半調節性咬合器でも作業側顆路は平均値のままです。
平均値咬合器は、下顎運動の各要素を解剖学的平均値に固定した咬合器です。具体的には矢状顆路傾斜角が30度、側方顆路角(ベネット角)が10度程度で設計されており、これらの値は調節できません。
つまり調節機構が基本です。
この平均値咬合器の設計は、Bonwill三角(1859年)とBalkwill角(1866年)という古典的な理論に基づいています。顆頭間距離は10cmで統一されており、咬合平面板を使用することで平均的な顎運動を再現する仕組みになっています。
咬合平面板が重要です。
日本補綴歯科学会の分類では、平均値咬合器はClassIII咬合器に属します。非調節性咬合器のカテゴリに分類されるため、個々の患者の顎運動特性を反映することはできません。しかし、その簡便性から総義歯製作や初期診断の場面では今でも広く使用されています。
総義歯に最適です。
クインテッセンス出版の歯科用語集では、平均値咬合器の詳細な定義と臨床応用について解説されています。平均値咬合器の理論的背景を理解するための参考資料として有用です。
半調節性咬合器は、前方顆路と非作業側側方顆路の調節機構を持つ咬合器です。矢状顆路角、側方顆路角(Bennett角)、矢状切歯路角の調節ができます。
ここで重要な点は、半調節性咬合器でも作業側顆路角は調節できないということです。アルコン型半調節咬合器の作業側顆路は、ハウジングの後壁の誘導により顆頭間軸上を真横に向かうため、調節性を有していません。つまり、作業側の顆頭運動は平均値咬合器と同じ挙動を示すのです。
作業側は調節不可です。
半調節性咬合器で調節できるのは、非作業側の矢状側方顆路のみです。側方運動時、非作業側の顆頭は前下内方に滑走移動しますが、この運動経路を直線で近似して再現します。チェックバイト法を使って顆路を調節しますが、生体の顆路は本来曲線であるため、直線での再現には限界があります。
直線再現が原則です。
日本補綴歯科学会の資料によれば、チェックバイト法による半調節性咬合器の顆路調節は、全調節性咬合器を用いる場合に比べて精度が低いとされています。矢状顆路の彎曲の円弧の直径の最小値は約10mmですが、半調節性咬合器ではこの曲線を直線で近似するため、必然的に誤差が生じます。
日本補綴歯科学会の「下顎運動と咬合器」論文には、半調節性咬合器の調節機構と限界について詳細な解説があります。専門医として知っておくべき咬合器の基礎知識が網羅されています。
従来は顆路の再現精度をそのまま咬合器の再現精度と結びつけて考えたため、全調節性、半調節性、非調節性の順に精度が高いとされてきました。しかし、臨床的な精度は必ずしもこの順序とは一致しません。どういうことでしょうか?
平均値咬合器は、すべての顆路要素が固定値であるため、個々の患者の顎運動との誤差が生じます。しかし、この誤差は「一定」であり、予測可能です。一方、半調節性咬合器は非作業側顆路を調節できますが、チェックバイト採得時のエラーや模型マウント時のエラーが精度に影響します。
調節可能が課題です。
生体の顆路は曲線(曲線顆路)ですが、平均値咬合器も半調節性咬合器も顆路は直線で表現されます。矢状顆路の彎曲の円弧は直径約10mmですが、これを直線で近似すると、運動範囲が広がるほど実際の顎運動との乖離が大きくなります。
直線近似の限界です。
咬合器操作時の精度に関する研究(1987年)では、アーマン型とボックス型の咬合器において、半調節性咬合器と平均値咬合器12種類の精度を比較検証しています。その結果、咬合器の種類による精度差よりも、フェイスボウトランスファーやチェックバイト採得の技術的精度の方が、最終的な補綴物の適合に大きく影響することが示されました。
無歯顎患者の場合、ほとんどの症例で平均値咬合器が適応できます。有歯顎で側方運動時に複雑な咬合接触がある症例では、半調節性咬合器の方が有利ですが、調節操作を正確に行わないと、かえって平均値咬合器よりも精度が低下するリスクがあります。
