薬が効きにくい薬剤耐性株が出現し、流行の拡大要因となっています。歯周病原細菌においても、アジスロマイシン、テトラサイクリン、クリンダマイシンなどに対して一部の菌株が耐性を示すことが報告されています。


薬剤耐性が生じるメカニズムは複数あります。マクロライド系抗生物質の場合、細菌が持つリボソームの標的部位が変化することで薬剤が結合できなくなる変異、薬剤を細胞外に排出するポンプ機能の獲得、マクロライドを不活化する酵素の産生などが耐性化の主な経路です。特に問題となるのは、この耐性遺伝子が他の細菌に伝達されることで、耐性菌が次々と連鎖的に広がっていくことです。


耐性菌は連鎖的に広がるんですね。


歯科領域における抗菌薬適正使用の原則として、厚生労働省が2024年に改訂した「抗微生物薬適正使用の手引き第四版 歯科編」では、以下の点が強調されています。第一に、歯科医師が第三世代セファロスポリン系抗菌薬やマクロライド系抗菌薬などの広域スペクトル系抗菌薬を多用していることが問題視されており、より狭域で安全なペニシリン系を第一選択とすることが推奨されています。第二に、抗菌薬の投与期間は必要最小限とし、通常は3日から5日程度で十分な場合が多いとされています。


不適切な抗菌薬使用の典型例として、以下のようなケースが挙げられます。感染の徴候がないにもかかわらず予防的に抗菌薬を投与する、症状が改善したからといって患者が自己判断で服用を中止する、処方された抗菌薬を飲み切らずに残す、といった行動はすべて耐性菌の発生リスクを高めます。抗菌薬は処方された用法・用量を守って最後まで服用することが重要で、中途半端な投与は生き残った細菌に耐性を獲得させる機会を与えてしまいます。


歯科医療従事者として取り組むべき対策は、適応を厳密に見極めることです。感染症が確実に存在し、抗菌薬が必要と判断される場合にのみ処方し、安易な予防投与は避けるべきです。また、培養検査や薬剤感受性試験が可能な症例では、原因菌を同定し、その菌に最も適した抗菌薬を選択することが理想的です。地域の薬剤耐性サーベイランスデータを参照し、耐性菌の動向を把握しておくことも重要です。


適応の見極めが最も重要です。


患者教育も薬剤耐性対策の重要な要素です。抗生物質は細菌感染症にのみ有効でウイルス感染症には効果がないこと、処方された抗生物質は必ず最後まで服用すること、他人に譲渡したり自己判断で服用したりしないこと、といった基本的な知識を患者に伝える必要があります。また、「アレルギーです」という患者の申告が、実際には単なる胃腸障害などの副作用を指している場合もあるため、アレルギーの内容を詳しく聴取することが重要です。真のアレルギーでない場合は第一選択薬を使用できる可能性があり、これにより不必要に広域抗菌薬を選択するリスクを回避できます。


マクロライド系抗生物質の歯周病治療における独自の役割

マクロライド系抗生物質は単なる抗菌作用だけでなく、抗炎症効果や免疫調節作用を持つことが近年の研究で明らかになっており、この多面的な作用が歯周病治療において独自の価値を生み出しています。特にクラリスロマイシンとアジスロマイシンでは、通常の治療量よりも低用量で長期投与することで、びまん性汎細気管支炎(DPB)や慢性副鼻腔炎などの慢性炎症性疾患に対する効果が認められています。


歯周病治療においても、マクロライド系の抗炎症作用が注目されています。歯周病は単なる細菌感染症ではなく、細菌に対する宿主の過剰な免疫応答が組織破壊を引き起こす炎症性疾患という側面があります。マクロライド系抗生物質は好中球の活性化を抑制し、炎症性サイトカインの産生を減少させ、マトリックスメタロプロテアーゼなどの組織破壊酵素の活性を低下させる作用があります。これらの作用により、細菌を直接殺すだけでなく、炎症の連鎖反応を断ち切ることで歯周組織の破壊を抑制する効果が期待されています。


歯周内科療法として、アジスロマイシンを用いた3日間投与法が一部の歯科医院で実施されています。この方法は、スケーリングルートプレーニング(SRP)などの機械的歯周治療に併用することで、歯周ポケット内の細菌数を減少させ、臨床症状の改善を促進するというものです。特にAggregati bacterium actinomycetemcomitansやP. gingivalisなどの特定の歯周病原細菌が検出される症例では、抗菌薬併用の効果が高いとされています。


機械的治療との併用が効果的ということですね。


ただし、歯周内科療法には注意すべき点もあります。日本歯周病学会が2020年に発表した「歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン」では、抗菌薬は機械的歯周治療の補助として位置付けられており、抗菌薬単独での治療は推奨されていません。まず徹底した機械的プラークコントロールを行い、それでも改善が不十分な場合に限って抗菌薬の併用を検討するという段階的アプローチが基本です。


抗菌薬併用が推奨される具体的な症例としては、侵襲性歯周炎(急速進行性歯周炎)、広範囲の中等度から重度の慢性歯周炎で機械的治療のみでは改善が見込めない症例、全身疾患により免疫機能が低下している患者の歯周炎などが挙げられます。一方、軽度から中等度の慢性歯周炎で機械的治療により改善が期待できる症例では、抗菌薬の使用は必要ないとされています。


問題となるのは、一部の歯科医師が十分な研修を受けずに見よう見まねで抗菌薬を使用しているケースです。抗菌薬の適応判断、投与量、投与期間、効果判定などについて適切な知識と経験がないまま処方すると、効果が得られないばかりか、薬剤耐性菌の発生や副作用のリスクを高めることになります。歯周内科療法を実施する場合は、きちんとした研修を受け、エビデンスに基づいた適切な使用法を理解した上で行うことが不可欠です。


適切な研修と知識が前提です。


マクロライド系抗生物質を用いた歯周治療の効果判定は、臨床症状(歯肉の発赤・腫脹・出血の改善、歯周ポケット深さの減少)だけでなく、可能であれば位相差顕微鏡や細菌検査により歯周病原細菌の減少を確認することが望ましいです。効果が不十分な場合は、機械的治療の再評価や他の治療法への変更を検討すべきで、漫然と抗菌薬を継続投与することは避けなければなりません。


歯周病治療における抗菌薬使用のもう一つの側面として、インプラント周囲炎への応用があります。インプラント周囲炎は天然歯の歯周炎と類似した病態ですが、治療がより困難な傾向があります。機械的デブライドメントに加えて、アジスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質を併用することで治療成績が向上するという報告がありますが、これもやはり機械的治療が基本であり、抗菌薬は補助的手段として位置付けられます。インプラント周囲炎の原因菌は天然歯の歯周炎と一部異なることもあるため、理想的には細菌検査を行い、検出された菌に感受性のある抗菌薬を選択することが推奨されます。




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