cfDNAの中でがん由来のものはわずか1%以下しかなく、あなたが「陰性=安心」と判断した血液検査が、実は口腔がんを見逃している可能性があります。
cfDNA(cell-free DNA:細胞遊離DNA)とctDNA(circulating tumor DNA:循環腫瘍DNA)は、しばしば混同されますが、両者の関係は「親子」のようなものです。 cfDNAは血漿中に存在するあらゆる細胞由来の遊離DNAの総称であり、健康な人の血液中にも常に存在しています。 その大きさは50〜200bpの断片化したDNA断片で、アポトーシスや壊死などで細胞が崩壊した際に放出されます。 oncolo(https://oncolo.jp/dic/ctdna)
ctDNAはcfDNAの「一種」に過ぎません。 がん細胞が壊れたときに血液中に放出されるDNA断片のみをctDNAと呼び、cfDNA全体のうちctDNAが占める割合は通常1%以下とされています。 つまり、血中に検出されるDNAのほとんどは正常細胞由来のcfDNAであり、ctDNAはその微量な一部です。 thermofisher(https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/liquidbiopsy/)
整理すると「すべてのctDNAはcfDNAである」が「すべてのcfDNAはctDNAではない」ということです。 cfDNAにはctDNAのほかに、循環無細胞ミトコンドリアDNA(ccf mtDNA)や循環無細胞胎児DNA(cffDNA)なども含まれます。 この包含関係の理解が、後述する検査解釈の誤りを防ぐ基本になります。 toumaswitch(https://toumaswitch.com/rbb5gs0wf8/)
| 項目 | cfDNA | ctDNA |
|---|---|---|
| 正式名称 | cell-free DNA(細胞遊離DNA) | circulating tumor DNA(循環腫瘍DNA) |
| 由来細胞 | 正常細胞・がん細胞を含む全細胞 | がん細胞のみ |
| cfDNA中の割合 | —(総量) | 通常1%以下(早期がんでは更に低値) |
| 健常人血液中 | ✅ 存在する | ❌ 通常は検出されない |
| 特異的情報 | ゲノム全体の情報 | 腫瘍特有の遺伝子変異情報 |
| 半減期 | 比較的安定 | 16分〜2.5時間 |
note(https://note.com/fukuoka_fukurou/n/n69ba9c68b649)
歯科・口腔外科領域でよく使われるSCC抗原などの従来の腫瘍マーカーは、半減期が数日単位です。 これに対してctDNAの半減期はわずか16分〜2.5時間と極めて短く、採血した「その瞬間」の腫瘍の状態をほぼリアルタイムに反映するという性質を持ちます。 ncc.go(https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/info/professional_semminer/2019/0308_09/Lecture_10.pdf)
これは大きなメリットになります。 従来の腫瘍マーカーでは治療後も数日間は高値が続くため、「本当に効いているのか」を判断するまでに時間がかかりました。ctDNAなら治療開始後数時間のうちに腫瘍量の変化が数値に反映されるため、化学療法や放射線療法の早期効果判定が可能になります。 cancerit(https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/gann-tiryou/post-57873.html)
ただし、短い半減期は注意点にもなります。 採血から処理までの時間が長くなったり、検体を誤った保存方法(血清ではなく血漿での保存が必須)で扱ったりすると、ctDNAが急速に分解され偽陰性につながります。 検体の質が結果を直接左右するということです。 jsco.or(https://www.jsco.or.jp/Portals/0/uploads/2021/20210120.pdf)
参考:ctDNA検査実施のための留意事項(日本臨床腫瘍学会)
ctDNA検査の留意事項(日本臨床腫瘍学会)
これは意外な盲点です。 cfDNAは炎症・壊死・外傷など、がん以外の原因でも血中に増加します。歯科従事者として特に注意したいのは、重度の歯周病(慢性炎症)や抜歯後の組織破壊によってもcfDNA濃度が上昇しうるという点です。 ncc.go(https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/info/professional_semminer/2019/0308_09/Lecture_10.pdf)
つまり、歯科処置を受けた直後にcfDNA検査を行うと、数値が高くても「がん由来ではなく歯科処置由来の上昇」という可能性が排除できません。 cfDNA量だけでがんの有無を判断するのはリスクがあるということです。 oncolo(https://oncolo.jp/dic/ctdna)
歯科口腔外科領域でもctDNAを用いたリキッドバイオプシー研究は着実に進んでいます。 国内では、再発高リスク口腔がん症例を対象に、末梢血から得られたctDNAのゲノムプロファイル変化を全ゲノム次世代シーケンス(NGS)で解析し、遠隔転移に関与する遺伝子異常の解明を目指す多施設共同研究が進行中です。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K24550/)
また、画像診断との比較では、ctDNAベースのリキッドバイオプシーはCTスキャンよりも数カ月早く再発を検出できたという報告があります。 早期ステージ(ステージI)では約47%の口腔がん患者でctDNAが検出される一方、ステージIVでは80%以上で検出されるというデータもあり、進行度によって感度が大きく異なります。 cancerit(https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/gann-tiryou/post-57873.html)
ステージが早いほど検出が難しいのが現状です。 原発巣が小さいステージIの口腔がんでは、血中に放出されるctDNA量自体が少ないため、検出感度の向上が引き続き課題となっています。 現時点では「組織生検を完全に代替するもの」ではなく、「補完的なモニタリングツール」として位置付けるのが正確です。 thermofisher(https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/liquidbiopsy/)
参考:口腔癌とリキッドバイオプシーに関するKAKENHI研究(科研費データベース)
口腔癌遠隔転移における循環腫瘍細胞とctDNAの多施設共同研究(KAKEN)
参考:血中循環腫瘍DNAに基づくリキッドバイオプシーの可能性と限界
血中循環腫瘍DNAに基づくリキッドバイオプシーの可能性と限界(がんIT)
検体の種類についても注意が必要です。 cfDNA濃度は血漿よりも血清の方が高い値を示すことが多いですが、血清を使うと検体処理の過程で白血球が凝固時に溶解し、正常細胞由来のDNAが混入してしまいます。そのためctDNA検査には「血漿」の使用が必須とされています。 jsco.or(https://www.jsco.or.jp/Portals/0/uploads/2021/20210120.pdf)
また、腫瘍細胞の割合(tumor fraction:TF)が低い場合はコピー数変化の評価が困難になることも報告されており、検査ごとに検出限界(LOD)が異なる点も見落とせません。 同一患者を異なる検査会社の製品で測定した場合、結果が一致しないケースがあるという現実があります。 jsco.or(https://www.jsco.or.jp/Portals/0/uploads/2021/20210120.pdf)
これは大きな落とし穴です。 複数の検査製品を横断して比較・判断する際は、各検査のLODや使用アルゴリズムの違いを必ず確認するのが原則です。 jsco.or(https://www.jsco.or.jp/Portals/0/uploads/2021/20210120.pdf)
参考:血中循環腫瘍DNAを用いたがんゲノムプロファイリング検査の適正使用(日本臨床腫瘍学会)
ctDNA検査の適正使用に関するガイダンス(日本臨床腫瘍学会)