ブローイング訓練を「嚥下全般に効く万能訓練」だと思って実施すると、患者に適切なリハビリを提供できないリスクがあります。
ブローイング訓練は、ストローを使って水にぶくぶくと息を吹き込む動作を繰り返す間接訓練です。 吹く動作により鼻咽腔が反射的に閉鎖されることを利用し、鼻咽腔閉鎖に関わる神経・筋群の機能を改善させることが主な目的です。 気管内圧を上昇させて気道の虚脱を防ぐ効果や、呼気持続時間を延長させる効果も期待できます。 takeuchi-family(https://www.takeuchi-family.com/disease/dysphagia-manual/manual4/)
対象患者は主に「鼻咽腔閉鎖不全」のある方です。 鼻咽腔閉鎖不全とは、筋肉や神経の障害によって鼻腔と口腔を分離できなくなった状態で、食べ物や飲み物が鼻に逆流してしまうことがあります。 つまり「嚥下機能が低下しているすべての患者」が対象ではない、という点が重要です。 yoshijibika(https://www.yoshijibika.com/archives/21848)
具体的には以下のような患者に適応となります。
- 🔹 鼻咽腔閉鎖不全による開鼻声・構音の歪みがある患者
- 🔹 口唇閉鎖力が低下した患者(食物のこぼれ・ドライマウスリスク)
- 🔹 呼吸機能が弱く、喀出力の低下した患者
- 🔹 誤嚥性肺炎リスクのある高齢者で呼気持続が短い患者
「すべての嚥下障害患者に実施すればよい」という認識は正確ではありません。適応を正しく見極めることが、歯科従事者として質の高いリハビリ提供につながります。
ブローイング訓練を1日10回×2セット、3か月継続すると口輪筋の引っ張り強さが有意に向上することが研究で示されています。 口輪筋は食塊形成や嚥下時の口唇封鎖に直結する筋肉であり、その強化は誤嚥リスクの低減にも寄与します。これは見逃せない効果ですね。 www5f.biglobe.ne(http://www5f.biglobe.ne.jp/~asada-shika/images/2020_1013.pdf)
呼吸機能の面では、呼気持続時間の延長・肺機能の改善も報告されています。 広島県のモデル事業として複数の病院・施設で実施されたところ、呼吸機能に大きな改善効果が見られたという報告もあります。 誤嚥性肺炎予防の観点からも、呼吸訓練としての側面は非常に重要です。 nichiiko.co(https://www.nichiiko.co.jp/generic/swallow/swallow_exercise02.php)
効果をまとめると以下の通りです。
| 効果の種類 | 詳細 |
|---|---|
| 口輪筋強化 | 3か月で引っ張り強さが有意に向上 www5f.biglobe.ne(http://www5f.biglobe.ne.jp/~asada-shika/images/2020_1013.pdf) |
| 鼻咽腔閉鎖機能改善 | 吹く動作による反射的閉鎖の訓練 takeuchi-family(https://www.takeuchi-family.com/disease/dysphagia-manual/manual4/) |
| 呼気持続時間の延長 | 誤嚥性肺炎予防に寄与 takeuchi-family(https://www.takeuchi-family.com/disease/dysphagia-manual/manual4/) |
| 口唇閉鎖機能改善 | 食物のこぼれ・口腔乾燥の軽減 nichiiko.co(https://www.nichiiko.co.jp/generic/swallow/swallow_exercise02.php) |
ブローイング訓練はもともと、鼻咽腔閉鎖不全に伴う開鼻声や構音の歪みに対して実施されてきた訓練法です。 そのため、発話(構音)以外の機能訓練には効果がないという報告もあることを理解しておく必要があります。 歯科従事者として、この限界を知らずに実施し続けることは、患者への適切なアプローチを妨げるリスクがあります。 co-medical.mynavi(https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/kokushi/drill/1752/)
意外ですね。「嚥下全般に使える」と思っていた方は多いのではないでしょうか。
たとえば、嚥下反射の遅延が主な問題である患者や、食道期の問題を持つ患者には、ブローイング訓練単独では十分な改善が見込めません。そうした患者には、シャキア訓練・バルーン法・メンデルゾーン手技など、問題の本質に対応した訓練と組み合わせることが重要です。 toneyama.hosp.go(https://toneyama.hosp.go.jp/patient/forpatient/pdf/care2008-26.pdf)
参考リンク先では、ブローイング訓練の適応と他の間接訓練の使い分けについて詳しく解説されています。
摂食嚥下訓練の選択:ブローイングの適応と注意点(マイナビコメディカル)
同じブローイング訓練でも、水溶液の粘性度やストローの径を変えるだけで、訓練効果は大きく変わります。これは使えそうです。
