腹腔鏡下手術を受けた患者が翌日に歯科を受診すると、抗凝固薬の影響で止血が困難になるケースがあります。
腹腔鏡下手術は、お腹に数か所の小さな穴を開け、炭酸ガスで腹腔を膨らませながら行う低侵襲手術です。 開腹手術に比べて回復が早く、患者への負担が少ないとされるため、近年は件数が急増しています。 med.fukuoka-u.ac(https://www.med.fukuoka-u.ac.jp/urology/laparoscopic_surgery.html)
しかし「傷が小さいから安全」と思い込んでいる患者は少なくありません。実はそうとも言い切れません。
腹腔鏡下手術後の患者が歯科を受診するケースは珍しくありません。血栓予防のための抗凝固薬を服用したまま来院した場合、抜歯後の止血に通常の2〜3倍の時間がかかることがあります。 つまり術後管理の内容を事前に把握することが条件です。 doctorbook(https://doctorbook.jp/contents/421)
術後の患者から「腹腔鏡手術を受けました」と聞いた歯科医従事者が、その合併症リスクをどこまで理解しているかで、患者対応の質が大きく変わります。手術の内容・使用薬剤・合併症の有無を問診で確認することが原則です。
臓器損傷の発生率を見ると、膀胱・尿管損傷が0.03〜0.13%、腸管損傷が0.08〜0.5%とされています。 数字だけ見ると小さく感じますが、年間数万件の手術が行われる中では、決して無視できない件数です。 umu-navi.jusendo.or(http://umu-navi.jusendo.or.jp/ope-navi/images/PDF_gynecology_endoscope.pdf)
特に注意すべきはガス塞栓症です。 炭酸ガスが血管内に入り込み、肺の血管を閉塞させる状態で、発症すると生命に関わる危険な合併症です。 これは極めてまれではあるものの、発症した場合の重篤度は高い。 med.nagoya-u.ac(https://www.med.nagoya-u.ac.jp/nyusen/sick/adrenal/comp/)
大血管損傷も見逃せないリスクです。トロッカー(お腹の外と内をつなぐ細い管)を挿入する際に、腹部大動脈や下大静脈を傷つけるケースがあります。 発生頻度は低くても、出血性ショックに至る可能性があるため重大です。 med.nagoya-u.ac(https://www.med.nagoya-u.ac.jp/nyusen/sick/adrenal/comp/)
| 術中合併症の種類 | 発生率の目安 | 主なリスク |
|---|---|---|
| 膀胱・尿管損傷 | 0.03〜0.13% | 術後排尿障害・再手術 |
| 腸管損傷 | 0.08〜0.5% | 腹膜炎・緊急開腹 |
| ガス塞栓症 | 極めてまれ | 肺血管閉塞・生命危機 |
| 大血管損傷 | まれ | 出血性ショック |
術後合併症の中でも特に頻度と重症度のバランスで注意が必要なのが、深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓症です。 腹腔鏡手術では頭低位(頭を10〜15度下げた体位)での手術が多く、下肢への血流が滞りやすい環境になります。 pegasus.or(https://www.pegasus.or.jp/departments/surgery/laparoscopic_surgery.html)
これが基本です。既往のある患者には術前から抗凝固薬が投与されます。
腸閉塞(イレウス)も術後合併症の一つです。 腸管が術中の操作や炎症によって癒着し、消化管の通過障害を起こします。術後数日から数週間後に発症することもあるため、退院後の患者が来院した際も注意が必要です。 jsog-k(https://jsog-k.jp/journal/journal_detail.html?id=19654)
創部感染・臍部感染は腹腔鏡手術で比較的起こりやすい合併症で、臍部は構造上汚染されやすく、CiNiiの調査では135件中1件(約0.7%)の感染が報告されています。 創部感染を起こした患者が歯科に来院した場合、全身的な感染状態が歯科処置のリスクを高めることがあります。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1050845762951953536)
術後の呼吸器合併症も無視できません。 気腹操作による横隔膜への影響から、術後に皮下気腫や呼吸障害が発生することがあります。手術後の患者が「肩が痛い」「息苦しい」と訴えた場合、歯科由来の症状と混同しないよう鑑別が必要です。 chemotherapy.or(https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/05501/055010001.pdf)
歯科従事者が最も意識すべきなのは、合併症そのものより「合併症予防のために使われる薬剤」です。これは使えそうな情報ですね。
血栓症予防のために処方されるワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)は、抜歯・切開処置における出血リスクを著しく高めます。 具体的には、抗凝固療法中の患者では術後出血のリスクが非服用患者と比較して2〜3倍程度高まるとされています。腹腔鏡下手術後にこれらを服用中の患者への処置前には、処方医への照会が必須です。 doctorbook(https://doctorbook.jp/contents/421)
術後の投薬状況を確認せずに処置を進めることは、患者に重大なリスクをもたらします。問診票に「最近手術を受けましたか」という項目を設けることが予防の第一歩です。服用薬のリストを持参してもらう運用にすれば、確認が1ステップで完了します。
DoctorBook:腹腔鏡手術のメリットと安全性・術後合併症について(専門医解説)
「手術歴あり」の一言から合併症が発見された事例は、臨床現場では決して珍しくありません。歯科の問診は、患者が最後に医療機関と接触する場面になることがあります。
腹腔鏡手術後の患者が術後腸閉塞の初期症状(腹部膨満・食欲不振)を歯科医師に打ち明けたことで、消化器科への紹介につながったケースが報告されています。 専門外であっても「何かおかしい」と気づける知識が、患者を守ることがあります。これは大事なことです。 m-zenjin.or(https://www.m-zenjin.or.jp/sinryoka/fujin_lap2.html)
chemotherapy.or(https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/05501/055010001.pdf)
歯科医従事者が「自分には関係ない」と思い込んでいる情報こそ、実は患者の命を左右することがあります。 腹腔鏡下手術の合併症知識は、外科系の話ではなく全診療科に共通する患者安全の基礎知識と捉えるべきです。合併症の知識を持つことが条件です。 doctorbook(https://doctorbook.jp/contents/421)
定期的に院内勉強会や医科歯科連携の研修に参加することで、最新の術後管理情報を得ることができます。日本歯科医師会や各地区医師会が提供する継続研修プログラムを活用する方法が、最も現実的な一歩になります。
名古屋大学医学部附属病院:手術後の合併症について(トロッカー挿入リスク・ガス塞栓症の解説)