ワックス単独でチェックバイトを採ると咬合器調整が2.6度もズレます。
チェックバイト法は、半調節性咬合器の顆路を患者の実際の顎運動に近似させるために行う咬合採得法です。この方法の最大の特徴は、基準となる顎位(通常は中心咬合位または中心位)と、前方位または側方位といった偏心位の2つの顎位を記録し、その2点間を結んだ直線として顆路を咬合器上に再現する点にあります。
具体的には、咬合採得材を用いて中心咬合位、前方咬合位、左右側方咬合位をそれぞれ記録します。その後、半調節性咬合器に装着した模型上でこれらのチェックバイトを参照しながら、顆路の調整を行っていきます。前方チェックバイトからは両側の矢状前方顆路傾斜角を、側方チェックバイトからは平衡側矢状顆路傾斜角とベネット角を調節できる仕組みです。
この手法の理論的基礎となっているのが、クリステンセン現象です。無歯顎患者に咬合面が平らな咬合床を装着して偏心運動を行わせると、上下顎の咬合床の臼歯部に三角形の隙間が現れます。これは下顎頭が関節結節に沿って前下方へ移動することで下顎後部が沈下するために起きる現象で、この隙間の大きさから顆路傾斜角を推測できます。
つまり顆路調整の基本ですね。
チェックバイト法は複雑な装置を必要とせず、比較的短時間で実施できるのが利点です。ただし、パントグラフ法のように下顎運動の経路全体を連続的に記録するわけではなく、あくまで2点間を結んだ直線として顆路を表現するため、実際の顆路が持つ曲線的な性質を完全には再現できません。そのため、チェックバイト法で調節した咬合器上で製作した補綴物は、偏心運動中に対合歯と衝突するか離れるか、いずれかの誤差を引き起こす可能性があることを理解しておく必要があります。
保険診療では、顎運動関連検査として下顎運動路描記法、ゴシックアーチ描記法、パントグラフ描記法、チェックバイト検査のいずれかを実施した場合に380点を算定できます。チェックバイト検査では、下顎の偏心運動時の歯による下顎の誘導状態が不明確な患者に対して、顔弓(フェイスボウ)を使用して顎関節に対する上顎の位置関係を記録し、ワックス等の記録材を用いて咬頭嵌合位または中心位の他に前方位及び側方位での上下顎関係を採得した上で、上下顎模型を付着した半調節性咬合器を使用して顆路傾斜度を測定することが求められています。
顎運動関連検査の詳細な算定要件については、こちらの歯科診療報酬点数表で確認できます
チェックバイトで使用する材料にはいくつかの種類があり、臨床状況に応じて適切に使い分ける必要があります。主な材料としては、ワックス、石膏、シリコーンゴム、ポリエーテルゴムなどが挙げられます。
ワックス系の材料では、パラフィンワックスやバイトワックスが一般的です。軟化温度が58℃程度のチェックバイト専用ワックスは、冬期寒冷時以外は加熱軟化をする必要がなく、変形やひずみの少ない正確な咬合採得が行えます。生地を中間層に入れることで変形を防ぐ製品もあり、咬合状態が白黒で鮮明に記録できる利点があります。ただし、ワックス単独では精度が劣る場合があるため、圧痕部に一層インプレッション・ペーストを塗布して咬合関係を精密に採得する併用法も推奨されています。
厳しいところですね。
石膏を用いる方法では、寸法安定性と精度が優れています。弾性ひずみや変形量が小さいため、特に精密な記録が求められる症例で有効です。ただし、硬化時間が必要であり、患者の顎位保持時間が長くなる点には注意が必要です。
シリコーン系印象材やポリエーテルゴムは、変形が少なく寸法安定性に優れているため、近年広く使用されるようになっています。これらの材料は硬化後も適度な弾性を保ち、咬合器への装着時の取り扱いも容易です。特にシリコーンバイトは透過光下で観察することで、咬合接触状態を詳細に確認できる利点があります。
有歯顎者のチェックバイト法には2つの方法があります。1つは口腔内にクラッチを装着した状態で、石膏コアを使い偏心位の記録を採得する方法です。もう1つは、印象採得後に咬合器に装着した模型上で、ワックスあるいはシリコーンなどの記録材を用いてチェックバイトを採得し、顆路調節を行う方法です。後者の方が臨床的には簡便で広く用いられています。
