安価な持針器を使うと年間20時間の手技ロスが発生します。
マチュー型持針器は、フランスの整形外科医マチュー先生によって考案された器具です。この持針器の最大の特徴は、持ち手がグリップタイプになっている点です。握り込むように持つため、把持部に強い力が加わる設計となっており、硬い組織や太い針を使用する場面に適しています。
歯科治療では、主に手術後の閉創や一般的な外科手術で幅広く使用されています。特に皮膚や歯肉などの比較的硬い組織を縫合する際には、力強い把持が必要となるため、マチュー型が選ばれます。角針や大きめの縫合針を扱う際に威力を発揮するのです。
グリップ式の持ち方は、手のひら全体で包み込むような形になります。この持ち方により、長時間の手術でも安定した力を維持しやすいというメリットがあります。ただし、細かい動きには向いていないため、精密な縫合が必要な場面では他のタイプを選択する必要があります。
マチュー型の標準的なサイズは、全長が140mm~190mm程度です。指定される縫合糸は3-0から5-0が一般的で、針径はφ0.38~φ0.63mm程度の範囲に対応しています。歯科医院での抜歯後の縫合や、口腔外科手術の閉創などでは、このサイズ範囲の器具が頻繁に使われています。
把持力が高いのが特徴です。
ヘガール型持針器は、ドイツの婦人科医ヘガール先生が考案した器具です。リングに親指と薬指をかけて使用する形状が特徴で、先端が細く設計されています。マチュー型と比較すると、より細かい動きが可能となる構造です。
この持針器は、浅い閉創や小さな縫合、柔らかい組織の処置に最適です。血管の吻合など微細な組織の吻合や、深部の狭い部位での操作に適しています。丸針や小さめの縫合針を把持する際に使用され、歯周外科などの精密な手技が求められる場面で活躍します。
ヘガール型の柄が長い形状は、術野の視野を確保しやすいという大きなメリットがあります。深い部位での縫合時にも、術者の手が視野を妨げにくく、操作性が良好です。ただし、リング式の持ち方に慣れるまでには、ある程度の練習が必要となります。
標準的なサイズは全長が138mm~163mm程度で、指定縫合糸は4-0から6-0が一般的です。針径はφ0.33~φ0.38mm程度の細い針に対応しており、マチュー型よりも繊細な作業向けの設計となっています。歯周組織再生療法や審美的な歯肉縫合では、このサイズ範囲の精密さが求められます。
視野確保に優れています。
カストロビージョ型持針器は、スペインの眼科医カストロビージョ先生によって考案されたとされる器具です。スプリング式のハンドルが最大の特徴で、ハンドルの凹凸部に圧力をかけることで先端部が閉じる仕組みになっています。
この持針器の先端は非常に細く加工されており、極めて小さい針でもしっかりと把持できるのが大きな特徴です。眼科手術や血管・神経など、最も細かい縫合が必要な場面で使われる器具として知られています。歯科領域では、マイクロサージェリーや審美歯科の精密な縫合で重要な役割を果たします。
カストロビージョ型は、他の2タイプとは操作方法が大きく異なります。スプリング式のため、常に軽い力で開閉をコントロールでき、疲労を軽減できます。しかし、繊細すぎるため、大きな針や硬い組織には適していません。用途を明確に限定して使用する必要があります。
全長は138mm~150mm程度と比較的コンパクトで、指定縫合糸は5-0から7-0という極細の範囲に対応しています。針径はφ0.33mm以下の非常に細い針専用です。顕微鏡下での手術や、歯肉の薄い部分の縫合など、最高レベルの精密さが求められる場面で選択されます。
つまり極細針専用です。
持針器の先端部分に施されるTCチップ(タングステンカーバイドチップ)は、器具の性能を大きく左右する重要な要素です。このチップは超硬合金製で、ダイヤモンドに次ぐ硬度を持ち、高い弾性率と優れた耐摩耗性・耐熱性を兼ね備えています。
TCチップ付きの持針器は、丸針用として設計されることが一般的です。マチュー型とヘガール型では、丸針用にはこのダイヤモンドなどの硬い金属チップが施されています。カストロビージョ型は繊細で小さい丸針を使用するため、ほぼすべての製品にTCチップが標準装備されています。
チップの有無は、外観からも判断できる仕組みがあります。TCチップ加工されている持針器のワッパ部分には金メッキが施されているのです。一方、角針用のチップなし製品には金メッキがありません。購入時や使用前の確認では、この色の違いを見ることで簡単に識別できます。
TCチップ付きとチップなしの比較では、明確な差が出ます。TCチップ付きは超硬合金製で優れた耐久性を持つ一方、コストが高くなります。チップなしはステンレス製で低コストですが、摩耗しやすいという弱点があります。針の滑りにくさや長期使用の安定性を考慮すると、多くの歯科医院ではTCチップ付きの持針器が選ばれています。
結論は耐久性優先です。
FRIGZ公式サイトでは、TCチップとダイヤモンドチップの詳細な比較データが掲載されています
持針器には、先端の形状によって直型と曲型の2種類が存在します。この形状の違いは、縫合する部位や術者の手技スタイルに大きく影響します。どちらを選ぶかは、治療する部位の特性と術者の好みによって決まります。
直型の持針器は、針先の方向が読みやすいという大きなメリットがあります。基本手技の標準化にも向いており、新人スタッフへの教育コストを抑えやすい特徴があります。前歯部や頬側の前方部など、視野が確保しやすい部位での縫合に適しています。
