ヘミフェイシャルマイクロソミアの症状と歯科治療における多職種連携

ヘミフェイシャルマイクロソミアは約80%が片側性で、出生3500人に1人の割合で発生する先天性疾患です。歯科医療従事者が知っておくべき顎顔面形態の特徴、咬合管理、矯正治療の適応、そして形成外科・口腔外科との連携体制について詳しく解説します。あなたの診療に必要な知識は揃っていますか?

ヘミフェイシャルマイクロソミアの症状と歯科治療

約80%が片側性だが歯列発育は患側が早い傾向にある


この記事の3つのポイント
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発生頻度と臨床的特徴

出生3500人に1人の頻度で発生し、約80%が片側性。下顎骨・耳介・顔面軟組織の低形成により顔面非対称と咬合異常を呈する

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歯科矯正と外科的介入の連携

就学後から歯科矯正を開始し、成長期には骨延長術、18歳以降は骨切り術と組み合わせた包括的治療が必要

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多職種連携チーム医療の重要性

歯科・形成外科・口腔外科・耳鼻科・言語聴覚士などが連携し、患者の成長段階に応じた段階的治療計画を立案する


ヘミフェイシャルマイクロソミアの定義と発生頻度

ヘミフェイシャルマイクロソミアは、妊娠初期の胎生期における第一・第二鰓弓の発生障害によって生じる先天性疾患です。鰓弓とは、胎児の発育過程で顔面や頸部の骨格、筋肉、神経などを形成する組織の源となる構造物を指します。


第1から第6まである鰓弓のうち、特に第一鰓弓と第二鰓弓に何らかの異常が発生すると、これらから発生する下顎骨、耳介、顔面筋、咀嚼筋などに形成不全が生じます。


つまり第一第二鰓弓症候群とも呼ばれています。


発生頻度は出生3500人に1人程度とされており、顎顔面領域の先天異常としては比較的遭遇する機会がある疾患です。性差はほとんどなく、男女ともに同程度の発生率が報告されています。遺伝的な関連性は明確には証明されておらず、ほとんどが散発性に発生します。


最も特徴的なのは、約80%のケースで片側性に発症するという点です。両側性の発症は約20%にとどまるため、顔面の著しい非対称が主要な臨床的特徴となります。患側では下顎枝の短縮、下顎頭の形成不全または欠如、顎関節の発育障害が認められ、これらが複合的に作用して顔貌の非対称性を生み出します。


軽症例から重症例まで症状の幅が広く、Pruzansky-Koban分類によって下顎骨の形成不全の程度が分類されています。Type Iは下顎枝・下顎頭が小さいものの存在しているケース、Type IIAは下顎枝が著しく小さく関節窩の位置異常を伴うケース、Type IIBは下顎頭や下顎枝の形態異常がさらに高度なケース、Type IIIは下顎頭・下顎枝が完全に欠損しているケースを指します。


歯科医療従事者として重要なのは、この疾患が単に骨格の問題にとどまらず、咬合、咀嚼機能、顎運動、さらには気道管理にまで影響を及ぼす可能性があるという点です。


ヘミフェイシャルマイクロソミアの主要症状と顎顔面の特徴

患側の主要な症状として、耳介の形成不全である小耳症が高頻度で認められます。小耳症は耳介が小さく変形している状態で、外耳道閉鎖症を伴うことも多く、その場合は伝音性難聴が生じます。耳介の前方には副耳と呼ばれる小さな皮膚の突起が見られることもあります。


下顎骨の発育障害によって、顔面の左右非対称が明確になります。患側の下顎骨が短く、下顎角部の発達が不良であるため、正面から見ると顎が健側に偏位しているように見えます。下顎頭が先天的に欠如している症例や、筋突起・顎角部が欠損している重症例も存在します。


顎関節の発育障害により、開口時の下顎運動が制限されたり、偏位したりすることがあります。つまり開口量の減少や開口時の下顎の健側偏位が観察されます。


咀嚼筋の発育障害や欠損も重要な所見です。咬筋や側頭筋などの咀嚼筋が患側で低形成を示すため、咀嚼機能に影響を与えます。また、顔面の表情筋の麻痺や形成不全が認められる症例では、顔面表情の左右差が生じます。