半調節性咬合器の精度を高めるには、フェイスボウトランスファーとチェックバイト法を正確に行う必要があります。フェイスボウ計測により、頭蓋(顎関節)に対する上顎骨(上顎歯列)の位置的関係を咬合器上にトランスファーします。
位置関係が重要です。
フェイスボウの後方基準点は、ヒンジアキシス(開閉軸)を実測する方法と平均的顆頭点を利用する平均値法があります。実測法はヒンジロケーターを用いて試行錯誤しながら求めますが、時間がかかります。平均値法はリファレンスプレーンロケーターやコンダイラーマーカーを使用することで簡易的に求められるため、臨床では広く普及しています。
簡易法が主流です。
チェックバイト法は、クリステンセン現象を利用して顆路傾斜角を求める方法です。前方チェックバイトは切端咬合位で採得し、矢状前方顆路傾斜角を調節します。側方チェックバイトは犬歯切端位で採得し、非作業側の矢状側方顆路傾斜角とベネット角を調節します。
左右で2つ必要です。
前方および左右側方の3つのチェックバイト記録を採得すると半調節性咬合器の精度は高くなりますが、作業は煩雑になります。一般に前歯部補綴装置を製作する際には前方チェックバイトを利用し、犬歯を含む臼歯部補綴装置を製作する際には側方チェックバイトを利用することが推奨されています。
部位で使い分けます。
スプリットキャスト法を応用すると、顆路傾斜角の調節が容易になります。チェックバイト記録を上下模型間に介在させた際に生じる隙間を、顆路傾斜角調節ネジを操作して閉鎖することで、テクニカルエラーの少ない顆路傾斜角を求めることが可能です。
IPSG包括歯科医療研究会のQ&Aでは、咬合器上での側方顆路角や矢状顆路角の調節方法について、臨床に即した解説が掲載されています。チェックバイト法の実践的な手順を学ぶのに有用です。
平均値咬合器と半調節性咬合器の選択は、症例の複雑さ、求められる精度、そしてコストとのバランスで判断します。平均値咬合器は5,000円から10,000円程度で入手でき、歯科技工所での咬合器装着費用は1,650円程度です。
経済的な選択肢です。
半調節性咬合器は機種により価格差が大きく、国産の標準的なモデルで50,000円から100,000円程度、高性能なアルコン型半調節性咬合器では150,000円以上します。歯科技工所での装着費用は2,200円から4,950円程度で、フェイスボウを使用する場合はさらに費用が加算されます。
価格差が大きいです。
無歯顎の総義歯症例では、平均値咬合器で十分な精度が得られます。咬合平面板を使用してBalkwill角を付与し、ゴシックアーチ描記法で水平的顎位を決定すれば、臨床的に問題ない義歯が製作できます。
平均値で十分です。
有歯顎で単冠やブリッジなど小規模な補綴の場合、対合歯との接触が限定的であれば平均値咬合器でも対応可能です。しかし、全顎的な補綴治療や、側方運動時に複雑な咬合接触がある症例、顎関節症のリスクがある患者では、半調節性咬合器を使用すべきです。
半調節性咬合器を選択する場合、アルコン型とコンダイラー型があります。アルコン型は上顎フレームに顆路指導部があり、下顎にコンダイル(顆頭球)を有する構造で、生体と同じ構造のため下顎運動を理解しやすいメリットがあります。コンダイラー型は開口や垂直的顎間距離を変えると顆路傾斜が変化するという欠点があるため、現在はアルコン型が主流です。
アルコン型が有利です。
咬合器選択を誤ると、口腔内での咬合調整に時間がかかり、患者の負担が増えます。また、補綴物の適合が悪く再製作になれば、医院の収益にも影響します。症例の特性を見極めて適切な咬合器を選択することが、効率的な診療につながります。
BGN咬合器の公式サイトでは、平均値咬合器としても全調節性咬合器としても使用できる多機能咬合器について紹介されています。症例により調節レベルを変えられる咬合器の選択肢として参考になります。