口腔カンジダ症状と偽膜性や萎縮性の特徴

口腔カンジダ症は真菌感染による口腔内の疾患で、様々な症状が現れます。偽膜性と萎縮性の2つのタイプがあり、それぞれ特徴的な症状を示します。免疫低下や口腔乾燥などが原因となりますが、適切な治療で改善が見込めます。あなたの口の中の違和感、実はカンジダ症かもしれませんか?

口腔カンジダ症状の種類と特徴

口腔カンジダ症の基本情報
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原因菌

主にCandida albicansという真菌(カビの一種)による日和見感染症です

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主な症状

口腔内の痛み、味覚障害、白苔の付着、灼熱感などが特徴的です

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治療法

抗真菌薬による治療と口腔衛生状態の改善が基本となります

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口腔カンジダ症は、主にCandida albicansなどの真菌(カビの一種)が口腔内で異常増殖することによって引き起こされる感染症です。カンジダ菌は実は私たちの口腔内に常在している菌であり、通常は免疫機能によって制御されていますが、様々な要因によってバランスが崩れると症状が現れるようになります。

 

口腔カンジダ症は、その症状や経過によっていくつかのタイプに分類されます。主に急性と慢性、そして偽膜性と萎縮性(紅斑性)の組み合わせで分類されることが多いです。それぞれのタイプによって症状の現れ方や治療アプローチが異なるため、正確な診断が重要です。

 

歯科医療従事者として、患者さんの口腔内を観察する際には、これらの症状の違いを理解し、適切な対応ができるようにしておくことが求められます。特に高齢者や免疫不全の患者さんでは、口腔カンジダ症が発症しやすいため、注意深い観察が必要です。

 

口腔カンジダ症状の偽膜性タイプの特徴

偽膜性口腔カンジダ症は、口腔カンジダ症の中で最も一般的なタイプです。この症状の最大の特徴は、口腔粘膜や舌の表面に白色または乳白色の斑点状、線状、あるいは斑紋状の白苔(はくたい)が付着することです。この白苔は、カンジダ菌の菌糸、上皮細胞の残骸、炎症細胞などから構成されています。

 

偽膜性カンジダ症の重要な診断ポイントは、この白苔がガーゼなどで比較的容易に拭い取ることができるという点です。白苔を拭い取った後の粘膜面は発赤やびらんを呈し、時に出血することもあります。これは、カンジダ菌が粘膜表面に付着し、炎症を引き起こしているためです。

 

患者さんの自覚症状としては、軽度から中等度の痛みや違和感を訴えることが多いですが、症状がほとんどない場合もあります。特に食事の際に痛みを感じることがあり、辛いものや酸味の強いものを摂取すると症状が悪化することがあります。また、味覚の変化を訴える患者さんも少なくありません。

 

偽膜性カンジダ症は、免疫機能が低下している患者さん、特に高齢者、糖尿病患者、ステロイド薬や抗生物質を長期服用している方、HIV感染者などに多く見られます。また、乳幼児にも発症することがあり、その場合は「鵞口瘡(がこうそう)」と呼ばれることもあります。

 

口腔カンジダ症状の萎縮性(紅斑性)タイプの特徴

萎縮性カンジダ症(紅斑性カンジダ症とも呼ばれます)は、偽膜性タイプとは異なる特徴を持っています。この症状では、白苔の付着はあまり見られず、代わりに口腔粘膜や舌が赤く腫れ上がる(発赤)という特徴があります。

 

萎縮性カンジダ症の最も顕著な特徴は、舌乳頭の萎縮です。通常、舌の表面はざらざらとした舌乳頭で覆われていますが、萎縮性カンジダ症では舌乳頭が平坦化し、舌が赤く滑らかになります(平滑舌)。この状態は「地図状舌」のように見えることもあります。

 

自覚症状としては、偽膜性タイプよりも強い痛みやヒリヒリとした灼熱感を伴うことが多いです。特に熱いもの、辛いもの、酸味の強いものなどの刺激物を摂取すると痛みが増強します。患者さんの中には「1日中、舌がヒリヒリする」と訴える方もいます。

 

また、萎縮性カンジダ症では味覚障害も顕著であり、特に「口の中に何もないのに苦味、塩味、渋味などを感じる」という自発性異常味覚を訴えることが多いです。これは舌痛症との鑑別点にもなります。

 

萎縮性カンジダ症は、義歯を使用している高齢者に多く見られ、特に義歯の下の粘膜に発赤が見られる場合は「義歯性口内炎」として現れることがあります。また、口角炎(口角の発赤、びらん、亀裂)を併発していることも多く、これはカンジダ性口角炎として知られています。

 

口腔カンジダ症状の慢性肥厚性タイプの特徴

慢性肥厚性カンジダ症は、口腔カンジダ症が長期間にわたって持続し、粘膜が肥厚した状態を指します。このタイプは他のタイプと比較して発症頻度は低いですが、治療が難しく、長期的な管理が必要となることが多いです。

 

慢性肥厚性カンジダ症の特徴は、白色で厚みのある病変が口腔粘膜に形成されることです。この白苔は偽膜性タイプとは異なり、拭い取ることが困難で、粘膜に強固に付着しています。強く擦過すると微小片が剥離することがありますが、完全に除去することはできません。

 

病変は主に唇の両端から頬粘膜にかけて発症することが多く、粘膜全体がまだら状に厚く固くなります。この状態は「カンジダ性白板症」とも呼ばれ、時に口腔がんとの鑑別が必要になることもあります。

