PD-1抗体を使用中のがん患者は、歯科治療の延期より継続が推奨されるケースが7割以上あります。「抗がん剤中だから処置を控えよう」と判断すると、かえって患者の口腔環境悪化を招くことがあります。

PD-1(Programmed cell death protein-1)は、T細胞表面に発現する免疫チェックポイント分子です。がん細胞がこの経路を利用して免疫から逃れるのを防ぐのが、PD-1抗体(PD-1阻害薬)の働きです。
現在、国内で承認されている主なPD-1抗体・PD-L1抗体は以下のとおりです。
| 分類 | 一般名 | 商品名 | 開発元 |
|---|---|---|---|
| 抗PD-1抗体 | ニボルマブ | オプジーボ | 小野薬品工業 |
| 抗PD-1抗体 | ペムブロリズマブ | キイトルーダ | MSD(メルク) |
| 抗PD-1抗体 | セミプリマブ | リブタヨ | サノフィ |
| 抗PD-L1抗体 | アテゾリズマブ | テセントリク | 中外製薬 |
| 抗PD-L1抗体 | デュルバルマブ | イミフィンジ | アストラゼネカ |
| 抗PD-L1抗体 | アベルマブ | バベンチオ | メルクセローノ |
抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体は作用点が微妙に異なります。PD-1抗体はT細胞側の受容体を、PD-L1抗体はがん細胞側のリガンドをそれぞれブロックします。結果として免疫系の「ブレーキ」が解除される点は同じですが、副作用プロファイルに若干の差があります。つまり、一覧を見るときに「PD-1抗体かPD-L1抗体か」の区別が臨床上の重要な確認事項です。
ニボルマブは2014年7月に日本初の免疫チェックポイント阻害薬として悪性黒色腫に承認されたパイオニア的存在です。 その後、適応がんの種類は非小細胞肺がん・腎細胞がん・頭頸部がん・ホジキンリンパ腫・胃がんなど多岐にわたっています。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%8D%E7%96%AB%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%9D%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88%E9%98%BB%E5%AE%B3%E5%89%A4)
参考リンク(PD-1/PD-L1阻害薬の種類・適応について詳述)。
免疫チェックポイント阻害剤(Wikipedia)
そもそも免疫チェックポイントとは何でしょうか?
T細胞は本来、がん細胞を攻撃できる能力を持っています。しかし、がん細胞はPD-L1というタンパクを表面に発現させることで、T細胞上のPD-1に結合し「攻撃をやめさせる」シグナルを送ります。これが免疫逃避のメカニズムです。これは言わば「自軍の兵士を敵が偽装して止めてしまう」状況に近いイメージです。
PD-1抗体はPD-1に結合することで、このブレーキ信号を遮断します。その結果、T細胞が再び活性化してがん細胞を攻撃できるようになります。有効性が高い反面、免疫が「正常組織」まで攻撃してしまうリスクも生じます。
これが免疫関連有害事象(irAE:immune-related Adverse Events)の根本的な原因です。 免疫が働きすぎることで、皮膚・消化管・肝臓・肺・ホルモン産生臓器、そして口腔粘膜にも炎症が起きます。irAEが全身に起こりうる点が、歯科従事者にとって重要です。 oncolo(https://oncolo.jp/dictionary/irae)
参考リンク(irAEの定義・発現時期・種類について詳述)。
irAE(immune-related Adverse Events)とは — オンコロ
歯科従事者にとって見落とせない事実があります。ペムブロリズマブ使用患者の約4〜7.2%で口腔乾燥症が報告されており、その背景にはシェーグレン症候群に類似した唾液腺への細胞傷害性Tリンパ球浸潤があります。 口内が乾燥しているだけに見えても、その奥にirAEが潜んでいる可能性があります。 dental-diamond(https://dental-diamond.jp/pages/%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89/%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%8A%9B%E3%81%A6%E3%81%99%E3%81%A8/10462/)
PD-1/PD-L1阻害薬使用中に起こりうる主な口腔irAEを整理すると、以下の通りです。 dental-diamond(https://dental-diamond.jp/pages/%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89/%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%8A%9B%E3%81%A6%E3%81%99%E3%81%A8/10462/)
dental-diamond(https://dental-diamond.jp/pages/%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89/%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%8A%9B%E3%81%A6%E3%81%99%E3%81%A8/10462/)
これは重要な情報ですね。口腔乾燥症の背景がシェーグレン症候群様であるという点は、単なる乾燥感への対症療法では不十分なことを示しています。唾液代替品や保湿ジェルの活用と並行して、腫瘍内科への報告を検討する視点が歯科に求められます。
irAEは投与数か月後に生じることが多いですが、出現時期には大きなばらつきがあります。 「先月から通院している患者さんが最近口腔乾燥を訴えはじめた」という状況が、PD-1抗体投与開始のタイミングと一致するケースは十分に起こり得ます。 oncolo(https://oncolo.jp/dictionary/irae)
PD-1抗体の適応は急速に拡大しています。これは歯科領域にとって直接的な意味を持ちます。
主な適応がん種をリストアップすると下記のとおりです。
oncolo(https://oncolo.jp/cancer/lung-immunecheckpoint)
ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%8D%E7%96%AB%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%9D%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88%E9%98%BB%E5%AE%B3%E5%89%A4)
chigasaki-localtkt(https://chigasaki-localtkt.com/pd1sogaikusurinhikakudetadeshinhori/)
ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%8D%E7%96%AB%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%9D%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88%E9%98%BB%E5%AE%B3%E5%89%A4)
適応がん種が広がるほど、歯科クリニックでPD-1抗体を使用中の患者に出会う確率は高まります。現時点でも日常診療のなかに「免疫チェックポイント阻害薬使用中の患者」がいる可能性は、以前より格段に高いと考えてください。
参考リンク(頭頸部がんを含む免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大に関する情報)。
日本口腔腫瘍学会|免疫チェックポイント阻害薬の副作用管理(PDF)
では、PD-1抗体使用中の患者に歯科はどう対応すればよいでしょうか? まず外来での服薬確認が起点になります。
問診票や口頭確認で「抗がん剤治療中ですか?」とだけ聞いても十分ではありません。「免疫チェックポイント阻害薬やオプジーボ・キイトルーダという薬を使っていますか?」という具体的な薬品名での確認が有効です。患者自身が「免疫療法」と「抗がん剤」を区別していないケースも多いためです。
歯科での確認・対応ポイントを整理します。
irAEに対してステロイドが使われるケースでは、口腔カンジダ症リスクも上がります。これも歯科が警戒すべきポイントです。
irAEの多くは「発見が早いほどグレードが低いうちに対処できる」という特徴があります。 つまり歯科が口腔所見を早期に腫瘍内科に伝えることは、患者の治療継続に直接貢献することを意味します。これは使えそうな知識ですね。歯科は「がん治療の周辺」ではなく、irAE発見の第一線に立てる職種なのです。 haigan.gr(https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2019/2020/Q45.html)
参考リンク(免疫チェックポイント阻害薬副作用のグレード分類と対処)。
免疫チェックポイント阻害薬の副作用や注意点 — 日本肺癌学会患者ガイドブック

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