リンパ節炎の原因と症状から治療まで

リンパ節炎は様々な原因で発症し、患者さんに不安を与える症状です。歯科医療従事者として知っておくべき原因や症状、治療法について解説します。あなたの診療所でリンパ節の腫れを訴える患者さんにどう対応しますか?

リンパ節炎の原因

リンパ節炎とは
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免疫の最前線

リンパ節は体内の免疫システムの重要な部分で、細菌やウイルスなどの異物をろ過する役割を担っています

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炎症反応

感染や炎症が発生すると、リンパ節が腫れて痛みを伴うことがあります

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歯科との関連

口腔内の感染症が頸部リンパ節炎の原因となることがあるため、歯科医療従事者の理解が重要です

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リンパ節炎は、リンパ節に炎症が起きて腫れや痛みを引き起こす状態です。通常、リンパ節は豆のような形をしており、直径1cm以下のサイズですが、炎症を起こすと腫れて触知できるようになります。特に頸部(首)には左右合わせて約200個ものリンパ節があり、口腔内の感染症との関連も深いため、歯科医療従事者として理解しておくことが重要です。

 

リンパ節は私たちの体を感染から守る免疫システムの一部であり、体内を循環するリンパ液から異物や病原体をろ過する役割を担っています。そのため、何らかの感染や炎症が発生すると、リンパ節が反応して腫れることがあります。

 

リンパ節炎の細菌感染による原因

細菌感染はリンパ節炎の主要な原因の一つです。特に歯科領域と関連が深い細菌感染には以下のようなものがあります:

  1. 口腔内感染症
  2. 連鎖球菌感染
    • 咽頭炎や扁桃炎から波及する連鎖球菌感染は、頸部リンパ節炎の一般的な原因です
    • A群連鎖球菌による感染は特に注意が必要です
  3. その他の細菌感染
    • 猫ひっかき病(バルトネラ・ヘンセラ菌)
    • 結核菌による感染(結核性リンパ節炎)
    • 梅毒トレポネーマによる感染

歯科医療従事者として特に注意すべきは、口腔内の感染が頸部リンパ節に波及するケースです。重度の虫歯や歯周病、根尖性歯周炎などが適切に治療されないと、細菌が血流やリンパ流を介して頸部リンパ節に到達し、リンパ節炎を引き起こすことがあります。

 

また、歯科治療後に一時的にリンパ節が腫れることもありますが、これは治療による一過性の反応であることが多く、通常は数日で改善します。しかし、腫れが長期間続く場合や、発熱などの全身症状を伴う場合は、より重篤な感染症の可能性も考慮する必要があります。

 

リンパ節炎のウイルス感染と原因

ウイルス感染もリンパ節炎の重要な原因となります。特に頸部リンパ節に影響を与えるウイルス感染には以下のようなものがあります:

  1. 上気道感染症ウイルス
    • 風邪やインフルエンザウイルス
    • アデノウイルス
    • パラインフルエンザウイルス
  2. 特異的なウイルス感染
    • エプスタイン・バールウイルス(EBV)による伝染性単核球症
    • サイトメガロウイルス(CMV)感染症
    • ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症
  3. ヘルペスウイルス感染
    • 単純ヘルペスウイルス(HSV)
    • 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)

特に伝染性単核球症は若年成人に多く見られ、発熱、咽頭痛、全身倦怠感とともに頸部リンパ節の腫脹を特徴とします。このような症状を訴える患者さんが来院した場合、口腔内症状だけでなく全身状態にも注意を払う必要があります。

 

歯科診療において、口腔内にヘルペス性病変(口唇ヘルペスや口内炎)が見られる場合、それに関連してリンパ節炎が生じていることもあります。特に免疫力が低下している患者さんでは、ヘルペスウイルスの再活性化が起こりやすく、リンパ節炎の原因となることがあります。

 

また、HIV感染症では持続的なリンパ節腫脹が特徴的な症状の一つとなります。歯科医療従事者は口腔内の特徴的な病変(カンジダ症、毛様白板症など)とともに、頸部リンパ節の状態にも注意を払うことが重要です。

 

リンパ節炎と亜急性壊死性リンパ節炎の関連

亜急性壊死性リンパ節炎(菊池病)は、リンパ節炎の特殊な形態であり、主に10〜30歳代の若年女性に多く見られる疾患です。この疾患の特徴と原因について理解しておくことは重要です。

 

亜急性壊死性リンパ節炎の特徴

  • 高熱(38〜40℃)が1〜2週間続く
  • 頸部リンパ節の有痛性腫脹(特に後頸部や鎖骨上窩)
  • 発疹や関節痛を伴うこともある
  • 自然軽快するが、1〜3ヶ月と経過が長い

原因と病態
亜急性壊死性リンパ節炎の正確な原因は不明ですが、ウイルス感染(特にEBVやHHV-6)に対する過剰な免疫反応が関与していると考えられています。リンパ節の病理組織では、特徴的な壊死性変化と組織球の増殖が見られます。

 

歯科医療従事者として注意すべき点は、この疾患が口腔内感染症との鑑別を要することです。頸部リンパ節の腫脹を主訴に来院した患者さんの中には、歯性感染症ではなく亜急性壊死性リンパ節炎である可能性もあります。特に若年女性で、抗生物質治療に反応しない持続的な発熱と頸部リンパ節腫脹がある場合は、本疾患を疑い、適切な医科への紹介が必要です。

 

また、亜急性壊死性リンパ節炎は自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)と類似した症状を呈することがあり、鑑別診断が重要です。リンパ節生検による病理組織学的検査が確定診断に有用ですが、通常は臨床症状と血液検査所見から診断されます。

 

