接触感染予防策PPEの選び方と適切な着脱手順

歯科医療における接触感染予防策とPPEの正しい使い方を解説します。手袋交換率52%の現状や20分でピンホールが発生する事実など、知らないと感染リスクが高まる情報をお伝えしますが、あなたの診療は本当に安全でしょうか?

接触感染予防策におけるPPEの正しい使い方

手袋をつけたまま消毒しても細菌は残ります


この記事の3つのポイント
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手袋は患者ごとに必ず交換

20分程度の使用で目に見えないピンホールが大量発生し、感染リスクが急上昇します

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PPE着脱の順序を厳守

脱衣時の手順を間違えると自己汚染のリスクが高まり、感染拡大の原因になります

手指衛生のタイミングが重要

手袋着用前後の手指衛生を徹底することで接触感染を効果的に予防できます


接触感染予防策における手袋交換の現状と問題点


歯科診療における手袋使用の実態調査によると、患者ごとに手袋を交換している歯科医師は全体の52%にとどまっています。この数字は厚生労働省研究班が全国1000人の歯科医師を対象に実施した調査で明らかになったもので、残りの48%は患者ごとに交換していないという驚くべき結果です。


つまり約半数です。


患者ごとに手袋を交換しない場合、接触感染のリスクが大幅に高まります。歯科診療では血液や唾液に触れる機会が多く、手袋を介して病原体が患者から患者へと伝播する可能性があるのです。手袋は医療現場で最も頻繁に使用される個人防護具であり、医療従事者の手指を感染性物質による汚染から守り、また医療従事者の手指から患者へ微生物の伝播を防ぐ役割を果たします。


厚生労働省が作成した「一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針」では、手袋の患者ごとの交換を強く推奨しています


さらに深刻なのは、手袋の劣化スピードです。歯科医療従事者向けの感染管理資料によると、グローブは20分程度の使用時間でかなり劣化し、目では確認できない程の孔(ピンホール)が大量にできます。このピンホールからの細菌侵入により手指が汚染される危険性が高まるため、長時間の着用は避けるべきです。


手袋にピンホールが発生する確率については、JIS規格において検査・検診用手袋でピンホール発生率4.2%以下で生産することが求められていますが、臨床現場では未使用のものでもビニル手袋で4~63%、ラテックス手袋で3~52%に達するという報告もあります。使用中・使用後の手袋では、ビニール手袋で4.1%、ラテックス手袋で2.7%に目に見えるピンホールが生じていたという研究結果もあるのです。


これは使用時間次第です。


接触感染予防のためには、患者ごとに必ず手袋を交換し、使用後は直ちに外して手指衛生を行うことが基本原則です。一度患者に使用した手袋を装着したまま手洗いや消毒を行って次の患者の診療に移ることは、感染対策の観点から絶対に行ってはなりません。手袋の上から手洗いや速乾性手指消毒薬を用いて手指衛生を行っても微生物を完全に除去できないうえ、手袋が破損し防御機能が低下するためです。


接触感染予防策に必要なPPEの種類と選び方

接触感染予防策で使用するPPE(個人防護具)には、手袋、ガウンまたはエプロン、マスク、ゴーグルまたはフェイスシールドがあります。歯科診療では血液や体液、分泌物、排泄物などの湿性生体物質に触れる機会が多いため、暴露されると予測される身体の箇所を守れるPPEを選ぶことが重要です。


手袋は最も基本的なPPEです。


歯科診療時の手袋は、全ての症例で使用し、かつ患者ごとに交換することが強く推奨されています。一般的な歯科医療においては、基本的に血液、唾液および粘膜に接触する機会が多いため、常に患者ごとに両手とも新しい医療用グローブを装着し、使用後は直ちに外して手を洗い、微生物を他の患者や環境周囲に移さないように努める必要があります。また、歯科衛生士や助手も手袋を着用することによって、微生物伝播のリスクを明らかに減らすことができます。


マスクとゴーグル、フェイスシールドは、目・鼻・口の粘膜への体液飛散を防ぐために使用します。歯科診療では特に唾液の飛散のリスクが高い処置が多く、タービンやエアーを使用する場合や観血的治療を行う場合は、マスク、ゴーグル(またはフェイスシールド)、ディスポエプロンなどの個人防護具を常時着用することが推奨されています。


ゴーグルとフェイスシールドの違いについても理解が必要です。ゴーグルは眼部の防護には有効ですが、顔面の他の部位への跳ね返りや飛び散りに対する防護能はありません。対してフェイスシールドは、その形状によって眼部に加えて、同時に鼻腔、口腔粘膜を同時に防護し、あるいは側頭面への跳ね返りや飛び散りを減少させます。


