エアロゾル対策 換気で守る歯科診療の安全と感染防止

歯科診療でのエアロゾル対策、換気の正しい実践方法を解説します。口腔外バキュームやHEPAフィルター、換気基準など具体的な数値とともに紹介。患者と医療従事者の安全を確保するために何が必要でしょうか?

エアロゾル対策と換気による感染防止

窓開け換気だけでは診療後30分間もエアロゾルが浮遊したままです


エアロゾル対策と換気の重要ポイント
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エアロゾルの滞留時間

換気不足の診療室では3時間以上も空中浮遊し続ける

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CO2濃度の管理基準

厚生労働省推奨の1,000ppm以下を維持することで換気状態を可視化

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口腔外バキュームの効果

口腔内バキュームとの併用で吸引率が99%まで向上


エアロゾル対策における換気の基本原則


歯科診療では、タービンやスケーラーなどの回転切削器具を使用する際に大量のエアロゾルが発生します。エアロゾルとは、直径5μm以下の微細な粒子のことで、唾液や血液を含んだ飛沫が空気中に浮遊している状態を指します。これらの粒子は飛沫よりも細かいため、長時間空中に漂い続ける特徴があります。


換気のできない閉鎖空間では、エアロゾルが3時間以上も空中に浮遊し続けることが研究で明らかになっています。これは患者さん一人の治療が終わった後も、次の患者さんが来院するまでの間、感染リスクが継続していることを意味します。つまり、診療と診療の間隔が短い場合、前の患者さんから発生したエアロゾルに次の患者さんが曝露される可能性があるのです。


厚生労働省は、集団感染リスクの高い状況を回避するための良好な換気状態の基準として、二酸化炭素濃度(CO2濃度)1,000ppm以下を提示しています。CO2濃度が高いということは、換気が不十分で室内の空気が循環していないことを示す指標です。CO2濃度が1,000ppmを超えると、人体への影響として気分が悪くなる、集中力が低下するといった症状が現れ始めます。3,000ppmになると呼吸数が増え、眠気や倦怠感が顕著になります。


定期的な換気が基本です。


1時間に2回、1回あたり5~10分程度の換気を行うことが推奨されています。対角線上の2ヶ所の窓を開けて空気の通り道を作ることで、効率的に室内の空気を入れ替えることができます。


ただし、窓開け換気だけでは限界があります。


冬季は寒さ、夏季は暑さによってエアコンの効きが悪くなり、患者さんの快適性が損なわれるためです。


換気の効果を高めるためには、機械換気システムとの併用が重要になります。全熱交換器を導入することで、外気を取り入れる際に室内の温度を保ちながら換気できるため、冷暖房費の増加を抑えつつ、快適な診療環境を維持できます。また、CO2濃度測定器を設置して、リアルタイムで換気状態をモニタリングすることで、適切なタイミングで換気を行うことが可能になります。


日本歯科医学会連合による「エアロゾル・空気感染」に対する感染予防策の詳細


エアロゾル発生を抑える切削器具の選択

歯科診療で使用する切削器具の種類によって、エアロゾルの発生量は大きく異なります。従来のエアータービンは、圧縮空気の力で高速回転するため、1分間に約40万回転という速度で歯を削ることができますが、その分大量のエアロゾルを発生させてしまいます。エアータービンは水とエアーを同時に噴射するスプレー冷却方式を採用しているため、ミスト状の細かい水滴が周囲に飛散しやすいのです。


5倍速コントラアングルは、エアータービンと比較してエアロゾルの発生を抑制できる器具として注目されています。5倍速コントラはマイクロモーター(電動モーター)で駆動するため、回転速度は1分間に約4万回転とエアータービンより低速ですが、トルク(回転力)が強いため、押し当てても削ることができます。エアータービンのように圧縮空気を使わないため、スプレーの霧化が少なく、エアロゾルの飛散範囲が狭くなります。


実際に5倍速コントラを使用している歯科医院では、切削時の音も静かで患者さんの不安軽減にもつながると報告されています。エアータービン特有の「キーン」という高音が発生しないため、歯科治療に恐怖心を持つ患者さんにとっても受け入れやすい器具です。


バーの選択も重要です。


バーの切削部分の径が細いほど、周速度が遅くなるため冷却水の飛散が少なくなります。逆に、大きく丸みを帯びたグラインダーや作業面が大きいホイール型のバーを使用すると、周速度が速くなり、水、血液、唾液が飛散しやすくなります。また、摩耗したバーを使い続けると切削効率が下がり、治療時間が長引くことでエアロゾルの絶対量が増加してしまいます。


