「穿通枝の走行が筋体内型だと、術前の画像確認なしには挙上中止に追い込まれることがあります。」
歯科情報
ALT皮弁(Anterolateral Thigh Flap:前外側大腿皮弁)は、1984年にSongらによって初めて報告された穿通枝皮弁です。その血流は大腿深動脈から分岐する外側大腿回旋動脈の下行枝(LCFA descending branch)を源流とし、そこから大腿皮膚へ向かって直接分枝する穿通枝(perforator)によって皮島が養われます。
つまり、皮島を生かすために筋体を巻き込む必要がない。これが従来の筋皮弁と根本的に異なる点です。
この血管茎の特徴として特筆すべきは、その直径と長さにあります。外側大腿回旋動脈下行枝の直径は2mm以上あり、血管茎の長さは8cm以上確保できることが報告されています。これは口腔・頭頸部領域の再建において、頸部に存在するレシピエント血管(顔面動脈・上甲状腺動脈・内頸静脈など)まで余裕を持って到達できることを意味します。吻合部に不必要な張力がかからないため、血栓リスクの低減にもつながります。
血管茎の起始部については、大腿動脈から直接分岐する場合と大腿深動脈から分岐する場合があり、この起始部のバリエーションも術前に把握しておくことが重要です。外側大腿回旋動脈は上行枝・横行枝・下行枝に分かれますが、ALT皮弁の主血管は下行枝であり、大腿直筋と外側広筋の筋間中隔を下行しながら複数の皮膚穿通枝を分岐させます。
| 血管茎の項目 | 数値・特徴 |
|---|---|
| 動脈直径 | 2mm以上 |
| 血管茎の長さ | 8cm以上 |
| 起始元 | 外側大腿回旋動脈下行枝(大腿深動脈系) |
| 下肢主要血行路との関係 | 下肢主要血行路ではなく採取しても末梢血行を損なわない |
| 採取可能な最大皮島面積 | 31×22cm(1本の穿通枝のみで生着した最大例) |
外側大腿回旋動脈は下肢の主要血行路ではないため、採取しても末梢血行への影響がほぼありません。これは前腕皮弁における橈骨動脈犠牲のように、採取後に患者のADLや上肢機能を大きく損ないにくいという大きなメリットです。歯科・口腔外科の臨床では、術後のQOL維持が重要視されており、この点でALT皮弁はドナーサイトの低侵襲性という観点から非常に優れた選択肢といえます。
参考:遊離前外側大腿皮弁による口腔再建術(口腔腫瘍 25巻4号)。皮弁生着率・術前検査・適応についての詳細が記載されています。
ALT皮弁を扱ううえで最も注意が必要なのが、穿通枝の走行バリエーションです。意外ですね。薄くシンプルな構造に見えるALT皮弁ですが、その穿通枝の走行パターンは症例によって大きく異なります。
昭和大学の黒木らによる34例の検討では、皮弁内に含まれた穿通枝の92.3%(60本/65本)が外側広筋内を走行する「筋体内型」であり、筋間中隔を走行する「筋間型」はわずか7.7%(5本/65本)でした。筋体内型が圧倒的多数ということですね。
これは実臨床において非常に重要な意味を持ちます。筋間型であれば筋体を割ることなく比較的容易に血管を追えますが、筋体内型では外側広筋の筋体内での穿通枝剥離操作が必要になります。この操作には拡大鏡(ルーペもしくは顕微鏡)の使用と繊細な手技が求められ、操作中に血管スパズム(攣縮)が生じるリスクもあります。
スパズムが起きたときはどうすればよいでしょうか?血管を温生食で温め、さらに4%キシロカインを散布し、攣縮が落ち着くまで操作を中断することが有効です。いたずらに操作を続けると血管損傷につながるため、焦らず対処することが原則です。
また外側大腿回旋動脈下行枝そのものが欠如していた症例も34例中4例(11.8%)に認められています。ただし4例全例で外側広筋栄養枝からの穿通枝を利用して皮弁挙上できたと報告されており、血管変異があっても代替血管を活用できる可能性があります。
一皮島あたりの穿通枝の本数は1〜4本で、平均2.0本とされています。複数の穿通枝を確保できる場合は、血行の信頼性が高まりますが、1本のみになる場合でも31×22cmという大皮島が生着した報告があることは、ALT皮弁のポテンシャルを示す重要なデータです。
参考:前外側大腿皮弁を試みた34例の検討(昭和医会誌)。穿通枝走行型の分類と挙上成功率の詳細データが確認できます。
ALT皮弁を安全に挙上するためには、術前の穿通枝評価が欠かせません。これは基本です。前述のとおり穿通枝の走行バリエーションが多く、筋体内型が9割以上を占めることから、術前に血管走行を把握しておくことで挙上時の迷いや手技ミスを大幅に減らせます。
現在、実臨床で広く使われている術前評価手段は主に「超音波カラードップラー」と「3D-CTA(三次元CT血管造影)」の2つです。
超音波カラードップラーは非侵襲的で外来でも実施できる手軽さが利点です。穿通枝の皮膚穿通部位を体表面上でマッピングでき、切開線の設定に直結する情報を術前に得ることができます。皮弁内側の皮膚切開が穿通枝の内側になるように設定するために不可欠な検査であり、日常的な術前ルーティンとして組み込まれています。血流の速度や方向も把握できるため、穿通枝の品質評価にも役立ちます。
