口腔ケアをしっかりしていれば褥瘡は防げると思っているなら、実はそれだけで患者の約40%の褥瘡発生リスクを見落とすことになります。
ステージiii褥瘡は、NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)とEPUAP(欧州褥瘡諮問委員会)が共同で策定したNPUAP/EPUAP分類における「カテゴリ/ステージⅢ:全層皮膚欠損」に当たります。具体的には、皮膚組織が全層にわたって欠損し、皮下脂肪が露出した状態ですが、骨・腱・筋肉はまだ露出していない段階です。スラフ(黄色調の壊死組織)が付着していることもあり、ポケット(皮膚下に広がる空洞)を伴う場合もあります。
つまり「脂肪は見えるが骨は見えない」がステージiiiの基本です。
ステージiiは真皮まで、ステージivは骨・腱・筋肉まで達する損傷です。ステージiiとiiiの境界として重要なのは「毛穴が確認できるかどうか」という視診上のポイントで、毛穴が認識できればステージii、毛穴が見えなければステージiii以上に分類されます。歯科医療職が在宅患者や入院患者の全身状態を把握する上で、このステージ分類を理解しておくことは、多職種連携の中で医療の文脈を共有するために不可欠です。
ここで見落とされがちなのが、ステージiiiの深さは「解剖学的部位によって大きく異なる」という点です。後頭部・耳介部・鼻梁・踝部(くるぶし)には皮下脂肪がほとんどないため、ステージiiiでも傷が浅いままになることがあります。意外ですね。逆に皮下脂肪の厚い臀部や大転子部では、同じステージiiiでも非常に深い潰瘍を形成します。同じ「ステージiii」と記載されていても、部位によってリスク評価がまるで変わるという点は、チーム内での情報共有時に必ず確認すべき事項です。
また、ステージiiiと混同しやすいのが「判定不能(Unstageable)」です。壊死組織やスラフが創底を覆い深さが判定できない場合は分類不能となり、デブリードマン(壊死組織の除去)を行って初めてステージiiiかステージivかが確定します。褥瘡評価に関わる機会があるすべての医療従事者は、この点を頭に入れておく必要があります。
参考:NPUAP/EPUAP分類の詳細な定義について
褥瘡の重症度分類を理解しよう|ステージ分類|NPUAP - ディアケア
日本の臨床現場では、NPUAP/EPUAP分類だけでなく、日本褥瘡学会が提唱する「DESIGN-R®2020」が褥瘡の状態評価に広く使われています。DESIGN-Rとは、Depth(深さ)・Exudate(滲出液)・Size(大きさ)・Inflammation/Infection(炎症/感染)・Granulation(肉芽組織)・Necrotic tissue(壊死組織)・Pocket(ポケット)の7項目を数値化し、褥瘡の重症度と経過を客観的に評価するスケールです。
DESIGN-R®2020の評価が基本です。
NPUAP分類のステージiiiは、DESIGN-R®2020の深さ評価では「D3(皮下組織までの損傷)」に対応します。ステージiiiの特徴であるポケットは、特に仙骨部や大転子部で発生しやすく、DESIGN-Rでは「P(Pocket)」として別途数値化されます。ポケットの範囲が広いほど感染リスクが高く、壊死組織が残存しやすい状態になるため、治癒が大幅に遅延する原因になります。
| NPUAP/EPUAP分類 | DESIGN-R®2020 | 創の状態 |
|---|---|---|
| ステージⅠ | d1:持続する発赤 | 皮膚の破綻なし |
| ステージⅡ | d2:真皮までの損傷 | 水疱・浅い潰瘍 |
| ステージⅢ | D3:皮下組織までの損傷 | 皮下脂肪露出・ポケット形成の可能性 |
| ステージⅣ | D4/D5:皮下組織を超える損傷 | 筋肉・骨の露出 |
また、2020年の改定版ではDTI疑い(深部組織損傷疑い)の項目が「DDTI」として追加されました。皮膚が紫色・栗色に変色しているにも関わらず深さが判定できないケースがこれにあたり、見た目は軽症に見えても急速にステージiiiやivへ悪化するリスクがある点は見逃せません。
DESIGN-R®2020のスコア合計が高いほど重症度も高く、治癒に向かうにつれてスコアが下がっていくことを確認できます。歯科従事者が患者のカルテ上でこの数字を確認する場合、D3かつPのスコアが高い状態は「ステージiiiでポケットあり」という意味だと把握しておくと、医療チーム内でのコミュニケーションがスムーズになります。
参考:DESIGN-R®2020の詳しい評価方法について
褥瘡評価スケールの種類とDESIGN-R®2020による評価方法|ネスレ ヘルスサイエンス
ステージiii褥瘡の治療は、「除圧管理」「栄養管理」「局所治療」の三本柱を同時に進めることが原則です。この三つのどれが欠けても治癒は困難になります。三本柱が条件です。
