月1回製剤を服用している患者でも、抜歯前に必ず休薬するのが正しいとは限りません。
ビスフォスフォネート(BP)製剤は、骨の吸収を抑制することでカルシウムが骨から溶け出すのを防ぐ薬剤です。 主に骨粗鬆症や悪性腫瘍の骨転移治療に使用されており、月1回の内服製剤としてはボノテオ(ミノドロン酸)やベネット(リセドロン酸)が広く処方されています。 dental-hirai(https://dental-hirai.jp/column/p1450/)
月1回製剤が普及した背景には、毎日または週1回の服薬に比べてアドヒアランス(治療継続率)が向上しやすい点があります。これは利点ですね。一方、1錠に含まれる用量が高いため、体内での蓄積パターンが日内服タイプとは異なる点に注意が必要です。
BP製剤は骨のミネラル成分(ハイドロキシアパタイト)に強く結合し、骨内に長期間蓄積されるという特性があります。 投薬を中止しても薬剤が骨から消えるまでに数年単位かかるため、「服薬をやめた患者=リスクがない」とはなりません。骨の半減期を考えると、完全に消失するまでに最長10年以上かかるとも報告されています。 d-furuse(https://www.d-furuse.com/14828332771711)
| 製品名 | 一般名 | 投与頻度 | 剤形 |
|---|---|---|---|
| ボノテオ® | ミノドロン酸 | 月1回 | 経口錠(50mg) |
| ベネット® | リセドロン酸 | 月1回 | 経口錠(75mg) |
| アクトネル® | リセドロン酸 | 週1回 | 経口錠(17.5mg) |
| フォサマック® | アレンドロン酸 | 週1回 | 経口錠(35mg) |
| ゾメタ® | ゾレドロン酸 | 月1回 | 静注 |
歯科従事者が最初に確認すべきは、患者が経口製剤なのか静注製剤なのかです。 この区別が、後述するリスク評価の出発点になります。 tda8020(https://tda8020.org/2025/08/25/h20250825/)
顎骨壊死(BRONJ/MRONJ)は、BP製剤を使用中に発症しうる最も重篤な歯科関連合併症です。 骨が口腔内に露出し、感染・疼痛・顎の機能障害へと進行します。これは深刻ですね。 misu-dental(https://misu-dental.com/news/archives/246)
発生率については、投与経路によって大きな差があります。 tda8020(https://tda8020.org/2025/08/25/h20250825/)
- 📌 経口BP製剤(月1回含む):0.001〜0.01%(10万人に1〜10人程度)
- 📌 静注BP製剤(悪性腫瘍適応):0.88〜1.15%(100人に約1人)
- 📌 抜歯などの侵襲的処置を加えた場合:発生率が最大10倍に上昇 tda8020(https://tda8020.org/2025/08/25/h20250825/)
月1回の経口製剤はリスクが低い部類に入ります。しかし「0ではない」ことが重要です。
ローカルリスクファクターも発症に大きく関与します。 具体的には、口腔衛生状態の不良、歯周病・根尖病巣の存在、過去の侵襲的歯科処置歴が代表的です。全身的リスクとしては、糖尿病・ステロイド使用・喫煙・化学療法歴なども発症確率を高める要因です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/272-1.pdf)
参考:日本骨粗鬆症学会による骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)ポジションペーパー(2023年改訂版)に関する解説
抜歯の予定だがBP製剤は休薬するべきか?最新ポジションペーパーの見解まとめ
「月1回製剤を飲んでいる患者には抜歯前に3ヶ月休薬してもらう」という対応は、今の標準的見解ではありません。 kenkyugakuenshika(https://kenkyugakuenshika.com/2025/02/26/bp%E8%A3%BD%E5%89%A4%E3%81%AF%E4%BC%91%E8%96%AC%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%B9%E3%81%8D%E3%81%8B%EF%BC%9Fbp%E8%A3%BD%E5%89%A4%E3%82%92%E9%A3%B2%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%84%E3%82%8B%E6%96%B9%E3%81%B8/)
2023年改訂の「顎骨壊死関連薬剤(ARONJ)に関するポジションペーパー」では、経口BP製剤使用中の骨粗鬆症患者に対して、原則として抜歯時に休薬しないことを提案しています。 この改訂は大きな転換点でした。 kaneshiro-ra(https://kaneshiro-ra.com/osteoporosis/medication-related-osteonecrosis-of-the-jaw-position-paper-2023/)
その根拠は主に2点です。
1. 休薬による顎骨壊死リスク低減のエビデンスが不十分であること kenkyugakuenshika(https://kenkyugakuenshika.com/2025/02/26/bp%E8%A3%BD%E5%89%A4%E3%81%AF%E4%BC%91%E8%96%AC%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%B9%E3%81%8D%E3%81%8B%EF%BC%9Fbp%E8%A3%BD%E5%89%A4%E3%82%92%E9%A3%B2%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%84%E3%82%8B%E6%96%B9%E3%81%B8/)
