ゼラチンスポンジ止血剤の種類と正しい使い方

ゼラチンスポンジ止血剤はなぜ体内に残しても問題ないのか?種類・作用機序・使用上の注意から代替品まで、医療現場で使われる止血剤の正しい知識を解説します。

ゼラチンスポンジ止血剤の種類・仕組み・正しい使い方を徹底解説

殺菌作用がないゼラチンスポンジを感染部位に使うと、重篤な合併症を招くことがあります。


🔬 ゼラチンスポンジ止血剤 3つのポイント
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体内で約1ヶ月以内に吸収される

ゼラチンスポンジは体腔内・組織内に包埋しても、約1ヶ月以内に液化・吸収されます。縫合せずに残置できる吸収性が最大の特徴です。

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血管内使用は添付文書上「禁忌」

通常の止血剤としては血管内への使用が禁忌。ただし日本IVR学会ガイドラインに基づく塞栓術では適応外使用として認められているケースがあります。

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代表的製品「スポンゼル」は2026年3月31日で経過措置終了

長年歯科・外科で使われてきたスポンゼル®の保険請求は2026年4月1日以降不可となります。代替品への切り替えが急務です。


ゼラチンスポンジ止血剤とは何か?その原料と基本構造

ゼラチンスポンジ止血剤は、動物(主に豚)の骨・皮膚・腱などのコラーゲンを酸またはアルカリ処理して抽出したゼラチンを、多孔性(スポンジ状)に加工した医療用止血材です。成分はコラーゲンとほぼ同一であり、白色〜淡黄色の軽量なスポンジとして提供されます。


多孔質構造の最大の特徴は、その重量の約30倍以上の液体(血液・生理食塩液など)を瞬時に吸収できる点にあります。たとえば乾燥重量1gのスポンジが、コップ1杯(約200ml)近い血液を吸い込める計算です。これは物理的な圧迫と血液の保持によって、凝血塊(血餅)形成を強力に促します。


止血の仕組みは2段階で進みます。まず多孔質マトリックスが出血部位にぴったり付着し、血小板・フィブリン・赤血球を捕捉します。次いでスポンジ内部に閉じ込められた血球がフィブリンと絡み合い、強固な血栓を形成します。フィブリンとほぼ同等の止血効果が得られると報告されています(Jenkins HPtr., Surgery, 1946)。つまり血を「固める薬」ではなく、「血液を受け止めて凝固を助ける土台」として機能するということです。


そしてもう一つの大きな利点が「生体吸収性」です。組織内や体腔内に残置しても、約1ヶ月以内に体内の酵素によって液化・吸収されます。最小限の瘢痕形成(傷あと)しか残らないため、外科手術後の止血材として理想的とされています。これが特別な回収処置を必要としない理由です。


参考:スポンゼル添付文書(LTLファーマ株式会社)詳しい作用機序・禁忌・副作用の記載あり
KEGG MEDICUS – スポンゼル添付文書情報(kegg.jp)


ゼラチンスポンジ止血剤の主な種類と製品ごとの特徴

ゼラチンスポンジ止血剤には複数の製品があり、用途・形状・サイズに違いがあります。以下の表に主要製品をまとめます。







































製品名 製造・販売 主な形状 主な用途 備考
スポンゼル® LTLファーマ シート状(2.5×5cm、7×10cm) 外科・歯科の局所止血 2026年3月31日で経過措置終了
ゼルフォーム® ファイザー/FEED社 シート・ブロック状 歯科・外科全般 スポンゼル®の主要代替品の一つ
スポンゴスタン®アナル 各社 中空多孔性円筒状 痔核・痔瘻手術後の直腸肛門部止血 診療報酬上の止血材として算定可
サージセル®(MD) ジョンソン&ジョンソン 酸化セルロース系メッシュ 外科・歯科止血 ゼラチン系ではないが代替候補


このうち特筆すべきは「スポンゴスタン®アナル」です。形状が中空多孔性の円筒状で、肛門管の形にフィットするよう設計されています。痔核手術(ジオン注射=四段階注射法を含む)後の直腸肛門部止血に特化した製品であり、令和6年度の診療報酬改定でも取り上げられた算定対象品目です。


また「スポンゼル®」については、2021年5月から限定出荷となり、2024年10月にLTLファーマ株式会社が販売中止を正式発表しました。経過措置期間の満了は2026年3月31日で、それ以降は保険請求が不可となります。代替品はジョンソン&ジョンソンのサージセル®MDへの切り替えが公式に推奨されています。スポンゼル®からの代替は急務です。


