カタログを「眺めるだけ」では、手術中に最適なプレート選択ができず、術後の骨癒合が遅れるリスクがあります。
デピューシンセス(DePuy Synthes)はジョンソン・エンド・ジョンソン傘下の医療機器企業であり、2024年度の年間売上は約92億ドル、年間約700万人の患者に製品が使用されています。その事業規模は、口腔外科・顎顔面外科(CMF)領域においても世界トップクラスに位置します。
シンセスのCMF(Craniomaxillofacial)カタログは、頭蓋・顎・顔面領域に特化したインプラントシステムのラインナップを体系的に網羅したものです。主要製品として、下顎骨骨折・再建向けの「MatrixMANDIBLE」、顎矯正手術向けの「MatrixORTHOGNATHIC JAPAN System(MOJ)」、吸収性インプラントの「RAPIDSORB」、患者個別対応の「TRUMATCHカスタムメイドシステム」などが収録されています。
カタログはデジタル形式(PDF)でデピューシンセス公式ページから入手でき、各製品ごとに「カタログ」と「手技書(Surgical Technique)」の2種類が用意されています。これが重要な点です。手技書には手術手順の詳細が記載されており、カタログと手技書を組み合わせることで初めて製品の全体像を把握できます。
製品ラインの全体構成は以下のように整理されます。
- **MatrixMANDIBLE**(下顎骨専用プレートシステム):外傷・骨切り・粉砕骨折・腫瘍再建に対応
- **MatrixMIDFACE**(中顔面用システム):上顎・頬骨・眼窩などの中顔面領域に対応
- **MatrixORTHOGNATHIC JAPAN System**(顎変形症専用):日本人医師が設計に参加した日本向け特化システム
- **RAPIDSORB**(吸収性プレートシステム):下顎を除く頭蓋顎顔面領域の骨固定に対応
- **TRUMATCHカスタムメイドシステム**:CT画像から設計するオーダーメイドプレート
- **GRAND FIX・MATRIX RIB・MATRIX WAVE**:肋骨・胸骨・頭蓋再建など特殊領域向け
- **器械・アクセサリー類**:90°スクリュードライバーシステム、スクリュー除去セット等
これらすべてが「シンセス カタログ」として公式サイトからアクセス可能です。つまり基本情報は無料で入手できるということですね。
デピューシンセス公式サイト CMF製品情報ページ(カタログ・手技書のPDFダウンロードが可能)
MatrixMANDIBLEシステムは「AOコンセプト(Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen)」に基づいて開発された、下顎骨専用の内固定インプラントシステムです。AOコンセプトとは、骨折治療における解剖学的整復・安定固定・早期機能回復を目指す考え方で、世界標準の骨接合理念として口腔外科でも広く採用されています。
カタログ上での製品選定は、まず「適応(Indication)」の把握から始まります。プレート厚による使い分けは以下の通りです。
| プレート厚 | 主な適応 |
|---|---|
| 1.0 / 1.25 / 1.5mm | 下顎骨外傷・骨切り術 |
| 2.0mm | 外傷・粉砕骨折・再建 |
| 2.5 / 2.8mm | 粉砕骨折・再建・下顎頭再建 |
スクリューは2.0mm・2.4mm・2.7mmの3径に加え、緊急用として3.0mmエマージェンシースクリューが用意されています。重要な特長は「All screws work with all plates(全スクリューが全プレートに対応)」という互換性設計です。また「One blade for all screws(1本のドライバーで全スクリュー対応)」という設計思想も採用されており、術中の器械管理が大幅に簡素化されます。これは使えそうです。
プレフォームドプレート(あらかじめ成形されたリコンプレート)は、2,000例以上のCTスキャンデータから設計されており、S・M・Lの3サイズで多くの下顎骨形態に対応します。サイザーを用いてプレート設置前にサイズ確認ができ、これによりベンディングにかかる時間を短縮できます。ベンディング不可エリアが設定されている点も金属疲労リスクの低減に貢献しています。
カラーコードシステムにより、プレート厚・スクリュー径・器械の基本的な組み合わせを視覚的に確認できます。特に手術室でのインストゥルメント管理において、混乱防止に役立つ仕組みです。カタログを読む際はカラーコードの対応表を先に確認しておくことが条件です。
MatrixMANDIBLEシステム公式カタログPDF(スクリュー・プレートのカタログ番号一覧を収録)
