60℃前後で軟化すると思っている材料が、実は44℃でも十分使える。
モデリングコンパウンドは、カウリ樹脂および硬質ワックスを主成分とする熱可塑性の非弾性印象材です。天然樹脂に可塑剤を加えた混合物に、粘り強さを与え、粘着性を減少させるために充填材が添加されています。この材料は約60℃の温湯で軟化し、口腔内温度で硬化するという特性を持っています。つまり、温めると柔らかくなり、冷却すると硬化するということですね。
義歯製作の分野では、特に総義歯や部分床義歯の概形印象採得に広く用いられています。流動性が低いため、印象圧がしっかりと掛かる点が大きな特徴です。
そのため圧がかかった状態の模型ができます。
モデリングコンパウンドには熱膨張係数が大きいという特性があり、数値としては300から400という値を示します。これは硬化時の熱収縮も大きく、約0.3パーセントの収縮が起こることを意味しています。温度変化による寸法変化が大きいということです。
また、熱伝導率が比較的小さいという特徴も持っています。このため、表面と内部の温度を均一にするためには、軟化中に指先でねつ和する必要があります。約60℃の温湯に2から3分間浸漬して軟化させる際、表面だけが軟化して内部が硬いままという状況を避けるため、この作業は必須です。
硬化後は非常に硬くなり、弾性も失われます。非弾性印象材に分類される理由がここにあります。そのため、アンダーカット部位のある印象採得には不向きです。
概形印象や辺縁形成に適しています。
モデリングコンパウンドには複数の種類が存在し、それぞれ軟化温度や用途が異なります。代表的なものとして、モデリングコンパウンド中性、モデリングコンパウンド軟性、イソコンパウンド、ペリコンパウンドが挙げられます。これらを適切に使い分けることで、より精密な印象採得が可能になります。
モデリングコンパウンド中性は、広い温度範囲にわたり十分な可塑性を持つ標準的なタイプです。軟化温度は約60℃で、概形印象採得に広く用いられています。板状で250グラム入りが標準的なパッケージ形態です。
モデリングコンパウンド軟性は、軟化点が低く軟調で伸延性があるタイプです。軟化温度は同じく約60℃ですが、口腔内での馴染みやすさを重視する場面での微調整に適しています。低温側での伸びを活かして細かな調整がしやすい特性があります。
イソコンパウンドは、リベース印象および筋形成用として調整された徐硬化性のコンパウンドです。軟化温度は約45℃と低めに設定されており、広い温度範囲で圧流度があります。床粘膜面や床辺縁部に盛り上げて機能的な印象採得ができる点が特徴です。
ペリコンパウンドは、義歯床のボーダーモールディング、つまり辺縁形成法用に調整されたコンパウンドです。軟化点が約53℃と低く、筋肉形成に十分な可塑性があります。固定粘膜と可動粘膜との境界部、いわゆる歯肉頰移行部を的確にとらえることができます。
実は、日本補綴歯科学会の研究によると、筋圧形成に適した温度はイソコンパウンドが44.3度プラスマイナス0.5℃、ペリコンパウンドが49.7度プラスマイナス0.9℃、モデリングコンパウンドが51.5度プラスマイナス0.6℃という結果が報告されています。製品のカタログに記載された軟化温度よりも低い温度でも臨床応用可能ということですね。
この知見を活かすことで、患者さんへの熱負担を軽減しながら、より快適な印象採得が実現できます。ウォーターバスの温度設定を見直すことをおすすめします。
日本補綴歯科学会による各種コンパウンドの筋圧形成に適した温度に関する研究データ
筋圧形成は、義歯製作において外れにくく快適な義歯を作るための極めて重要な工程です。口腔が機能している状態を印象辺縁に形成するために行う印象採得方法で、機能印象採得時に用いられます。モデリングコンパウンドは、この筋圧形成に最も広く使用されている材料です。
まず、個人トレーの辺縁周囲にモデリングコンパウンドを盛り付けます。トーチやアルコールランプで先端のみを軟化した棒状のモデリングコンパウンドをトレー辺縁に盛りつけるのが一般的な方法です。約60℃の温湯に浸漬した後、口腔内への圧接を行います。
軟化しているうちに口腔内に挿入し、患者さんに口腔を機能させてもらいます。具体的には、吸啜運動、嚥下運動、開口、閉口、側方運動などの動作を行ってもらい、頬や口唇を動かしてもらいます。これらの動的な状態をモデリングコンパウンドに記録することで、機能時の筋肉の動きに調和した義歯床縁形態が得られます。
火炎で軟化させたモデリングコンパウンド印象材の温度を下げるため、印象材指定の温水に浸漬します。
温度は通常55℃前後です。
これは患者さんに火傷をさせないためと、可塑性を与えて筋形成を容易にするためです。
