SCC抗原が高い原因と扁平上皮癌の関連性について

SCC抗原値が高くなる原因には様々な要素があります。扁平上皮癌だけでなく、良性疾患でも上昇することがあるのをご存知でしょうか?歯科医療従事者として知っておくべきSCC抗原の特性とは?

SCC抗原が高い原因について

SCC抗原高値の基本知識
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腫瘍マーカーとしての役割

SCC抗原は扁平上皮癌の代表的な腫瘍マーカーで、子宮頸がん、肺がん、食道がんなどで上昇します

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偽陽性の可能性

がん以外の良性疾患や検査時の混入でも高値を示すことがあります

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数値の変動

同一個人でも約25%の日差変動があり、継続的な上昇が重要な指標となります

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SCC抗原が高い原因となる扁平上皮癌の種類

SCC抗原(扁平上皮癌関連抗原)は、その名前が示す通り、主に扁平上皮癌で上昇する腫瘍マーカーです。扁平上皮は体の様々な部位に存在するため、複数の臓器のがんでSCC抗原値が上昇します。

 

特に高値を示す扁平上皮癌には以下のようなものがあります:

  • 子宮頸がん:子宮の入り口(子宮頸部)は扁平上皮細胞で覆われており、ここから発生するがんではSCC抗原が上昇します。陽性率は約51%と報告されています。

     

  • 肺がん:肺の扁平上皮から発生するタイプの肺がんでは、SCC抗原値が上昇することが多く、陽性率は約62%と高値です。

     

  • 食道がん:食道は食べ物が通過する管で、その表面は扁平上皮で覆われています。食道がんでのSCC抗原陽性率は約30%です。

     

  • 頭頸部がん:口腔、咽頭、喉頭などの頭頸部の扁平上皮癌でもSCC抗原が上昇し、陽性率は約34%となっています。

     

  • 皮膚がん:皮膚の扁平上皮から発生するがんでは、SCC抗原の陽性率が約80%と非常に高くなります。

     

これらのがんでは、がんの進行度に応じてSCC抗原値が上昇する傾向があります。初期がんでの陽性率は低いため、スクリーニング検査としての有用性は限られますが、治療効果の判定や再発モニタリングには有用です。血中濃度の半減期が短いため、治療による変化を速やかに反映し、再発の場合は臨床症状が現れる数週間前に上昇することが多いという特徴があります。

 

SCC抗原が高い原因となる良性疾患の影響

SCC抗原値が高くなる原因は、必ずしもがんだけではありません。様々な良性疾患でもSCC抗原値が上昇することがあります。これが「偽陽性」と呼ばれる状態です。

 

**皮膚の良性疾患**によるSCC抗原上昇:

  • 乾癬(かんせん):皮膚の炎症性疾患で、皮膚細胞の過剰な増殖が起こります
  • 天疱瘡(てんぽうそう):自己免疫性の水疱性皮膚疾患
  • アトピー性皮膚炎:慢性的な皮膚の炎症を特徴とする疾患

**呼吸器の良性疾患**によるSCC抗原上昇:

  • 肺炎:肺の感染症による炎症
  • 気管支炎:気管支の炎症
  • 気管支喘息:気道の慢性的な炎症性疾患
  • 肺結核:結核菌による感染症
  • COPD(慢性閉塞性肺疾患):長期の気道炎症による肺機能低下

これらの疾患では、扁平上皮細胞が多く存在する組織で炎症が起こることで、SCC抗原が血液中に放出され、数値が上昇します。特に皮膚には元々多くのSCC抗原が含まれているため、皮膚の炎症性疾患ではSCC抗原値が高くなりやすいのです。

 

また、その他の状態でもSCC抗原値が上昇することがあります:

  • 人工透析患者:腎不全で透析を受けている患者さんでは、いくつかの腫瘍マーカーが上昇することが知られており、SCC抗原もその一つです
  • 肝炎・肝硬変:SCC抗原は肝細胞にも発現するため、肝疾患でも上昇することがあります
  • 胸腺腫瘍:胸腺細胞にもSCC抗原が発現するため、胸腺の腫瘍でも上昇します
  • 長年の喫煙者:喫煙による気道の慢性的な刺激でSCC抗原値が上昇することがあります