材料選択で重要なのは、作業中に削ったりカットしたりする可能性があるため、削りにくい素材は避けるべきという点です。特に技工操作でチェックバイトを調整する場合、硬すぎる材料は作業効率を低下させ、精度にも影響を与えます。パラフィンワックスに比べて硬度の高いアルミニウム板やモデリング・コンパウンドのようなコア材を使用する際は、亜鉛華ユージノール・ペースト、シリコーンなどのウォッシュ材と併用するのが一般的です。
適切な材料を選べば安心です。
チェックバイト採得時の下顎の移動量が5mmであった場合、材料の変形による誤差は角度に換算すると約2.6度になるというデータがあります。これはたとえばスマートフォンを縦に置いた長さ(約15cm)に対して、上端が6.8mm(消しゴムの厚み程度)ズレることに相当します。補綴物の咬合調整では、この程度の誤差でも臨床的に問題となる場合があるため、材料選択と採得技術の両面で精度管理が求められます。
チェックバイトの精度を左右する最も重要な要因は、採得時の顎位の安定性です。患者に偏心位を保持させる際、歯による誘導が不明確な場合や筋肉の緊張が強い場合、再現性のある顎位記録が困難になります。そのため、採得前に患者をリラックスさせ、何度か偏心運動を練習させてから記録を取ることが推奨されます。
どういうことでしょうか?
前方位のチェックバイトを採得する場合、患者に「前歯で軽く物を噛み切るような位置まで下顎を前に出してください」と指示します。このとき、下顎を前方へ滑走させる距離は通常3~5mm程度(定規の最小目盛り3~5個分)が適切です。移動量が少なすぎると顆路傾斜角の測定精度が低下し、多すぎると患者が不自然な顎位を取ってしまい、習慣的な運動経路から外れた記録になってしまいます。
側方位のチェックバイトでは、作業側と平衡側を明確に区別して記録する必要があります。右側方運動であれば右側が作業側、左側が平衡側となります。患者には「右の奥歯で食べ物をすりつぶすような位置まで顎を右に動かしてください」のように、日常動作と関連付けた指示をすると理解しやすくなります。
採得時の材料の厚みも精度に影響します。材料が厚すぎると咬合高径が増加し、実際の顎位とは異なる記録になります。特にワックスを使用する場合、適切な厚さは1~2mm程度(1円玉1~2枚分の厚み)が目安です。厚すぎる場合は余分な部分をカットしてから採得を行います。
記録材の硬化を待つ間、患者に顎位を保持させ続ける時間が長いと、筋疲労により顎位がずれる可能性があります。シリコーン系材料を使用する場合でも、硬化時間は通常2~3分程度ですが、この間患者が動かないよう声掛けを続けることが大切です。「もう少しですので、そのままの位置で待っていてください」と定期的に伝えると、患者の協力が得られやすくなります。
これは使えそうです。
技工操作での誤差要因としては、咬合器への模型装着時の位置ずれや、チェックバイトの変形が挙げられます。特にワックス系材料は温度変化による寸法変化が大きいため、室温管理に注意が必要です。また、チェックバイトを咬合器に適合させる際、無理に押し込むと変形し、顆路調節に誤差が生じます。適合が不十分な場合は再採得を検討すべきです。
印象採得時の歪みや石膏の膨張・硬化収縮も、最終的なチェックバイトの精度に影響を与えます。これらは模型製作段階での誤差ですが、チェックバイト自体が正確でも、基準となる模型の精度が低ければ意味がありません。そのため、チェックバイト法を用いる際は、印象採得から模型製作、咬合採得、咬合器装着まで、一連の工程全体での精度管理が求められます。
チェックバイトを用いた咬合器調節の実際の手順について、段階を追って解説します。まず、フェイスボウトランスファーにより上顎模型を咬合器に装着します。フェイスボウは頭蓋に対する上顎の位置関係を三次元的に記録する装置で、これにより顎関節の解剖学的位置と上顎歯列の位置関係を咬合器上に再現できます。
フェイスボウトランスファーが完了したら、中心咬合位または中心位での咬合採得記録を用いて下顎模型を咬合器に装着します。この段階では咬合器の顆路は標準的な設定(矢状顆路傾斜角30度程度)のままです。ここから患者固有の顆路傾斜角に調節していくのがチェックバイトの役割です。