一方、曲型の持針器は、臼歯部や頬側遠心など、手首を返しにくい場面で刺入角度を作りやすい設計です。特に臼歯部での使用に最適で、対合歯や頬粘膜が邪魔にならず、深い部位にも器具が届きやすくなります。曲を選ぶほど操作が楽になる一方、術者によって使用感の差が出ることもあります。
院内で器具を統一する際には、教育効率も考慮する必要があります。直型で統一すれば、すべてのスタッフが同じ感覚で器具を扱えるため、複数の術者が在籍する医院では教育コストを抑えられます。しかし、臼歯部の処置が多い医院では、曲型も併用することで術時間の短縮につながる可能性があります。
臼歯部は曲型が有利です。
使用頻度の高い部位を基準に、院内の主力器具を決める方法があります。前歯部の審美治療が中心なら直型、智歯抜歯や臼歯部の歯周外科が多いなら曲型を優先的に導入することで、効率的な器具運用が可能になります。
持針器を選ぶ際には、使用する縫合糸のサイズと針径との適合性が極めて重要です。各持針器には、指定縫合糸サイズと指定縫合針の直径が明確に設定されており、この範囲を外れると縫合の精度が著しく低下します。
縫合糸のサイズは「0」を基準に、数字が大きくなるほど細くなる表記方法です。3-0(サンゼロ)は0.2~0.249mm、4-0(ヨンゼロ)は0.15~0.199mmという具合に、徐々に細くなっていきます。歯科治療では、親知らずの抜歯など創が大きい場合には4-0の太めの糸を、歯周外科などの繊細な処置では5-0や6-0の細い糸を使い分けます。
マチュー型の持針器は、一般的に3-0から5-0の縫合糸に対応し、針径はφ0.38~φ0.63mm程度です。ヘガール型は4-0から6-0の縫合糸に対応し、針径はφ0.33~φ0.38mm程度とより細い針に適しています。カストロビージョ型は5-0から7-0という極細の縫合糸に対応し、針径はφ0.33mm以下の最も細い針専用となります。
適合範囲を守らないと、針が滑って縫合糸が抜けやすくなったり、逆に針を強く握りすぎて針が折れたりするリスクが高まります。特に細い針を太い針用の持針器で把持すると、力の加減が難しくなり、手技の安定性が損なわれます。
サイズ適合が基本です。
購入時には、自院で最も頻繁に使用する縫合糸のサイズを確認し、それに適合する持針器を選ぶことが重要です。複数のサイズ域をカバーする場合は、それぞれのサイズに適した持針器を揃えることで、あらゆる症例に対応できる体制を整えられます。
持針器は、メーカーによって価格帯と品質特性に大きな違いがあります。適切な選択をするためには、各メーカーの特徴を理解し、自院の治療スタイルと予算に合った製品を見極める必要があります。
国産メーカーのYDM(株式会社YDM)は、歯周外科の汎用域を狙った設計が特徴です。全長163mmで3-0~5-0の縫合糸に対応し、超硬チップ付きモデルが約26,000円程度と比較的手頃な価格設定です。国内の多くの歯科医院で採用されており、標準的な品質と価格のバランスが取れた選択肢となっています。
タスク(株式会社タスク)は、185mmのロングタイプが特徴で、深部へのアクセスを重視した設計です。価格は製品によって異なりますが、YDMと同等かやや高めの価格帯に位置しています。細糸域を同一シリーズで揃えることができ、アシスタントの器具出しが安定しやすいというメリットがあります。
海外メーカーのHu-Friedy(ヒューフレディ)は、把持力のコントロールに優れたロック付きの持針器を展開しています。価格は61,600円以上と高額ですが、精密な操作性と長期耐久性が評価されており、マイクロサージェリーや審美歯科を専門とする医院で選ばれることが多い製品です。
価格だけで選ぶのは危険です。
導入時の初期費用を抑えても、把持力が不安定で縫合に時間がかかれば、人件費換算でのロスが積み上がります。年間の縫合件数が多い医院では、高品質な器具への投資が長期的にはコスト削減につながる可能性があります。逆に、月に数回程度しか使用しない場合は、標準的な価格帯の製品でも十分に機能を果たせます。
持針器は消耗品ではありませんが、適切な保守管理と定期的な買い替えが必要な器具です。使用頻度や管理方法によって寿命は大きく変わりますが、性能低下のサインを見逃すと、縫合の精度に直接影響します。
毎回の滅菌処理後には、持針器の先端部分を目視で確認する習慣が重要です。TCチップの摩耗や剥がれ、先端の噛み合わせのズレなどが見られた場合は、性能が低下している証拠です。特に、針を把持した際に針が滑る、把持力が弱いと感じる場合は、即座に使用を中止して点検が必要です。
ロック機構の動作確認も欠かせません。ヘガール型やマチュー型のロック機構が緩くなっていたり、逆に固すぎて開閉がスムーズでない場合は、調整または修理が必要です。ロックが不安定なまま使用すると、縫合中に針が外れる危険性があり、患者への安全面でもリスクとなります。
超硬チップ付きの持針器でも、使用頻度が高ければ3~5年程度で性能低下が見られることがあります。週に10件以上の縫合を行う医院では、より短い周期での点検が推奨されます。チップなしのステンレス製では、さらに短いサイクルでの交換が必要となります。
買い替え判断は性能次第です。
修理サービスを提供するメーカーもありますが、修理費用が新品価格の半分以上になる場合は、新品への買い替えを検討する方が合理的です。また、予備の持針器を常備しておくことで、急な不具合が発生しても診療に支障をきたさない体制を整えられます。