ペットボトルブローイングでは、キャップの締め方を調節することで呼気の抵抗を変えられます。 軽く締めると抵抗が弱く、強く締めると抵抗が強くなり、患者の状態に合わせて段階的に負荷を上げることができます。 youtube(https://www.youtube.com/watch?v=8fkF57t38_k)
具体的な工夫の例を以下に示します。
- 💧 水 → トロミ水に変更:口輪筋への負荷を高め、筋活動量が有意に増加
- 🧴 ストロー径を細くする:呼気抵抗が増し、より高い呼気圧が必要になる
- 🔩 ペットボトルキャップを調節:段階的な抵抗設定が可能、自宅訓練にも応用できる
- 📏 1回10秒×10回:1セットの目安として、1日3セット実施が推奨される houmonshika(https://www.houmonshika.org/oralcare/c182/)
条件を変えるだけで訓練効果が変わるということですね。患者の筋力や疲労度に合わせて条件を段階的に変えていくことが、効果的なリハビリプログラムの設計につながります。
参考リンク先では、粘性度とストロー条件がブローイング時の筋活動に与える影響の詳細な研究データが確認できます。
ブローイング訓練の効果は、身体機能の改善にとどまりません。口腔周囲筋の機能低下を認める高齢者に対して、口輪筋機能の向上を通じて社会性の向上にも寄与する可能性が示唆されています。 www5f.biglobe.ne(http://www5f.biglobe.ne.jp/~asada-shika/images/2020_1013.pdf)
どういうことでしょうか。
口輪筋が弱化すると、食塊形成が困難になるだけでなく、一部の発音が不明瞭になりやすくなります。 発音の問題は、他者とのコミュニケーションへの不安につながり、会話を避けたり対人関係から遠ざかったりする要因になることがあります。 結果として、フレイルや認知機能低下のリスクも高まる悪循環が生まれます。 www5f.biglobe.ne(http://www5f.biglobe.ne.jp/~asada-shika/images/2020_1013.pdf)
これは大きなポイントです。歯科従事者として介入できる訓練が、「食べる機能」だけでなく「話す・交わる」機能の維持にも直結している、という視点を持つことが重要です。
特に通所・在宅歯科診療の現場では、訓練の効果を「嚥下機能」だけで評価せず、コミュニケーション能力や生活の質(QOL)の変化も観察することが推奨されます。日本摂食嚥下リハビリテーション学会の訓練法ガイドラインでも、こうした多面的な評価の重要性が述べられています。 jsdr.or(https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/18-1-p55-89.pdf)
参考リンク先では、ブローイング訓練を含む口腔機能向上訓練法の研究報告が確認できます。
口腔機能向上訓練方法としてブローイング訓練の応用(浅田歯科研究報告)
正しい手順で実施しないと、患者に誤った学習が定着したり、誤嚥リスクが生じたりします。手順が基本です。
【標準的な実施手順】
1. 患者をベッドアップ30〜90度の姿勢に整える(誤嚥リスク軽減)
2. コップまたはペットボトルに水を入れ、ストローをセットする
3. 「鼻から吸って、口からゆっくりぶくぶく吐いてください」と指示する
4. できるだけ長く、静かに連続して泡を立てることを目標とする swallow-web(http://www.swallow-web.com/engesyogai/approach4.html)
5. 1回5〜10秒の吹き続けを1セット10回、1日3セット実施 houmonshika(https://www.houmonshika.org/oralcare/c182/)
6. 終了後、口を閉じて空嚥下を促す kango-roo(https://www.kango-roo.com/mv/180/)
注意点として、うまく泡が出ない場合は介助者が指で鼻をふさいでサポートする方法があります。 ただし、誤って水を吸い込まないよう常に注意が必要です。 特に嚥下機能が著しく低下している患者では、ペットボトルブローイングより綿棒やろうそく・ティッシュを使ったハードブローイングの方が安全な場合があります。 k-dc(https://www.k-dc.net/column/728)
歯科従事者として特に注意すべき点は以下の通りです。
- ⚠️ 鼻咽腔閉鎖不全がない患者への無差別な実施は適応外となりうる
- ⚠️ 発話機能以外への効果には個人差・エビデンスの限界があることを患者・家族に説明する co-medical.mynavi(https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/kokushi/drill/1752/)
- ⚠️ 介護施設での自主訓練指導時は、ペットボトルの衛生管理(定期交換)を徹底する
- ✅ 訓練の進捗は「呼気持続時間」「口輪筋力測定」などで定量的に評価するとより有効
参考リンク先では、摂食嚥下訓練における各間接訓練の詳細な手順と注意点が掲載されています。
食べ物を使わない嚥下障害の訓練法(国立病院機構刀根山医療センター)