リン酸水素カルシウムを含む製品を毎日患者に勧めているのに、腎臓を傷つけている可能性があると知ったら、どうしますか?
リン酸水素カルシウム(CaHPO₄)は、カルシウムとリンを同時に含む化合物で、骨や歯の構成成分として体内にとって不可欠なミネラルです。 歯科領域では、再石灰化促進ガム(リカルデントなど)の有効成分として知られており、溶け出したエナメル質のカルシウム・リン酸を補充する目的で広く使われています。 kobe-kishida-clinic(https://kobe-kishida-clinic.com/metabolism/metabolism-medicine/calcium-hydrogen-phosphate-dihydrate/)
ところが同じ成分でも、体内に過剰に取り込まれたリンは非常に危険な経路をたどります。 つまり「骨と歯を守る成分」が、条件次第で腎臓の大敵に変わるということです。
リン酸水素カルシウムの添付文書には、明確な禁忌が記載されています。 「重篤な腎不全のある患者」には投与しないことと定められており、その理由は「組織への石灰沈着を助長するおそれがある」からです。 drug.antaa(https://drug.antaa.jp/search/drugs/3219001X1030)
これは歯科にとって直結する話です。 日本では慢性腎臓病(CKD)の患者数は推計1,480万人以上とされており、成人の約8人に1人がCKDに相当すると言われています。 歯科クリニックに通う患者の中に、CKD患者が相当数含まれているのは統計的に確実です。 これは見過ごせません。 midori-hp.or(https://midori-hp.or.jp/pharmacy-blog/web20210614/)
患者が腎機能障害を自覚していないケースも多く、医科歯科連携の情報がなければ歯科側が気づけない場合があります。 禁忌に当たる患者像をまとめると以下のとおりです。
drug.antaa(https://drug.antaa.jp/search/drugs/3219001X1030)
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clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/DrugInfoPdf/00013196.pdf)
特に長期投与により「血中および尿中カルシウムが高値になりやすい」という警告も添付文書に明示されています。 再石灰化目的でリン酸水素カルシウム含有製品を長期間継続的に推奨している場合は、患者の既往歴・服薬状況の確認が必要です。 腎機能情報の確認が条件です。 clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/DrugInfoPdf/00013196.pdf)
参考:リン酸水素カルシウム「エビス」の薬剤情報(禁忌・腎機能用量に関する詳細)
リン酸水素カルシウム「エビス」| Antaa DI - 禁忌・腎機能障害患者への注意点
慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常、いわゆる「CKD-MBD(CKD-mineral and bone disorder)」は、歯科従事者が必ず知っておくべき病態です。 腎機能が低下すると、腎臓によるビタミンD活性化能が低下し、カルシウム吸収が減少します。 同時にリンの尿中排泄が滞り、血中リンが上昇します。 midori-hp.or(https://midori-hp.or.jp/pharmacy-blog/web20210614/)
この状態で外部からカルシウム・リン製剤を補給すると何が起きるでしょうか?
過剰になったリン酸カルシウムが血管・内臓・関節などに沈着する「異所性石灰化」が引き起こされます。 血管での石灰化は動脈硬化につながり、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などのリスクを高めます。 これは歯科の話ではなく、全身管理の話です。 midori-hp.or(https://midori-hp.or.jp/pharmacy-blog/web20210614/)
| 病態の進行 | 腎臓の変化 | カルシウム・リンへの影響 |
|---|---|---|
| CKD初期〜中期 | ビタミンD活性化低下 | 血中Ca低下・血中P上昇 |
| CKD中期〜後期 | リン排泄能低下 | 副甲状腺ホルモン(PTH)上昇 |
| 進行したCKD | 石灰化・線維症リスク | 異所性石灰化(血管・内臓) |
参考:慢性腎臓病患者に対する薬剤選択と注意点(薬剤師向け解説)
腎臓にトドメを刺さないために〜不適切な使用を防ぐ|みどり病院薬剤部ブログ
歯科衛生士が食生活指導を行う際、虫歯予防の観点でカルシウム・リン摂取を積極的に勧める場合があります。 これは正しい方向性ですが、「リンの過剰摂取」という落とし穴に気づかないまま指導しているケースも少なくありません。 実はここが盲点です。
血中リン濃度が上昇すると、腎臓はリン排泄を増やすためにFGF23(線維芽細胞増殖因子23)というホルモンを分泌させます。 FGF23が慢性的に高い状態は、腎機能低下・心血管リスク上昇と強く関連することが複数の研究で示されています。 厳しいところですね。 rosetowndc(https://www.rosetowndc.com/2025/02/12/7523/)
歯科での食事指導では次の点を意識することが重要です。
「リンを取れ」と指導する前に、患者の腎機能背景を確認する習慣が必要です。 腎機能確認が先決です。
参考:リンの過剰摂取が腎臓に与える影響(東京農業大学の研究解説)
参考:リンと老化・腎臓の関係をわかりやすく解説した記事
腎臓が寿命を決めている!? 老化を進めるリンと腎臓の話|Tarzan Web
歯科従事者が「腎臓のリスク管理者」になれる、という視点は一般的ではありません。 しかし実際には、歯科は他科と比べて患者との接触頻度が高く、定期的なコミュニケーションの中でリスクサインに気づける立場にあります。 これは使えそうです。
具体的にどのようなアプローチが可能でしょうか?
まず問診票の見直しが効果的です。 「腎臓の病気・透析の有無」「現在服用中の薬(リン吸着薬・活性型ビタミンD製剤)」を問診で確認するだけで、高リスク患者を事前に把握できます。 問診が第一歩です。
次に再石灰化製品の説明場面での配慮です。 リン酸水素カルシウムやCPP-ACP(リカルデント)などの製品は健常者であれば非常に有効ですが、腎機能障害がある患者には「念のためかかりつけ医にご確認を」と一言添えることが安全管理として重要になります。 nomodent5454(https://nomodent5454.com/diary-blog/17196)
参考:慢性腎臓病患者と透析患者への歯科治療上の注意点(大分大学医学部)
第4回 慢性腎臓病患者と透析患者に対する歯科治療の注意点|大分大学医学部口腔外科
参考:CPPと腎臓線維症の関係を詳細に解説した専門記事
リン排泄役の腎臓がCPPで傷む悪循環|LOHAS Medical