前頭骨骨折手術の適応から合併症まで歯科医療従事者が知るべき知識

前頭骨骨折の手術適応や合併症リスク、歯科医療従事者として知っておくべき紹介タイミングや初期対応について解説します。髄液漏や感染症のリスク管理、適切な専門医連携の重要性とは?

前頭骨骨折手術の適応と治療

受傷後2週間を過ぎると骨癒合が始まり整復困難になります


この記事のポイント
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前頭骨骨折の手術タイミング

受傷後2週間以内の手術が原則で、遅れると骨癒合により整復困難に。前頭洞の有無で術式が変わる

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重篤な合併症リスク

髄液漏による髄膜炎リスクは約3%。前頭洞後壁骨折では膿粘液嚢胞のリスクも存在する

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歯科医療従事者の役割

初診時の適切な評価と形成外科への迅速な紹介が予後を左右。口腔外科との連携も重要


前頭骨骨折の基本的な病態と診断

前頭骨は額の部分を構成する骨で、鼻の上方や眉毛の部分には前頭洞と呼ばれる空洞が存在します。交通事故やスポーツ外傷、転落事故などで額を強く打撲した際に生じる骨折が前頭骨骨折です。この骨折は、前頭洞を含まない単純な骨折から、前頭洞の前壁・後壁を含む複雑な骨折までさまざまなパターンがあります。


診断は身体所見とCT検査によって行われます。視診では前頭部の陥凹変形が確認できることがあり、触診で骨の段差や圧痛を認めることが一般的です。CTは骨折の詳細な評価に必須で、特に前頭洞の関与や後壁骨折の有無、髄液漏のリスク評価に不可欠な検査となっています。


症状は骨折の程度によって異なります。整容面では前頭部の陥凹が最も顕著な症状ですが、機能面では前額部の知覚障害が生じることがあります。さらに重症例では、眼窩内に骨片が入り込むことで眼球運動障害による複視が発生したり、頭蓋底骨折を合併して髄液鼻漏を認めることもあります。髄液鼻漏は透明でサラサラした液体が鼻から流れ出る症状で、髄膜炎のリスクが高まるため緊急性の高い所見です。


前頭骨骨折で特に注意が必要なのは、脳神経外科的な合併症の存在です。前頭骨は前頭葉、硬膜、眼窩内容物に近接しているため、骨折が頭蓋内に及ぶ場合には脳挫傷や硬膜外血腫などの重篤な合併症を伴うことがあります。このため、初診時には必ず意識レベルの評価や神経学的所見の確認が必要です。


自治医科大学形成外科学講座の顔面骨骨折に関する詳細な解説では、前頭骨骨折を含む各種顔面骨折の症状と治療法について包括的な情報が提供されています。


前頭骨骨折の手術適応と術式選択

前頭骨骨折の手術適応は、変形の程度と頭蓋内への影響によって決定されます。変形が軽度で頭蓋内に問題がなければ、手術の必要はありません。一方、明らかな陥凹変形がある場合や、前頭洞の損傷が強い場合、髄液漏を認める場合には手術治療が必要となります。


手術方法は、骨折が前頭洞を含むか否かで大きく異なります。前頭洞を含まない骨折では、骨片を整復してチタンプレートまたは吸収性プレートで固定する比較的シンプルな術式となります。手術時間は約2時間程度で、入院期間は1週間程度です。切開は多くの場合、頭部の冠状切開(頭頂部を耳から耳へ切る方法)で行われ、毛髪に隠れるため整容的な問題は少なくなります。


前頭洞を含む骨折では、より複雑な処置が必要です。前頭洞は鼻腔と鼻前頭管でつながっているため、この管の処理が重要になります。前壁のみの骨折であれば整復固定で済みますが、後壁骨折を伴う場合には頭蓋化(前頭洞の粘膜を除去して頭蓋内腔と連続させる)や閉塞術(鼻前頭管を閉鎖して前頭洞を密閉する)などの処置が必要になることがあります。


つまり前頭洞の処理が必要です。


手術時間は前頭洞の損傷程度により2時間から4時間程度と幅があります。116例の前頭洞骨折を解析した研究では、転位した前壁骨折の全症例に対して観血的整復固定術が実施されており、後壁骨折に対しては症例に応じて頭蓋化や閉塞術が選択されていました。


