顎骨劣成長の原因と診断および治療

顎骨劣成長は上顎や下顎の成長不全による不正咬合で、早期診断が重要です。成長期の治療時期を逃すと外科矯正が必要になることも。歯科医療従事者が知るべき診断ポイントと最適な介入時期とは?

顎骨劣成長の原因と診断

上顎前突と診断される患者の8割は実は下顎劣成長が原因です。


この記事の要点
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上顎の成長は5歳がピーク

上顎骨の成長は6歳~10歳でほぼ完了し、治療介入の最適期を逃すと抜歯矯正や外科矯正が必要になる

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口呼吸が劣成長を誘発

口呼吸による低位舌は上顎への刺激不足を招き、顎骨の劣成長を引き起こす主要因となる

早期診断が治療の鍵

6~9歳での介入開始が理想的で、成長期を活用した機能的矯正により骨格改善が可能


顎骨劣成長の定義と分類


顎骨劣成長とは、上顎骨または下顎骨の成長が正常範囲よりも遅れ、標準的な発育を達成できない状態を指します。これは単なる歯列の問題ではなく、顎顔面の骨格そのものの発育不全であり、咬合や顔貌に広範な影響を及ぼす病態です。


側面頭部エックス線規格写真(セファロ)分析において、上顎歯槽基底突出度を示すSNA角が小さい場合や、下顎骨の前後的位置関係を示すSNB角が基準値を下回る場合に診断されます。


つまり専門的な分析が必要です。


上顎骨劣成長と下顎骨劣成長に分類され、それぞれ異なる臨床的特徴を示します。上顎骨劣成長では中顔面の陥凹感や反対咬合を呈することが多く、下顎骨劣成長では上顎前突様の外観や後退した顎貌が特徴的です。興味深いのは、いわゆる「出っ歯」と診断される患者の多くが、実際には上顎の過成長ではなく下顎の劣成長が原因であるという点です。


OralStudio歯科辞書:上顎骨劣成長の詳細な定義と診断基準


臨床現場では、顔貌の評価と咬合状態の観察から初期スクリーニングを行い、セファロ分析による定量的評価で確定診断に至ります。早期の段階で適切に診断することが、その後の治療戦略を大きく左右するため、歯科医療従事者には高い診断能力が求められます。


顎骨劣成長の主要な原因

顎骨劣成長の原因は多岐にわたりますが、遺伝的要因と環境的要因の両方が複雑に関与しています。遺伝的要因としては、両親や親族からの骨格パターンの継承があり、日本人を含むアジア系民族では下顎骨の劣成長傾向が比較的高い頻度で見られることが知られています。


これは骨格です。


環境的要因の中で最も重要なのが、口呼吸と低位舌の問題です。生後早期からの鼻呼吸障害、アデノイドや口蓋扁桃の肥大による鼻閉、アレルギー性鼻炎などが口呼吸を誘発します。口呼吸が習慣化すると舌が本来の上顎への接触位置から下がり(低位舌)、上顎骨への生理的な刺激が不足します。


舌は上顎の成長において重要な役割を果たしており、正常な鼻呼吸時には舌が上顎に密着し、持続的な外方への圧力をかけることで上顎の横方向への成長を促進します。しかし口呼吸では舌が下がるため、この刺激が失われ、上顎骨の劣成長につながるのです。


ニコ歯科クリニック:口呼吸と低位舌が顎骨成長に与える影響の詳細


その他の原因として、うつぶせ寝による前方成長の阻害、軟食中心の食生活による咀嚼刺激の不足、長期にわたる指しゃぶりやおしゃぶりの使用、舌小帯付着異常などが挙げられます。これらの要因は単独ではなく、複数が組み合わさって顎骨劣成長を引き起こすケースが大半です。


顎骨劣成長の診断における臨床的着眼点

顎骨劣成長の診断において、歯科医療従事者が見逃してはならない臨床的サインがいくつか存在します。まず顔貌の観察では、中顔面の平坦化や陥凹、オトガイの後方位、顔面高の増加(ロングフェイス)などに注目します。


顔の印象が重要です。


口腔内所見では、前歯部の反対咬合や切端咬合、上顎前歯の唇側傾斜、歯列弓の狭窄、叢生交叉咬合の存在が重要な指標となります。特に上顎歯列弓の狭窄は、上顎骨劣成長の典型的な所見であり、口蓋の高口蓋化を伴うことも多いです。


機能的な評価も欠かせません。口呼吸の有無、舌の位置異常(低位舌)、嚥下時の異常舌運動、発音の問題(特にサ行・タ行)、顎関節症状などを確認します。これらは単なる随伴症状ではなく、顎骨劣成長の原因であると同時に結果でもある相互関連性を持っています。


