二重血管茎にすると、骨切りしても14cm前後の骨弁が壊死しないまま使えます。
肩甲骨皮弁の理解において、まず押さえておきたいのが**肩甲回旋動脈(circumflex scapular artery)**と**肩甲下動脈**の関係です。肩甲下動脈(subscapular artery)は腋窩動脈から分岐し、肩甲回旋動脈と胸背動脈の2本に分かれます。この分岐パターンは「共通幹型(common trunk type)」と「直接型(direct type)」があり、約95%の症例が共通幹型です。
共通幹型では動脈の血管茎として使用できる最大長は約9.3cm、静脈は約9.1cmとされています。直接型では動脈9.5cm・静脈7.1cmと僅かに異なります。頸部の血管への到達距離を考えると、この長さは決して余裕があるわけではなく、術前の血管解剖の把握が必須となります。
肩甲回旋動脈は三角腋窩間隙(triangular space)を通って背部に出た後、「水平枝(肩甲枝)」「垂直枝(傍肩甲枝)」「上行枝」に分枝します。それぞれから採取できる皮弁は肩甲皮弁・傍肩甲皮弁・上行肩甲皮弁と呼ばれており、目的に応じて使い分けが可能です。つまり1つの血管系から複数のデザインが選べるということですね。
重要なのは、**皮枝と骨枝が独立している**という点です。これにより、皮弁のみ・骨弁のみ・骨皮弁のいずれの形態でも採取が可能となり、欠損状態に合わせた柔軟な設計ができます。この立体的自由度の高さは、他の骨皮弁にはない大きなアドバンテージです。
また、肩甲骨下角を直接栄養する「角枝(angular branch)」の存在も見逃せません。角枝は42体の解剖研究において100%の症例で確認されており、この枝を温存することで後述する「二重血管茎」という手技が可能になります。
東京女子医科大学の報告によれば、術前に64列MDCTで肩甲下動脈系を撮影することで血管走行のバリエーションを事前に把握でき、角枝が欠損するなどの変異がある症例でも安全に複合組織移植を施行できると示されています。術前CTの活用は、特に複雑な再建を計画する際の標準的なアプローチになりつつあります。
肩甲下動静脈茎複合皮弁による頭蓋顎顔面硬性再建(医書.jp):皮枝・骨枝の独立性や複合皮弁の構造について詳しく解説されています。
肩甲骨皮弁が下顎・上顎再建で選択される最大の理由の一つが、**二重血管茎(dual pedicle)**の活用にあります。通常の骨枝だけを使った場合、骨切りを行うと遠位端の血流が不安定になるリスクがあります。しかし、骨枝とは別に「角枝」を温存し、二重血管茎とすることで骨弁遠位端の血行が安定し、2か所で骨切りを行っても最大14cm前後の骨弁を良好な血流のある状態で挙上できます。
14cmというのは、骨折した際に使うキルシュナー鋼線(約15〜20cm)より少し短い長さです。感覚的には、成人男性の手のひらの横幅とほぼ同じ長さで、オトガイ部を含む下顎前方弧の再建にも十分対応できます。実際に口腔底扁平上皮癌の症例において、12cmの骨弁を2か所で骨切りし、キルシュナー鋼線と骨間固定で固定後に良好な骨シンチグラフィー所見が得られたケースが報告されています。
二重血管茎を活用する術式のポイントを整理すると:
- **骨枝**:肩甲骨外側縁の骨膜に走行するメインの骨栄養血管
- **角枝**:肩甲骨下角を直接栄養する副血管で、遠位端の血行確保に貢献
- **二重血管茎の効果**:骨切り後も末端まで血流が維持され、変形が必要な再建に対応可能
さらに肩甲下動脈を血管茎として利用する「肩甲下動静脈茎複合皮弁」では、広背筋(皮)弁や前鋸筋皮弁を同時に移植することができます。1対の血管茎で、骨弁・皮弁・筋皮弁を同時に採取・移植できるというのは、複雑な立体的構造を持つ顎顔面再建において非常に有利です。
