口腔外科で吸収糸を使うと感染リスクが3倍になります。
ポリグラクチン糸は、グリコール酸90%と乳酸10%からなるポリエステル共重合体(ポリグラクチン910)を原料とする合成吸収性縫合糸です。代表的な製品として、ジョンソン・エンド・ジョンソン社のバイクリルがよく知られています。この縫合糸は編み糸(ブレイド)構造を採用しており、複数の細い糸を編み込むことで柔軟性と結節保持力を両立させています。
編み糸構造には明確な利点があります。モノフィラメント(単糸)と比較して、結び目が緩みにくく、術者にとって扱いやすい特性を持っているのです。縫合操作中の糸の滑りが良く、結節を締める際のコントロールが容易になります。
つまり確実な縫合が可能です。
表面にはポリグラクチン370とステアリン酸カルシウムによるコーティングが施されています。このコーティング技術はBATH(Bio-Absorbable Thread)と呼ばれ、編み目の隙間まで均一にコーティングすることで、組織通過性を向上させています。コーティングにより、縫合時の組織損傷を最小限に抑え、術後の炎症反応を軽減する効果が期待できます。
製品によっては抗菌性を付加したバリエーションも存在します。バイクリルプラスは、コーティング剤にトリクロサンという抗菌剤を配合しており、黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌、さらにはMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)やMRSE(メチシリン耐性表皮ブドウ球菌)に対する抗菌性を発揮します。手術部位感染のリスクが高い症例では、こうした抗菌性縫合糸の選択が有効な場合があります。
ポリグラクチン糸の最大の特徴は、その抗張力保持期間と吸収期間のバランスにあります。ラットを用いた試験データによると、縫合後2週間でもとの抗張力の約75%が残留し、3週間後には6-0号以上の太さで約50%、4週間後には約25%まで低下します。7-0号以下の細い糸では、3週間後の抗張力残留率が約40%とやや早く低下する傾向があります。
この抗張力の低下は、加水分解という化学反応によって引き起こされます。体内の水分によってポリエステル結合が徐々に切断され、グリコール酸と乳酸という低分子化合物に分解されていくのです。これらの分解産物は体内で代謝されて最終的には二酸化炭素と水になるため、生体にとって安全です。完全吸収は56日から70日の間に完了するということですね。
抗張力保持期間は、創傷治癒の進行速度と密接に関係します。一般的に軟組織の創傷は、術後1~2週間で初期治癒が進み、3~4週間で十分な強度を獲得します。ポリグラクチン糸の抗張力保持期間は、この治癒プロセスに合わせて設計されており、創傷が自己支持力を獲得する頃に糸の強度が低下する仕組みになっています。
他の吸収性縫合糸と比較すると、ポリグラクチン糸は中期吸収型に分類されます。バイクリルラピッドのような速吸収型は抗張力保持期間が約5日と短く、42日で吸収されます。一方、ポリジオキサノン(PDS)は抗張力保持期間が約6週間、吸収期間が180~210日と長期です。症例に応じて、これらの吸収速度の違いを考慮した選択が求められます。
歯科口腔外科領域では、吸収性縫合糸と非吸収性縫合糸の使い分けが重要な判断ポイントとなります。ポリグラクチン糸のような吸収性縫合糸の最大のメリットは、抜糸のために患者が再来院する必要がないことです。しかし口腔内環境の特殊性を考慮すると、必ずしも吸収性縫合糸が第一選択になるわけではありません。
口腔内は唾液や食物残渣、多数の常在菌が存在する環境です。編み糸構造のポリグラクチン糸は、糸の隙間にプラーク(歯垢)や細菌が付着しやすく、感染リスクを高める可能性があります。実際の臨床では、インプラント埋入術や抜歯後の縫合において、非吸収性のナイロン糸やシルク糸を使用するケースが圧倒的に多いのです。
非吸収性縫合糸にもそれぞれ特性があります。ナイロン糸はモノフィラメント構造でプラーク付着が少なく、奥歯のような汚れがたまりやすい部位に適しています。シルク糸は非常に柔らかく、縫合後のチクチクとした不快感が少ないのが特徴ですが、水分を吸収しやすいため感染リスクはナイロンより高くなります。