**RAPIDSORBシステムの特徴**
RAPIDSORBは「L乳酸(PLLA)85%・グリコール酸(PGA)15%」の共重合体から成る吸収性インプラントシステムです。体内埋植後、約1年かけて加水分解により水と二酸化炭素に分解されます。術後約8週間で強度の約95%を保持するという設計で、骨癒合に必要な固定期間を支持できます。
下顎を除く頭蓋顎顔面領域(外傷・顎変形症・頭蓋形成術)が適応です。プレートは0.8mm厚と1.2mm厚の2種類が用意されています。0.8mm厚は同社比較で最薄設計となっており、軟部組織の薄い部位(前頭頬骨縫合・眼窩下縁等)への適用を想定した仕様です。
吸収性素材ながら「打ち直し可能なスクリュー」設計を採用している点は意外ですね。チタンスクリューと同様に一度挿入したスクリューを抜去・再挿入できるため、術中の微調整が可能です。また、プレート成形には約70℃のお湯を使用する「ウォーターバス方式」を採用しており、高温による医療従事者の熱傷リスクを軽減しています。ウォーターバス自体は滅菌不要なドレープ対応設計のため、セッティングの手間も最小限です。
さらに全インプラントパッケージに温度管理インジケーターが搭載されています。製造から使用直前まで温度条件(40℃以下・25.1〜40℃の累積時間480時間以内)を管理しており、保管状態を目視で確認できます。インジケーターが×マークになっている製品は使用不可となるため、品質管理の面でも重要な仕組みです。
**MatrixORTHOGNATHIC JAPAN Systemの特徴**
MatrixORTHOGNATHIC JAPAN System(MOJ)は、日本人医師が設計に携わった点が最大の特徴です。これが原則です。日本人の顎骨形態や術式に合わせて、11種類・67サイズという豊富なプレートバリエーションが用意されています。
主要プレートの種類は次の通りです。
- Matrix L型ストレートプレート/L型カーブドプレート(ポジショニングホール対応)
- Matrix SplitFixストレートプレート/カーブドプレート(スライダー対応)
- Matrix SSROカーブドプレート/ストレートプレート(下顎矢状分割骨切り術向け)
- Matrix マキシラリープレート(上顎骨固定用、7〜20mmのオフセット対応)
- Matrix チンプレート(オトガイ部固定用)
- Matrix T型・ボックス・ストラットプレート(補助固定用)
SSROカーブドプレートは「歯根を配慮した傾斜角度15°」で設計されており、スクリュー挿入時の歯根損傷リスクを軽減しています。ポジショニングホール/スライダー機能を持つプレートでは、骨切り線をまたいだ骨片に1本ずつスクリューを固定した後、手術中に咬合位置の微調整が行えます。これはSSRO(矢状分割骨切り術)など顎矯正手術において非常に実用的な機能です。スクリュー径は1.55mm・1.85mmの2種類と2.1mmエマージェンシーがあり、繊細な顎矯正術野に対応しています。
RAPIDSORB公式カタログPDF(温度管理インジケーターの詳細と製品ラインナップを収録)
**TRUMATCHカスタムメイド再建システムの仕組み**
TRUMATCHシステムは、患者のCTスキャンデータをもとに設計・製作されるオーダーメイドの下顎再建用プレートシステムです。市場において「非メッシュ型カスタムメイドプレートとして唯一(2021年11月時点、同社調べ)」というポジショニングを持っています。
システムの流れは3ステップです。
1. **術前プランニングセッション**:専任クリニカルエンジニアとのオンライン面談により、術後の解剖学的形態を考慮したプレート形状を設計。特殊なソフトウェアや設備は施術者側に不要です。
2. **カスタムサージカルガイドの製作**:カッティングガイドとドリリングガイドが組み込まれたカスタムガイドが作製され、プランニング通りの骨切除・骨採取・穿孔が実現します。
3. **ピュアチタン削り出しプレートの使用**:スクリューホール間隔を最小5.5mmまで設定可能で、既存のMatrixMANDIBLEプレートより狭い間隔のスクリュー配置が可能。骨切り線・歯根・神経・既存インプラントとの干渉を避けた設計ができます。
プレート厚は2.0mmと2.5mmの2種類から選択でき、同社疲労試験によれば2.5mm厚のAO MatrixMANDIBLEシステムの2.5mm厚プレートよりも疲労強度が上回るデータが示されています(ただしベンチテストの結果であり、臨床性能を直接示すものではありません)。既存のMatrixMANDIBLEスクリューがそのまま使用できる互換性設計のため、追加の器械投資も不要です。