前頭洞骨折116例の治療法と合併症に関する研究では、骨折パターンと治療法の選択、合併症との関連について詳細に報告されています。


手術のタイミングは、基本的に受傷後2週間以内です。これは骨折部位で仮骨形成が始まり、骨癒合が進行してしまうと整復が困難になるためです。1~2週間もすると骨はずれた位置でくっついてしまい、その後の治療が極めて難しくなります。このため、受傷したら早期に形成外科を受診することが重要です。


ただし、急性期に重篤な脳損傷や全身状態の不安定性がある場合には、生命維持が最優先されます。こうしたケースでは、全身状態が安定してから手術が行われることになります。


前頭骨骨折手術の合併症と長期的リスク

前頭骨骨折の手術には、いくつかの合併症リスクが存在します。まず術後早期の合併症として、感染、出血、創部の治癒不全などが挙げられます。前頭洞を含む骨折では、術後の前頭洞炎や髄膜炎のリスクが特に重要です。


前頭洞骨折患者における感染症の発症率は、抗菌薬予防投与を行っても約3%とされています。2026年の研究報告では、前頭洞骨折患者198例のうち6例(3%)が感染を発症し、その内訳は髄膜炎4例、副鼻腔炎2例でした。


これは決して無視できない数字です。


髄膜炎は生命を脅かす重篤な合併症で、頭痛、発熱、項部硬直などの症状が現れます。前頭洞後壁骨折や髄液漏を伴う症例では特にリスクが高く、術後の慎重な経過観察が必要です。感染を発症した場合には、速やかに抗菌薬治療を開始し、必要に応じて再手術による感染巣の除去が行われます。


前頭洞後壁骨折を未治療のまま放置すると、長期的には膿粘液嚢胞のリスクが上昇することが報告されています。膿粘液嚢胞は前頭洞内に粘液が貯留し嚢胞を形成する病態で、周囲組織を圧迫して頭痛や視力障害などを引き起こすことがあります。発症までに数年から10年以上かかることもあり、長期的なフォローアップが重要となります。


プレート固定に関連する合併症も考慮が必要です。チタンプレートは生体親和性が高く、基本的に除去する必要はありませんが、プレートの露出や感染、異物感などが生じた場合には除去手術が必要になることがあります。吸収性プレートを使用した場合には、まれに異物反応を起こして腫脹や発赤が生じることが報告されています。


神経学的な後遺症として、前額部の知覚障害が残存することがあります。手術による神経損傷や骨折そのものによる神経障害が原因で、多くは時間とともに改善しますが、完全には回復しないケースもあります。回復には数ヶ月から1年程度かかることが一般的です。


眼窩内に骨片が入り込んだ症例では、術後も眼球運動障害や複視が残存する可能性があります。手術によって骨折は整復されても、筋肉や神経の損傷が完全には回復しないためです。こうした症例では、術後のリハビリテーションや経過観察が長期にわたって必要になります。


前頭骨骨折における歯科医療従事者の役割と初期対応

歯科医療従事者が外傷患者を診察する際、顔面骨折の可能性を常に念頭に置くことが重要です。特に前頭骨骨折は、口腔領域の外傷と同時に発生することがあり、初診時の適切な評価と迅速な専門医紹介が予後を大きく左右します。


初診時の評価では、まず全身状態の確認が最優先です。意識レベル、呼吸状態、バイタルサインを評価し、緊急性の高い状態でないかを判断します。頭部外傷では意識障害や嘔吐、けいれんなどの脳神経症状が遅れて出現することがあるため、受傷後数時間は特に注意深い観察が必要です。


前頭部の視診と触診では、腫脹、皮下出血、陥凹変形、創傷の有無を確認します。前頭部を軽く触診して骨の段差や動揺性がないかを評価しますが、強く圧迫すると骨片が移動したり痛みが増強したりする可能性があるため、愛護的に行うことが重要です。この段階で異常が疑われたら直ちに専門医紹介が必要です。


髄液漏の有無は必ず確認すべき項目です。鼻から透明でサラサラした液体が流れ出ていないか、患者に前屈姿勢をとってもらって確認します。髄液は通常の鼻水と異なり、ティッシュペーパーに付着させると輪状に広がる特徴があります(ハローサイン)。髄液漏が疑われる場合には、緊急性が高いため速やかに脳神経外科または形成外科に紹介する必要があります。


