連続縫合は「速い」と思って選んでいると、傷跡が幅広い白い瘢痕になります。
連続縫合(Running Suture)とは、1本の糸を創の端から端まで切らずに連続して通し、最初と最後だけを結んで閉鎖する縫合法です。途中の針は結ばずにまつり縫いのように進めるのが最大の特徴です。
対して結節縫合(Interrupted Suture)は、1針ごとに糸を結んで独立させていきます。縫い目がすべて独立しているため、1カ所が切れても他には影響しません。
この構造の違いが、臨床上の大きな差を生みます。
| 比較項目 | 連続縫合 | 結節縫合 |
|---|---|---|
| 縫合速度 | 速い(結節縫合比で約2〜3倍速) | 遅い |
| 使用する糸の量 | 少ない | 多い |
| 部分的な抜糸 | ❌ できない | ✅ できる |
| 感染時の対応 | 全体を開放する必要あり | 患部のみ抜糸可能 |
| 1カ所切断時のリスク | 全創が開く恐れあり | 局所のみで済む |
| 傷跡の整容性 | テンションムラが出やすい | 1針ずつ調整可能 |
| 適した部位 | 長い創・腹膜・帝王切開など | 顔面・精密な部位 |
救命救急の現場では患者の命を優先し、短時間で処置できる連続縫合が採用されることが多いです。ただし、形成外科医の立場からは「結節縫合の方が傷の治りがきれいになる」というのが一般的な評価です。つまり、速さと整容性はトレードオフの関係にあるということですね。
連続縫合を選ぶ場面として代表的なのは、帝王切開の子宮壁縫合、腹膜閉鎖、開腹術の筋膜層などです。これらは長い創で整容性よりも短時間・確実な閉鎖が優先されます。顔面や眉下切開など、傷跡が目立つ部位では原則として結節縫合が選ばれます。
Medtronicの教材(外科手術 縫合結紮)にも「部分的な抜糸ができないため感染がある場合には適さない」と明記されており、適応の判断が重要です。
Medtronic 外科手術縫合結紮ページ(縫合の種類と適応が図入りで解説されています)
連続縫合には大きく3つの種類があります。それぞれ特徴が異なるため、部位や目的に応じて使い分けることが必要です。
① 単純連続縫合(Simple Running Suture)
最もベーシックな連続縫合です。
運針の間隔はポストカード(はがき)の短辺が約10cm。体幹部では約10cmあたり16〜20針ほどが目安になります。
単純連続縫合のポイントは、各縫合のバイト(深さ)と幅を揃えることです。バイトが深すぎると組織を大きく巻き込みすぎ、浅すぎると創縁が合いません。バイト深さと幅の比率は1:1が理想とされています。
② 連続ロック縫合(Interlocking / Blanket Suture)
かがり縫合とも呼ばれます。単純連続縫合と異なり、針を毎回ループの中に通すことで糸が縫合方向に対してほぼ直角にかかるのが特徴です。
組織を引き寄せる力が強く、止血効果も期待できます。ただし締めすぎると血流が阻害されるリスクがあるため、テンションの管理が必要です。これは使えそうです。
③ 連続皮内縫合(Subcuticular / Intradermal Running Suture)
整容性が最も高い連続縫合です。皮膚表面に糸が出ないため、抜糸跡(ステッチマーク)が残りません。
吸収糸(PDSやポリグリコール酸など)を使用する場合は抜糸が不要です。一方、非吸収糸(ナイロンなど)を使った場合は端を引き出しておき、後日引き抜いて抜糸します。整容性が高く、顔面以外の長い閉創部位でよく用いられます。
縫合の基本型や真皮埋没縫合の解説については、医学書院の医学界新聞プラスが参考になります。
医学界新聞プラス「縫合の型を覚えよう!」(持針器の持ち方から結節・埋没縫合まで手技動画付きで解説)
連続縫合は「始めて終えるだけ」に見えて、実は細かい落とし穴がいくつかあります。
糸のテンション管理が最大の課題です。
単純連続縫合では、糸を引く力を全縫合で均一に保つ必要があります。1カ所でもゆるいと浸出液が漏れ出し、臭い・かゆみ・皮膚炎の原因になります。逆に締めすぎると血流が悪化し、創縁の壊死につながります。この「ちょうどよい締め具合」が連続縫合の最も難しい部分です。
最初と最後の結び方は特に重要です。
連続縫合の起点となる最初の結節が緩むと、連鎖して全体がほどける恐れがあります。最初の結びは通常の結節縫合と同様に、しっかり3結紫以上行ってください。最後の結びは、最後のループに糸端を通してから結びます。
