外傷歴がない歯でも、内部吸収は静かに進行し抜歯に至ります。
歯根内部吸収(Internal root resorption)とは、歯髄腔の内壁側から破歯細胞(odontoclast)が象牙質を吸収し、歯根が内側から空洞化していく病態です。 外部吸収が歯根表面のセメント質から始まるのに対し、内部吸収は歯髄腔の象牙質壁面が起点になる点が根本的に異なります。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/keyword/40223)
外部吸収と内部吸収は、エックス線像での見え方でも区別できます。内部吸収は根管像が局所的に膨らんだ「バルーン状」の透過像を示し、根管を追いかけると吸収部位で連続性が保たれているのが特徴です。外部吸収では根管像が不連続に欠損するため、読影の際の判断ポイントになります。つまり「根管像の連続性を確認する」ことが基本です。
内部吸収は、進行しても自覚症状がほとんど出ません。 吸収が歯根外壁に到達するまで痛みや腫脹が生じないケースが多く、定期的なX線検査で偶然発見されることが大半です。見た目がきれいな歯でも内側では大きく壊れている場合があります。 scparkdental(https://scparkdental.com/blog/2026/02/24/%E6%AD%AF%E3%81%AE%E5%86%85%E9%83%A8%E5%90%B8%E5%8F%8E%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E6%B0%97%E3%81%A5%E3%81%8D%E3%81%AB%E3%81%8F%E3%81%84%E6%AD%AF%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%8B%E3%82%89%E6%BA%B6/)
歯根内部吸収の原因として最も報告数が多いのは外傷です。 転倒や接触事故など、歯に強い衝撃が加わると歯髄組織に破骨細胞が誘導され、内部吸収が引き起こされることが確認されています。 外傷を受けた直後は歯の保存に成功していても、数ヶ月〜数年後にX線で内部吸収が発覚するケースは珍しくありません。 mdu.repo.nii.ac(https://mdu.repo.nii.ac.jp/record/2836/files/33602_A000239_honbun.pdf)
外傷後に歯髄が失活(壊死)すると、失活した歯髄組織内で炎症が長期間持続します。 この慢性炎症が破歯細胞を呼び込む刺激となり、象牙質内壁の吸収が進むとされています。外傷後の定期観察を怠ると気づかないうちに進行します。 scparkdental(https://scparkdental.com/blog/2026/02/24/%E6%AD%AF%E3%81%AE%E5%86%85%E9%83%A8%E5%90%B8%E5%8F%8E%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E6%B0%97%E3%81%A5%E3%81%8D%E3%81%AB%E3%81%8F%E3%81%84%E6%AD%AF%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%8B%E3%82%89%E6%BA%B6/)
| 外傷の種類 | 内部吸収リスク | 推奨観察期間 |
|---|---|---|
| 歯冠破折(露髄なし) | 中程度 | 6ヶ月〜1年 |
| 脱臼(亜脱臼・完全脱臼) | 高い | 1〜2年以上 |
| 根破折 | 高い | 2年以上の定期X線 |
脱臼が特にリスクが高い理由は、歯根膜と歯髄の両方に血流障害が起きやすいからです。歯根膜が損傷すると外部吸収、歯髄が失活すると内部吸収という「二重のリスク」が重なります。外傷後1年間は最低でも3〜6ヶ月ごとのX線確認が原則です。
深在性う蝕による慢性的な歯髄炎も、内部吸収の重要な誘因です。 う蝕が歯髄に近接すると細菌由来の毒素が持続的に歯髄を刺激し、肉芽組織が増生されます。この肉芽組織の増生が歯髄壁への破歯細胞誘導につながります。 n-clinic-dc(https://n-clinic-dc.com/blog/detail/20241119093636/)
慢性歯髄炎では患者が「じんわり痛む程度」と訴え、症状を軽視するケースが多いです。問診で「数ヶ月前から鈍痛がある」という情報が得られた場合、X線で内部吸収の有無を確認する習慣を持つことが重要です。慢性炎症の放置がそのまま吸収進行の期間になります。
