機能的矯正装置種類と目的別選択法

機能的矯正装置の種類とその特徴を解説。アクチバトール、バイオネーター、フレンケル装置など代表的な装置の適応症や使い分けのポイントを詳しく紹介しています。歯科医療従事者として知っておくべき装置選択の基準とは?

機能的矯正装置種類と適応症

装着時間10時間でも下顎の成長誘導は十分効果を発揮します


この記事の3ポイント要約
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機能的矯正装置の基本分類

口腔周囲筋の機能力を利用する装置で、アクチバトール・バイオネーター・フレンケル装置など多様な種類が存在し、それぞれ適応症が異なる

装着時間と効果の関係

就寝時を中心に10~14時間の装着が基本で、日中1~2時間の追加装着で効果が向上するが、装着時間不足は治療失敗の最大要因となる

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適応年齢と症例選択

6~10歳の混合歯列期が適応で、上顎前突や下顎後退症に効果的だが、成長期を過ぎた症例や骨格性の重度不正咬合には不向き


機能的矯正装置の基本概念と分類方法


機能的矯正装置とは、患者自身の口腔周囲筋の機能力を矯正力として利用する装置群のことです。器械的矯正装置がワイヤーやネジなどの機械的な力で歯を動かすのに対し、機能的矯正装置は下顎の運動に関係する筋肉、舌の力、唇や頬の筋肉の力を利用して歯列や顎骨の位置を改善します。


装置自体に矯正力は発生しません。


この点が床矯正装置との決定的な違いです。床矯正装置は噛み合わせた時に装置自体が矯正力を生み出しますが、機能的矯正装置は患者が口を動かす、舌を使う、唇を閉じるといった日常的な動作の中で初めて矯正力が発生します。つまり、患者の協力度が治療成果に直結する装置といえます。


分類方法としては、固定源の位置によって歯に求めるタイプと口腔粘膜に求めるタイプに分けられます。また、装置の構造で分類すると、上下一体型(モノ・ブロック)と上下分離型に大別されます。上下一体型の代表がアクチバトールやバイオネーターで、上下分離型にはフレンケル装置があります。さらに、可撤式(取り外し可能)と固定式にも分類でき、リップバンパーやタングクリブは固定式または半固定式として使用されることが多いです。


歯科医療従事者としては、これらの分類を理解した上で、患者の年齢、不正咬合のタイプ、協力度を総合的に判断して装置を選択する必要があります。


機能的矯正装置アクチバトールの特徴と臨床応用

アクチバトールは1936年にヨーロッパで考案された機能的矯正装置の代表格です。F.K.O(Funktionskieferorthopädie)やバイオネーターとも呼ばれることがありますが、厳密にはバイオネーターはアクチバトールの改良型として位置づけられます。


構造的には上下一体型の大きなレジン床で、上顎と下顎の両方を覆う形状をしています。装置を口腔内にセットすると、下顎が前方に誘導され、上下顎前歯の先端が同じ位置(構成咬合位)になるよう設計されています。ただし、前歯同士は2~3mm程度の隙間を保つように作られており、この隙間が重要な役割を果たします。


適応症は主に上顎前突です。


下顎の前方成長が遅れている症例、いわゆる下顎後退症に対して特に効果を発揮します。装置を装着している間、下顎は常に前方位に保持され、この状態で咀嚼筋が活動することで下顎骨の前方成長が促進されます。成長期の患者であれば、6ヶ月から2年程度の使用で顕著な改善が見られることが多いです。


使用時間は就寝時を中心に10~14時間が推奨されます。日本矯正歯科学会のガイドラインでも、アクチバトールを含む機能的矯正装置は上顎前突症患者に対して有効であると評価されており、特に下顎の変化をもたらす効果が実証されています。


臨床現場では、装置の適合状態を毎回確認することが重要です。下顎前歯が装置のレジン床にしっかり収まっていない状態で使用を続けても効果は得られません。また、完全な口呼吸をしている患者には使用できないため、必要に応じて装置に呼吸穴を開ける工夫が必要です。


機能的矯正装置バイオネーターとフレンケル装置の相違点

バイオネーターはアクチバトールから派生した装置で、口蓋部のレジンを除去して装置を小型化したのが最大の特徴です。アクチバトールと比較すると、患者の違和感が少なく、装着感が向上しています。ただし、口蓋部のレジンがないため、上顎前歯を唇側に傾斜させる力は弱くなります。


バイオネーターとアクチバトールの違いは構造だけではありません。


唇側線の配置も異なり、バイオネーターでは上顎のみに唇側線をつけ、下顎にはつけないのが一般的です。この設計により、下顎の前方成長を促しながら、上顎前歯の位置調整を行うことができます。適応症はアクチバトールと同様に上顎前突や下顎後退症ですが、より軽度から中等度の症例に向いています。


一方、フレンケル装置は1966年にドイツのロルフ・フレンケル博士が開発した機能的矯正装置で、ファンクショナルレギュレーターとも呼ばれます。この装置の最大の特徴は、装着時間が1日中であることです。アクチバトールやバイオネーターが就寝時中心なのに対し、フレンケル装置は起きている間も装着します。


構造的には、ほとんどワイヤーで構成され、頬側に配置されたバッカルシールドという部分が口腔周囲筋の過剰な圧力を遮断します。唇や頬の筋肉が歯列に対して過度に作用するのを防ぎながら、同時に歯列の成長発育に必要な筋機能を活性化させるという、二重の機能を持っています。


