ステロイド服用患者に「問診だけで安全に抜歯できる」と思っていると、副腎クリーゼで患者が処置中に血圧崩壊するリスクがあります。
ステロイドホルモンは、コレステロールを原料として体内で合成される脂溶性ホルモンです。 大きく「副腎皮質ホルモン」と「性ホルモン」に分類され、歯科臨床では主に副腎皮質ホルモンの知識が直接関係します。 oned(https://oned.jp/terminologies/4d2084181735313713ae9a566a65383b)
副腎皮質ホルモンはさらに以下の3グループに整理されます。 ryudai2nai(https://www.ryudai2nai.com/doc/20140106.pdf)
| 分類 | 主な種類 | 主な作用 | 歯科との関係 |
|---|---|---|---|
| 糖質コルチコイド(グルココルチコイド) | コルチゾール、コルチゾン、プレドニゾロン | 抗炎症・免疫抑制・糖代謝調節 | 最も注意が必要。長期服用で副腎抑制・易感染・骨粗鬆症が起こる |
| 鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイド) | アルドステロン | Na・K・水分バランスの調節 | 直接的な歯科処置への影響は少ないが、高血圧・浮腫に注意 |
| 副腎アンドロゲン | DHEA(デヒドロエピアンドロステロン) | 性ホルモンの前駆体として機能 | 歯周病の性差に間接的に関与する可能性がある |
代表的な薬剤名と糖質コルチコイド活性の強さを示すと、以下のようになります。 www5.famille.ne(http://www5.famille.ne.jp/~ekimae/sub7-345-25.html)
デキサメタゾンはプレドニゾロンの約7倍の抗炎症力を持ちます。 これは「同じステロイドだから同じリスク」という認識が危険である理由のひとつです。薬剤名だけでなく力価を把握することが原則です。 blanc-dental(https://blanc-dental.jp/column/steroid/)
性ホルモンもステロイドホルモンの一種です。 大きく「アンドロゲン(男性ホルモン)」「エストロゲン(卵胞ホルモン)」「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の3種類に分類されます。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%83%B3)
| 種類 | 主な分泌部位 | 代表的なホルモン | 口腔・歯科への影響 |
|---|---|---|---|
| アンドロゲン(男性ホルモン) | 精巣・副腎 | テストステロン、DHEA | 歯周組織の炎症抑制に一部関与。低値で歯周病リスク上昇との報告あり |
| エストロゲン(卵胞ホルモン) | 卵巣・胎盤 | エストラジオール、エストロン | 歯肉炎・歯周炎の増悪因子。妊娠中・更年期の歯肉変化と密接に関係 |
| プロゲステロン(黄体ホルモン) | 黄体・胎盤 | プロゲステロン | 歯肉の血管透過性を高め、歯肉炎症状を悪化させることがある |
性ホルモンと口腔内環境は無関係と思いがちです。 ところが、妊娠中の女性ではプロゲステロンが高値になるため、歯肉炎(妊娠性歯肉炎)が起きやすくなることは広く知られています。 これは性ホルモンが「体内のステロイドホルモン一覧」の中に確実に含まれている証拠です。 kango-roo(https://www.kango-roo.com/learning/2350/)
更年期女性への骨粗鬆症治療でエストロゲン補充療法(HRT)を受けている患者も歯科に来院します。これは「ステロイドホルモン薬を服用中の患者」に該当します。 エストロゲンが骨密度に影響するため、抜歯後の骨治癒が通常と異なる経過をたどることがあります。これは見落とせませんね。 pharm.or(https://www.pharm.or.jp/words/post-24.html)
副腎クリーゼとは、長期ステロイド服用による副腎皮質機能の抑制状態で外科的ストレスにさらされたとき、コルチゾールが不足して起こる急性副腎不全です。 血圧低下・意識障害・ショックに至るケースがあり、歯科処置中の急変として最も危険な部類に入ります。 kanbeshika(https://www.kanbeshika.com/bs/clmnv.cgi?nv=23&pg=menu_blog&target=13&clm_target_no=3&ttl=%EF%BF%BDX%EF%BF%BDe%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BDC%EF%BF%BDh%EF%BF%BD%C6%8E%EF%BF%BD%EF%BF%BD%C8%8E%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BD)
重要なのは「どのステロイドホルモンが、どのくらいの量・期間で副腎を抑制するか」という一覧の知識です。 プレドニゾロン換算で5mg/日を1か月以上服用していれば、HPA軸(視床下部-下垂体-副腎皮質軸)の抑制が生じる可能性があります。 med.oita-u.ac(http://www.med.oita-u.ac.jp/oralsurg/allpdf/sikaigeppou/2008/%E7%AC%AC6%E5%9B%9E%20%E5%89%AF%E8%85%8E%E7%9A%AE%E8%B3%AA%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%A7%E3%83%9B%E3%82%A6%E3%82%92%E5%8F%97%E3%81%91%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E6%82%A3%E8%80%85%E3%81%AE%E6%AD%AF%E7%A7%91%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AE%E6%B3%A8%E6%84%8F%E7%82%B9.pdf)
