現在、日本で臨床使用されている抗PD-1抗体はニボルマブ(商品名:オプジーボ)とペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の2剤です。 どちらもT細胞表面のPD-1受容体に結合し、がん細胞がT細胞の攻撃を回避する「ブレーキ」を外す作用を持ちます。 oncolo(https://oncolo.jp/news/20170802y)
つまり、免疫系を「再起動」させる薬です。
2剤は抗体の種類とPD-1への親和性(結合力)が異なります。 ニボルマブはIgG4型モノクローナル抗体、ペムブロリズマブはヒト化IgG4型モノクローナル抗体で、投与間隔や適応疾患数にも差があります。 oncolo(https://oncolo.jp/news/20170802y)
| 項目 | ニボルマブ(オプジーボ) | ペムブロリズマブ(キイトルーダ) |
|---|---|---|
| 開発メーカー | 小野薬品工業・BMS | MSD |
| 抗体クラス | IgG4型ヒト抗体 | IgG4型ヒト化抗体 |
| 標準投与間隔 | 2週または4週ごと | 3週または6週ごと |
| 主な適応(例) | 非小細胞肺がん・胃がん・口腔がん等 | 非小細胞肺がん・頭頸部がん・MSI-Hがん等 |
| 口腔がん関連エビデンス | 口腔癌32例中24例に使用(広島大) | 口腔癌32例中8例に使用(広島大) |
歯科従事者にとっては、どちらの薬剤かよりも「投与中かどうか」と「いつ投与されたか」の把握が実務上重要です。
これが基本です。
通常、T細胞表面のPD-1はがん細胞が提示するPD-L1と結合することで「攻撃停止」の指令を受けます。 この仕組みをがん細胞が悪用し、免疫から逃れています。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000245271.pdf)
抗PD-1抗体はその結合を物理的にブロックします。
ブレーキが外れたT細胞は再びがん細胞を攻撃し始め、「持続的な抗腫瘍効果」が生まれます。 ただし同時に、正常な組織に対しても免疫が誤って働く「免疫関連有害事象(irAE)」が全身に起こりうることを理解しておく必要があります。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000245271.pdf)
🔍 irAEの対象臓器は広範囲です。PMDAが公開している「免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル」には、皮膚・消化管・肺・内分泌・神経系に加え、口腔粘膜への影響も記載されています。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000245271.pdf)
歯科従事者としてirAEの存在を知っておくことが、患者さんの早期発見につながります。これは使える知識です。
歯科処置中に口腔粘膜の異常変化に気づいた際は、単なる口内炎と判断せず、投薬歴の確認を最初の一手にしましょう。
PMDAの免疫チェックポイント阻害薬irAE対策マニュアル(PDF)/口腔粘膜を含む全身のirAE症状・対応方法が網羅されています
口腔内に現れるirAEとして最も報告が多いのは、扁平苔癬様粘膜変化と口内炎(潰瘍性)です。 キイトルーダ投与後に遷延する口腔粘膜のびらんが歯科受診のきっかけになった症例も報告されています。 towayakuhin.co(https://www.towayakuhin.co.jp/oncology/sideeffect/oral/molecular.php)
意外ですね。
irAEによる口腔病変は、がん治療の終了後も長期間持続することがあります。 治療が終わったからといって油断は禁物です。処置前に「以前がん治療を受けましたか」と問診することが重要になります。 dental-diamond(https://dental-diamond.jp/pages/%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89/%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%8A%9B%E3%81%A6%E3%81%99%E3%81%A8/10462/)
口腔内irAEの主な種類をまとめると、以下のとおりです。
ステロイド外用薬での口腔irAE管理後にカンジダが二次感染するケースも存在します。 口腔ケア時には視診だけでなく、触診と問診を組み合わせることが肝心です。 towayakuhin.co(https://www.towayakuhin.co.jp/oncology/sideeffect/oral/molecular.php)
確認すべき項目は明確です。
次に、直近の血液データ(白血球数・好中球数・血小板数)の確認が必要です。 抗PD-1抗体単剤でも免疫関連の血球減少が生じることがあり、「抗がん剤だから当然骨髄抑制がある」と思いがちですが、程度は薬剤によって大きく異なります。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000245271.pdf)
歯科処置前の確認リストを以下に整理します。
侵襲的処置(抜歯・歯周外科・インプラント)は、グレード2以上のirAEが活動期にある場合には原則として延期を検討します。グレード1(軽症)であれば多くの処置が実施可能です。これが条件です。
口腔外科処置前の感染予防として、がん患者の口腔ケアを事前に行っておくことは治療成績の向上にも寄与します。 抗菌薬の適正使用についても、日本歯周病学会のガイドラインに沿った判断が必要です。 perio(https://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_perio_antibiotic_2020.pdf)
東和薬品「分子標的薬による口内炎の対処法」/免疫チェックポイント阻害薬投与患者の口腔内irAE予防・対処法が歯科向けにまとまっています
歯科従事者は、患者が定期的に口腔内を診せる数少ない医療専門職です。これは大きな強みです。 抗PD-1抗体のirAEの中には、腫瘍内科の診察では気づかれにくい口腔粘膜の初期変化が含まれています。 dental-diamond(https://dental-diamond.jp/pages/%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89/%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%8A%9B%E3%81%A6%E3%81%99%E3%81%A8/10462/)
注目すべき口腔所見は以下のとおりです。
これらを見つけた場合は、処置の前に「現在がん治療中ですか?使用している薬はありますか?」と確認する習慣が重要です。問診で判明しなければ、処方薬のお薬手帳を確認することが次の一手です。
口腔内irAEの多くはステロイド含嗽・外用薬で管理可能です。 ただし、安易に口腔ステロイド剤を使用せず、感染症との鑑別を先に行うことが原則です。 towayakuhin.co(https://www.towayakuhin.co.jp/oncology/sideeffect/oral/molecular.php)
腫瘍内科・歯科の連携強化が、患者の生活の質を守る鍵になることを、数字が示しています。
厚生労働省「抗PD-1抗体抗悪性腫瘍剤に係る最適使用推進ガイドライン」(PDF)/ニボルマブ・ペムブロリズマブの適正使用基準・留意事項が確認できます