抗うつ薬として処方したアミトリプチリンが、うつ病の治療量より低用量で鎮痛効果を発揮するのはご存知でしたか。
鎮痛補助薬(adjuvant analgesic)とは、「主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが、鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め、特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物」と定義されています。 歯科臨床では、ロキソニンやカロナールなどのNSAIDsやアセトアミノフェンが第一選択ですが、難治性の神経障害性疼痛にはこれらだけでは十分な鎮痛が得られないケースがあります。 そこで鎮痛補助薬を「上乗せ」する形で併用するのが現代の疼痛管理の考え方です。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
鎮痛補助薬という概念を知らないまま、NSAIDsの用量を増やし続けるだけでは消化管障害・腎障害のリスクが高まるだけです。 薬を変えることで解決できる痛みがあると知っておけば、患者への対応の幅が大きく広がります。これは使えそうです。 tenroku-orthop(https://tenroku-orthop.com/column/848/)
抗うつ薬を鎮痛補助薬として使う場合、中枢神経系のセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、下行性抑制系を賦活することで鎮痛効果を発揮します。 重要なのは、鎮痛効果はうつ病の治療量よりも低用量(アミトリプチリン開始量10mg/日)で現れ、効果発現も投与開始1週間以内と早い点です。 「抗うつ薬=うつの人だけの薬」という認識は誤りです。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
代表薬と特徴を整理しておきましょう。
| 薬剤名 | 分類 | 開始量 | 維持量 | 主な副作用 |
|---|---|---|---|---|
| アミトリプチリン | TCA(三環系) | 10mg/日(就寝前) | 10〜75mg/日 | 眠気・口渇・便秘・排尿障害 |
| デュロキセチン | SNRI | 20mg/日(朝食後) | 40〜60mg/日 | 悪心・食欲不振・頭痛・不眠 |
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SNRIのデュロキセチンは、近年のガイドラインで選択順位が高くなっており、三環系よりも副作用プロファイルが扱いやすいとされています。 ただしデュロキセチンはCYP2D6阻害作用があるため、同酵素で代謝される他剤との薬物相互作用に注意が必要です。副作用に注意すれば大丈夫です。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
参考:日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」鎮痛補助薬の章(作用機序・用量の詳細あり)
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ガバペンチノイドは、シナプス前膜の電位依存性Ca²⁺チャネルのα2δサブユニットに結合し、神経細胞の興奮を抑制することで鎮痛効果を示します。 プレガバリン(リリカ)とミロガバリン(タリージェ)が代表薬で、国際疼痛学会(IASP)および日本ペインクリニック学会のガイドラインでは神経障害性疼痛に対する第一選択薬に位置づけられています。 歯科でも三叉神経痛や抜歯後神経障害に応用できる薬剤です。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
両剤の大きな特徴は、肝臓でほとんど代謝されないため薬物相互作用を受けにくい点です。 一方で、未変化体として尿中に排泄されるため、腎機能が低下した高齢患者ではクレアチニンクリアランスに応じた投与量調節が必須となります。腎機能の確認が条件です。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
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患者に眠気やふらつきがあることを事前に説明しておくことが重要です。特に高齢者では転倒リスクに直結するため、転倒予防の観点からも副作用の説明は怠れません。これは厳しいところですね。
三叉神経痛の第一選択薬として広く知られるカルバマゼピン(テグレトール)は、神経細胞膜のNa⁺チャネルを阻害することで神経の過剰興奮を抑制します。 開始量は200mg/日(就寝前)、維持量は600mg/日が目安で、眠気のない範囲で段階的に増量します。 ただし、骨髄抑制があるため化学療法中や全身性骨転移の患者には原則として使用できません。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
抗痙攣薬は薬物相互作用を起こしやすい薬剤が多く、多剤併用時には特に注意が必要です。 バルプロ酸では肝機能障害・高アンモニア血症が起こることがあり、意識障害を認めた際には血中アンモニア値の測定を行います。副作用のモニタリングが基本です。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
| 薬剤名 | 主な適応 | 開始量 | 注意すべき副作用 |
|---|---|---|---|
| カルバマゼピン | 三叉神経痛 | 200mg/日(就寝前) | 骨髄抑制・ふらつき・眠気 |
| バルプロ酸 | 神経障害性疼痛 | 200mg/日(就寝前) | 肝機能障害・高アンモニア血症 |
| クロナゼパム | 神経障害性疼痛 | 0.5mg/日(就寝前) | ふらつき・眠気・運動失調 |
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参考:日本口腔顔面痛学会・日本ペインクリニック学会「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン」(三叉神経痛への具体的なカルバマゼピン使用指針が記載)
リドカインとメキシレチンは「局所麻酔薬兼抗不整脈薬」として分類される鎮痛補助薬です。 損傷した神経でNa⁺チャネルが異常増加し神経過敏が生じた場合に、全身投与されたリドカインがその異常チャネルを選択的に遮断することで、正常な神経伝達を妨げずに鎮痛効果を示します。 リドカインは歯科麻酔でなじみ深い薬ですが、全身投与の文脈では全く別の注意事項が存在します。意外ですね。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
NMDA受容体拮抗薬のケタミンは、もともと麻酔薬として使われてきた薬剤ですが、帯状疱疹後神経痛や幻肢痛を含む難治性神経障害性疼痛に鎮痛補助薬として用いられます。 ケタミンは脳圧亢進作用・血圧上昇作用があるため、高血圧(収縮期血圧160mmHg以上)・脳血管障害の患者には禁忌であることを必ず確認してください。 夢・幻覚・興奮といった特徴的な副作用があります。これは夢で終わらせてはいけません。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
歯科臨床で独自に注目したいのが、鎮痛補助薬として使われるコルチコステロイド(デキサメタゾン・ベタメタゾン)です。 骨転移による痛みや腫瘍による神経圧迫だけでなく、重篤な歯性炎症の術後疼痛管理においても浮腫軽減・プロスタグランジン抑制の観点から短期的に使用することがあります。ただし、長期投与では口腔カンジダ症・高血糖・消化性潰瘍・骨粗しょう症のリスクが高まるため、投与期間の管理が重要です。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
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参考:公益財団法人日本薬剤師会「鎮痛補助薬について」(作用機序別の薬剤一覧・Naチャネル遮断作用の解説)
https://www.fpa.or.jp/library/kusuriQA/06.pdf
鎮痛補助薬の中で日本国内で痛みに関連する保険適用を持つ薬剤は限られており、ミロガバリン・プレガバリン・アミトリプチリン・デュロキセチン・カルバマゼピン・メキシレチンが代表的です。 それ以外の多くの薬剤は、痛みの治療として使う場合には保険適用外(off-label)の使用となります。これが原則です。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
保険適用外の処方は患者への十分なインフォームドコンセントが前提となります。 「なぜこの薬を処方するのか」「本来は何の薬か」「どんな副作用があるか」の3点を明確に説明しておかないと、患者から「なんで精神科の薬を出されたの?」というクレームにつながることもあります。説明責任が条件です。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)
また、ビスホスホネート製剤(ゾレドロン酸など)を鎮痛補助薬として使用されている患者が歯科を受診した場合、抜歯などの侵襲的処置により顎骨壊死(BRONJ/MRONJ)が生じるリスクがあります。 投与中は侵襲的な歯科処置をできる限り避け、異常を認めた際は直ちに口腔外科と連携することがガイドラインで求められています。 鎮痛補助薬の処方歴確認は問診の必須項目です。 jspm.ne(https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_06.pdf)