適応症例はカタログ上で次のように記されています:粉砕骨折、無歯または萎縮した下顎骨、不安定または感染した下顎骨骨折、下顎骨の一次・二次再建(移植骨または血管柄付き移植骨使用)、二次再建までの一時的架橋固定。複雑な症例ほど、オーダーメイド設計の恩恵を受けやすいということですね。
**ローナープログラムとは何か**
シンセスのCMFカタログには「ローナープログラムガイダンス」という文書も収録されています。これは施術者にとって見落としがちですが、手術計画と器械管理に直結する重要情報です。
ローナーセットとは、手術のために医療機関に一時的に提供される再使用可能な医療機器セットのことです。主にデピューシンセス側が所有するもので、手術ニーズに合わせて医療機関に貸し出される仕組みです。ただし「非滅菌状態で提供される」点に注意が必要です。受け取った医療機関側が、使用前に洗浄・点検・高圧蒸気滅菌を実施する義務を負います。
ローナーセット利用時の医療機関側の責任事項として、以下が明記されています。
- 引き渡し時および手術使用前の洗浄・消毒・点検・最終滅菌
- 手術後の洗浄・消毒・点検の実施
- 器械の紛失・破損のDePuy Synthesへの速やかな報告
- CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病)等TSE疑い患者への使用時の即時連絡
つまりローナーセットは医療機関側の管理責任が大きいということです。初めてローナーセットを利用する際は、院内の滅菌管理担当者との事前確認が不可欠です。
デピューシンセスCMF製品情報ページ(TRUMATCHカタログ・ローナープログラムガイダンスのPDFリンクを収録)
シンセス CMFカタログには、インプラント(プレート・スクリュー)だけでなく、対応する専用器械のカタログ番号も収録されています。しかし実際の現場では、インプラントの選定に注力するあまり器械セットの管理が後回しになりがちです。器械の不備は手術の安全性に直結するため、カタログ上の器械選定は製品選定と同等の重要度で取り組む必要があります。
MatrixMANDIBLE トラウマセットには、プレートカッター・プレート保持用鉗子・ベンディングプライヤー・ドリルスリーブ・スクリュードライバー先が含まれます。リコンセットになると、これに加えてショートカット(片手でプレートをカットできる専用器具)・ベンディングインサート・ベンディングアイロンが追加されます。特に再建用プレート(1.5mm以上の厚みのプレート)をベンディングする際には、スクリューホールの形状を保持するためにベンディングインサートをあらかじめ挿入することが必要です。これを省略すると、スクリューホールの変形によりスクリュー固定が不安定になるリスクがあります。これは原則として厳守してください。
RAPIDSORB専用器械では、RSタップ(1.5mm・2.0mm各種長さ)・マイクロドリル先・RSカッター・ウォーターバス用器材(ドレープ・ラック等)が必要です。特にRSタップはプレート厚(0.8mm系は1.5mmタップ、1.2mm系は2.0mmタップ)によって使い分けが必要で、カタログ上のインジケーターと照合しながら確認することが条件です。
MOJシステムでは、コントラアングルドライバー器械が専用ミニモジュールとして別設定されています。90°スクリュードライバーシステム(90° SCREWDRIVER SYSTEM)も専用カタログが存在し、口腔内アプローチで垂直方向のドリリングやスクリュー挿入が難しい部位での使用を想定した設計です。顎変形症手術での上顎・下顎固定において、口腔内からのアプローチが必要な場面ではこの器械の存在を事前に確認しておくことが重要です。
カタログを「製品番号の確認ツール」として使うだけでなく、器械セットの全体構成を把握するための設計書として読む視点が求められます。カタログと器械セットを照合するという作業が、手術準備の質を大きく左右するのです。
さらに、各システムには「テンプレート」と呼ばれる試験用器具も収録されています。テンプレートはプレートの実物大モデルであり、手術前に患者の骨上でサイズ確認や位置合わせを行うために使用します。MatrixMANDIBLEでは50種類以上のテンプレートが用意されており、MOJでも50種類を超えるテンプレートが収録されています。テンプレートを使わずに直接プレートをベンディングして試適するアプローチは、プレートの早期破損や無駄なコストにつながる可能性があります。痛いですね。
MatrixORTHOGNATHIC JAPAN System公式カタログPDF(11種類67サイズのプレート・テンプレート相関表を収録)
十分な情報が収集できました。記事を作成します。