軽度OSAの患者でも、5年後には約半数がより重症に進行するというデータがあります。
歯科情報
ソムノデント アヴァント(SomnoDent® Avant™)は、オーストラリアのSomnoMed社が開発した上下分離型の口腔内装置(Oral Appliance:OA)です。閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)およびいびきの治療を目的に設計されており、現在ソムノデントシリーズの中で最新のラインアップに位置します。
従来のソムノデント フレックスと決定的に異なる点は、その製法にあります。アヴァントは口腔内スキャナーまたは歯型模型から取得した3Dデジタルデータをもとに、CAD(コンピュータ支援設計)ソフトウェアで設計し、コンピュータ制御の切削ロボットが歯科用アクリルブロックから削り出す「CAD/CAM製法」を採用しています。従来の手作業による製作と異なり、一つのアクリルブロックから一体的に削り出すため、内部に継ぎ目や気泡が生じにくく、製品強度が一定に保たれます。これが基本です。
| 項目 | アヴァント(Avant) | フレックス(Flex) |
|---|---|---|
| 製法 | CAD/CAM(ミリング) | 従来の手作業製法 |
| サイズ | 従来比 33%小型化 | 標準サイズ |
| 耐久性 | 従来比 20%向上 | 標準 |
| 顎の自由度 | 上下開閉+左右側方も可 | 上下開閉中心 |
| 下顎調整方法 | 専用ストラップの付け替え(1mm単位) | 上顎スクリュー |
| 内面素材 | Bフレックス ソフト(独自クッション材) | 標準クッション |
| 参考価格(院内) | 198,000〜231,000円(税込) | 165,000円程度(税込) |
装置の内面には、SomnoMed社独自の素材「Bフレックス ソフト」が使用されています。このクッション材が歯をやさしく包み込むことで、就寝中に装置が外れるのを防ぎながら、長時間装着しても歯への負担を軽減します。これは使えそうです。
サイズの縮小について、歯科的に重要なのは「口腔内への存在感の少なさ」です。従来品比33%の小型化は、特に口腔が小さい患者や口腔内に異物感を強く感じやすい患者への適応幅を広げる大きな要因になります。マウスピースを理由に離脱する患者を減らすことに直結するため、治療継続率の観点から見ても重要な改善点です。
参考:SomnoMed Japan 公式製品ページ(ソムノデント AVANT の仕様詳細)
https://somnomed.com/jp/patients/products/somnodent/somnodent-avant/
ソムノデント アヴァントは完全自費診療(保険適用外)の装置です。保険診療で作製できる上下一体型(モノブロック)のスリープスプリントとは、製法・素材・機能面すべてにおいて異なります。保険適用が原則です。
ただし、自費であることは単純にデメリットではありません。保険診療の一体型スリープスプリントは上下顎が完全に固定されているため、装着中は口を開けることができず、顎の自由な動きが制限されます。一方、アヴァントは上下分離型のため、装着中であっても咳・くしゃみ・会話・飲水が可能です。拘束感が強い装置は患者が就寝中に自ら外してしまうケースが少なくありません。装置の性能よりも「毎晩継続できるかどうか」が治療成果を左右するという観点で考えると、自費であっても装着継続率が高い装置を選ぶ意義は大きいです。
適応となる患者像は以下のとおりです。
顎関節症や歯ぎしりを合併している患者への適応可能性は、臨床上の意外なメリットです。上下が一体型の装置と異なり、左右側方への自由度があることで顎関節への負担が軽減されるため、これらの合併症を持つ患者にも使いやすいと考えられています。意外ですね。
一方、進行した歯周疾患・重度の歯列不正・残存歯数が少ないケースでは装置の保持が困難になるため、事前の口腔内診査が不可欠です。製作後のキャンセル・返金は原則不可とするクリニックが多いため、適応の見極めは慎重に行う必要があります。
参考:名古屋歯科口腔外科・矯正歯科によるソムノデントの適応・合併症の解説
https://nidos-nagoya.com/menu/medical09/