リンパ節炎の原因となる自己免疫疾患

リンパ節炎は感染症だけでなく、様々な自己免疫疾患によっても引き起こされることがあります。自己免疫疾患によるリンパ節炎の特徴は、通常長期間持続し、他の全身症状を伴うことが多い点です。

 

主な自己免疫疾患とリンパ節炎の関連

  1. 関節リウマチ(RA)
    • 多発性の関節炎とともに、頸部や腋窩のリンパ節腫脹が見られることがある
    • リンパ節は通常無痛性で、慢性的に腫れている
  2. 全身性エリテマトーデス(SLE)
    • 蝶形紅斑や関節痛などの症状に加え、全身のリンパ節腫脹が生じることがある
    • 特に頸部、腋窩、鼠径部のリンパ節が腫れやすい
  3. シェーグレン症候群
    • 口腔乾燥症や眼乾燥症が特徴的
    • 耳下腺腫脹とともに頸部リンパ節の腫脹が見られることがある
  4. サルコイドーシス
    • 体内の様々な組織に肉芽腫が形成される疾患
    • 肺門部リンパ節の腫脹が特徴的だが、頸部リンパ節にも影響することがある

歯科医療従事者として重要なのは、これらの自己免疫疾患が口腔内症状を伴うことが多い点です。特にシェーグレン症候群では口腔乾燥症が主症状となるため、歯科診療の場で発見されることもあります。また、関節リウマチ患者では顎関節症状を呈することがあり、顎関節の痛みや開口障害とともに頸部リンパ節の腫脹が見られることがあります。

 

自己免疫疾患によるリンパ節炎は、感染性のものと異なり抗生物質治療に反応しません。そのため、リンパ節腫脹が長期間持続し、通常の治療に反応しない場合は、自己免疫疾患の可能性も考慮して、適切な医科への紹介が必要です。

 

また、自己免疫疾患の治療には免疫抑制剤やステロイド剤が使用されることが多く、これらの薬剤は口腔カンジダ症などの日和見感染のリスクを高めます。そのため、これらの疾患を持つ患者さんの歯科治療においては、感染予防に特に注意を払う必要があります。

 

リンパ節炎の原因となる歯科疾患の特徴

歯科医療従事者として特に重要なのは、口腔内の疾患がリンパ節炎の原因となるケースを理解することです。口腔内の感染症は頸部リンパ節に直接影響を与えることがあり、適切な歯科治療がリンパ節炎の改善につながることも少なくありません。

 

リンパ節炎を引き起こす主な歯科疾患

  1. 重度の齲蝕(虫歯)
    • 歯髄まで達した深い虫歯は細菌感染の温床となる
    • 歯髄炎や根尖性歯周炎に進行すると、顎下リンパ節や頸部リンパ節の腫脹を引き起こすことがある
  2. 歯周病
    • 中等度〜重度の歯周病では、歯周ポケット内の細菌が血流やリンパ流に入り込む
    • 特に急性歯周膿瘍では、頸部リンパ節の反応性腫脹が見られることがある
  3. 智歯周囲炎(親知らずの炎症)
    • 下顎智歯の周囲炎は顎下リンパ節や頸部リンパ節の腫脹を伴うことが多い
    • 重症化すると、口底蜂窩織炎や頸部蜂窩織炎に発展する危険性がある
  4. 歯根嚢胞や歯原性腫瘍
    • 慢性的な炎症を伴う歯根嚢胞は、長期間にわたりリンパ節炎の原因となることがある
    • 稀に歯原性腫瘍が頸部リンパ節に転移することもある

歯科診療において、頸部リンパ節の腫脹を訴える患者さんに対しては、まず口腔内の詳細な検査が必要です。特にパノラマX線写真やデンタルX線写真を用いて、根尖病変や埋伏歯の有無、骨吸収の程度などを確認することが重要です。

 

また、リンパ節炎の原因となる歯科疾患の治療においては、感染源の除去が最も重要です。具体的には、感染した歯髄の除去(根管治療)、歯周ポケット内の細菌バイオフィルムの除去(スケーリング・ルートプレーニング)、あるいは重症例では抜歯などの外科的処置が必要となります。

 

適切な歯科治療により感染源が除去されれば、それに伴うリンパ節炎も通常は1〜2週間程度で改善します。しかし、リンパ節の腫脹が長期間持続する場合や、歯科治療後も改善しない場合は、他の全身疾患の可能性も考慮して医科への紹介を検討する必要があります。

 

リンパ節炎と悪性腫瘍の鑑別診断

リンパ節の腫脹は良性の炎症性疾患だけでなく、悪性腫瘍の初期症状として現れることもあります。特に頭頸部領域は様々な悪性腫瘍が発生する部位であり、歯科医療従事者としてリンパ節炎と悪性腫瘍の鑑別診断について理解しておくことは非常に重要です。

 

悪性腫瘍によるリンパ節腫脹の特徴

  1. 悪性リンパ腫
    • 無痛性、硬い、可動性の乏しいリンパ節腫脹
    • 徐々に増大し、治療に反応しない
    • 全身症状(発熱、体重減少、盗汗など)を伴うことがある
  2. 頭頸部癌のリンパ節転移
    • 口腔癌、咽頭癌、喉頭癌などからの転移
    • 通常は硬く、固定性で、無痛性のリンパ節腫脹
    • 原発巣の症状(口内炎、嗄声、嚥下障害など)を伴うことが多い
  3. 甲状腺癌
    • 前頸部や鎖骨上窩のリンパ節腫脹
    • 甲状腺の腫瘤や結節を伴うことが多い

リンパ節炎と悪性腫瘍の鑑別ポイント

特徴 炎症性リンパ節炎 悪性腫瘍によるリンパ節腫脹
痛み あり(圧痛) 通常なし