ガウンやエプロンは、患者や患者周辺環境に直接触れる可能性がある場合に着用します。接触予防策では、患者や患者周辺環境に触れる時には手袋を着用し、患者や患者周辺環境に直接触れる可能性がある場合にはガウンを着用することが基本です。歯科診療においては、唾液や血液による術衣の汚染が高頻度に起こるため、院内感染防止の観点から、術衣は少なくとも毎日交換することが推奨されます。


これらのPPEは、処置内容や暴露リスクに応じて適切に選択する必要があります。標準予防策に加え、感染経路に応じてPPEを追加することで、接触感染、飛沫感染、空気感染のそれぞれに対応できます。


接触感染予防策のためのPPE着脱順序と注意点

PPEの着脱順序を正しく理解し実践することは、接触感染予防策において極めて重要です。特に脱衣時の手順を間違えると、自己汚染のリスクが高まり、感染拡大の原因となります。実際、PPE着脱に関する調査では、脱衣時に手順を間違えた割合が高いことが報告されています。


着用順序は感染リスクの低いものから順に装着します。一般的には、ガウン(またはエプロン)→マスク→ゴーグル(またはフェイスシールド)→手指衛生→手袋の順です。覚え方として「がまんして」(が=ガウン、ま=マスク、ん=無くて、し=シールド、て=手袋)というゴロ合わせが現場では使われています。


手袋着用前の手指衛生は必須です。


着用順の覚え方として「バンザイ」をして下になるものから着けるという方法もあります。これは両手を上げた時に、ガウンが一番下、マスクが次、ゴーグルやフェイスシールドが上にくることから、下から順に着用するという考え方です。


一方、脱衣時は最も汚染されている手袋を一番最初に外します。その後、手指衛生を行い、ゴーグル(またはフェイスシールド)→エプロン(またはガウン)→マスクの順に外し、最後に再度手指衛生を行います。脱衣時にリスクがあることを認識し、着脱トレーニングは必須です。


手袋を外す際の注意点は、汚染された表面に触れないようにすることです。片方の手袋の手首部分を反対側の手袋をした指でつまみ、手袋を裏返しながら外します。外した手袋を丸めて持ち、素手になった指を残りの手袋の内側に入れて裏返しながら外すことで、汚染面に触れずに廃棄できます。


ガウンやエプロンを脱ぐ時も、感染が広がらないように注意が必要です。ガウンの表面は汚染されているので、間違った方法で脱いでしまうと、自身だけではなく周囲も汚染してしまいます。


必ず適切に脱ぐようにしましょう。


エプロンも同じく表面を触らないよう、最後に腰ひもを引っ張って切り、丸めて廃棄します。


マスクを外す際は、マスクの表面に触れないよう、耳掛けやひもの部分を持って外します。マスクの表面には飛沫や微生物が付着している可能性が高いため、素手で触れると手指が汚染されます。


個人防護具の着脱方法を習得することは、施設内の感染拡大防止と職員を守ることにつながります。脱衣時に汚染拡大リスクがあることを認識し、定期的なトレーニングを実施することが推奨されます。


接触感染予防策における手指衛生のタイミングと方法

接触感染予防策の中核をなすのが手指衛生です。WHOが提唱する「手指衛生5つのタイミング」は、患者に触れる前、清潔・無菌操作の前、体液に曝露された可能性のある場合、患者に触れた後、患者周辺の物品に触れた後です。この5つのタイミングで確実に手指衛生を行うことが、接触感染予防の基本となります。


手指衛生が最も効果的です。


歯科診療においては、常に唾液もしくは血液に触れる機会が多く、さらに歯肉粘膜は傷つきやすく出血しやすいことから、手指に目に見える汚れがなくとも唾液や血液が付着している可能性があります。また、歯科治療後にグローブを外す時は、表面に触れないように注意しないと、手指や周囲環境に唾液や血液を付着させる可能性があります。


唾液・血液などのタンパクが付着した状態では、擦り込み式アルコール製剤の消毒効果は十分に発揮されません。したがって院内感染防止の観点からは、診療前や唾液・血液が付着している可能性がある場合には消毒薬を含む洗剤と流水で手を洗うことが強く推奨されます。


