SCC抗原(扁平上皮癌関連抗原)は、その名前が示す通り、主に扁平上皮癌で上昇する腫瘍マーカーです。扁平上皮は体の様々な部位に存在するため、複数の臓器のがんでSCC抗原値が上昇します。
特に高値を示す扁平上皮癌には以下のようなものがあります:
これらのがんでは、がんの進行度に応じてSCC抗原値が上昇する傾向があります。初期がんでの陽性率は低いため、スクリーニング検査としての有用性は限られますが、治療効果の判定や再発モニタリングには有用です。血中濃度の半減期が短いため、治療による変化を速やかに反映し、再発の場合は臨床症状が現れる数週間前に上昇することが多いという特徴があります。
SCC抗原値が高くなる原因は、必ずしもがんだけではありません。様々な良性疾患でもSCC抗原値が上昇することがあります。これが「偽陽性」と呼ばれる状態です。
**皮膚の良性疾患**によるSCC抗原上昇:
**呼吸器の良性疾患**によるSCC抗原上昇:
これらの疾患では、扁平上皮細胞が多く存在する組織で炎症が起こることで、SCC抗原が血液中に放出され、数値が上昇します。特に皮膚には元々多くのSCC抗原が含まれているため、皮膚の炎症性疾患ではSCC抗原値が高くなりやすいのです。
また、その他の状態でもSCC抗原値が上昇することがあります:
これらの良性疾患によるSCC抗原上昇は、がんの診断を複雑にする要因となります。そのため、SCC抗原値が高い場合は、他の検査結果や臨床症状と合わせて総合的に判断することが重要です。
SCC抗原値が高くなる原因には、実際の疾患以外に、検査の過程で生じる技術的な要因も存在します。これらは「偽高値」と呼ばれ、実際の体内状態を正確に反映していない可能性があります。
検体採取時の問題:
測定法による差異:
SCC抗原の測定には複数の方法があり、測定法によって結果が大きく異なることがあります。主な測定法には以下のようなものがあります:
これらの測定法間で値が乖離する例が報告されており、同一患者の検体でも測定法によって10倍程度の差が出ることもあります。このため、経過観察の際は同じ測定法で継続して検査することが重要です。
その他の技術的要因:
これらの技術的要因を考慮し、SCC抗原値が高い場合は、採血手技の確認や再検査、異なる測定法での確認なども検討する必要があります。
SCC抗原値が高くなる原因の中でも、特に興味深いのが「高分子量SCC抗原」の存在です。これは通常のSCC抗原(分子量約45,000Da)よりも大きな分子量を持つSCC抗原の変異体で、臨床的に重要な意味を持つことがあります。
高分子量SCC抗原の特徴:
高分子量SCC抗原による偽高値の事例:
医学文献には、扁平上皮腫瘍がないにもかかわらず持続的にSCC抗原値が高値を示した症例が報告されています。これらの症例では、各種検査で悪性腫瘍が発見されず、その原因がSCC抗原の高分子化であることが判明しました。
例えば、食道の扁平上皮癌術後の患者で、画像検査では再発所見がないにもかかわらず、SCC抗原値が急上昇(56.4ng/mL、81.4ng/mL、92.4ng/mL)した症例が報告されています。この症例では、SCC抗原が何らかの物質と結合して高分子化していることが原因と考えられました。
また、胸腺腫の症例では、CLIA法とFEIA法の測定値に約10倍の開きが見られ、測定法によって大きく結果が異なることが報告されています。
高分子量SCC抗原の臨床的意義:
高分子量SCC抗原の存在は、SCC抗原値の解釈を複雑にする要因の一つです。特に、がん治療後の経過観察中にSCC抗原値が上昇した場合、再発の可能性だけでなく、このような特殊なケースも考慮する必要があります。
歯科医療従事者にとって、SCC抗原と口腔内疾患の関連性を理解することは非常に重要です。口腔内は扁平上皮で覆われているため、口腔内の疾患がSCC抗原値に影響を与える可能性があります。
口腔扁平上皮癌とSCC抗原:
口腔内に発生する扁平上皮癌は、SCC抗原値を上昇させる原因となります。口腔扁平上皮癌は、舌、歯肉、頬粘膜、口底、口蓋などに発生し、早期発見が予後に大きく影響します。歯科医療従事者は口腔内検診の際に、以下のような口腔扁平上皮癌の初期症状に注意する必要があります:
口腔扁平上皮癌が疑われる場合、SCC抗原検査は補助的診断ツールとして有用です。ただし、初期段階では陽性率が低いため、視診や触診、生検による確定診断が重要となります。
口腔内の前癌病変とSCC抗原:
口腔内の前癌病変もSCC抗原値に影響を与える可能性があります。主な前癌病変には以下のようなものがあります:
これらの前癌病変は、軽度のSCC抗原上昇を引き起こすことがあります。特に広範囲に及ぶ病変や、異形成を伴う場合はSCC抗原値が上昇する可能性が高まります。
口腔内の炎症性疾患とSCC抗原:
口腔内の炎症性疾患も、SCC抗原値に影響を与えることがあります:
これらの炎症性疾患では、扁平上皮の炎症や損傷によりSCC抗原が血中に放出され、軽度から中等度の上昇を示すことがあります。
歯科治療とSCC抗原検査の関連:
歯科治療を受ける患者がSCC抗原検査を予定している場合、以下の点に注意が必要です:
歯科医療従事者は、口腔内疾患とSCC抗原の関連性を理解し、患者の全身状態を考慮した適切な対応を心がけることが重要です。特に、がん治療後の経過観察中の患者では、口腔内の状態がSCC抗原値に影響を与える可能性があることを認識し、多職種連携による総合的な