口腔内では、巨口症が見られることがあります。巨口症とは口角が外側に割れている状態で、ミルクや食事が口から漏れやすくなります。就学前の早期に外科的修正が推奨されています。


興味深いことに、歯列の発育に関しては患側の方が対側よりも早い傾向が報告されています。肥大している側の歯列において永久歯列の発育が促進される現象が観察されており、これはヘミフェイシャルマイクロソミアの特異的な特徴の一つです。


咬合に関しては、下顎骨の非対称性により交叉咬合開咬が生じやすく、正常な咬合関係の確立が困難になります。患側では歯列弓が狭窄し、歯の萌出位置異常を伴うこともあります。


その他の症状として、舌の変形、軟口蓋の運動障害、まれに眼球の形成異常や脊椎の奇形を伴うゴールデンハー症候群として分類される症例も存在します。ゴールデンハー症候群は眼球角部の類皮腫、耳介の形成異常、脊椎の奇形を三大主徴とする病態で、第一第二鰓弓症候群の一亜型として位置づけられます。


ヘミフェイシャルマイクロソミアの歯科矯正治療と咬合管理

歯科矯正治療は、ヘミフェイシャルマイクロソミアの包括的治療において中心的な役割を果たします。治療開始時期、介入方法、外科的処置との組み合わせ方について、成長段階に応じた戦略的アプローチが必要です。


就学後から歯科矯正治療を開始するのが一般的な治療方針です。乳歯列期から混合歯列期にかけては、顎骨の成長を観察しながら、交叉咬合の改善や歯列弓の拡大を目的とした矯正治療を行います。この時期の介入により、成長期の顎骨発育をより良い方向に誘導できる可能性があります。


永久歯列期に入ると、より本格的な矯正治療が展開されます。マルチブラケット装置を用いた全顎的な歯列矯正により、咬合平面の傾斜補正、歯列弓形態の改善、個々の歯の位置異常の修正を行います。


しかし、歯科矯正単独では改善が困難な骨格性の非対称に対しては、外科的矯正治療の併用が必要になります。15歳頃までの成長期で、強い顔面非対称を呈するPruzansky分類IIA-IIBの症例に対しては、下顎骨骨延長術が選択されることがあります。


骨延長術は、下顎骨を切断した後、骨延長器を用いて徐々に骨を引き延ばし、骨片間に新生骨を形成させる手技です。元々はソ連のイリザロフが下肢骨折の治療に応用したDistraction osteogenesisの原理を顎顔面領域に応用したものです。骨延長術により、患側の下顎枝を延長し、顔面の対称性を改善するとともに、咬合関係の正常化を図ります。


18歳以降で顔面骨の成長がほぼ完了した時点では、歯科矯正治療と顎骨骨切り術を組み合わせた外科的矯正治療が適応となります。下顎枝矢状分割術や下顎枝垂直骨切り術などの骨切り術により、下顎骨の位置を三次元的に移動させ、顔面の対称性と機能的咬合を同時に獲得します。


近年では、歯科矯正治療が十分に行われていない場合でも、手術先行方法(サージェリーファースト)による外科的矯正治療が導入されています。これにより早期の顔貌改善と治療期間の短縮が期待できます。


咬合管理において重要なのは、顎関節の低形成により正常な下顎頭-関節窩の関係が成立していない症例が多いという点です。このため、矯正治療によって歯並びを整えても、噛み合わせを理想的な状態に改善することが困難な場合があります。現実的な治療目標の設定と患者・家族への十分な説明が必要です。


咬合接触面積や咬合力の測定、顎運動の分析、咀嚼筋活動の評価などを通じて、形態改善に伴う顎機能の変化を客観的に評価することが、治療効果判定において重要になります。


ヘミフェイシャルマイクロソミアにおける多職種連携チーム医療の実際

ヘミフェイシャルマイクロソミアの治療は、複数の診療科・職種が連携するチーム医療によって行われます。それぞれの専門家が持つ知識と技術を統合し、患者の成長段階に応じた包括的な治療計画を立案・実施することが求められます。