まず除圧管理については、2時間ごとの体位変換、体圧分散マットレスの導入、ポジショニングクッションの使用が基本です。仙骨部の褥瘡に対しては30度側臥位での体位変換が有効とされており、踵部の場合は浮かせるケアが必須です。
栄養管理については後項で詳しく触れますが、創傷治癒には1日あたりのたんぱく質摂取量として体重1kgあたり1.2〜1.5gが推奨されています。体重60kgの患者であれば、1日72〜90gのたんぱく質を摂取できているかどうかを確認する必要があります。これは一般的な食事だと鶏胸肉約400g相当です。
局所治療については、外用薬とドレッシング材を創の状態に合わせて使い分けることが大切です。
ステージiiiで特に問題になるのがポケットの処置です。ポケット内は壊死組織が残存しやすく、ドレッシング材が当たりにくいため、感染巣になりやすい構造を持っています。外用薬や被覆材での保存的治療を続けても改善が見られない場合には、外科的なポケット切開術やデブリードマンが検討されます。ステージiii以上の褥瘡では、保存療法が奏功しないケースでは植皮・皮弁作成術などの外科的治療も選択肢に入りますが、全身状態を十分に評価した上で適応を見極めることが重要です。
参考:日本褥瘡学会による治療ガイドラインの解説
褥瘡の治療について|一般社団法人日本褥瘡学会
褥瘡とは「皮膚の問題」と考えがちです。しかし、血清アルブミン値が3.5g/dL以下になると褥瘡発生リスクが明確に高まることが報告されており、低栄養は褥瘡の「発生」にも「難治化」にも直結しています。これは使えそうな情報です。
ステージiiiは皮下組織に至る深い創であるため、治癒には特に多くのたんぱく質・エネルギー・微量元素が必要です。창傷治癒の過程は止血期→炎症期→増殖期→成熟期と段階的に進みますが、低栄養状態ではこの過程が滞り、肉芽形成が遅れます。血清アルブミンが低い患者では、血管外への水分漏出(浮腫)も起こりやすく、皮膚の脆弱性がさらに高まります。
ここで歯科従事者の視点が活きる場面があります。在宅患者や施設入所者が咬合不全・義歯不適合・口腔乾燥などによって食事摂取量が落ちているケースは少なくありません。食事が十分に取れない→低栄養→皮膚脆弱化→褥瘡発生・悪化という連鎖が起こりえます。歯科医師や歯科衛生士が口腔機能管理を行い、咀嚼・嚥下機能を維持することは、褥瘡の発生予防や難治化の回避に間接的に貢献します。
栄養スクリーニングには、体重変化の確認・食事摂取量の把握・血清アルブミン値の確認が基本です。高齢者には「MNA®(Mini Nutritional Assessment)-SF」というスクリーニングツールも有効とされており、多職種で活用できます。褥瘡チームの一員として関わる場合、栄養管理に関する情報共有の際にこれらの指標の意味を理解しておくと連携がスムーズです。
参考:低栄養と褥瘡の難治化の関係
栄養状態の悪い(低栄養)患者は褥瘡になりやすく、治りにくい|ディアケア
歯科医師・歯科衛生士が褥瘡のステージiii患者に直接関わる機会は、一見少ないように思われます。しかし実際の医療現場では、褥瘡を持つ患者の多くが口腔に関連したリスクを複数持っています。厳しいところですね。
まず、口腔衛生管理と誤嚥性肺炎の関係について。専門的口腔ケアを実施したグループは、しなかったグループに比べて肺炎発症率が約40%・肺炎による死亡率が約50%減少するというデータがあります(米山武義氏の調査報告)。褥瘡患者は長期臥床状態であることが多く、誤嚥性肺炎を合併しやすい環境にあります。誤嚥性肺炎が発症すると全身炎症が加速し、低栄養が進行し、褥瘡の難治化リスクがさらに高まります。口腔ケアは「歯の問題」だけでなく、全身の炎症連鎖を断ち切る行為でもあります。
次に、口腔機能と経口摂取の維持について。ステージiii褥瘡の治癒に必要な栄養素は、できる限り経口から摂取することが理想です。義歯が合わない、歯周病による疼痛がある、舌・口唇の筋力が低下しているといった状態は、食事摂取量の低下に直結します。歯科衛生士が口腔機能訓練や義歯調整を行い、経口摂取を支えることが、褥瘡治療の「栄養管理」という柱を下支えします。
また、広島市民病院の褥瘡治療マニュアルでも、褥瘡治療チームの連携職種として「口腔ケアの指導・歯科検診(歯科医師・歯科衛生士)」が明示されています。これは決して付け足しではなく、褥瘡治療と口腔管理は本質的にリンクしているからこそ、多くの施設でチームに組み込まれているのです。
歯科従事者として褥瘡患者に関わる際は、口腔の問題が低栄養・感染・全身炎症を通じてステージiii褥瘡の悪化につながる連鎖を意識した上でアプローチすることが、患者アウトカムの改善につながります。口腔と全身をつなぐ視点が強みです。
参考:口腔ケアと誤嚥性肺炎予防のエビデンス
肺炎予防と口腔ケア|日本訪問歯科協会
十分な情報が集まりました。記事を作成します。