トレーを口腔内に挿入した後、過剰な部分は鋭利な刃物で除去します。部分的に少しずつ成形したトレーを、全体的に機能的な外形になるように仕上げていきます。この工程は一度で完成させるのではなく、複数回に分けて行うことが一般的です。
筋圧形成で表現する部分は、床辺縁となります。各個トレーの外形はアーラインやレトロモラーパッドを除き、床辺縁は筋圧形成で作り上げていくということですね。
この技術をマスターすることで、義歯の維持力と安定性が大幅に向上します。筋圧形成の精度が義歯の予後を左右すると言っても過言ではありません。
モデリングコンパウンドの使用において、温度管理は最も重要な要素の一つです。温度管理が不適切な場合、印象の精度が低下し、結果として義歯の適合性に問題が生じる可能性があります。実際の臨床現場では、この温度管理のミスが失敗の最大の原因となっています。
軟化温度の設定には細心の注意が必要です。一般的にモデリングコンパウンドは約60℃の温湯で2から3分間浸漬して軟化しますが、浸漬中は指先でねつ和し、表面と内部の温度を均一にする必要があります。表面だけが軟化して内部が硬いままだと、口腔内で適切な流動性が得られません。
高温時は早く硬化し、低温時は遅くなる特性があります。室温23℃、相対湿度50パーセントプラスマイナス5パーセントが標準的な環境条件です。季節や診療室の温度によって、軟化時間や操作時間を調整する必要があります。
軟化の繰り返しにより材料の弾力性が失われていくという劣化特性にも注意が必要です。同じモデリングコンパウンドを何度も加熱・冷却を繰り返すと、本来の性能が発揮できなくなります。使い回しによる劣化が印象精度に影響を与えることがあります。
また、熱膨張係数が大きいため、温度変化による寸法変化も考慮しなければなりません。硬化時の熱収縮は約0.3パーセントで、これは無視できない数値です。印象採得後は速やかに石膏を注入することが推奨されます。
火炎で直接軟化させる乾熱法を用いる場合、局所的に過熱しないよう注意が必要です。一部だけが高温になると、その部分の物性が変化し、均一な印象が得られなくなります。トーチを常に動かしながら全体を均等に加熱する技術が求められます。
患者さんへの火傷リスクを回避するため、口腔内に挿入する前に必ず温度確認を行います。術者自身の手の甲などで温度を確認し、熱すぎないことを確かめてから使用するのが基本です。この確認を怠ると、粘膜や皮膚の熱傷という医療事故につながります。
モデリングコンパウンドは、義歯製作の様々な段階で活用される多目的な印象材です。特に総義歯製作においては、概形印象から精密印象の前段階まで、複数の工程で使用されます。その使い分けと応用範囲を理解することが、高品質な義歯製作につながります。
個人トレーの辺縁形成は、モデリングコンパウンドの代表的な応用例です。個人トレーにモデリングコンパウンドを付けて、辺縁のヘリの部分を精密に作り上げていきます。食べたり話したりすることで口腔の筋肉や粘膜が動く様子を記録し、その動きに調和した形態を与えることができます。
ボーダーモールディング、つまり辺縁形成法は、義歯床の辺縁部を機能的な形態に整える技術です。ペリコンパウンドは特にこの用途に最適化されており、固定粘膜と可動粘膜との境界部を的確にとらえることができます。軟化点が53℃と低いため、患者さんへの負担も軽減できます。
概形印象採得においては、既製トレーにモデリングコンパウンドを盛り付けて使用します。顎堤弓の大きさに合わせて選択した既製トレーをトリミングし、軟化したモデリングコンパウンドを盛り、義歯床に関連する解剖学的形態を記録します。アンダーカットが少ない無歯顎症例に適しています。
リベース印象では、イソコンパウンドが活躍します。既存の義歯床粘膜面にイソコンパウンドを盛り上げて、機能的な印象を採得し直すことができます。広い温度範囲で圧流度があるため、細かな調整がしやすい特性があります。
最近では、シリコーン系印象材を用いた辺縁形成の手法も普及してきていますが、モデリングコンパウンドによる辺縁形成は依然として教育的価値が高いとされています。材料の扱いに慣れるには訓練が必要ですが、その分、術者の技術力向上にもつながります。
義歯の辺縁がわずかに甘いだけで、咬合採得や排列の工程が連鎖的に崩れることがあります。原因が術者の技量不足か材料選択の誤りかを見極める能力も重要です。モデリングコンパウンドを使いこなすことで、このような問題を未然に防ぐことができます。
部分床義歯の製作においても、義歯床縁相当部には筋圧形成を行うためのモデリングコンパウンドを付与します。加圧予定の欠損部顎堤粘膜部は、トレーを適合させ印象材の流動間隙を小さくする必要があります。これにより、機能的で安定した部分床義歯が完成します。