複数の注水ホールを持つハンドピースを使用することも効果的です。3点注水のハンドピースは、注水が分散されるためエアロゾルの発生が抑制されます。1点注水の場合、冷却水が一箇所に集中するため、その反動で周囲に飛散しやすくなるのです。


可能な限り手用器具を使用することも、エアロゾル対策として有効です。う蝕の除去にエキスカベーター(手用のスプーン型器具)を用いることで、冷却水を必要としないためエアロゾルの発生をゼロにできます。ただし、手用器具だけでは時間がかかる場合もあるため、症例に応じて切削器具と使い分けることが現実的です。


エアロゾル対策における口腔外バキュームの効果

口腔外バキュームは、患者さんの口元の外側で吸引することによって、治療中に発生する飛沫や粉塵を発生源の近くで捕集する装置です。通常の口腔内バキュームだけでは、吸引率が約70~80%にとどまり、残りの20~30%は空気中に飛散してしまいます。しかし、口腔内バキュームと口腔外バキュームを併用することによって、吸引率を99%以上まで高めることができます。


この数値の違いは非常に大きいです。


吸引率が80%の場合、100個のエアロゾル粒子のうち20個が診療室内に飛散しますが、99%の場合は1個しか飛散しません。つまり、飛散量を20分の1に減らせるということです。1日に20人の患者さんを診療する歯科医院では、口腔外バキュームの有無で、1日あたり380個分ものエアロゾル粒子の飛散を防げる計算になります。


口腔外バキュームの効果を最大限に発揮するためには、適切な位置に設置することが重要です。患者さんの口元から10cm以内の位置にフードを配置することで、エアロゾルが拡散する前に吸引できます。フードの形状も重要で、開口部が広いタイプは捕集率が高くなりますが、100mm以上離れると捕集率が大きく低下するという研究結果があります。


口腔外バキュームのフィルターには、定期的なメンテナンスが必要です。フィルターが目詰まりすると吸引力が低下し、本来の性能を発揮できなくなります。フィルターの交換頻度は使用環境によって異なりますが、一般的には1~2ヶ月に1回の交換が推奨されています。フィルターの状態を定期的にチェックし、汚れが目立つ場合は早めに交換することが大切です。


音の問題も考慮する必要があります。


口腔外バキュームは強力な吸引力を持つため、作動音が大きくなる傾向があります。患者さんによっては音を不快に感じる場合もあるため、事前に「治療中の安全のために使用する装置」と説明しておくことで、理解を得やすくなります。最近では静音設計の口腔外バキュームも開発されているため、診療環境に応じて選択できます。


東京技研による口腔外サクションの効果的な使用方法の検証資料(PDF)


HEPAフィルター搭載空気清浄機の導入効果

HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)は、0.3μmの粒子を99.97%以上捕集できる高性能フィルターです。新型コロナウイルスの大きさは約0.1μmですが、ウイルスは単独で浮遊するのではなく、飛沫やエアロゾルに付着した状態で空気中に存在するため、HEPAフィルターで捕集することが可能です。


歯科診療室にHEPAフィルター搭載の空気清浄機を導入することで、換気と併用してエアロゾル対策の効果を高められます。空気清浄機を設置する際は、診療室の広さに応じた適切な処理能力を持つ機種を選ぶことが重要です。一般的に、処理風量が大きいほど短時間で室内の空気を浄化できます。


処理風量の目安は次のとおりです。


10畳(約17㎡)の診療室であれば、処理風量が200㎥/h以上の空気清浄機が推奨されます。これは1時間に室内の空気を約6回入れ替える計算になります。診療室が広い場合は、複数台の空気清浄機を設置することで、より効率的に空気を浄化できます。


HEPAフィルター搭載の空気清浄機を選ぶ際は、追加機能にも注目しましょう。紫外線照射機能を併用することで、フィルターに捕集されたウイルスや細菌を不活化できます。また、活性炭フィルターを併用することで、診療室特有の臭い(薬剤臭など)も同時に除去できるため、患者さんの快適性が向上します。


フィルターの交換時期を守ることが重要です。


HEPAフィルターの寿命は一般的に1~2年ですが、使用環境によって異なります。フィルターが目詰まりすると空気清浄機の効率が低下するだけでなく、モーターに負担がかかり故障の原因にもなります。多くの空気清浄機にはフィルター交換時期を知らせる機能が付いているため、それに従って交換することをおすすめします。


設置場所も効果に影響します。空気清浄機は、診療チェアから2~3m以内の位置に設置し、エアロゾルが発生する場所の近くで空気を吸引できるようにします。ただし、患者さんの動線を妨げない位置を選ぶことも大切です。また、空気清浄機の吸込口や吹出口を塞がないよう、周囲に十分なスペースを確保する必要があります。


