吸収性メンブレンを使ったGBRでは、テンティングスクリューなしで行うと骨増生量が約半分になる場合があります。
Tenting screw bone graft(テンティングスクリューを用いた骨移植)とは、歯槽骨欠損部にチタン製のスクリューをテントのポールのように立て、そのスクリューヘッドでバリアメンブレンを物理的に支持しながら骨再生スペースを確保するテクニックです。骨が吸収・萎縮したリッジに対して、インプラント埋入前の骨増生(Guided Bone Regeneration:GBR)をより予測可能に行うために開発されました。
GBRが成功するためには、「PASS原則」と呼ばれる4つの条件を満たす必要があります。これは Primary closure(一次閉創)、Angiogenesis(血管新生)、Space creation/maintenance(スペースの形成と維持)、Stability of clot(血餅の安定)の頭文字を取ったものです。この中でも「スペース維持(Space maintenance)」が特に難しく、吸収性コラーゲンメンブレンのような軟性の膜は、上に乗る軟部組織の圧力でたわみ、内部の骨補填材が押しつぶされてしまいます。
つまりスペース維持が骨増生の要です。
テンティングスクリューはその問題を解決するデバイスです。直径1.5mm前後、長さ6〜10mmのチタンスクリューを骨欠損部に2〜4本立て、スクリューヘッドの先端までを骨補填材で充填し、その上からメンブレンを被覆します。スクリューが「テントのポール」として機能するため、軟部組織からの圧力があってもメンブレンが陥没せず、スペースが守られます。
スクリューヘッドより骨補填材をわずかにオーバーパックすることで、術後の生理的吸収量を補えることも、このテクニックの重要なポイントです。
テンティングスクリューが特に有効なのは、バリアメンブレンだけでは十分なスペース維持が望めない症例です。具体的には、歯槽堤の水平的吸収(Seibert分類 Class I)、垂直的吸収(Class II)、あるいはその両方が複合したClass IIIなどが挙げられます。また、残存骨壁が1〜2壁しかない骨欠損では、骨補填材を固定する「壁」が少ないため、テンティングスクリューによる機械的支持が不可欠です。
術式の大まかな手順は次のとおりです。
| ステップ | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ①フラップ形成 | 全層フラップを広範囲に剥離 | 欠損部から1歯離れた部位で縦切開 |
| ②デコルチケーション | 骨面の皮質骨に小孔を開ける | 骨髄血管からの血管新生を促進 |
| ③スクリュー埋入 | 頬側骨面に対しスクリューを傾斜させて立てる | スレッドを3〜4mm露出させる |
| ④骨補填材充填 | 自家骨+異種骨(1:1混合)を欠損部に充填 | スクリューヘッドを超えて盛り付ける |
| ⑤メンブレン被覆 | 吸収性コラーゲンメンブレンを被覆 | タックスなしでも可能なケースあり |
| ⑥一次閉創 | テンションフリーで縫合 | 粘膜骨膜弁の十分な剥離が必須 |
スクリューには骨への固定を意図しないため、表面は滑らかなもの(非オッセオインテグレーション型)を使用します。KLS Martinの1.5mm×6mmスクリューや、NeodentのTenting screwなどが代表的な製品です。
スクリューは垂直に立てるのではなく、理想的な隆起形態に合わせて傾斜させて埋入するのが原則です。骨再生後(術後8〜9か月程度)にスクリューを除去し、インプラントを埋入します。スレッドの表面に骨形成が及んでいるケースもありますが、滑らかな面なので比較的容易に除去できます。
これは使えそうです。
DentalMasterMed(日本語):テントスクリューと骨移植・骨再生技術の完全ガイド — 術式のステップバイステップ解説と臨床応用例が詳しく掲載されています。
「テンティングスクリューは自家骨ブロック移植(オーバーレイグラフト)の代替にならない」と思っている術者は少なくありません。ところが、複数の研究がその認識を覆す結果を出しています。
2024年に発表されたシステマティックレビュー(Bhatia ら、University of Central Lancashire)では、スクリューテンティング法(ST法)とGBR単独法を比較した3つの研究を解析しました。その結果は下記のとおりです。