歯科診療所での応急処置としては、出血がある場合には清潔なガーゼで圧迫止血を行います。開放性骨折(骨折部が皮膚や粘膜を通して外部と交通している状態)では、感染予防のため抗菌薬投与を検討します。ただし、前頭骨骨折が疑われる段階で歯科診療所で長時間経過観察するのは適切ではありません。評価後は速やかに専門医療機関へ紹介することが原則です。


紹介先の選択では、前頭骨骨折を含む顔面骨骨折は主に形成外科が担当します。ただし、下顎骨骨折歯槽骨骨折が合併している場合には口腔外科との連携が必要です。多発外傷や意識障害を伴う重症例では、救命救急センターのある総合病院への搬送が適切です。紹介時には、受傷機転、受傷時刻、初診時の所見、実施した処置などを診療情報提供書に詳しく記載します。


患者や家族への説明も歯科医療従事者の重要な役割です。「骨折の疑いがあるため、専門的な検査と治療が必要です」と明確に伝え、放置すると変形が残ったり、感染症などの合併症が起こったりする可能性があることを説明します。特に受傷後2週間以内の手術が望ましいことを伝えることで、患者の受診行動を促すことができます。


顔面骨折の患者では、精神的なショックやストレスも大きいため、共感的な態度で接することが大切です。「適切な治療を受ければ良くなりますから、まずは専門の先生に診てもらいましょう」と安心感を与える言葉がけも重要です。


前頭骨骨折と歯科診療における注意点と長期管理

前頭骨骨折の治療後、歯科診療を行う際にはいくつかの注意点があります。特に骨折治療から間もない時期や、プレート固定が行われている患者では、慎重な配慮が必要です。


手術後3ヶ月程度は骨癒合が完成していない時期であり、前頭部への直接的な圧迫や強い刺激は避けるべきです。歯科診療チェアでの体位調整時には、頭部を支える際に前頭部を強く押さえないよう注意します。特に歯科用ライトの位置調整時に前頭部にライトをぶつけないよう配慮が必要です。


前頭骨骨折の既往がある患者では、前頭洞の換気排泄機能が障害されている可能性があります。このため、上気道感染症罹患時には副鼻腔炎を起こしやすく、歯性上顎洞炎のリスクも高まることが考えられます。上顎の歯科治療を行う際には、このリスクを念頭に置き、適切な抗菌薬の予防投与や術後管理を行うことが重要です。


固定に使用されたチタンプレートは通常、除去する必要はありませんが、患者によっては異物感や違和感を訴えることがあります。歯科治療時に「おでこに入れた金属が気になる」といった訴えがあった場合には、形成外科への再相談を促すことが適切です。プレート除去を希望する場合、一般的には骨癒合が完成する術後1年以上経過してから検討されます。


前頭部の知覚障害が残存している患者では、熱や冷たさに対する感覚が鈍くなっていることがあります。歯科治療中に使用する器具や材料の温度管理には特に注意が必要です。また、知覚障害のある部位では軽微な外傷にも気づきにくいため、患者自身に注意を促すことも大切です。


長期的な視点では、前頭骨骨折の既往は画像診断時の解釈に影響を与えることがあります。将来、頭部のCTやMRI検査を受ける際に、固定用プレートがアーチファクト(画像のゆがみ)を生じさせることがあるため、検査時には必ず前頭骨骨折の既往を申告するよう患者に指導します。


歯科医療従事者として、前頭骨骨折の既往がある患者の医療面接では、以下の項目を確認することが推奨されます。受傷時期、実施された治療内容、プレート固定の有無、現在の症状(知覚障害、違和感など)、合併症の有無、最終的に形成外科を受診した時期などです。これらの情報は、歯科診療の安全性を高めるだけでなく、必要時に適切な連携を図るためにも重要です。


前頭骨骨折後の患者では、顔面の審美的な変化に対する心理的ストレスを抱えていることがあります。特に若年者や女性では、わずかな変形でも大きな悩みとなることがあります。歯科治療中の会話の中で、そうした悩みを打ち明けられることもあるでしょう。その際には、共感的に傾聴し、必要に応じて形成外科での相談を提案することが適切です。


前頭骨骨折の治療は、単に骨を元に戻すだけでなく、機能と整容の両面からの回復を目指す総合的な医療です。歯科医療従事者として、この疾患に関する正確な知識を持ち、適切なタイミングで専門医との連携を図ることが、患者の最善の予後につながります。