前方チェックバイトを用いる場合、まず咬合器上で中心咬合位の状態を確認します。次に、前方チェックバイトを模型間に挟み込み、上下顎歯列が前方位でのチェックバイトに適合するよう、咬合器の両側顆路要素を調節します。具体的には、咬合器の切歯指導板の角度を変更したり、顆路ボックスの傾斜角を調整したりして、前方チェックバイトが模型にぴったりと適合する角度を見つけます。この角度が患者の矢状前方顆路傾斜角となります。
つまり顆路角の決定です。
側方チェックバイトの調節では、まず右側方チェックバイトを模型間に挟み、咬合器を右側方位に動かします。このとき、平衡側(左側)の顆路要素が適切に調節されていれば、チェックバイトが模型に正確に適合します。適合しない場合は、平衡側の顆路傾斜角やベネット角(側方顆路角)を調節します。同様に左側方チェックバイトを用いて右側平衡側顆路を調節します。
調節の際の重要なポイントは、チェックバイトが模型に適合する角度を複数の方向から確認することです。前方位だけでなく、わずかに左右に動かした位置でもチェックバイトが適合するかを確認すると、調節の精度が向上します。また、チェックバイトを透過光下で観察すると、咬合接触部分が透けて見えるため、どの歯がどのように接触しているかを詳細に確認できます。
咬合器調節が完了したら、実際に補綴物のワックスアップや研磨を行います。半調節性咬合器では、矢状顆路角、側方顆路角(Bennett角)、矢状切歯路角の3つを調節できるため、これらが正確に設定されていれば、製作した補綴物は患者の顎運動に調和した形態となります。ただし、作業側顆路角は半調節性咬合器では調節できないため、この部分の運動は再現されない点に留意が必要です。
咬合器上での作業が終了したら、試適時に口腔内で補綴物の咬合接触を必ず確認します。咬頭嵌合位だけでなく、前方運動時および側方運動時の接触状態もチェックします。早期接触や干渉が認められた場合は、その部位を調整します。これは、チェックバイト法が2点間を結んだ直線で顆路を表現するため、実際の曲線的な顆路運動との間にわずかな誤差が生じるためです。
チェックバイト検査を保険算定する際の実務的なポイントについて解説します。顎運動関連検査としてチェックバイト検査を算定する場合、380点(3,800円、3割負担で1,140円)を請求できます。この検査は1装置につき1回の算定となります。
算定の必須要件として、フェイスボウを使用して顎関節に対する上顎の位置関係を記録することが求められています。フェイスボウトランスファーを省略してチェックバイトのみを採得した場合、厳密には算定要件を満たしません。フェイスボウは顎関節の位置を基準として上顎の空間的位置を記録する装置であり、これなしでは正確な顆路調節ができないという理論的背景があります。
何のための要件か明確ですね。
次に、ワックス等の記録材を用いて咬頭嵌合位または中心位の他に、前方位及び側方位での上下顎関係を採得する必要があります。つまり、最低でも基準位1つと偏心位2つ(前方位と左右いずれかの側方位)の計3つのチェックバイトを採得することが求められます。中心位のみ、あるいは前方位のみの記録では算定要件を満たしません。
さらに、上下顎模型を付着した半調節性咬合器を使用して顆路傾斜度を測定することが条件です。平均値咬合器や簡易型の咬合器では、顆路調節機構を持たないため、算定対象外となります。半調節性咬合器とは、矢状顆路傾斜角、側方顆路角、切歯路角などを調節できる機構を備えた咬合器を指します。
診療録への記載も重要です。チェックバイト検査を実施した場合、検査結果を診療録または診療録に添付した記録に記載する必要があります。具体的には、測定した矢状顆路傾斜角、側方顆路角の数値や、使用した咬合器の種類、チェックバイトの採得位置などを記録します。記載が不十分な場合、査定の対象となる可能性があります。
下顎の偏心運動時の歯による下顎の誘導状態が不明確な患者に対して実施するという適応条件も明示されています。つまり、全ての補綴症例で一律に算定できるわけではなく、咬合誘導が不明確で顎運動の記録が治療上必要と判断される症例に限定されます。具体的には、多数歯欠損症例、全顎的な補綴治療を行う症例、顎関節症を伴う症例などが適応となります。
結論は適応症例の見極めです。