一方、3D-CTAは血管走行の全体像を三次元的に可視化できる点で優れています。外側大腿回旋動脈下行枝から穿通枝への連続した走行ルートを把握でき、特に筋体内型で穿通枝が複雑な屈曲を示す場合や血管変異が疑われる場合に威力を発揮します。これは使えそうです。
| 検査法 | 主な利点 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 超音波カラードップラー | 非侵襲・外来実施可・穿通部位のマッピング | 皮膚切開線の設定、穿通枝の存在確認 |
| 3D-CTA | 血管走行の全体像を三次元把握 | 筋体内型の走行確認・変異血管の把握 |
術者が注意すべき神経として、外側大腿皮神経(LFCN)があります。穿通枝を確認・明示する際に外側大腿皮神経を切断してしまうと、術後に大腿外側の知覚麻痺が生じます。皮島挙上の際に浅筋膜上アプローチを採用することで、穿通枝の明示と外側大腿皮神経の温存を両立しやすくなります。この温存操作は術後QOLに直結するため、丁寧に行うことが条件です。
術前評価の具体的な流れとしては、カラードップラーで穿通枝の体表投影点を同定し、そのデータを基に3D-CTAで走行を確認、最終的に切開線デザインを決定するという手順が推奨されています。
参考:口腔癌の再建に使われる皮弁(Dental Juku)。遊離前外側大腿皮弁を含む各種皮弁の概要・栄養血管・採取部位についての解説が読めます。
歯科・口腔外科における口腔癌切除後の軟組織再建では、複数の遊離皮弁が選択肢として挙げられます。ALT皮弁がその中でどのような位置づけにあるのかを理解することは、症例ごとの再建計画を立てる際に非常に役立ちます。
ALT皮弁の組織量は、撓側前腕皮弁と腹直筋皮弁のちょうど中間に位置します。つまり、前腕皮弁では組織が足りず、腹直筋皮弁では多すぎるという中規模の欠損に対して、最も的確な組織量を提供できる皮弁です。これによって3段階の皮弁選択(前腕皮弁・ALT・腹直筋皮弁)が可能になります。
一皮弁あたりの最大採取サイズは20×15cmとの報告がある一方、実際の口腔再建では舌半側切除後の再建に7×5cmや7×6cmサイズで対応した症例も報告されており、欠損量に応じた柔軟なサイジングが可能です。
ALT皮弁が特に有利な条件として、①前腕皮弁では組織量が不足する中〜大規模欠損、②女性で整容的に前腕瘢痕を避けたい症例、③採取部の機能的損失を最小化したい症例、が挙げられます。また血管茎が長くて太いため、頸部の吻合に選択肢が広がる点も実臨床での強みです。
注意すべき点として、肥満体型の患者では大腿皮下脂肪が厚く、皮弁がbulky(膨隆した)になりすぎることがあります。口腔内の動態機能(舌の可動性・嚥下・発語)を重視する再建では、薄くしなやかな皮弁が求められるため、体格の評価が皮弁選択に直結します。逆にやせた女性患者では非常に薄い皮弁が得られ、前腕皮弁に近い柔軟性を発揮します。
口腔再建に際しては、欠損部位・欠損量・患者体格・放射線既往・術後機能の優先度を総合的に判断したうえでALT皮弁の適否を検討することが重要です。
ALT皮弁の血管吻合は、一般的なマイクロサージャリーの原則に従いますが、口腔外科領域特有の解剖学的条件も重なるため、いくつかの実践的なポイントを押さえておく必要があります。
まず皮弁挙上の順序についてです。口腔外科・頭頸部手術では腫瘍切除と再建を同時に行うことが多く、二チームによる同時進行(腫瘍切除チーム+皮弁採取チーム)が一般的です。皮弁縫着(皮弁を欠損部に縫い合わせる操作)を先に行い、その後で血管吻合を行う手順が推奨されており、血管茎の屈曲・ねじれを防ぎやすくなります。
血管茎の屈曲が静脈閉塞を招くことがあります。実際に口腔再建でのALT遊離皮弁26例の検討において、全壊死が1例(3.8%)認められていますが、その原因は「血管茎の屈曲による静脈閉塞」と報告されています。静脈の方が動脈よりも閉塞しやすく、吻合後の血管茎の経路設計が皮弁生存の鍵を握ります。
もう一つ見落とされがちなのが、術後の皮弁モニタリングです。皮弁壊死の多くは術後48〜72時間以内に発生しており、この時間帯の血流観察が最も重要です。皮膚色調・毛細血管再充満時間(CRT)・温度・皮弁の緊張感を定期的に観察し、鬱血や虚血の兆候を早期発見することが皮弁救済につながります。近年では近赤外線分光法(NIRS)やインドシアニングリーン(ICG)蛍光造影による術中・術後の血流評価も普及しており、より客観的なモニタリングが可能になっています。
口腔内に置かれた皮弁は口腔外よりも観察がしにくい場合もありますが、経口での直視・内視鏡補助などを組み合わせたモニタリング体制を整えておくことが、最終的な皮弁生着率の向上に直結します。
参考:国立がん研究センター東病院 形成外科「頭頸部再建について」。口腔癌・頭頸部癌に対する再建手術の概要と各皮弁の適応について確認できます。