2. 休薬すると骨折リスクが上昇し、患者の全身状態に悪影響を及ぼす可能性があること gcoa(https://gcoa.jp/doc/statement/statement_2023_02.pdf)
一方、以下のハイリスクケースでは個別判断が必要です。 kenkyugakuenshika(https://kenkyugakuenshika.com/2025/02/26/bp%E8%A3%BD%E5%89%A4%E3%81%AF%E4%BC%91%E8%96%AC%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%B9%E3%81%8D%E3%81%8B%EF%BC%9Fbp%E8%A3%BD%E5%89%A4%E3%82%92%E9%A3%B2%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%84%E3%82%8B%E6%96%B9%E3%81%B8/)
- ⚡ 静注BP製剤(悪性腫瘍適応)を使用中の患者
- ⚡ 経口BP製剤を4年以上使用し、かつ糖尿病・ステロイド使用などの追加リスク因子がある患者
ただし「休薬不要=何も確認しなくていい」ではありません。処方医への情報照会と、患者への口腔衛生指導は引き続き必須です。 jda.or(https://www.jda.or.jp/park/relation/medicine_disease.html)
参考:2023年改訂ポジションペーパーに関する骨粗鬆症専門医の解説(休薬の有用性とリスク評価)
骨の治療と歯の健康〜7年ぶりにポジションペーパーが改定されました|金城リウマチ整形外科
実際の診療では、問診でBP製剤服用が判明した時点で、以下の順に情報を収集します。これが基本です。
① 投与経路の確認(経口 or 静注)
経口製剤(月1回含む)か、静注製剤(ゾメタ等)かによってリスクレベルが大きく異なります。 お薬手帳を持参してもらうか、処方医に問い合わせると確実です。 tda8020(https://tda8020.org/2025/08/25/h20250825/)
② 投与期間の確認(3年未満 or 3年以上)
投与期間が3年未満で追加リスク因子がなければ、休薬なしで侵襲的処置が可能です。 3年以上の場合は、処方医と相談のうえで休薬を検討します。 ojihosp.or(https://ojihosp.or.jp/contents/igaku/847.html)
③ 全身リスクファクターの把握
糖尿病・ステロイド使用・喫煙・化学療法歴などが重なっているかを確認します。 リスクが重なるほど、処方医との連携が重要になります。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/272-1.pdf)
④ 口腔内の局所状態の評価
歯周病・根尖病巣・口腔衛生状態の確認は、局所リスクを把握するうえで不可欠です。 感染がある状態で抜歯を先延ばしすることが、逆に顎骨壊死リスクを高める可能性があります。 perio(https://www.perio.jp/publication/upload_file/position_paper_bisphos.pdf)
⑤ 処置後の経過観察と口腔衛生指導
抜歯後も投薬は原則継続します。 術後は創部の治癒確認と口腔衛生指導を丁寧に行うことで、感染リスクを最小化できます。 gcoa(https://gcoa.jp/doc/statement/statement_2023_02.pdf)
| 条件 | 推奨対応 |
|---|---|
| 経口BP・3年未満・追加リスクなし | 休薬不要・通常処置可 |
| 経口BP・3年以上 or 追加リスクあり | 処方医と相談・3ヶ月休薬を検討 |
| 静注BP(骨粗鬆症適応) | 処方医と連携・個別判断 |
| 静注BP(悪性腫瘍適応) | 高リスク・口腔外科専門医への紹介も検討 |
参考:日本歯科医師会による骨粗鬆症患者への歯科対応ガイダンス(リスクファクター・処置方針の詳細)
骨粗鬆症(ビスフォスフォネート系製剤、抗RANKL抗体など)|日本歯科医師会
2012年4月から、BP系製剤服用中の骨粗鬆症患者の口腔管理に対して月1回の診療報酬が認められています。 これは見逃せないポイントです。制度を活用することで、継続的な口腔管理と早期リスク発見が可能になります。 jsbmr.umin(https://jsbmr.umin.jp/guide/pdf/bronjpositionpaper2012.pdf)
月1回の定期管理で行うべき内容は、以下の通りです。
- 🦷 プラーク・歯石の除去(口腔衛生状態の維持)
- 🦷 歯周病・根尖病巣の定期チェック
- 🦷 骨露出・疼痛・感覚異常の有無の確認(顎骨壊死の早期発見)
- 🦷 口腔衛生指導と自己管理の強化
- 🦷 処方医へのフィードバック(変化があれば速やかに連絡)
医歯連携の観点では、BP製剤開始前に歯科処置を済ませておくことが理想です。 抜歯が必要な場合は、投薬開始前に行うことで顎骨壊死リスクを大幅に下げられます。「投薬開始後に歯科に来てから気づく」パターンを防ぐために、内科・整形外科側への働きかけも歯科側の重要な役割です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/272-1.pdf)
BP製剤服用患者の口腔管理で使いやすいのが、「かかりつけ薬剤師連携」のアプローチです。薬局側でお薬手帳にBP製剤使用歴を明記してもらう取り組みが一部で進んでいます。これは使えそうです。歯科受診時に患者がお薬手帳を持参しているかを確認するだけで、見落としのリスクを大きく減らせます。
参考:厚生労働省によるBP系薬剤と顎骨壊死・顎骨骨髄炎に関する安全性情報(処方医・歯科医向けの注意事項)
ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死・顎骨骨髄炎に係る安全性情報|厚生労働省(PDF)