副腎クリーゼのリスク判断に使える基準を整理すると、以下のようになります。 note(https://note.com/mg11/n/n95eb08272102)
ただし、「10mg以下なら歯科処置をしない」という判断も実は問題です。 ステロイドを減らすと原疾患(関節リウマチ・膠原病など)が悪化し、患者の全身状態がかえって危険になる場合があります。歯科と主治医の連携が条件です。 note(https://note.com/mg11/n/n95eb08272102)
対応としては、処置前に主治医へ照会し、侵襲の大きい処置ではステロイドカバー(追加補充)を検討します。 ステロイドカバーの目安はヒドロコルチゾン換算で25〜100mgを処置当日に静脈または筋肉注射することとされており、処置の侵襲度によって変わります。これが基本です。 kanbeshika(https://www.kanbeshika.com/bs/clmnv.cgi?nv=23&pg=menu_blog&target=13&clm_target_no=3&ttl=%EF%BF%BDX%EF%BF%BDe%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BDC%EF%BF%BDh%EF%BF%BD%C6%8E%EF%BF%BD%EF%BF%BD%C8%8E%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BD)
副腎クリーゼが実際に起きた場合のフローも、院内で準備しておくことが重要です。 ヒドロコルチゾン100mgの緊急静注と点滴ルートの確保、救急搬送の準備をセットにした院内プロトコルを作ると安心です。 youtube(https://www.youtube.com/watch?v=rOA2gwc7A8A)
参考:歯科麻酔専門医によるステロイド患者の歯科治療の対応解説(動画)
歯科治療にステロイドカバーは必要?副腎不全を予防するにはどうしたら良いの?【AneStem】
ステロイドホルモンが「なぜ強力に炎症を抑えるのか」を理解することは、薬の使い方だけでなく、副作用のメカニズムを説明するうえでも役立ちます。ここが基礎です。
ステロイドホルモンは脂溶性であるため、細胞膜を自由に通過できます。 細胞内の受容体(グルコルチコイド受容体:GR)と結合し、核内に移行して特定の遺伝子の転写を直接調節します。この点がペプチドホルモン(インスリンなど)と根本的に異なる作用機序です。 kango-roo(https://www.kango-roo.com/learning/2350/)
具体的には以下のような炎症関連物質の産生を抑制します。 oned(https://oned.jp/terminologies/4d2084181735313713ae9a566a65383b)
これは使えそうです。歯科領域でも、難治性の口腔粘膜疾患(扁平苔癬・アフタ性口内炎など)にステロイド軟膏が処方される理由は、まさにこの多段階の炎症抑制機序にあります。 blanc-dental(https://blanc-dental.jp/column/steroid/)
一方で、この「免疫抑制」の副作用として口腔カンジダ症が発症しやすくなります。 免疫が抑えられた口腔内では、常在菌のカンジダ・アルビカンスが異常増殖するためです。ステロイド吸入薬を使用している患者では、吸入後のうがいが推奨されていますが、歯科受診時に確認するポイントのひとつです。 kanbeshika(https://www.kanbeshika.com/bs/clmnv.cgi?nv=23&pg=menu_blog&target=13&clm_target_no=3&ttl=%EF%BF%BDX%EF%BF%BDe%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BDC%EF%BF%BDh%EF%BF%BD%C6%8E%EF%BF%BD%EF%BF%BD%C8%8E%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BD)
参考:日本薬学会によるステロイドホルモンの化学的定義と分類
ステロイドホルモン | 公益社団法人 日本薬学会
多くの歯科では問診票に「ステロイド服用の有無」を書かせます。しかし実際には、患者自身が「ステロイドを飲んでいる」と認識していないケースが少なくありません。これが盲点です。
理由は、患者が処方されているのが「プレドニン」「リンデロン」といった商品名の薬であり、「ステロイド」という言葉を知らないまま服用しているためです。 「炎症を抑える薬を飲んでいますか?」「免疫を下げる薬はありますか?」という具体的な問い直しが、見落としを防ぐ現場の工夫です。 www5.famille.ne(http://www5.famille.ne.jp/~ekimae/sub7-345-25.html)
さらに見落とされがちなのが、「軟膏・吸入ステロイドしか使っていない患者」です。 局所使用のステロイドでも、広範囲・長期使用では全身吸収が起こり、HPA軸を抑制することがあります。とくにフルチカゾン(フルタイド、アドエアなど)やクロベタゾールプロピオン酸エステル(デルモベートなど)は吸収率が比較的高い製剤です。 niigatanishi-dc(https://niigatanishi-dc.jp/staffblog/?p=3618)
歯科側からできる実践的な確認ステップをまとめると、以下のようになります。
ステロイド服用患者の骨折リスクは、長期服用者の30〜50%が経験するというデータもあります。 歯科では骨粗鬆症との合併が多く、BP製剤(ビスホスホネート)やデノスマブを併用している患者への処置は、MRONJ(薬剤関連顎骨壊死)のリスクとも重なります。 ステロイドホルモンの一覧的な知識が、こうした複合リスクの「地図」として機能します。 note(https://note.com/mg11/n/n95eb08272102)
参考:ステロイド患者の歯科治療に関する臨床対応指針(医療従事者向け)
【歯科コラム】ステロイド患者の実臨床での対応指針【歯科医療従事者向け】|浅野あかり(note)
参考:副腎皮質ホルモンの生理作用と分類の詳細
副腎皮質ホルモン|内分泌 - 看護roo!