ステロイド含嗽薬を毎日使うと、実はカンジダ症を自ら引き起こすリスクがあります。
紅斑性カンジダ症(萎縮性カンジダ症)は、口腔粘膜に白苔を形成しない「赤いカンジダ症」です。 偽膜性カンジダ症と違い、拭い取れる白い膜がなく、周囲粘膜より明らかに赤い発赤・びらんが主な所見となります。 舌乳頭の萎縮による発赤が特徴的で、疼痛・灼熱感(ひりひり)・苦味を伴うことが多いです。 kankyokansen(https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf)
画像上の最大の特徴は「周囲の正常粘膜より赤い」という点です。 この差異を見落とすと、舌痛症と診断されて向精神薬が処方されてしまい、難治化するケースが報告されています。 視診では必ず「正常粘膜との色調の差」を意識することが原則です。 gc(https://www.gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2022-05/170_4.pdf)
正中菱形舌炎も紅斑性カンジダ症の一つです。 舌背中央部の赤い菱形病変として見えますが、相対する口蓋にも同様の発赤が存在する点が特徴的。これを見落とすと口蓋側の病変を見逃します。 義歯床下粘膜の発赤(義歯性カンジダ症)も紅斑性カンジダ症に含まれ、義歯不適合による外傷性疾患と誤認されやすいため注意が必要です。 gc(https://www.gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2022-05/170_4.pdf)
| 疾患 | 視診所見 | 白苔の有無 | 鑑別ポイント |
|---|---|---|---|
| 紅斑性カンジダ症 | 粘膜の発赤・びらん・舌乳頭萎縮 | なし | 抗真菌薬で改善する |
| 偽膜性カンジダ症 | 乳白色の白苔 | あり(拭い取れる) | 白苔除去後に出血することも |
| 舌痛症(器質病変なし) | ほぼ正常 | なし | 抗真菌薬が奏効しない |
| 義歯性外傷 | 義歯床下の発赤・潰瘍 | なし | 義歯調整のみでは改善しない場合あり |
紅斑性カンジダ症は「日和見感染症」です。 常在真菌であるカンジダが、宿主の防御機構が弱まった隙に増殖して発症します。 kankyokansen(https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf)
特にリスクが高い全身的因子として、以下が挙げられます。 kankyokansen(https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf)
- 抗菌薬の長期投与による菌交代現象
- ステロイド薬(吸入・内服)の長期使用
- 化学療法・放射線治療中の免疫低下
- 糖尿病・HIV感染・全身衰弱
- 高齢者・新生児
局所的なリスク因子も重要です。 kankyokansen(https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf)
- 口腔乾燥(頭頸部がんへの放射線治療後など)
- 義歯の清掃不良(カンジダはバイオフィルムを形成しやすい)
- 吸入ステロイドの使用
意外なのが「抗菌薬」です。 抗菌薬は細菌には効きますが、真菌であるカンジダには無効です。長期投与によって口腔常在菌叢のバランスが崩れ、カンジダが異常増殖します。つまり、細菌感染の治療が別の感染症を招くことがあるということですね。 kankyokansen(https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf)
また、近年ではカンジダの菌種にも変化があります。 従来は Candida albicans が原因の70〜90%を占めましたが、義歯装着者を中心に C. glabrata の割合が増加しています。C. glabrata はアゾール系抗真菌薬に耐性を示す株が増えており、治療選択に影響します。 これは覚えておくべき情報です。 gc(https://www.gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2022-05/170_4.pdf)
診断の第一歩は視診と問診です。 紅斑性カンジダ症は「周囲粘膜との色調の差」を注意深く観察することが核心で、偽膜性と違って見た目が地味なため見逃しリスクが高い疾患です。 gc(https://www.gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2022-05/170_4.pdf)
確定診断には、以下の検査が有用です。 gc(https://www.gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2022-05/170_4.pdf)
- ぬぐい液のグラム染色・PAS染色(顕微鏡検査):仮性菌糸が確認されれば確定診断。迅速性が高い
- 培養検査(クロモアガー培地):菌種の同定も可能。ただし結果まで48時間程度かかる
- C. glabrata への注意:菌糸を形成しないため、顕微鏡検査では見逃しやすい
培養検査は保険適用で実施できます(綿棒でぬぐい、37℃・48時間培養)。 カンジダは口腔常在菌なので、1コロニー形成には1,000株以上が必要とされており、コロニーが形成されれば病因菌と判断して差し支えありません。 osugi-dc(https://osugi-dc.com/blog/oral-surgery/1886/)
病歴聴取も診断精度を高める重要な要素です。 ステロイド軟膏の連用歴、抗菌薬長期投与、吸入ステロイドの使用歴を確認することが鑑別を大きく助けます。ホルモン軟膏に抵抗性の口腔粘膜病変があればカンジダ検査を行い、陽性であれば速やかに抗真菌薬を投与するのが基本です。 gc(https://www.gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2022-05/170_4.pdf)