これらの良性疾患によるSCC抗原上昇は、がんの診断を複雑にする要因となります。そのため、SCC抗原値が高い場合は、他の検査結果や臨床症状と合わせて総合的に判断することが重要です。

 

SCC抗原が高い原因となる検査時の技術的要因

SCC抗原値が高くなる原因には、実際の疾患以外に、検査の過程で生じる技術的な要因も存在します。これらは「偽高値」と呼ばれ、実際の体内状態を正確に反映していない可能性があります。

 

検体採取時の問題

  • 頻回の穿刺:採血時に何度も針を刺すと、皮膚や組織液が混入しやすくなります
  • 皮膚片の混入:SCC抗原は皮膚に多く存在するため、わずかな皮膚片の混入でも数値が上昇します
  • フケの混入:フケにもSCC抗原が含まれており、検査環境に混入すると偽高値の原因となります
  • 汗や唾液の混入:これらの体液にもSCC抗原が含まれています
  • くしゃみの飛沫:検査環境に飛沫が混入すると、数値に影響を与えることがあります

測定法による差異
SCC抗原の測定には複数の方法があり、測定法によって結果が大きく異なることがあります。主な測定法には以下のようなものがあります:

  • CLIA法(化学発光免疫測定法)
  • FEIA法(蛍光酵素免疫測定法)
  • ECLIA法(電気化学発光免疫測定法)

これらの測定法間で値が乖離する例が報告されており、同一患者の検体でも測定法によって10倍程度の差が出ることもあります。このため、経過観察の際は同じ測定法で継続して検査することが重要です。

 

その他の技術的要因

  • 非特異的反応:検体中に存在する未同定の物質が非特異的に反応し、偽高値を示すことがあります
  • 免疫複合体の形成:SCC抗原が他の物質と結合して免疫複合体を形成すると、測定値に影響を与えることがあります
  • 高分子量SCC抗原:通常のSCC抗原より高分子量のSCC抗原が存在すると、測定値が高くなることがあります
  • ビオチンの影響:1日5mg以上のビオチンを服用している場合、測定値に影響を与える可能性があります

これらの技術的要因を考慮し、SCC抗原値が高い場合は、採血手技の確認や再検査、異なる測定法での確認なども検討する必要があります。

 

SCC抗原が高い原因の特殊ケース:高分子量SCC抗原

SCC抗原値が高くなる原因の中でも、特に興味深いのが「高分子量SCC抗原」の存在です。これは通常のSCC抗原(分子量約45,000Da)よりも大きな分子量を持つSCC抗原の変異体で、臨床的に重要な意味を持つことがあります。

 

高分子量SCC抗原の特徴

  • 通常のSCC抗原が何らかの物質と結合して高分子化している状態
  • ゲル濾過分析でIgA(免疫グロブリンA)と同程度の分子量を示すことがある
  • pH7の環境ではSCC抗原より高分子側にピークを示すが、pH3の酸性環境では通常のSCC抗原と同じ位置にピークを示す
  • 扁平上皮癌がないにもかかわらず、持続的にSCC抗原値が高値を示す患者で見られることがある

高分子量SCC抗原による偽高値の事例
医学文献には、扁平上皮腫瘍がないにもかかわらず持続的にSCC抗原値が高値を示した症例が報告されています。これらの症例では、各種検査で悪性腫瘍が発見されず、その原因がSCC抗原の高分子化であることが判明しました。

 

例えば、食道の扁平上皮癌術後の患者で、画像検査では再発所見がないにもかかわらず、SCC抗原値が急上昇(56.4ng/mL、81.4ng/mL、92.4ng/mL)した症例が報告されています。この症例では、SCC抗原が何らかの物質と結合して高分子化していることが原因と考えられました。

 

また、胸腺腫の症例では、CLIA法とFEIA法の測定値に約10倍の開きが見られ、測定法によって大きく結果が異なることが報告されています。

 

