ヘッドサイズが大きいほどしっかり磨けると信じている患者さんほど、奥歯の磨き残しが8割を超えています。
歯ブラシのヘッドサイズを測るとき、多くの歯科従事者が患者に伝えているのが「上の前歯2本分の幅」という目安です。これは感覚的な目安ではなく、実は明確な解剖学的根拠があります。
藤田恒太郎の歯の解剖学(第21版)によると、上顎中切歯1本の歯冠幅径は平均8.6mmとされています。2本分では17.2mm、これが植毛部(毛が植えられている部分)の長さの目安です。実際に市販されている歯ブラシの多くは、植毛部の長さが約19〜20mm程度に設計されており、前歯2本分に収まる範囲に近い数値となっています。大人の指幅でいえば、人差し指1本の幅(約15〜18mm)とほぼ同じイメージです。
つまりこれが基本です。患者への説明で「前歯2本分を目安に」と伝えれば、メジャーなしでも感覚的に判断できます。
ヘッドサイズを測る際には、長さだけでなく「幅」と「厚み」にも注目する必要があります。たとえばライオン歯科材の超薄型コンパクトヘッド「Systema AX」はヘッドの厚みがわずか2.6mmに設計されており、通常の歯ブラシが届きにくい歯列不正部位や下顎臼歯の舌側にもアクセスしやすい構造になっています。幅が狭いほど奥歯への到達性が上がる一方で、歯面に当たる毛の面積が減るというトレードオフも存在します。
ヘッドサイズを確認する手順は次の通りです。
この3点を組み合わせて判断するのが、現場での正確なヘッドサイズ評価につながります。患者が自分で歯ブラシを選ぶときも、この3点セットで確認するよう指導すると、選択ミスが格段に減ります。これは使えそうです。
参考:日本周病学会誌「歯ブラシを使いこなそう」(明海大学歯学部・荒木久生)
歯ブラシのヘッド形態と各部のブラッシング方法(日本歯周病学会誌64巻4号)
市販・歯科用の歯ブラシには、ヘッドサイズによっていくつかのカテゴリーがあります。これを数値で把握していない歯科従事者は意外と多いのですが、患者指導の精度を上げるためには具体的な数字を押さえておくことが大切です。
一般的な分類は下の通りです。
| 分類 | 植毛部の長さの目安 | 植毛部の幅の目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| レギュラー | 約25〜30mm | 約11〜13mm | 広範囲を一度に磨ける。奥歯へのアクセスに難あり |
| コンパクト | 約20〜24mm | 約9〜11mm | バランス型。歯並びが良好な成人に適する |
| 超コンパクト | 約17〜20mm | 約8〜9mm | 奥歯・歯列不正に対応しやすい。歯科で推奨されやすい |
歯科衛生士が患者に渡す歯ブラシとして推奨されやすいのは「超コンパクト〜コンパクト」サイズです。日本歯周病学会誌に掲載された文献(荒木久生・明海大学)でも「種々の形態や植毛のコンパクトな歯ブラシが推奨されている」と明記されています。
レギュラーサイズが問題となるのは、奥歯(特に最後臼歯の遠心面)や歯並びが乱れた部位です。ヘッドが大きいと、頬や顎関節の影響で物理的にブラシを奥まで入れることができません。たとえて言えば、大きなスポンジで細い隙間を掃除しようとするような状態です。サイズが原因で清掃できていない場所には、そのままプラークが蓄積します。
厳しいところですね。特に女性患者は男性より口腔内が狭いことが多く、同じ「コンパクト」でも合わないケースがあります。このため歯科衛生士が実際に口腔内を観察したうえで、ヘッドのサイズを一緒に確認する工程が指導の質を大きく上げます。ライオン歯科材のデンタルマガジン(No.183)では「患者の口腔の状態+ブラッシング習慣の把握=適した歯ブラシを選択」という「方程式」を提唱しており、これが現場での選択基準として非常に明快です。
参考:歯ブラシ選択の「方程式」と超薄型コンパクトヘッドの特徴について
患者さんに適切な歯ブラシを選択するために(デンタルマガジンNo.183・モリタ)
「コンパクトが良い」とわかっていても、全患者に同じサイズを勧めることには限界があります。患者の歯並び・口の大きさ・ブラッシングスキルによって、最適なヘッドサイズは変わります。これが条件です。
