「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」の施設基準を全部満たしていると思っていても、実は6割以上の届出診療所が算定漏れを起こしているというデータがあります。
かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(以下、か強診)は、2016年(平成28年)の診療報酬改定で新設された施設基準です。単なる「虫歯・歯周病の治療」にとどまらず、口腔機能管理・摂食嚥下リハビリ・医科歯科連携・在宅歯科診療など、患者の生涯にわたる口腔の健康を継続的に支える機能を持つ診療所を評価する制度です。
厚生労働省が制度設計した背景には、「かかりつけ医」機能の歯科版を社会に普及させるという政策意図があります。超高齢社会の進展にともない、外来通院が難しい患者や複数の全身疾患を抱える患者が急増しており、その受け皿となれる歯科診療所をきちんと認定・評価する必要が生じました。
つまり、か強診は「予防・管理を重視する歯科診療所を診療報酬上で優遇する」制度です。
届出診療所には、スペシャリストとしての機能を求める代わりに、通常より高い点数での算定が認められます。2022年改定・2024年改定を経て要件は段階的に厳格化されており、2024年現在の最新基準を正確に把握することが現場では不可欠となっています。
参考:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(歯科)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html
か強診の施設基準は、大きく「人員要件」「設備要件」「診療実績要件」の3カテゴリに分かれます。これが基本です。
まず人員要件として、常勤の歯科医師が1名以上在籍していることが求められます。また歯科衛生士も常勤換算で1名以上の配置が必要です。いわゆる「院長一人・受付のみ」のクリニックでは要件を満たせません。この点で見落としが多いのが「常勤換算」の計算方法です。週32時間以上勤務を「常勤」と定義しており、複数のパート歯科衛生士の時間数を合算して1名分とみなすことができます。
設備要件については、以下を整備していることが条件となります。
| 設備項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 歯科用吸引装置 | 口腔外バキューム等の飛散防止設備 |
| パルスオキシメーター | 全身状態の管理に必要な医療機器 |
| AED(自動体外式除細動器) | 緊急時対応のための必備機器 |
| 血圧計 | 診療前の全身状態確認用 |
| 医療安全対策の体制 | 院内感染防止対策の実施と記録 |
AEDは診療所内に設置しているだけでなく、「スタッフが実際に使用できる状態」であることを示す研修記録が求められます。意外ですね。
診療実績要件については、届出前1年間の実績として以下が要求されます。例えば、歯科訪問診療(往診)を年間5回以上実施していること、在宅療養支援歯科診療所との連携または自院での対応実績があること、摂食機能療法の算定実績があることなどが含まれます。2024年改定ではこの実績要件がさらに厳しくなり、「口腔機能管理料」や「歯科疾患管理料」の一定以上の算定実績も必要となりました。
実績要件が条件です。書類だけでなく現場での診療実態が問われる点が、か強診の特徴的な部分といえます。
参考:日本歯科医師会「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所 施設基準の概要」
https://www.jda.or.jp/dentist/program/pdf/kakarin_shisetsu.pdf
か強診の届出を行うと、複数の診療報酬項目で「か強診のみ算定可能」または「加算が大幅アップ」となります。これは使えそうです。
代表的な例として「歯科疾患管理料」があります。か強診でない診療所では月1回110点ですが、か強診では月1回110点に加え、継続的歯科疾患管理加算として一定要件を満たすと追加の評価を受けられます。また「フッ化物歯面塗布処置」はか強診でのみ算定可能な項目であり、1回あたり80点(約800円)を患者1人あたり算定できます。
さらに「口腔機能管理料(口腔機能管理計画策定料・口腔機能管理料)」「歯周病安定期治療(Ⅱ)」「在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導管理料」など、か強診でのみ算定できる項目、または点数が高くなる項目が多数存在します。