手指衛生の方法には、流水と石鹸による手洗いと、アルコールベースの擦り込み式手指消毒薬の使用があります。CDCの手指衛生ガイドラインでは、手が目に見えて汚れているとき、タンパク質で汚染されているとき、血液やその他の体液で目に見えて汚れているときには、非抗菌石鹸と水、あるいは抗菌石鹸と水で手を洗うことを強く推奨しています。


一方、手に目に見える汚染がない場合は、臨床における処置およびその前後においてアルコールベースの擦り込み式消毒薬を使用してルーティンの手指消毒を行うことも強く推奨されています。


手袋交換のタイミングは患者ごとが基本です。手袋の交換のタイミングは、患者ごと、汚染したとき、破れたときに交換します。カルテやX線機器、モニターなどに触れる場合は手袋を外し、再度処置する場合は新しい手袋を着用します。手袋を外したら必ず手指衛生を行うことが重要です。手袋を外すときに手を汚染することがあるためです。


日常歯科診療においては、診療前に消毒薬を含む洗剤で手洗いを行い、その後ペーパータオルで拭きとり、擦り込み式アルコール製剤で消毒すべきです。備え付けのタオルで手を拭くことは、逆に手指汚染を招くことになります。また、手洗い後の手袋着脱が適切になされている場合は、その後の手指消毒は擦り込み式アルコール製剤で行い、手指が汚染された場合に再び消毒薬を含む洗剤で手洗いを行うことが推奨されます。


手指衛生を実施する際の注意点として、手洗い時間を十分に確保することが挙げられます。石鹸で10秒洗って、流水で流すことが推奨されています。アルコール手指消毒を行う場合も、適量を手に取り、完全に乾燥するまで擦り込むことが重要です。


接触感染予防策の実践で陥りやすい誤りと対策

接触感染予防策を実践する上で、歯科医療従事者が陥りやすい誤りがいくつかあります。これらの誤りを認識し、適切に対処することで、感染リスクを大幅に低減できます。


最も多い誤りは、手袋を装着したまま手指消毒を行うことです。手袋をした手の上に微生物を10の7乗コロニー塗布し、手袋をしたまま手洗いを行ったところ、10の3乗程度のコロニーの微生物が手袋から検出されたと報告されています。つまり手袋の上から消毒しても、約1000分の1程度しか微生物を減らせないのです。手袋を交換せずに、手袋の上から手指衛生を行うことは微生物を除去できない点および手袋が破損し防御機能が低下する点から考えて不適切です。


誤った使用は危険です。


もう一つの誤りは、手袋の再利用や長時間使用です。手袋を石鹸で洗ったり、アルコール消毒したりするとグローブに穴が開く恐れがあり、それでは患者さんから患者さんへ感染させてしまいます。グローブは歯科医師、歯科衛生士、歯科助手すべてのスタッフが患者さんごとに使い捨てです。


PPE着脱の順序を間違えることも大きなリスクです。特に脱衣時の手順を守らないと、汚染された表面に触れて自己汚染を引き起こす可能性があります。個人防護具の着脱は、順番なんて関係ないと考えるのは危険です。脱ぐときがもっとも危険で、脱衣手順を守る必要があります。


歯科診療特有の問題として、エアロゾル対策の不足があります。歯科治療時は高速回転切削器具や超音波を使用するために血液や唾液で汚染されたエアロゾルが診療室に飛散する可能性が高いのです。口腔外バキュームの使用は飛散による汚染を抑制するために重要ですが、すべての医療機関で十分に使用されているわけではありません。


環境整備における誤りも見られます。歯科診療に使用した手袋の上から速乾性手指消毒薬等を用いて手指衛生を行い環境整備を行う事は推奨されません。患者ごとに新しい手袋を着用し、微生物が他の患者や環境に移るのを防ぐために使用後は手袋を速やかに取り外してただちに手洗いをして、新しい手袋を着用して環境整備などを行う事が推奨されます。


これらの誤りを防ぐためには、定期的な感染対策研修の実施が効果的です。PPEの正しい着脱方法を動画や実演で確認し、実際に練習する機会を設けることで、理論だけでなく実技として身につけることができます。また、院内で感染対策マニュアルを作成し、スタッフ全員が共通認識を持つことも重要です。


接触感染予防策の実践においては、個人の意識だけでなく、組織としての取り組みが不可欠です。感染対策委員会の設置や定期的な開催、院内感染対策マニュアルの作成と定期的な見直しなど、システムとして感染対策を推進することで、より確実な予防が可能になります。




標準予防策と感染経路別予防策・職業感染対策 (感染管理QUESTION BOX)