全部鋳造冠と全部金属冠の違いを徹底解説

全部鋳造冠と全部金属冠、同じものだと思っていませんか?実は呼び方の違いだけで、臨床では混同されがちな用語です。保険適用の範囲や製作方法、金属アレルギーのリスクまで、歯科医療従事者が押さえるべきポイントは多岐にわたります。この記事では、両者の正確な定義と臨床での注意点を詳しく解説します。あなたの日常診療に役立つ情報が見つかるでしょうか?

全部鋳造冠と全部金属冠の違い

保険請求でFCKとFMC、どちらで記載していますか?


この記事の3つのポイント
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用語の同一性

全部鋳造冠(FCK)と全部金属冠(FMC)は同じ補綴物を指し、ドイツ語と英語の呼称の違いのみで臨床的には同義です

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保険適用の実際

金銀パラジウム合金製は小臼歯・大臼歯に保険適用されますが、チタン製は大臼歯のみに限定されています

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金属アレルギーリスク

パラジウムは欧米で使用禁止の金属であり、パッチテストで7日目まで反応を確認する必要があります


全部鋳造冠と全部金属冠は同義語である理由

全部鋳造冠と全部金属冠という2つの用語は、歯科医療の現場で頻繁に使用されています。これらは実際には同じ補綴物を指しているのです。


全部鋳造冠は英語でFull Cast Crown(FCK)と呼ばれ、全部金属冠はFull Metal Crown(FMC)と表記されます。FCKはドイツ語の「Krone(クローネ)」から派生した用語で、FMCは英語の「Crown」を用いた表現です。つまり、言語の違いが異なる呼称を生み出したに過ぎません。


歯科診療報酬改定により、2012年4月から正式名称が「全部金属冠」に統一されました。それまで長年親しまれてきたFCKという呼称から、FMCへの名称変更が行われたのです。この変更は、国際的な用語統一の流れを受けたものでした。


現在でも臨床現場では両方の用語が混在して使用されています。特にベテランの歯科医師や技工士の間では、FCKという呼称が根強く残っているケースも見られます。レセプト(診療報酬明細書)の傷病名記載では、「全部金属冠脱離」「FMC脱離」といった表記が正式に採用されています。


つまり両者は同じものです。


全部鋳造冠の保険適用範囲と点数の実際

全部鋳造冠は健康保険制度において、小臼歯(4番・5番)と大臼歯(6番・7番・8番)に対して保険適用が認められている補綴物です。前歯部(1番~3番)には審美性の観点から適用されません。


保険診療における技術料と材料費の点数構成を見てみましょう。金銀パラジウム合金を使用した全部鋳造冠の場合、技術料は454点、材料費は小臼歯で525点、大臼歯で733点となっています。合計すると小臼歯で979点(約9,790円)、大臼歯で1,187点(約11,870円)の保険点数です。


一方、2020年6月から大臼歯部に限定して保険適用となったチタン冠は、総点数1,266点という設定になっています。金銀パラジウム合金の大臼歯と比較すると、約79点(約790円)高く設定されているのです。この価格差は、チタンの生体親和性の高さと鋳造技術の難易度を反映しています。


ただし金属の価格変動があります。


特に近年はパラジウムの国際価格が高騰しており、保険点数と実際の材料費が逆転する現象も発生しています。2024年時点でパラジウム価格は過去最高水準を記録し、歯科技工所の経営を圧迫する要因となっています。このため保険診療の収益性という観点からも、CAD/CAM冠やチタン冠への移行が推奨される状況です。


装着時には装着料45点、仮着用セメント4点なども別途算定できます。また、支台築造(コア)が必要な場合は、別途メタルコア加算などの点数も考慮する必要があります。


全部鋳造冠と前装冠の構造的相違点

全部鋳造冠と前装冠は、歯科補綴物の中でも基本的な構造が大きく異なります。全部鋳造冠は文字通り「全部」が金属で構成されているのに対し、前装冠は金属フレームの表面に白い材料を接着した複合構造です。


前装冠には大きく分けて2つの種類があります。硬質レジン前装冠は金属フレームの唇側面にレジン(プラスチック)を貼り付けたもので、前歯部(1番~3番)および一部の小臼歯に保険適用されます。一方、陶材焼付鋳造冠(メタルボンド)は金属フレームにセラミックを焼き付けたもので、自費診療として提供されることが一般的です。


全部鋳造冠の最大の特徴は強度の高さにあります。金属のみで構成されているため、咬合力の大きい臼歯部でも破折のリスクが極めて低いのです。ブリッジの支台装置としても優れた保持力を発揮します。材料の厚みも前装冠より薄く設定できるため、歯質の削除量を最小限に抑えられるというメリットがあります。