| 指標 | ST法(テンティングスクリュー) | GBR単独法 |
|---|---|---|
| 平均水平骨増生量 | 4.76 ± 2.57 mm | 2.47 ± 3.16 mm |
| 合併症発生率 | 9.3% | 16.5% |
| 移植片喪失率 | 2.8% | 11.7% |
| インプラント埋入率 | 98.1% | 91.3% |
ST法は骨増生量・合併症・移植片喪失のすべてでGBR単独を上回りました。
垂直骨増生においても、テンティングスクリュー法の平均骨増生量は5.16mm(対GBR単独の4.24mm)と報告されており(縦断比較研究)、垂直増生にも応用できることがわかっています。
ただし現在のエビデンスには、研究数の少なさやバイアスリスクという限界もあります。術者のスキル差や使用バイオマテリアルの違いも結果に影響するため、慎重な解釈が必要です。
テンティングスクリューを用いた術式でも、合併症がゼロになるわけではありません。厳しいところですね。
最も多い合併症は創部裂開とスクリュー露出です。ST法での創部裂開・メンブレン露出率は研究によって異なりますが、特に非吸収性e-PTFEメンブレンを用いたケースでは、早期露出(術後4週以内)が起きた場合、骨再生の失敗リスクが大幅に上がることが報告されています(Cucchi らのRCT)。一方、吸収性コラーゲンメンブレンを用いたST法では、メンブレン露出による影響が比較的軽微で済む場合が多いとされています。
合併症を予防するための具体的な対策として、下記のポイントが挙げられます。
- テンションフリーの一次閉創:フラップのリリース不足が最大の失敗原因。粘膜骨膜弁の十分な剥離と、骨膜のスコアリングで無張力縫合を実現する
- スクリューの適切な突出量:スレッドの露出量は3〜4mm程度が目安。過剰な突出は縫合時のテンションを増加させる
- 予防的抗菌薬投与:術前にアモキシシリン2g、術後は500mgを7日間継続するプロトコルが広く採用されている
- 術後の創部管理:0.12%クロルヘキシジン含嗽を3週間継続し、術後1週・1か月・6か月で経過観察
感染が起きた場合でも、スクリューを早期に除去すれば、すでに形成された骨が著しく損傷されないこともあります。再吸収性膜の使用はこのリスク管理を容易にする点で優れています。
また、スクリューの埋入位置についても注意が必要です。頬側骨面に対して垂直(90°)ではなく、理想的な歯槽堤形態に向かって傾斜角をつけることで、理想的なリッジ形態の再構築が可能になります。
合併症予防には術前のCBCT評価が重要です。骨欠損の形態・残存骨量・隣接歯の状態を3次元で把握してから術式を計画することが、臨床成績向上につながります。
テンティングスクリューの役割は「骨を増やすこと」だけではありません。これが見落とされやすいポイントです。
スクリューが骨膜を押し上げることで、骨再生スペースと同時に軟部組織のボリューム拡張も起こります。これは「Soft Tissue Matrix Expansion(軟部組織マトリックス拡張)」と呼ばれ、Marx らが大きな垂直的顎骨欠損の再建で記述した概念です。通常、萎縮した歯槽堤では付着歯肉量が少なく、インプラント周囲の角化粘膜幅も不十分になりがちです。テンティングスクリューによるスペース拡張は、術前から軟組織の伸展を促し、インプラント周囲軟組織の質的改善に貢献します。
さらに、テンティングスクリューを活用した骨増生後にコネクティブティッシュグラフト(結合組織移植)を組み合わせるプロトコルも報告されています。PMC掲載の症例報告(Durrani ら)でも、骨増生後にCTGを行うことでインプラント周囲の軟組織審美性を大きく向上させた結果が示されています。
つまり硬組織と軟組織の同時マネジメントが可能ということですね。
この観点から、テンティングスクリューの適応を「骨量が足りないケース」だけでなく、「軟部組織も貧弱なケース」にまで広げて考えることができます。特に審美領域(上顎前歯部)での骨増生では、単純なボリューム回復にとどまらず、インプラント周囲の歯肉の健全性・審美性まで見越した計画が重要になります。
実際の臨床では、術後に角化歯肉の幅が不十分な場合、遊離歯肉移植(FGG)や結合組織移植(CTG)を追加することで、インプラントの長期安定性をさらに高めることができます。軟部組織管理の方向性をあらかじめ治療計画に盛り込んでおくことで、二次手術の回数を最小化することが可能です。