エアロゾル対策におけるラバーダム防湿の活用

ラバーダムは、治療する歯を中心に口全体を覆うゴム製のシートです。根管治療などで使用されることが多いですが、エアロゾル対策としても非常に有効な手段です。ラバーダムを使用することで、術野から直径1mの範囲の浮遊粒子飛沫を70%減少させることができるという研究報告があります。


ラバーダムの感染対策効果は、唾液や血液といった実際の汚染物を治療部位に封じ込めることで発揮されます。ラバーダムを装着すると、治療中に発生するエアロゾルの主な汚染源が治療中の歯牙からの発生物に限定されるため、口腔内全体から発生する細菌やウイルスを含んだエアロゾルを大幅に削減できます。


ラバーダムは根管治療の成功率も高めます。


ラバーダムを使用した根管治療の成功率は約90%まで高まるというデータがある一方で、ラバーダムを使わない治療では成功率が50%以下になってしまいます。これは、ラバーダムによって唾液の侵入を防ぎ、無菌的な治療環境を確保できるためです。感染対策と治療成績の両方を向上させられる点で、ラバーダムは非常に価値の高い器具といえます。


ラバーダム装着が困難な症例もあります。虫歯の進行が大きく歯冠(歯の頭の部分)を大きく失っている場合は、ラバーダムのクランプ(固定具)をかける部分が不足するため装着できません。このような場合は「隔壁(カクヘキ)」と呼ばれる歯の壁を作る処置を事前に行うことで、ラバーダム装着が可能になります。


また、ラテックスアレルギーの患者さんには、ゴム製のラバーダムは使用できません。最近ではノンラテックス(シリコン製など)のラバーダムシートも開発されているため、アレルギーのある患者さんにも対応できるようになっています。患者さんの状態に応じて適切な材質のラバーダムを選択することが大切です。


ラバーダム使用時の患者説明も重要です。


初めてラバーダムを装着される患者さんは、口全体が覆われることに不安を感じる場合があります。「治療中の安全性を高めるため」「より精密な治療を行うため」と事前に説明し、鼻呼吸ができること、苦しくなったら手を挙げて知らせてもらうことを伝えることで、患者さんの不安を軽減できます。


換気と温熱環境の両立を実現する設備対策

窓開け換気とエアコンの併用は、快適性と感染対策の両立において課題があります。夏季に窓を開けると外気の熱が流入してエアコンの効きが悪くなり、冬季は冷たい外気が入ることで室温が低下し、患者さんが寒さを感じてしまいます。特に高齢の患者さんは体温調節機能が低下しているため、診療室の温度変化に敏感です。


全熱交換器を導入することで、この問題を解決できます。全熱交換器は、排気する室内の空気と取り入れる外気の間で熱交換を行うため、外気を室温に近づけてから室内に取り入れることができます。これにより、冷暖房費の増加を約30%抑えながら、継続的な換気を実現できます。


全熱交換器の換気量は調整できます。


診療内容に応じて換気量を調整することで、エアロゾルが大量に発生する処置(歯の切削、超音波スケーリングなど)の際は換気量を最大にし、カウンセリングなどエアロゾルが発生しない時間帯は換気量を抑えて快適性を優先するといった運用が可能です。


CO2濃度測定器を活用した換気管理も効果的です。CO2濃度をリアルタイムでモニタリングし、1,000ppmを超えそうになったら換気を強化する、800ppm以下を維持できている場合は換気量を調整するといった、データに基づいた換気管理ができます。待合室にもCO2濃度を表示することで、患者さんに「この医院はしっかり換気している」という安心感を与えられます。


暖房器具の補助的使用も検討しましょう。冬季の窓開け換気時には、患者さんの足元に電気ストーブを配置することで、局所的に暖かさを提供できます。また、診療チェアに温熱シートを導入している医院もあります。患者さんに「換気のため室温が低めですが、温かくしてお過ごしください」と声をかけることで、理解と協力を得やすくなります。


サーキュレーターで室内の空気を循環させることも効果的です。冷暖房の効率を高めるだけでなく、エアロゾルを拡散させて換気口や空気清浄機へ誘導する効果もあります。サーキュレーターは天井に向けて設置し、室内の空気を上下に循環させることで、温度ムラを解消できます。


患者さんへの事前案内も大切です。


予約確認の際に「感染対策のため換気を行っているため、季節により室温が変動する場合があります。調整できる服装でのご来院をお願いいたします」と伝えることで、患者さんも準備ができます。また、診療室にブランケットを用意しておき、寒がっている患者さんには積極的に提供することで、満足度を維持できます。


ダイキン工業による歯科医院への全熱交換器導入事例




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