逆に審美性は劣ります。


前装冠は見える部分が白いため、前歯部や審美性が求められる小臼歯部に適しています。しかし硬質レジン前装冠の場合、レジン部分は経年的に変色や摩耗が生じやすく、3〜5年程度で色調の劣化が目立ち始めることがあります。また、レジンと金属の接着部分が剥離するリスクも存在します。


製作工程の違いも重要です。全部鋳造冠はワックスアップ後に鋳造するだけですが、前装冠は鋳造後に白い材料を盛り上げて形成する追加工程が必要になります。このため技工時間も長くなり、技工料も高額になる傾向があります。


全部鋳造冠製作時の鋳造欠陥と対策法

全部鋳造冠の製作において、鋳造欠陥は補綴物の品質を大きく左下させる重要な問題です。鋳造欠陥には複数の種類があり、それぞれ異なる原因によって発生します。


最も一般的なのが鋳巣(ちゅうす)と呼ばれる欠陥です。鋳巣は鋳造体内部に発生する空洞で、金属の凝固時の収縮や溶湯中のガスが原因となります。鋳巣にはブローホール、ピンホール、ミクロポロシティなどの種類があり、これらが発生すると補綴物の強度が著しく低下してしまいます。特に咬合面や辺縁部に鋳巣があると、臨床使用中に破折や穿孔を引き起こす危険性があるのです。


鋳造欠陥の発生率は技工士の技術レベルによって大きく変動します。経験豊富な技工士でも、埋没材の混水比や鋳造温度の管理が不適切だと、10〜20%程度の確率で欠陥が生じるという報告があります。特にチタン合金の鋳造では、金銀パラジウム合金と比較して鋳造欠陥が発生しやすく、鋳造条件の厳密な管理が求められます。


埋没材の焼却が不十分な場合、埋没材との焼付き現象も発生します。これは鋳造体表面に埋没材が付着した状態で、研磨しても完全に除去できないことがあります。焼付きがあると辺縁適合が悪化し、二次カリエスのリスクが高まってしまうのです。


対策としては複数あります。


まず埋没材の真空練和を確実に行い、気泡の混入を防ぐことが基本です。また、ワックスパターンへのスプルー(湯道)の設置位置と太さを最適化することで、溶湯の流れをスムーズにして鋳巣の発生を抑制できます。鋳造機の温度管理も重要で、金銀パラジウム合金の場合は1,100〜1,200℃程度の温度設定が推奨されています。


鋳造後の確認作業では、X線撮影による内部欠陥の検査が有効です。特に高価な貴金属を使用した自費診療の補綴物では、鋳造欠陥のない高品質な製品を提供するために、X線検査を実施する技工所も増えています。


全部鋳造冠と金属アレルギーの関連性

全部鋳造冠に使用される金銀パラジウム合金は、金属アレルギーの原因物質として国際的に注目されている材料です。特にパラジウムは、ドイツやスウェーデンなどの欧米諸国では歯科用金属としての使用が禁止されています。


パラジウムがアレルギーを引き起こす理由は、唾液や口腔内の酸によって金属イオンが溶出しやすい性質にあります。溶け出した金属イオンは体内に蓄積され、時間をかけて感作(アレルギー反応を起こす体質への変化)を引き起こします。初めて装着した時は問題なくても、5年後、10年後に突然アレルギー症状が現れるケースも珍しくありません。


金属アレルギーの症状は口腔内だけでなく、全身に及びます。口腔内では歯肉の腫れや口内炎、金属味などが現れます。全身症状としては、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)という手のひらや足の裏に膿疱ができる皮膚疾患、アトピー性皮膚炎の悪化、頭痛や肩こりなどが報告されています。


パッチテストは7日間必要です。


通常の金属アレルギー検査では3日目までの反応で判定しますが、パラジウムは遅延型アレルギー反応を示すため、3日後から7日目にかけて陽性反応が出現することがあります。このため歯科金属アレルギーを疑う場合は、最低でも7日間の経過観察が推奨されています。パッチテスト期間中は、汗でテープが剥がれやすくなるため、激しい運動や入浴は制限されます。


金属アレルギーが確認された患者に対しては、全部鋳造冠の代替材料を選択する必要があります。保険診療内ではCAD/CAM冠やチタン冠が選択肢となります。CAD/CAM冠はレジンブロックから削り出して製作する白い補綴物で、2024年6月の診療報酬改定によりほぼ全ての歯に適用拡大されました。チタン冠は生体親和性が極めて高く、金属アレルギーのリスクがほとんどありません。


自費診療を選択できる場合は、ジルコニアクラウンオールセラミッククラウンといった完全なメタルフリー材料も検討できます。これらは審美性と強度を兼ね備えており、金属アレルギーの不安なく長期的に使用できるメリットがあります。


一般社団法人金属アレルギー協会の歯科医院向け情報ページでは、金属アレルギーと歯科治療の関係について詳細な解説と、患者への説明資料が公開されています。