 

患者さんの自覚症状としては、違和感や軽度の痛みを訴えることが多いですが、症状がほとんどない場合もあります。ただし、病変が広範囲に及ぶと、会話や食事に支障をきたすこともあります。

 

慢性肥厚性カンジダ症は、喫煙者や免疫不全の患者さん、特に長期間にわたって抗生物質やステロイド薬を使用している方に多く見られます。また、不適切な義歯の使用や口腔衛生状態の悪化も発症リスクを高めます。

 

治療には通常の抗真菌薬に加えて、原因となる要因の除去や改善が必要です。特に喫煙者の場合は禁煙指導が重要となります。また、治療が長期化することが多いため、定期的な経過観察が欠かせません。

 

口腔カンジダ症状と味覚障害の関連性

口腔カンジダ症の患者さんが頻繁に訴える症状の一つに味覚障害があります。実際、北海道大学口腔内科の調査によると、口腔カンジダ症と確定診断された患者の主訴として、舌痛に次いで味覚異常が多かったことが報告されています。

 

口腔カンジダ症による味覚障害は、いくつかのメカニズムで発生すると考えられています。まず、カンジダ菌が味蕾(みらい:味を感じる細胞)の周囲に炎症を引き起こし、味覚受容体の機能を阻害することが一因です。また、カンジダ菌が産生する代謝物質が直接味覚に影響を与える可能性もあります。

 

味覚障害の現れ方は口腔カンジダ症のタイプによって異なります。偽膜性カンジダ症では、「味がぼんやりする」「食べ物の味がわからない」といった味覚減退(低下)を訴えることが多いです。一方、萎縮性(紅斑性)カンジダ症では、「口の中に何もないのに苦味や金属味を感じる」という自発性異常味覚を訴えることが特徴的です。

 

特に興味深いのは、舌痛症と口腔カンジダ症の味覚障害の違いです。舌痛症の患者さんは「味がうすくなった」「なんとなくおいしくない」という漠然とした訴えが多いのに対し、口腔カンジダ症、特に紅斑性カンジダ症では、具体的な異常味覚(苦味、塩味、渋味など)を訴えることが多いとされています。この違いは両疾患の鑑別点としても重要です。

 

また、口腔カンジダ症による味覚障害は、抗真菌薬による治療で改善することが多いという特徴があります。これは、原因となるカンジダ菌が除去されることで、味蕾周囲の炎症が軽減し、味覚受容体の機能が回復するためと考えられています。

 

歯科医療従事者として、患者さんが味覚障害を訴えた場合、口腔カンジダ症の可能性も考慮に入れ、口腔内の詳細な観察と適切な検査を行うことが重要です。特に高齢者や免疫不全の患者さん、義歯使用者などでは、口腔カンジダ症による味覚障害のリスクが高いため、注意が必要です。

 

口腔カンジダ症状と全身疾患の関連性

口腔カンジダ症は単なる口腔内の局所感染症ではなく、全身状態を反映する重要なサインとなることがあります。特に免疫機能の低下を示す指標として注目されています。

 

まず、糖尿病患者さんでは口腔カンジダ症の発症リスクが高まることが知られています。これは高血糖状態が口腔内の環境を変化させ、カンジダ菌の増殖を促進するためです。また、糖尿病に伴う免疫機能の低下も発症リスクを高める要因となります。逆に言えば、原因不明の口腔カンジダ症が見られた場合、未診断の糖尿病の可能性を考慮する必要があります。

 

HIV感染症やAIDS患者さんでは、口腔カンジダ症が初期症状として現れることがあります。特に若年者で原因不明の口腔カンジダ症が見られた場合、HIV検査を考慮することも重要です。また、口腔カンジダ症の重症度やコントロールの難しさは、HIV感染症の進行度と相関することも報告されています。

 

悪性腫瘍、特に血液系の悪性腫瘍(白血病など)の患者さんでも口腔カンジダ症のリスクが高まります。これは疾患自体による免疫機能の低下に加え、化学療法や放射線療法の影響も関与しています。特に頭頸部がんの放射線治療を受けている患者さんでは、唾液分泌の減少も相まって口腔カンジダ症が発症しやすくなります。

 

自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)の患者さんも口腔カンジダ症のリスクが高い集団です。これは疾患自体の免疫異常に加え、治療に使用されるステロイド薬や免疫抑制剤の影響も大きいと考えられています。

 

また、近年の研究では、口腔カンジダ症と誤嚥性肺炎との関連も注目されています。口腔内のカンジダ菌が誤嚥により肺に到達し、肺炎を引き起こす可能性があるため、特に高齢者や嚥下機能が低下している患者さんでは注意が必要です。

 

歯科医療従事者として、口腔カンジダ症を診た際には、単に局所治療を行うだけでなく、背景にある全身疾患の可能性も考慮し、必要に応じて医科との連携を図ることが重要です。特に原因不明の再発性口腔カンジダ症の場合は、全身状態の精査を勧めることも歯科医療従事者の重要な役割と言えるでしょう。

 

口腔カンジダ症の診断と治療に関する詳細な情報は、日本口腔感染症学会のガイドラインが参考になります。

 

口腔カンジダ症の診かた、治療、予防 - 日本環境感染学会
また、口腔カンジダ症と全身疾患の関連性については、以下の論文も参考になります。

 

舌痛への対処 舌痛症と紅班性カンジダ症の鑑別を中心に - J-Stage