なお、吸収糸を使って真皮水平マットレス連続縫合を行う場合の「最終結紫のやり方」は、輪となった2本の糸と、その対側で真皮を貫いた糸との3本での結紫になります。宮崎外科の論文(pharmarise.jp掲載)に詳しく解説されています。
真皮水平マットレス連続縫合の最終結紫法(PDF・図入りで手技の詳細を確認できます)
連続皮内縫合で特に注意したいのは、針の深さです。
皮下から真皮に向けて運針する際、表皮を貫通させてはいけません。表皮に出てしまうと整容性が失われ、感染リスクも上がります。また、脂肪組織を大きく巻き込みすぎると、脂肪壊死によるゆるみが生じて張力が保てなくなります。真皮のみに針がかかるよう、深さのコントロールが必要です。
連続縫合を用いるうえで見落とされがちなのが「感染時の対応が難しい」という点です。
結節縫合であれば、感染が起きた部位の糸だけを選んで抜糸し、ドレナージ(排膿)できます。これはポストカードの1枚だけを引き出すようなイメージです。しかし連続縫合では全部がつながっているため、感染があれば全体を開放するしかありません。
感染リスクが少しでも懸念される場面では、連続縫合は避けることが原則です。
Medtronicの教材にも「1カ所が切れると創全体が開いてしまうという危険性がある」と明記されています。リスクは理解したうえで使用することが必要です。
抜糸のタイミングについては、顔面では7〜10日、体幹や四肢では10〜14日が目安です。連続皮内縫合で吸収糸を使用した場合は抜糸不要ですが、非吸収糸では長期放置すると糸が組織に埋没してしまうことがあるため注意が必要です。
ケガに対する縫合のタイムリミットや管理の詳細は、医療機関の情報として参考になります。
大宮西口皮フ科形成外科「ケガに対する縫合について」(縫合のタイムリミットや部位別の目安が確認できます)
連続縫合と結節縫合のどちらを選ぶかは、縫合する「部位」「創の性状」「整容性の要求度」によって決まります。これが条件です。
連続縫合が適している場面
結節縫合が適している場面
形成外科医の観点から見ると、「傷跡のことだけを考えた場合、結節縫合より連続縫合が有利なケースはない」という意見が根強くあります。意外ですね。連続縫合が優れているのは速度と糸の使用量のみで、整容的な観点からはデメリットの方が目立ちます。
埼玉医科大学 高度救命救急センターのYTTレポートでも、形成外科医から「現場では連続縫合を採用することが多いが、傷の治りのきれいさは結節縫合の方が上」と明言されています。救命優先の現場ではやむを得ない選択であっても、整容を求める手術では選択を慎重にする必要があります。
埼玉医大高度救命救急センター YTTレポート(形成外科医によるリアルな縫合方法の解説・使い分けの考え方が参考になります)
連続縫合が「速いだけで傷跡が汚くなる」というのは、選択が間違っていた場合や、使い方が雑だった場合の話です。適切な部位に適切な手技で行えば、連続縫合でも整容性を維持できます。
やり方の工夫① 真皮縫合と組み合わせる
連続縫合(表皮閉鎖)の前に、吸収糸による真皮縫合をしっかり行うことが大前提です。真皮縫合で創縁の張力を十分に肩代わりさせると、表皮の連続縫合にかかるテンションが大幅に軽減されます。張力が減ることで締めすぎ・ゆるすぎの幅が広がり、テンション管理が格段に楽になります。
形成外科的には「真皮縫合さえきれいにできていれば表皮の連続縫合でも問題ない」という考え方も存在しますが、それは真皮縫合のクオリティが十分に高い場合に限った話です。
やり方の工夫② 糸の素材を選ぶ
連続縫合に使う糸の素材も、整容性に影響します。組織反応性が高い絹糸は使わないか、早期に抜糸するのが鉄則です。モノフィラメントナイロン(例:エチロン®)は組織反応が少なく、連続縫合に最もよく使われます。マルチフィラメント(より糸)は細菌が付着しやすいため表皮の連続縫合には不向きです。
やり方の工夫③ 抜糸後のテープ固定
抜糸後もすぐに張力がかかる状態にすると、瘢痕が幅広くなります。抜糸後は少なくとも1〜2週間、ステリストリップ®などのテープで減張固定を継続するのが形成外科的に推奨されるケアです。また、紫外線による色素沈着を防ぐため、遮光も行うことが望ましいです。
縫合の練習には、近年は市販の縫合練習キット(縫合パット・豚皮など)がネット通販で購入できるようになっています。医学界新聞プラスでも「比較的安価に縫合セットを購入できる」と紹介されています。価格は数千円から入手可能なものもあり、手技の反復練習に役立てられます。ただし、使用後の針の廃棄には必ず専用針捨てボックスを使用してください。