ただし、血管茎の長さには限界があります。前述のとおり共通幹型でも動脈最大9.3cmです。腓骨動静脈の茎長と比較すると短い傾向があるため、受容部の血管選択と血管茎の延長戦略を術前に検討しておく必要があります。これが条件です。
対側頸部への血管配置が必要な症例(second free flapなど)では、術前CTシミュレーションで十分な血管茎長を設計することが安全な手術につながります。
遊離骨付き肩甲皮弁の臨床解剖学的研究(J-Stage):42体の解剖データに基づく血管茎長・口径のデータが掲載されています。
歯科口腔外科において顎骨再建の場面で選択肢に挙がるのが、肩甲骨皮弁と腓骨皮弁です。どちらが優れているかという単純な話ではなく、それぞれの血管特性と骨弁の性質が「使いどころ」を決定します。
腓骨皮弁の栄養血管は腓骨動静脈で、採取できる骨の長さが比較的長く、数か所で骨切りしても各骨片への穿通枝で血流を保てる点が強みです。特に下顎体部から下顎枝にかけての連続性再建や、歯槽弓形態の再現が必要な症例では、腓骨皮弁が最も使用頻度の高い方法とされています。
一方で肩甲骨皮弁の血管的優位性は「複合組織の自由度」にあります。
| 比較項目 | 肩甲骨皮弁 | 腓骨皮弁 |
|---|---|---|
| 主な血管茎 | 肩甲下動脈〜肩甲回旋動脈 | 腓骨動静脈 |
| 最大骨弁長 | 約14cm(二重血管茎) | 25cm以上も可能 |
| 皮弁との自由度 | 高い(皮枝・骨枝独立) | 穿通枝皮弁として可能 |
| 複合組織移植 | 広背筋など同時移植可能 | 単独が基本 |
| 血管茎の長さ | やや短い(約9cm前後) | 比較的長い |
| 主な適応 | 上顎・複雑な複合欠損 | 下顎体〜枝の連続欠損 |
群馬大学歯科口腔・顎顔面外科の基準では、5cm以上の区域欠損に対する第一選択として腓骨または肩甲骨を用いた血管柄付き遊離骨移植が挙げられています。血管茎が短い腓骨皮弁に比べ、受容部血管の選択が制限される症例では肩甲骨皮弁が有利になる場合もあります。
また顎顔面補綴診療ガイドライン(2019年)では、胸背動脈角枝を栄養動脈とする広背筋肩甲骨皮弁が腸骨内斜線骨皮弁の代替として有用と明記されており、臨床エビデンスの裏付けもあります。
腓骨皮弁を選ぶ場合は血管茎長が有利で多点骨切りにも対応できる点を活かし、肩甲骨皮弁を選ぶ場合は複合組織の一括採取と立体的な配置の自由度を活かす。これがおおよその指針です。
口腔癌の再建に使われる皮弁(Dental Juku):腓骨皮弁・肩甲骨皮弁を含む各再建皮弁の特徴がわかりやすく解説されています。
実際の手術においては、まず皮弁の挙上体位が問題になります。肩甲骨皮弁の採取には**側臥位**が必要で、一般的な頭頸部手術の仰臥位と体位が異なります。このため、腫瘍切除チームと再建チームを並行させる「2チームアプローチ」を取るか、体位変換を行うかという術式設計が必要です。体位変換を行う場合は全体の手術時間が延長する可能性があるため、術前の綿密な計画が求められます。
下顎再建における実際の術式では、口腔底を含む舌・歯肉粘膜の複合欠損に対して、10×14cmの骨皮弁を設計して使用した報告があります。骨弁12cmを2か所で骨切りし、キルシュナー鋼線と骨間固定で固定。受容部の血管としては上甲状腺動脈と外頸静脈が使用されており、術後8週で骨シンチグラフィー陽性(骨代謝が正常)であったことが確認されています。この数字が正常代謝の証明です。