ゴシックアーチ描記法やパントグラフ描記法も同じ380点で算定できますが、これらとチェックバイト検査は同一の検査として扱われるため、同じ装置に対して重複して算定することはできません。たとえば、ゴシックアーチで水平的顎位を記録し、さらにチェックバイトで顆路調節を行った場合でも、算定は380点のみです。
算定タイミングとしては、義歯製作であれば咬合採得の段階、クラウン・ブリッジであれば印象採得後の咬合器装着段階で実施し、その時点で算定します。1つの装置につき1回という原則があるため、同一の義歯やブリッジに対して再度算定することはできませんが、上下顎で別々の装置を製作する場合は、それぞれ1回ずつ算定可能です。
顎運動関連検査の保険算定に関する詳細な解説と臨床での実践ポイントは、こちらの記事で確認できます
チェックバイト法を適切に実施するためには、フェイスボウやゴシックアーチなど他の顎位記録法との違いを理解し、症例に応じて使い分ける必要があります。これらは記録する情報の種類が異なり、補完的に使用されることが多いのです。
フェイスボウは、頭蓋に対する上顎の位置関係を三次元的に記録する装置です。具体的には、顎関節(より正確には外耳道または顆頭点)から上顎歯列までの距離と角度を記録します。この情報を咬合器に移転(フェイスボウトランスファー)することで、患者の顎関節の位置と上顎歯列の位置関係を咬合器上に再現できます。フェイスボウは「上顎の空間的な位置」を記録する装置と言えます。
一方、ゴシックアーチ(ゴシックアーチトレーシング)は、下顎の水平面内での運動軌跡を記録する方法です。描記板を上顎に、描記針を下顎に装着して、患者に前方運動と左右側方運動を行わせると、ゴシック建築の尖頭アーチに似た軌跡が描かれます。この軌跡の頂点(アペックス)が、多くの場合中心位または中心咬合位に相当するとされています。ゴシックアーチは「下顎の水平的な運動範囲と中心位」を記録する方法です。
意外ですね。
チェックバイトは、前述の通り「偏心位における上下顎の位置関係」を記録し、そこから「顆路の傾斜角」を算出する方法です。つまり、フェイスボウが空間的な位置、ゴシックアーチが水平的な運動経路、チェックバイトが垂直的な運動経路(顆路)を記録するという違いがあります。
臨床での使い分けとしては、総義歯製作の場合、まずゴシックアーチ描記法で下顎の水平的な中心位を決定します。次にフェイスボウで上顎の位置を咬合器に移転し、ゴシックアーチで決定した顎位で下顎模型を装着します。その後、チェックバイトを採得して顆路調節を行い、人工歯排列時の咬合彎曲を決定するという流れになります。
有歯顎の補綴治療では、天然歯が残存しているため咬頭嵌合位が明確な場合が多く、ゴシックアーチは省略されることがあります。代わりにフェイスボウで上顎位を記録し、通常の咬合採得で下顎模型を装着した後、チェックバイトで顆路調節を行います。特に多数歯にわたるブリッジや全顎的な補綴治療では、チェックバイトによる精密な顆路調節が推奨されます。
フラビーガムの症例では注意が必要です。ゴシックアーチ描記法は床自体が移動しやすいため不正確になる可能性があります。このような症例では、中心位を手指による誘導で決定し、フェイスボウとチェックバイトを中心とした記録法を選択する方が確実です。
それぞれ目的が違います。
保険算定上は、フェイスボウトランスファー自体には点数が設定されていませんが、チェックバイト検査の算定要件として「フェイスボウを使用して顎関節に対する上顎の位置関係を記録」することが明記されています。つまり、チェックバイト検査を算定するためにはフェイスボウの使用が必須となります。一方、ゴシックアーチ描記法は顎運動関連検査として380点を算定できますが、チェックバイトとは別の検査項目ではなく同一区分のため、両方を実施しても算定は380点のみです。
技術的な難易度としては、フェイスボウは装置の装着と記録の移転に慣れが必要ですが、手順自体は比較的明確です。ゴシックアーチは患者の協力と描記装置の安定性が重要で、特に総義歯症例では床の適合が不十分だと正確な記録が困難になります。チェックバイトは採得自体は簡単ですが、咬合器上での調節作業に技工的な知識と経験が求められます。

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