根管治療後に感染が残存した場合も、内部吸収が進行することがあります。 特に根管内に細菌が定着すると、クインテッセンス出版の資料が指摘するように「一過性タイプから進行タイプへ」移行しやすくなります。 細菌の侵入が分岐点です。進行タイプに移行すると、もはや経過観察では対応できず抜髄または抜歯が必要になります。 n-clinic-dc(https://n-clinic-dc.com/blog/detail/20241119093636/)
クインテッセンス出版「内部吸収」解説ページ(一過性タイプ・進行タイプの分類と細菌侵入の関係)
意外に知られていないのが医原性リスクです。水酸化カルシウム製剤(Ca(OH)₂)を用いた生活歯髄切断(バイタルパルポトミー)の治療経過が良好でなかった場合に、内部吸収が起こると報告されています。 mimatsu-wd(https://mimatsu-wd.jp/faq/faq-gaishou/gaishou002/)
水酸化カルシウムは pH 12.5 の強アルカリ製剤で、本来は歯髄保護と象牙質橋形成を促す材料です。 しかし不適切な使用や操作ミスで歯髄組織への過度な刺激が加わると、逆に炎症が誘発されて内部吸収の引き金になることがあります。これは使えそうな情報ですね。また、アナコレーシス(血行感染)や有髄歯形成時の過度な発熱も誘因として挙げられています。 dc4.sakura.ne(https://dc4.sakura.ne.jp/matsukawa/archives/2552/)
乳歯の歯髄切断後に内部吸収が起きると、歯冠が「ピンク色」に変色します。 これは吸収が進んで歯質が薄くなり、内側の肉芽組織が透けて見えるためです。ピンク色への変色はつまり「吸収が相当進んでいるサイン」です。乳歯で見つかった場合も放置は禁物で、後続永久歯の萌出に影響する可能性を念頭に置きながら対応します。 mimatsu-wd(https://mimatsu-wd.jp/faq/faq-gaishou/gaishou002/)
歯根内部吸収への対応(外傷・炎症誘発の根管吸収と水酸化カルシウムの関係を解説)
矯正治療による継続的な力の負荷も、内部吸収の誘因として知られています。 矯正による歯根吸収の多くは外部吸収(圧迫側歯根膜からのセメント質吸収)ですが、まれに歯髄への長期的な圧迫が内部吸収を誘発することがあります。 yabeshika-blog(https://yabeshika-blog.com/endodontics-14/)
さらにあまり知られていない事実があります。漂白(ホワイトニング)の化学的作用も内部吸収の誘因として報告されています。 特に生活歯髄が残存している歯に対してウォーキングブリーチを行った場合、漂白剤が根尖孔から滲出して周囲組織に刺激を与え、吸収を誘発するリスクがあります。歯科医師がホワイトニングリスクを過小評価しがちな点は要注意です。 yabeshika-blog(https://yabeshika-blog.com/endodontics-14/)
その他の誘因には、クラック(歯牙亀裂)・歯周病・特発性の異栄養性変化なども含まれます。 特発性の場合は「原因不明」と記載されることもありますが、詳細な問診と複数回のX線比較で過去の外傷歴やう蝕の既往が後から判明するケースもあります。問診の精度が診断精度に直結します。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/keyword/40223)
内部吸収の「一過性タイプ」と「進行タイプ」の鑑別は、臨床上もっとも重要な判断ポイントです。 一過性タイプでは過度の吸収に至ることは少なく、定期観察と原因除去で進行が止まるケースがあります。一方、細菌が象牙細管に侵入すると進行タイプへ移行し、保存困難になります。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/keyword/40223)
見落とされがちな点として、進行タイプでは「吸収の大きさではなく速度」が予後を左右します。同じ大きさの内部吸収であっても、半年前のX線と比較して吸収範囲が拡大していれば進行タイプと判断し、速やかに抜髄へ移行する必要があります。速度の評価が条件です。
治療の流れは以下の通りです。
MTAセメント(Mineral Trioxide Aggregate)は、内部吸収腔のような不規則な形態にも適合しやすく、封鎖性と生体親和性に優れた根管充填材料です。 穿孔(パーフォレーション)を伴う重篤な内部吸収でも、MTAによる直接修復で歯を保存できた症例が報告されています。歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)との併用で、治療の精度がさらに高まります。 okano-do(https://www.okano-do.com/movie/micro_movie8.html)
歯根内部吸収へのMTAセメント+歯科用顕微鏡治療(動画・根管充填の実例解説)
日本口腔病理学会「口腔病理基本画像アトラス」歯根吸収・内部吸収の組織像(破歯細胞の形態を確認可能)