ソムノデント アヴァントを含むソムノデントMASシリーズは、SomnoMed社が認定した歯科医師だけが患者へ提供できる仕組みになっています。つまり、認定セミナーの受講が必須条件です。
SomnoMed Japanが主催する「ソムノデントMASクリニカルセミナー」は、主に東京都品川区で開催されており、医科・歯科両分野の専門家が講師を務めます。午前の部では、OSA患者の病態・診断・治療の基本知識を医科の観点から学びます。午後の部では、OA専用咬合採得装置「SOMゲージ」を用いた咬合採得のハンズオン実習が含まれており、実際にペアワークで手技を習得できる構成になっています。受講後にはSomnoMed社から認定歯科医師として認定証が発行されます。
コースは3種類あり、受講料と特典は以下のとおりです。
| コース名 | 受講料(税込) | 主な内容・特典 |
|---|---|---|
| A/プラチナコース | 148,500円 | 受講料+SomnoDent MAS製作2個分+患者説明用サンプル模型+SOMゲージキット+昼食代 |
| B/プレミアムコース | 93,500円 | 受講料+SomnoDent MAS製作1個分+SOMゲージキット+昼食代 |
| C/一般コース | 38,500円 | 受講料+昼食代 |
特にSOMゲージの習得は重要です。SOMゲージとは、OA製作時に上下顎の位置関係(咬合採得)を正確に記録するための専用装置で、この記録の精度が装置の治療効果を左右します。下顎をどの程度前方に位置づけるかが治療効果と副作用のバランスに直結するため、セミナーで実習を通じて習得する価値は高いです。
プラチナコースやプレミアムコースはセミナー後に実際の製作1〜2個分が含まれています。これを活用して初症例の製作コストを一部カバーできるため、クリニックの実導入を前提とするなら、一般コースより上位コースの費用対効果が高いケースが多いです。これは使えそうです。
参考:SomnoMed Japan 認定セミナー案内ページ
https://somnomed.com/jp/dentists/seminar/
「CPAPのほうが確実に効果が出る」という印象を持つ歯科医は少なくありませんが、実臨床では必ずしもそうとは言えません。SomnoMed社が提唱する「The Effectiveness Equation™(効果検証式)」は、CPAPと口腔内装置の一晩の治療効果を実際の使用状況を踏まえて比較するための概念です。
CPAPはAHI(無呼吸低呼吸指数)の低減効果そのものは優れていますが、患者が夜間に途中でマスクを外すと、その時間帯は無治療状態になります。一方、口腔内装置はAHIの低減率でCPAPに及ばない場合があっても、コンプライアンス(一晩通しての装着継続率)が高い傾向があるため、トータルの治療効果が近似するケースがあります。結論はコンプライアンスで差が縮まるということです。
SomnoMed社の参照論文によると、軽症OSA患者を対象にした12研究・1,438人のメタ分析では「軽症OSA患者はCPAPのコンプライアンスが低い」という結果が出ています(American Journal of Therapeutics 21, 260-264 (2014))。さらに、160人の患者を5年間追跡した研究では、AHI 5〜15の軽症OSA患者は、5年後に平均AHIが9.1から21.7へ増加し、中等度OSAに進行したことが報告されています。
「いびきだけで無呼吸ではない」という自覚の患者こそ、将来的に重症化するリスクを抱えているという視点は、歯科医として患者へ説明する際に非常に有用です。軽症だから様子を見るという考え方では、将来の患者の健康リスクと関連するリスクを見逃す可能性があります。
AHIで判断すると口腔内装置の適応は「軽度〜中等度(AHI 5〜30未満)」が目安ですが、重度OSA患者でもCPAP不耐容の場合には代替選択肢として検討対象になります。また、CPAPとの併用という選択肢もあります。CPAPと口腔内装置を組み合わせることで、CPAPの設定圧力を下げることが可能になる場合があり、患者のマスク装着感の改善につながるケースがあります。