代替品選定の際には「ゼラチン系かどうか」を必ず確認するようにしてください。サージセル®は酸化セルロース系であり、作用機序・適応・禁忌がゼラチン系と異なるため、単純な「同等品」ではありません。製品の切り替えにあたっては、担当医師・薬剤師と連携して判断するのが原則です。


参考:スポンゼル®販売中止および経過措置終了に関する公式案内
LTLファーマ株式会社 – スポンゼル®販売中止のご案内(PDF)


ゼラチンスポンジ止血剤の正しい使い方と手術別の適応

ゼラチンスポンジ止血剤の基本的な使用方法は、乾燥状態のまま、または生理食塩液かトロンビン溶液に浸してから出血部位に貼付・填入することです。血液を吸収するとスポンジが組織に固着し、凝血塊の形成を助けます。


手術の種類別に使い方を整理すると次のようになります。



  • 🦷 歯科(抜歯後):抜歯後の歯槽窩(歯が抜けた穴)に適切なサイズに切り分けたスポンジを填入します。スポンジが血液を吸収して穴内部で膨らみ、圧迫止血と血餅形成の足場を提供します。ドライソケット(血餅ができず骨が露出した状態)の治療にも用いられます。

  • 🏥 外科・整形外科:手術創面や臓器表面の滲出性出血に対して、創傷の表面に貼付します。縫合・結紮が困難な部位の補助的な止血材として用います。

  • 🩺 直腸肛門(痔疾患手術後):専用の円筒状製品(スポンゴスタン®アナルなど)を肛門管に挿入して止血・圧迫します。

  • 🔬 IVR(血管内治療):日本IVR学会ガイドライン2022に基づき、経カテーテル的塞栓術の塞栓物質として使用されます(後述)。


また、トロンビン溶液に浸して使用すると止血効果が増強されることが知られています。ただし、アルコール浸漬や加熱滅菌はスポンジの変質・外装接着部の剥離を招くため厳禁です。これは基本中の基本です。


使用量にも注意が必要で、過量に使用すると創面の癒合(治癒)を妨げる可能性があります。また、創腔や組織の間隙に詰める際は、スポンジが水分を吸収して膨張することで周囲の正常組織を圧迫するリスクがあります。視神経付近への使用では、膨張圧による視力障害が報告されているため、特に慎重な対応が求められます。


ゼラチンスポンジ止血剤の副作用・禁忌と感染リスクへの対処

ゼラチンスポンジ止血剤は安全性が高い素材ですが、いくつかの重要な注意点があります。知らないと患者に重大な不利益を与えかねません。


まず最も注意すべき副作用は「ショック・アナフィラキシー」です(頻度不明)。全身発赤・呼吸困難・血圧低下などの症状が現れることがあり、動物由来タンパク質(ゼラチン)に対するアレルギー反応が原因です。使用前に過敏症の既往歴を必ず確認するのが原則です。


次に重要な点が「殺菌作用がない」という事実です。ゼラチンスポンジは血液を吸収して細菌の培地にもなり得ます。感染の可能性が高い部位への使用は避け、先に感染をコントロールしてから使用するのが基本です。感染創への安易な使用は創部感染を悪化させるリスクがあります。


さらに添付文書には「血管内への使用禁忌」が明記されています。血管内に投与されると塞栓(血管詰まり)を起こすおそれがあるためです。これは、IVR(インターベンショナルラジオロジー)での塞栓術と混同しがちですが、あくまで添付文書上の禁忌であり、IVRでの経カテーテル的使用は医師の裁量判断・適応外使用として別途扱われます。


禁忌と注意点を以下にまとめます。




































項目 内容
禁忌① 本剤成分(ゼラチン)に過敏症の既往歴がある患者
禁忌② 血管内への使用(塞栓のおそれ)
重要な注意① 縫合・結紮等の止血の代替ではない(補助的使用)
重要な注意② 殺菌作用がないため、感染可能性が高い場合は使用を避ける
重要な注意③ 視神経・視束交叉の周囲での使用禁止(膨張による視力障害)
重要な注意④ 過量使用は創面の癒合を妨げる可能性あり
重要な注意⑤ 消毒用アルコール浸漬・加熱滅菌は厳禁


感染リスクへの対処として、歯科領域では術前の口腔内環境の管理(歯周病・炎症のコントロール)が重要です。また、重大な副作用報告があった場合に迅速対応できるよう、使用中・使用後の患者観察が不可欠です。副作用が出たら直ちに投与中止が条件です。