紅斑性カンジダ症には、抗真菌薬の局所投与が基本です。 日本で口腔カンジダ症に保険適用がある薬剤は主に3種類あります。それぞれに特性と注意点があります。 kankyokansen(https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf)
| 薬剤名 | 製品例 | 用法 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| ミコナゾールゲル | フロリードゲル経口用2% | 毎食後・就寝前 1日4回塗布 | 義歯床面への塗布可。嚥下困難例にも対応。ワーファリン併用禁忌に準ずる |
| アムホテリシンBシロップ | ファンギゾンシロップ | 1回1mL 1日4回含嗽後嚥下 | 血中移行なし。併用禁忌薬なし。C. glabrata にも有効 |
| イトラコナゾール内用液 | イトリゾール内用液1% | 1日1回20mL 空腹時嚥下 | 腸管吸収で全身作用も期待。経管栄養にも使用可。下痢に注意。併用禁忌薬が多い |
投薬期間は1〜2週間が基本です。 第一選択薬の効果が不十分な場合や、投薬後に再燃する場合は感受性試験の結果をもとに薬剤を再選択します。 kankyokansen(https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf)
義歯性カンジダ症(義歯床下の発赤)には、ミコナゾールゲルを義歯床粘膜面に塗布する方法が適しています。 単に義歯を調整するだけでは改善しません。これが基本です。 gc(https://www.gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2022-05/170_4.pdf)
また、いずれの抗真菌薬にもアレルギーを持つ稀なケースでは、15〜30倍に希釈したポビドンヨード液による頻回含嗽が有効とされていますが、使用は短期間に限定する必要があります。 gc(https://www.gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2022-05/170_4.pdf)
口腔カンジダ症の予防に最も有効なのは口腔ケアです。 特に義歯装着者と免疫低下患者に対して、歯科従事者が主体的に予防介入することで発症リスクを大きく下げられます。 kankyokansen(https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf)
口腔粘膜ケアの具体的な方法は以下のとおりです。 kankyokansen(https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf)
- 15〜30倍に希釈した7%ポビドンヨード液、またはベンゼトニウム含嗽薬でのうがい
- 含嗽困難な患者には、生理食塩液を含ませた綿球・スポンジブラシで愛護的に粘膜をぬぐう
- 含嗽後にジェルタイプの保湿剤を塗布し、口腔粘膜の乾燥を防ぐ
義歯管理は特に重要です。 義歯の材質はカンジダが付着しやすく、バイオフィルムを形成します。ブラシで義歯をこするだけではバイオフィルムは除去できません。 超音波洗浄、またはカンジダに効果がある義歯洗浄剤の使用が推奨されます。これは見落とされがちな点です。 kankyokansen(https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf)
また、偽膜性カンジダ症を発症している患者の白苔を無理に剥がしてはいけません。 呼吸器・消化管への播種を防ぐため、愛護的な粘膜ケアと抗真菌薬投与を組み合わせることが原則です。 kankyokansen(https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf)
口内炎に対してステロイド軟膏を安易に連用することも避けるべきです。 口腔粘膜局所の免疫能が低下し、日和見感染としてカンジダ症を引き起こす原因になります。同様に、ポビドンヨードやアルコール含有洗口剤の連用は菌交代現象を引き起こすリスクがあります。 口内炎治療にはアズレン含嗽液の使用が有効で、連用しても日和見感染を起こしにくい点で優れています。 gc(https://www.gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2022-05/170_4.pdf)
免疫低下患者において口腔カンジダ症を見逃すと、食道カンジダ・肺カンジダ・カンジダ血症へと移行する危険があります。 歯科従事者による定期的な口腔観察と早期介入が、全身感染症の予防につながるという意識を持つことが重要です。 dc-yamaguchi(https://dc-yamaguchi.jp/blog/%E3%80%90%E7%B4%85%E6%96%91%E6%80%A7%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%80%E7%97%87%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%80%91/)
参考:口腔カンジダ症の診断と治療(鹿児島大学病院 口腔外科、GC CIRCLE No.170)
口腔カンジダ症の診断と治療(分類・薬剤選択・症例写真を含む歯科向け解説)GC CIRCLE
参考:口腔カンジダ症の診かた・治療・予防(日本環境感染学会 教育テキスト)
口腔カンジダ症の診かた・治療・予防(免疫低下患者向けの系統的解説・Q&A付き)日本環境感染学会