どちらを選ぶかは術式や部位で判断します。
ポリグラクチン糸が口腔外科で推奨される場面もあります。深部組織の縫合や、抜糸が困難な部位での使用です。例えば骨膜や筋層の縫合では、表層は非吸収性糸で閉鎖し、深部はポリグラクチン糸で縫合するという使い分けが行われます。また小児患者や再来院が困難な患者では、抜糸不要という利点を優先して吸収性糸を選択することがあります。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)のバイクリル添付文書には、高齢者や栄養状態の悪い患者、創傷治癒の遅延が予想される患者への使用時には慎重な判断が必要であると記載されています。患者の全身状態や創傷治癒能力を評価した上で、縫合糸を選択することが重要です。
ポリグラクチン糸を使用する際には、いくつかの重要な注意点があります。
まず針と糸の取り扱いです。
持針器で把持する位置は、針先から針全体の長さの3分の1から2分の1の部分が推奨されています。針先側を把持すると針折れや組織刺通抵抗の上昇を招き、糸針接合部側を把持すると針の変形や破損の原因になるからです。
縫合糸自体を傷つけないことも重要です。鉗子や持針器で糸を押しつぶしたり、手袋やガーゼで過度に摩擦したりすると、糸の強度が低下し、術中の糸切れや術後の糸ほつれにつながります。特に編み糸構造のポリグラクチン糸は、外部からの機械的ストレスに弱い面があるため、丁寧な取り扱いが必要です。
注意すれば問題ありません。
結び方にも配慮が求められます。確実な結節を作るためには、標準的な手技に従って結節回数を増やし、平坦でしっかりした結び目を作ることが推奨されています。特にモノフィラメント縫合糸を接合した製品を使用する場合は、結節回数を増やすことで結び目の緩みを防ぐことができます。
緩んだ結節は創傷裂開のリスクを高めます。
適応部位の判断も慎重に行う必要があります。添付文書では、心臓血管への使用に関する安全性と有効性が確認されていないことが明記されています。また物理的負荷のかかる部位や長期的な支持が必要な場合は、非吸収性縫合糸との併用や、非吸収性縫合糸への変更を考慮すべきです。
吸収性であるがゆえの限界があります。
尿管や胆管内の塩類と長時間接触すると結石形成のリスクがあることも報告されています。汚染または感染した創傷部位に使用する場合は、適切な外科的処置を併用することが必要です。ポリグラクチン糸は一時的に体内で異物反応を引き起こす可能性があり、感染創では炎症反応が増強される恐れがあるため注意が必要です。
ポリグラクチン糸の品質を維持するためには、適切な保管管理が欠かせません。製品は滅菌済みの状態で供給されており、使用期限は滅菌後5年までと設定されています。この使用期限は製品の包装に明記されているため、使用前に必ず確認する必要があります。期限を過ぎた製品は強度低下や吸収速度の変化が生じる可能性があるため、使用してはいけません。
保管環境も重要な要素です。高温多湿や直射日光を避け、温度変化の少ない場所で保管することが推奨されます。縫合糸は高分子化合物であり、熱や紫外線によって劣化が促進されます。特にコーティング層は環境因子の影響を受けやすく、不適切な保管条件では滑らかさや抗菌性が損なわれる恐れがあります。
包装の完全性も確認すべきポイントです。外装に破損や穴があると、滅菌状態が維持できず、使用時に感染リスクが高まります。開封前に包装の状態を目視で確認し、異常がある場合は使用を避けるべきです。また一度開封した製品は再滅菌や再使用が禁止されており、未使用であっても廃棄しなければなりません。製品の劣化や二次汚染のリスクがあるためです。
在庫管理の方法として、先入先出(FIFO)の原則を採用することが効果的です。新しく入荷した製品を奥に配置し、古い製品から順に使用していくことで、使用期限切れによる廃棄を最小限に抑えることができます。診療所や病院では、定期的な在庫チェックを実施し、期限の近い製品を優先的に使用する体制を整えることが望ましいでしょう。
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