参考:厚生労働省による使用上の注意改訂情報(ゼラチンスポンジ関連)
PMDA(医薬品医療機器総合機構) – 止血剤 使用上の注意改訂(PDF)


ゼラチンスポンジ止血剤のIVR(血管塞栓術)での活用と独自視点:「一時的塞栓」という強み

ゼラチンスポンジ止血剤が外科手術・歯科だけでなく、IVR(インターベンショナルラジオロジー=放射線を使った低侵襲治療)の現場でも広く活用されていることは、一般にはあまり知られていません。意外ですね。


IVRにおけるゼラチンスポンジの最大の強みは「一時的塞栓物質」という性質です。金属コイルやNBCA(組織接着剤)が永久塞栓物質であるのに対し、ゼラチンスポンジは数週間〜1ヶ月程度で体内に吸収・再開通します。この「塞栓が解けること」が、逆に大きなメリットになるのです。


たとえば産科領域では、大量出血をきたした患者の子宮動脈をゼラチンスポンジで一時的に塞栓し、止血後に自然再開通させることで子宮を温存できるケースがあります。永久塞栓物質を使えば子宮への血流が永続的に失われるため、妊孕性(妊娠できる能力)の観点から大きな問題になります。一時的塞栓だからこそできる治療です。


喀血(肺・気管支からの出血)のIVRでも、ゼラチンスポンジは気管支動脈塞栓術に用いられます。ただし、アスペルギルス症など真菌感染が原因の喀血ではゼラチンスポンジ単独の止血率は約30%と低く、コイルやNBCAを組み合わせる方が90%弱の止血率を示すとのデータもあります(m3.com, 2025)。塞栓物質の使い分けが重要ということですね。


また、肝細胞癌・腎細胞癌などの多血性腫瘍に対する動脈塞栓術(TAE)でも、ゼラチンスポンジは球状塞栓物質の代替・併用として幅広く使われています。球状塞栓物質は薬事承認されているものの高額であるのに対し、ゼラチンスポンジは比較的安価で医療費節減につながる点も評価されています。


日本IVR学会では、こうした適応外使用も含めたゼラチンスポンジの適正使用ガイドラインを2013年に初版、2022年に改訂版として発行しています。IVRに関わる医師・医療従事者はこのガイドラインが参考になります。


参考:日本IVR学会「血管塞栓術に用いるゼラチンスポンジのガイドライン2022」
日本IVR学会 – ゼラチンスポンジガイドライン2022(PDF)


ゼラチンスポンジ止血剤の代替品選びと今後の注意点

スポンゼル®の実質的な販売終了にともない、医療現場では代替品の選定が急速に進んでいます。これは使えそうな情報です。


代替品を選ぶ際に最初に確認すべきは「素材の種類」です。代替候補は大きく以下の3系統に分かれます。



  • 🧪 ゼラチン系:ゼルフォーム®(ファイザー)など。スポンゼル®と同じゼラチン由来で、作用機序が近い。抜歯窩への充填など従来と同様の使い方がしやすい。

  • 🌿 酸化セルロース系:サージセル®MD(ジョンソン&ジョンソン)など。植物由来セルロースを酸化処理したもので、ゼラチン系アレルギーがある患者にも使いやすい。ただし作用機序・用法がゼラチン系と異なるため、そのまま「同等品」として扱うのは注意が必要。

  • 🦐 キトサン系:甲殻類由来のキトサンを用いたパッド(HemConなど)。高い止血性能を持つが、甲殻類アレルギーを持つ患者への使用時は確認が必要。


コスト面でもスポンゼル®(旧薬価245円/枚〜756.6円/枚)と比べ、代替品によっては1枚数百円〜1,000円超となるケースがあります。歯科診療報酬では止血剤使用への直接加算がないため、材料費は医院負担になります。代替品の選定は経営面への影響も考慮するのが原則です。


さらに2026年4月1日以降、スポンゼル®の保険請求は完全に不可となります。現時点(2026年3月)でまだ旧製品在庫を使用している施設は、在庫切れ後の対応を今すぐ確認する必要があります。代替品への切り替えは「そのうち」では間に合いません。


なお、代替品への切り替えにあたっては、薬事承認の範囲・添付文書の禁忌・保険適用状況を個別に確認することが必須です。「スポンゼルの代わりに使えます」という営業担当の言葉だけを鵜呑みにせず、製品の添付文書を自分で確認する習慣が重要です。医師・薬剤師・歯科衛生士それぞれが情報を共有して連携して判断するのが大前提です。


参考:歯科止血剤スポンゼルの販売中止と代替品についての詳細解説