参考:SomnoMed Japan – CPAPの代替療法に関する臨床論文まとめ
https://somnomed.com/jp/physicians/effective-cpap-alternative/
アヴァントが従来の口腔内装置と一線を画す理由のひとつが、完全なデジタルワークフローです。ここでは、歯科医院側の実務的な視点から整理します。
従来の印象採得(アルジネートなどを使った型取り)では、患者の嘔吐反射・変形・印象材の残滓といったトラブルがしばしば発生します。アヴァントは口腔内スキャナー(IOS)で取得したデジタルデータ、または石膏模型のスキャンデータをSomnoMed社のライセンスラボに送るだけで製作が完結します。つまりIOS対応が前提です。
院内にIOSが導入されていない場合でも、石膏模型をラボでスキャンする形で製作に対応できますが、IOSがあればより正確なデータを短時間で送付できるため、製作精度と患者負担の軽減に直結します。なお、日本国内においては口腔内スキャナーの導入率は全歯科医院のうち5〜10%程度とされており(まつうら歯科調査)、導入済みのクリニックがアヴァント製作でより有利な立場にあります。
製作されたアヴァントは、SomnoMed社の品質管理体制のもとで出荷前に3Dプリントで製作された歯型模型への試適と確認が行われます。医療機器の品質規格ISO 13485に準拠した管理体制のもとで製造されており、院内技工では難しいレベルの品質保証が得られることが条件です。
患者体験の観点でも変化があります。デジタルデータが残ることで、装置の経年劣化や破損時の再製作が従来よりスムーズに行えます。物理的な石膏模型を長期保管する必要がなく、保管スペースの節約にもなります。初診から製作・フィッティングまでのフローを整備することで、SAS専門外来としてのブランド価値を高める土台にもなります。
診療サイドでは、製作後のフィッティング時に下顎位置の微調整が「専用ストラップの付け替え」という直感的な方法で行えます。スクリュー式と異なり操作が簡便なため、チェアサイドでの調整時間を短縮できます。1mm単位での調整精度は、治療効果が不十分な場合の対応や副作用管理においても重要なポイントです。
認定資格を取得しても、患者説明の方法が曖昧では成約につながりません。ここは見落としがちな部分です。
まず、治療対象となる患者のほとんどは「自分がOSAかどうか確信がない」状態で来院します。「いびきはひどいと言われるが、自分では気づいていない」「日中の眠気は感じるが、年のせいかと思っていた」というパターンが多いです。そのため、初診時のスクリーニングが非常に重要で、SomnoMed社のセミナーで学ぶ「患者へのスクリーニング方法」は実践的な内容を含んでいます。
患者説明でよく使われる切り口は、保険スプリントとの違いです。「保険のマウスピースと何が違うのか」という問いに対し、以下の点を順番に説明すると伝わりやすいです。
費用に関しては、院内で198,000〜231,000円(税込)程度が相場です(クリニックにより異なります)。「高い」という反応が想定される場合、保険一体型の3割負担で約10,000円と比べると差がはっきりするため、価格差の理由を具体的に説明することが重要です。CAD/CAM製法によるカスタム製作・素材の差・継続使用しやすい設計、といった「コストの根拠」を言語化しておくと納得感が高まります。
また、製作後のキャンセル・返金が不可であることは、必ず製作前に書面で説明し同意を取得する必要があります。患者トラブルの原因になりやすいポイントです。注意が必要ですね。
患者のフォローアップも忘れてはいけない部分です。装置の装着開始初期には、顎関節・咀嚼筋の違和感や咬合の変化が生じることがあります。こうした症状は使用開始から数週間以内に落ち着くことが多いですが、患者があらかじめ知っておくことで不安を持たずに継続できます。フォローアップのタイミングを設定し、症状変化に応じてストラップの長さ調整で下顎位置を変更するなど、細やかな対応が治療継続率を大きく左右します。フォローアップが原則です。
参考:ウケデンタルによるソムノデントのメリット・デメリット・価格の詳細解説
https://www.ukedental.com/snore_bruxism/somnodent