適応症は上顎前突だけでなく、反対咬合や開咬にも効果があります。特に口腔周囲筋の機能異常が原因となっている不正咬合に対して、フレンケル装置は根本的な改善をもたらすことができます。ただし、1日中の装着が必要なため、患者の協力度が極めて重要になります。学校生活や日常活動に支障をきたす可能性もあるため、導入前に十分な説明とモチベーション管理が求められます。


機能的矯正装置リップバンパーとタングクリブの臨床的位置づけ

リップバンパーは1956年に登場した機能的矯正装置で、主に下顎の矯正に使用されます。装置の構造は比較的シンプルで、下顎の第一大臼歯に固定されたバンドから、唇側に弓状のワイヤーが伸びており、前歯と唇の間に位置します。


この装置の目的は唇の圧力から前歯を解放することです。


下唇を噛む癖がある患者や、唇の筋肉の力が過度に前歯に作用している症例では、下顎前歯が舌側に傾斜し、歯列弓が狭窄します。リップバンパーを装着すると、唇と前歯の間に物理的な障壁ができ、唇からの圧力が前歯に伝わらなくなります。さらに、唇の圧力はリップバンパーを通じて第一大臼歯に遠心方向の力として伝わるため、大臼歯を後方に移動させる効果も期待できます。


適応症は下顎前歯の舌側傾斜、歯列弓の狭窄、軽度の叢生などです。リップバンパーは半固定式として使用されることが多く、食事時や歯磨き時に取り外すことができますが、基本的には1日中装着します。装着時間が短いと効果が得られないため、患者への指導が重要です。


タングクリブは舌の癖、特に舌突出癖を改善するための装置です。舌を前方に突き出す癖がある患者では、開咬やすきっ歯が生じやすく、これらの不正咬合を改善するにはまず舌癖を除去する必要があります。


タングクリブには固定式と可撤式の2種類があります。固定式は上顎の歯に直接接着され、前歯の裏側に金属のワイヤーで作られた柵状の構造物が配置されます。舌を前に突き出すと、このワイヤーに舌先が接触するため、患者は不快感を覚え、自然と舌突出癖を控えるようになります。可撤式タングクリブは床矯正装置にクリブ(柵)が装着された形状で、取り外しが可能です。


適応症は舌突出癖による開咬、正中離開、上顎前突などです。タングクリブ単独で使用するよりも、MFT(口腔筋機能療法)と併用することで、より確実な効果が得られます。舌癖は無意識の習慣であるため、装置による物理的な抑制と、意識的なトレーニングを組み合わせることが治療成功の鍵となります。


指しゃぶりの改善にも効果があります。


リップバンパーとタングクリブは、どちらも口腔習癖の除去という予防矯正的な側面が強い装置です。歯科医療従事者としては、これらの装置を早期に導入することで、より侵襲的な矯正治療を回避できる可能性があることを認識しておく必要があります。


機能的矯正装置と床矯正装置・マウスピース型装置の使い分け基準

機能的矯正装置と床矯正装置は外見が似ているため、しばしば混同されますが、矯正力の発生メカニズムが根本的に異なります。床矯正装置は拡大ネジやスクリューを備えており、装置自体が矯正力を発生させます。代表的なものに拡大床があり、顎骨を側方に拡大する目的で使用されます。


一方、機能的矯正装置は前述のとおり、患者の筋機能を利用するため、装置自体には矯正力がありません。この違いを理解することが、適切な装置選択の第一歩です。


近年、小児矯正の分野ではマウスピース型の機能的矯正装置も普及しています。代表的なものにムーシールド、プレオルソ、マイオブレース、T4Kなどがあります。これらは従来のアクチバトールやバイオネーターとは異なり、既製品またはセミオーダーで提供され、柔らかい素材で作られているのが特徴です。


ムーシールドは反対咬合(受け口)の改善に特化した装置です。


3歳から使用可能で、乳歯列期の早期治療に適しています。舌や口唇の位置を改善し、下顎の前方位を修正します。プレオルソはムーシールドを改良したもので、舌側にバンパーが追加されており、受け口だけでなく上顎前突やガタガタの歯並びにも対応できます。マイオブレースとT4Kは口腔周囲筋のトレーニングを重視した装置で、呼吸、舌位置、嚥下、唇の機能を正常化することを目的としています。


これらマウスピース型装置と従来型の機能的矯正装置の使い分けは、患者の年齢、不正咬合のタイプ、協力度によって決まります。3~5歳の乳歯列期にはムーシールドやプレオルソが適しています。6~10歳の混合歯列期で、下顎後退を伴う上顎前突にはアクチバトールやバイオネーターが効果的です。口腔周囲筋の機能異常が顕著な症例にはフレンケル装置やマイオブレースが適しています。


床矯正装置は顎骨の幅径を拡大したい場合に選択されます。例えば、上顎骨幅径の狭窄がある症例では、まず拡大床で顎を広げてから、機能的矯正装置で前後的な位置関係を改善するという段階的アプローチが有効です。


歯科医療従事者として重要なのは、これらの装置が相互排他的ではなく、症例によっては併用や段階的使用が可能であることを理解することです。治療計画の立案時には、患者の成長段階、不正咬合の原因、保護者の協力度などを総合的に評価し、最適な装置を選択する必要があります。


日本矯正歯科学会が発行する「矯正歯科診療のガイドライン 上顎前突編」では、機能的矯正装置の有効性についてエビデンスに基づく評価が記載されています。




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