年間収益への影響を具体的な数字でみてみましょう。仮に月間の活動患者数が200人の中規模診療所で、フッ化物塗布対象患者が月40人いるとします。40人×80点×10円×12か月=384,000円が純増します。これに歯科疾患管理料の加算分や口腔機能管理関連を加えると、年間100万円以上の診療報酬増加となるケースが珍しくありません。
| 算定項目 | か強診あり | か強診なし |
|---|---|---|
| フッ化物歯面塗布処置 | 80点(算定可) | 算定不可 |
| 歯周病安定期治療(Ⅱ) | 算定可 | 算定不可 |
| 在宅患者訪問口腔リハビリ指導管理料 | 算定可 | 算定不可 |
| 口腔機能管理料(継続管理) | 高い点数で算定可 | 算定可(点数低め) |
結論は「届出するかどうかで、同じ診療をしても年間数十万〜100万円超の差が出る」ということです。すでに訪問診療や口腔機能管理に取り組んでいる診療所であれば、実績要件を満たしている可能性が高く、早期に届出を検討する価値があります。
か強診の届出は、地方厚生(支)局への施設基準届出が必要です。手順を正確に把握しておくことが大切です。
まず届出に必要な主な書類として、「施設基準に係る届出書(様式第6の10)」「添付書類として実績一覧・設備確認書類・職員配置表」などがあります。実績一覧は、届出前1年間の対象診療行為の算定実績を月ごとに整理したものを提出します。AED設置については「設置場所の図面」や「点検記録」の添付が求められるケースもあります。
届出は原則として保険医療機関の指定を受けた地方厚生(支)局の管轄窓口に書類を持参または郵送で提出します。届出が受理されると、翌月1日からか強診としての算定が可能になります。月初の提出が条件です。
定期報告(毎年の実績報告)も忘れてはなりません。か強診の届出は、毎年7月に実績報告書を地方厚生(支)局へ提出する義務があります。この報告で前年度の実績が施設基準を満たしていないと判断された場合、届出の取り消し(辞退扱い)となり、翌月以降はか強診としての算定ができなくなります。
参考:関東信越厚生局「施設基準に係る届出・報告について(歯科)」
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/gyomu/gyomu/hoken_kikan/shikaku_todokedeki.html
毎年7月の実績報告を怠ると、届出取り消しになる点は特に要注意です。届出自体が形骸化して「いつの間にか届出が失効していた」という事例が現場では報告されています。算定管理ソフトやレセコンのリマインド機能を活用して、7月の報告スケジュールを院内で明確に管理しておきましょう。
か強診の届出をしていても、「算定できるはずの点数を見落としている」あるいは「要件を誤解して不正請求になっている」ケースは決して少なくありません。厳しいところですね。
最も多い見落としの一つが「フッ化物歯面塗布処置の対象年齢誤認」です。この処置はか強診において「20歳以上の患者」にも算定可能ですが、「子ども向けだから小児患者だけに施術している」と誤認している診療所が多いとされています。成人患者にも適切な説明と同意のもとで実施することで、月あたりの算定件数を大幅に増やせます。
次に多いのが「歯科疾患管理料の算定タイミングのミス」です。この管理料は初回算定月を起点として、一定の間隔・条件を守らないと算定できません。レセコン上での自動警告を過信して、実際の診療記録と乖離が生じるケースがあります。カルテへの記載内容(管理計画・患者説明の記録)が不十分だと、指導・監査での指摘対象になります。カルテ記録が原則です。
また独自視点として注目したいのが、「医科歯科連携加算の活用不足」の問題です。か強診は医科医療機関との連携体制を持つことを求められていますが、実際に診療情報提供書(歯科から医科への紹介状)を発行したり、医科からの情報提供を受けて診療に反映したりするたびに、「診療情報連携共有料」(120点)の算定が可能です。この点数は多くの診療所で算定漏れが起きており、月に数件対応しているだけでも年間数万円単位の機会損失につながります。
算定漏れを防ぐためには、「月次レセプトチェックの際にか強診専用の確認項目リストを使う」ことが有効です。医療事務スタッフと歯科衛生士が連携し、診療記録・算定状況・実績データを月ごとに照合する体制を構築することで、不正請求リスクと機会損失を同時に最小化できます。こうした院内管理の仕組み作りに、歯科医院向け経営支援サービスや医療事務コンサルティングを活用している診療所も増えています。一度体制を整えれば、毎年の定期報告も格段にスムーズになります。
参考:日本歯科医師会「令和6年度 診療報酬改定 歯科点数表の主な変更点」
https://www.jda.or.jp/dentist/program/r6kaitei.html