ヘッドサイズの使い分けの目安を整理しましょう。
日本歯周病学会誌の事例では、#12が口蓋側転移し隣接空隙が4.8mmしかない患者に対して、植毛幅8.1mmの3列植毛歯ブラシを選択し、「わき」を活用したブラッシングを指導した例が紹介されています。これは通常のサイズ選択では対処できない、個別対応の重要性を示しています。
意外ですね。歯並びが良い患者でも、磨きやすさの自信から大きめヘッドを選び続けた結果、長期的に奥歯だけ磨き残しが増え続けるケースがあります。ライオンが実施した臨床研究(2015年)では、歯磨きに自信があると答えた人でも約8割に磨き残しが確認されており、この「自信のある人ほど磨き残しが多い」という結果は患者指導の重要な切り口になります。
患者に「前歯2本分のサイズに合っているか確認してみてください」と具体的な行動1つに絞って伝えると、次回来院時の変化につながりやすくなります。
参考:歯磨きに自信がある人でも約8割にみがき残しが確認されたデータ
ヘッドサイズの正しい知識を持っていても、患者に正確に伝えられなければ指導の効果は半減します。歯科衛生士が現場でよくやってしまう指導のミスと、改善ポイントを見ていきましょう。
まず、「小さいほど良い」という一言で終わらせてしまうケースがあります。これは間違いではありませんが、「小さいヘッドは磨くのに時間がかかる」「うまく動かせないと清掃効率が下がる」という側面が伝わらないと、患者が超コンパクトヘッドに変えて余計に磨き残しが増えるという逆効果が起きることがあります。つまり伝え方が命です。
銀座みらい歯科のコラムでも「小さめが良いとは限らない」と指摘されており、小さいヘッドを使っても歯ブラシを上手に動かせないと、接触面積が小さい分だけかえって清掃効率が落ちるケースがあると述べられています。
患者への伝え方で実践的なポイントを整理します。
失敗しやすいポイントも把握しておくと安心です。たとえば、大きめヘッドを好む高齢患者に無理にコンパクトを勧めると、かえって磨き時間が長くなり続けられなくなるケースがあります。「続けられること」も指導の重要な条件の一つです。ブラッシングスキルと口腔内の状態を見極めながら、患者ごとにヘッドサイズの最適解を探るのが、質の高い指導につながります。
参考:意外と知られていない歯ブラシの選び方・ヘッドサイズの落とし穴
意外と知られていない?歯ブラシの正しい選び方(銀座みらい歯科)
歯ブラシのヘッドサイズを「長さ」と「幅」で評価している歯科従事者は多くいますが、「厚み(高さ)」を指導に組み込んでいるケースはまだ少ないのが現状です。これは独自視点の盲点といえます。
ヘッドの厚みは、奥歯の舌側・下顎の遠心面へのアクセスに直結します。標準的な歯ブラシのヘッド厚みは8〜10mm前後ですが、超薄型設計の歯ブラシ(例:Systema AX)はわずか2.6mmに抑えられています。この差は「3mmの厚みを削減した」だけに聞こえますが、口腔内では大きな違いになります。下顎の奥歯(7番・8番)を舌側からブラッシングしようとすると、ヘッドが厚いと舌や口腔底が邪魔になって角度がつけられません。薄型ヘッドはこの問題を物理的に解決するものです。
薄型ヘッドが有効なのは下記のような場面です。
患者にヘッドの厚みを伝えるときは、「爪楊枝の太さと比べたら?」「親指の第一関節分くらいの厚みか?」といったビジュアルを使うと伝わりやすくなります。大切なのは数字だけではありません。
市場には超薄型コンパクトヘッドの選択肢が増えてきています。ライオン歯科材のSystema AXのほか、クリニカアドバンテージの極薄ヘッドタイプ(ヘッド厚み2.7mm・横幅9.8mm)なども歯科衛生士100人の80%以上が「理想的なカタチ」と回答したデータがあります。患者に提案する際は、使用目的と口腔内の状況をセットで確認するのが、納得感のある指導につながります。
参考:超薄型コンパクトヘッド歯ブラシの特徴と適応例
患者さんに適切な歯ブラシを選択するために(デンタルマガジンNo.183)

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