セファロ分析では、SNA角やSNB角などの角度計測に加え、ANB角による上下顎骨の前後的関係の評価、顔面高の比率、下顎下縁平面角などを総合的に判断します。


これは定量評価です。


重要なのは、「上顎前突」と診断される症例の多くが、実際には下顎劣成長による相対的な上顎前突であるという認識です。上顎骨自体のSNA角は正常範囲内であっても、下顎の後退によって出っ歯の外観を呈するケースが臨床上非常に多く、この鑑別診断を誤ると治療計画が根本から変わってしまいます。


顎骨劣成長の成長期における治療時期の重要性

顎骨劣成長の治療において、介入時期の選択は治療結果を左右する最重要因子です。上顎骨と下顎骨では成長のピーク時期が異なるため、それぞれに最適なタイミングでのアプローチが必要となります。


上顎骨の成長は極めて早期にピークを迎え、5歳頃に最大の成長速度を示し、6歳~10歳の間に成人の約90%の大きさに達します。10歳を過ぎるとほぼ成長が完了してしまうため、上顎骨の劣成長に対する治療介入は可能な限り早期、理想的には6~9歳、遅くとも9歳までに開始することが推奨されます。


この時期を逃すと大変です。


反対咬合や上顎骨劣成長が疑われるケースでは、4~5歳からの早期治療開始も検討されます。上顎前方牽引装置などを用いた成長促進療法は、上顎骨の前方成長を誘導できる時期が限られているため、10ヶ月以上の期間が必要なことも考慮すると、早すぎるくらいの介入が功を奏することもあります。


一方、下顎骨の成長は思春期成長期に大きなピークがあり、男子では18歳頃、女子では13歳頃まで続きます。


つまり長く続きます。


下顎劣成長に対する機能的矯正装置(バイオネーターやFKOなど)の使用は、この思春期成長期に合わせて行うことで、下顎の前方成長を最大限引き出すことが可能です。


あさひ歯科・矯正歯科:顎顔面矯正の適切な治療時期についての詳細解説


成長期を過ぎてからの診断では、骨格的な改善は困難となり、成人矯正では歯の移動による代償的な治療や、重度の場合は外科的矯正治療(顎矯正手術)を併用せざるを得なくなります。手術となると患者負担も増大し、治療期間も2~3年以上に及ぶケースが多くなります。


だからこそ、歯科医療従事者は乳歯列期や混合歯列期の患児を診察する際、顎骨劣成長の早期サインを見逃さない観察眼と、保護者への適切な情報提供が求められるのです。


顎骨劣成長に対する治療アプローチの実際

顎骨劣成長の治療は、患者の年齢、成長段階、劣成長の程度によって大きく異なります。成長期の患者に対しては、骨格の成長を利用した機能的矯正治療が第一選択となり、成長完了後の成人患者では歯の移動による代償治療や外科的矯正が選択肢となります。


上顎骨劣成長に対する成長期治療では、急速拡大装置(RME)による上顎の側方拡大と、上顎前方牽引装置(フェイスマスク)による前方成長の促進を組み合わせることが一般的です。急速拡大装置は正中口蓋縫合を開大させ、上顎骨を文字通り拡大します。


これは効果的です。


その後、フェイスマスクを1日12~14時間以上装着することで、上顎骨全体を前方へ誘導します。


下顎劣成長に対しては、機能的矯正装置(バイオネーター、アクチベーター、FKO、ツインブロックなど)が用いられます。これらの装置は下顎を前方位に誘導保持することで、下顎頭における軟骨性成長を促進し、下顎骨の前方成長を引き出します。


思春期成長期での使用が最も効果的です。


下顎前突や反対咬合の症例では、チンキャップによる下顎の成長抑制と、上顎前方牽引装置による上顎成長促進を併用する「21日間プロトコル」などの集中的アプローチも報告されています。


急速拡大装置とチンキャップを用いた21日間集中治療法の詳細


成長期治療の成功には、患者本人と保護者の協力が不可欠です。可撤式装置の場合、装着時間が治療効果に直結するため、装着時間の管理とモチベーション維持が重要な課題となります。歯科医療従事者は、定期的な装置の調整と経過観察を行いながら、成長の推移を注意深くモニタリングする必要があります。


成長完了後に顎骨劣成長が残存している場合、または成人になってから診断された場合は、外科的矯正治療の適応となることがあります。上顎骨のLe Fort I型骨切り術や下顎骨の矢状分割術(SSRO)などを術前・術後矯正と組み合わせることで、骨格レベルでの根本的改善が可能です。


これは保険適応です。


ただし手術には全身麻酔下での入院が必要で、患者の心理的・身体的・経済的負担は大きくなります。


こうした外科的介入を回避するためにも、成長期での早期診断と適切な治療介入が、患者の将来のQOL向上に直結する重要な臨床判断なのです。




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