高分子量SCC抗原の臨床的意義

  • 高分子化によりSCC抗原の代謝が遅延し、血中濃度が上昇する可能性がある
  • 測定法によって検出感度が異なるため、測定値に大きな差が生じることがある
  • がんの再発と誤診される可能性があるため、他の臨床所見と合わせた総合的な判断が必要
  • 経過観察の際は同じ測定法で継続して検査することが重要

高分子量SCC抗原の存在は、SCC抗原値の解釈を複雑にする要因の一つです。特に、がん治療後の経過観察中にSCC抗原値が上昇した場合、再発の可能性だけでなく、このような特殊なケースも考慮する必要があります。

 

SCC抗原が高い原因と歯科医療従事者が知っておくべき口腔内疾患との関連

歯科医療従事者にとって、SCC抗原と口腔内疾患の関連性を理解することは非常に重要です。口腔内は扁平上皮で覆われているため、口腔内の疾患がSCC抗原値に影響を与える可能性があります。

 

口腔扁平上皮癌とSCC抗原
口腔内に発生する扁平上皮癌は、SCC抗原値を上昇させる原因となります。口腔扁平上皮癌は、舌、歯肉、頬粘膜、口底、口蓋などに発生し、早期発見が予後に大きく影響します。歯科医療従事者は口腔内検診の際に、以下のような口腔扁平上皮癌の初期症状に注意する必要があります:

  • 治りにくい口内炎や潰瘍
  • 白色や赤色の斑点(白板症紅板症
  • 硬結を伴う腫れ
  • 出血しやすい部位
  • 痛みや違和感が持続する部位

口腔扁平上皮癌が疑われる場合、SCC抗原検査は補助的診断ツールとして有用です。ただし、初期段階では陽性率が低いため、視診や触診、生検による確定診断が重要となります。

 

口腔内の前癌病変とSCC抗原
口腔内の前癌病変もSCC抗原値に影響を与える可能性があります。主な前癌病変には以下のようなものがあります:

  • 白板症:口腔粘膜に現れる白色の斑点や斑紋
  • 紅板症:鮮やかな赤色の斑点として現れる病変
  • 扁平苔癬:網目状の白色病変
  • 慢性刺激性病変:不適合義歯や鋭利な歯の破折部による慢性的な刺激で生じる病変

これらの前癌病変は、軽度のSCC抗原上昇を引き起こすことがあります。特に広範囲に及ぶ病変や、異形成を伴う場合はSCC抗原値が上昇する可能性が高まります。

 

口腔内の炎症性疾患とSCC抗原
口腔内の炎症性疾患も、SCC抗原値に影響を与えることがあります:

  • 重度の歯周炎:広範囲の炎症が口腔粘膜に及ぶ場合
  • 口腔カンジダ症:特に広範囲に及ぶ慢性的な感染
  • 再発性アフタ性口内炎:頻繁に再発する口内炎
  • 粘膜類天疱瘡:口腔粘膜に水疱を形成する自己免疫疾患
  • 口腔扁平苔癬:慢性炎症性の粘膜疾患

これらの炎症性疾患では、扁平上皮の炎症や損傷によりSCC抗原が血中に放出され、軽度から中等度の上昇を示すことがあります。

 

歯科治療とSCC抗原検査の関連
歯科治療を受ける患者がSCC抗原検査を予定している場合、以下の点に注意が必要です:

  • 侵襲的な歯科処置(抜歯、歯周外科など)の直後はSCC抗原値が一時的に上昇する可能性があるため、可能であれば処置から1週間程度空けて検査を行うことが望ましい
  • 口腔内の活動性の炎症がある場合、それがSCC抗原値に影響を与える可能性があることを患者に説明する
  • 口腔内に不審な病変を発見した場合、SCC抗原検査を含む精密検査を勧める

歯科医療従事者は、口腔内疾患とSCC抗原の関連性を理解し、患者の全身状態を考慮した適切な対応を心がけることが重要です。特に、がん治療後の経過観察中の患者では、口腔内の状態がSCC抗原値に影響を与える可能性があることを認識し、多職種連携による総合的な