上顎再建では、肩甲下動静脈茎分割肩甲骨皮弁を用いた術式が報告されています。肩甲骨下角骨で眼窩下壁を、肩甲外側縁骨で頬部の骨性隆起を再建し、肩甲皮弁と傍肩甲皮弁の2つの皮弁で鼻腔側壁と口蓋を再建するという高度な複合再建です。良好な顔面形態を維持するため、①眼窩内容と下眼瞼の下垂防止のための眼窩下壁再建、②頬部の骨性隆起の再現、③歯槽弓の再現の3点に重点を置くことが重要とされています。
血管吻合に際してのポイントは以下の通りです:
- 共通幹型(約95%)では動脈径が分岐から2mm遠位で平均2.8mm。口径が比較的そろっており吻合しやすい
- 直接型(約5%)では動脈径が1.8mmと細くなるため、吻合の難易度が上がる可能性がある
- 静脈弁は分岐部付近に多く存在する(二尖弁が主)ため、逆流防止の意味でも吻合方向に注意が必要
- 角枝が欠損するバリエーション症例が存在する。術前MDCTで事前に把握しておくことが理想的
慶應義塾大学形成外科の報告によれば、遊離皮弁移植全体の成功率はここ数年で約97%に達しています。ただし3%(30例に1例)の血管トラブルリスクは常に念頭に置く必要があります。術後の皮弁モニタリングを丁寧に行うことが、この3%を防ぐための最も現実的なアプローチです。
悪性腫瘍切除後再建(慶應義塾大学医学部形成外科):遊離皮弁の成功率と合併症の詳細が記載されています。
実臨床では、解剖の教科書通りにならない症例が必ず一定数存在します。肩甲骨皮弁においても、血管走行のバリエーションが術式の変更を迫ることがあります。意外ですね。
東京女子医科大学の報告(2009〜2011年、22側)では、肩甲下動脈から肩甲回旋動脈と胸背動脈が分岐する標準型が22側中18側(約82%)である一方、胸背動脈が腋窩動脈から直接分岐するバリエーション型が4側(約18%)確認されています。また角枝は21側(95%以上)で描出されましたが、1側では描出されませんでした。
この数字が何を意味するかというと、約1〜2割の症例では術前に想定した血管構造で手術ができないリスクがあるということです。「大体はこうなっている」という理解だけで術前計画を立てると、手術中に想定外の対応を強いられます。
MDCTを用いた術前の血管描出は、こうしたリスクを低減する有効な手段です。肩甲下動脈・肩甲回旋動脈・胸背動脈の走行はMDCTで良好に描出できることが確認されており、角枝についてはやや描出精度に課題が残るものの、全体的な血管構造の把握には十分とされています。
歯科口腔外科の立場で術前評価に関わる際に確認すべき事項を整理すると:
- 🩻 **MDCT血管造影**:肩甲下動脈系の分岐パターン確認。角枝の有無、走行の確認
- 📐 **欠損形態の3Dシミュレーション**:骨切りの位置・数・採取する骨弁の長さを事前設計
- 🩸 **受容部血管の評価**:頸部郭清後の血管残存状況や、対側頸部使用の可能性を検討
- 📋 **二重血管茎の可否判断**:角枝が確認された症例では積極的に二重血管茎を考慮
顎顔面インプラントを用いた機能的口腔再建においては、骨皮弁の骨質と骨量が補綴の土台となります。肩甲骨外側縁の皮質骨は比較的薄い(最大横幅1.2cm、縦径2.8cmとの解剖データあり)ため、インプラント埋入を計画する場合は骨量の評価を慎重に行う必要があります。これが重要な条件です。
再建後の補綴計画まで見据えた術前評価は、単なる「欠損を塞ぐ再建」から「機能を回復する再建」へとアウトカムを大きく向上させます。口腔外科医と補綴専門家が連携して骨皮弁の設計に関わることが、患者にとっての最善策につながるでしょう。
口腔がん診療ガイドライン(日本癌治療学会):下顎再建の一次・二次再建の考え方と血管柄付き遊離骨皮弁移植の位置付けが詳述されています。
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