中心となる診療科は形成外科、口腔外科、矯正歯科の三者です。形成外科は小耳症や副耳の形成術、巨口症の修復、顔面軟組織の左右差に対する脂肪移植や筋肉移植などの美容外科的調整を担当します。口腔外科は下顎骨の骨延長術や骨切り術、顎関節の再建など骨格に対する外科的介入を行います。矯正歯科は歯列矯正を通じて咬合の改善と顎骨成長の誘導を担います。


これらに加えて、耳鼻咽喉科は難聴の評価と治療、気道管理に関与します。小児科は全身状態の管理と成長発達の評価を行い、必要に応じて内分泌学的検査や遺伝カウンセリングをコーディネートします。言語聴覚士は嚥下機能の評価と訓練、構音障害に対するリハビリテーションを提供します。


歯科医療従事者として特に重要なのは、定期的なチームカンファレンスへの参加です。各診療科の専門家が患者の現在の状態、今後の治療計画、手術のタイミングなどについて情報を共有し、最適な治療方針を決定します。


治療の流れとしては、まず就学前に副耳や巨口症に対する形成手術を実施します。就学後は歯科矯正を開始し、必要に応じて下顎骨の修正手術(骨切り術や骨延長術)を組み合わせます。10歳前後で小耳症の耳介形成術を行うのが一般的なタイミングです。


18歳前後で顔面骨の成長がほぼ完了した段階で、最終的な外科的矯正治療を実施します。その後、14歳から16歳以降には美容外科的技術を用いた最終調整として、骨切りや脂肪・筋肉の移植などを行い、顔面の左右対称性をさらに改善します。


チーム医療を円滑に進めるためには、各職種が共通の目標を持ち、患者中心のアプローチを維持することが不可欠です。患者や家族に対しては、長期にわたる治療の全体像を提示し、各段階での治療の意義と期待される効果について十分に説明する必要があります。


また、心理的サポートも重要な要素です。顔面非対称という外見上の特徴により、患者は学童期から思春期にかけて心理的な負担を感じることがあります。臨床心理士や精神科医と連携し、患者のメンタルヘルスにも配慮した包括的ケアを提供することが求められます。


ヘミフェイシャルマイクロソミア診療における歯科医療従事者の役割と注意点

一般歯科診療所や病院歯科でヘミフェイシャルマイクロソミアの患者に遭遇した場合、歯科医療従事者が果たすべき役割と注意すべきポイントがあります。早期発見、適切な専門機関への紹介、継続的な口腔管理が重要な責務となります。


まず早期発見の観点では、乳幼児健診や初診時に顔面の左右非対称、耳介の形態異常、副耳の存在などに気づくことが第一歩です。特に小児歯科診療において、これらの所見を見逃さないよう注意深い観察が必要です。


診断が確定していない段階で疑わしい所見がある場合は、速やかに大学病院や総合病院の形成外科、口腔外科、矯正歯科への紹介を行います。早期の専門的評価により、適切なタイミングで治療を開始できる可能性が高まります。


日常的な歯科診療における注意点として、開口制限がある症例では診療ポジションの工夫が必要です。顎関節の発育障害により十分な開口が得られない場合、無理な開口操作は避け、患者が楽な姿勢で治療を受けられるよう配慮します。


齲蝕予防と歯周病管理は、将来の矯正治療や外科的治療の基盤となります。良好な口腔衛生状態を維持することは、複雑な治療を成功に導く上で不可欠な要素です。フッ化物応用、シーラント、定期的なプロフェッショナルケアを通じて、口腔内環境を最適化します。


矯正治療中の患者に対しては、装置周囲の清掃指導を徹底し、白斑形成や歯肉炎の予防に努めます。マルチブラケット装置装着中は齲蝕リスクが上昇するため、より頻繁なメインテナンスが推奨されます。


外科的矯正治療の前後では、術前の口腔内感染源の除去、術後の口腔衛生管理が重要になります。顎間固定期間中の栄養管理や口腔ケアについて、患者や家族に具体的な指導を提供します。


保険診療の観点では、ヘミフェイシャルマイクロソミアは「別に厚生労働大臣が定める疾患」に該当し、矯正歯科治療が保険適用となります。患者や家族に対して、保険適用の矯正治療が可能であることを情報提供し、経済的負担の軽減につなげることも歯科医療従事者の重要な役割です。


専門医療機関での治療中であっても、地域の歯科診療所が継続的な口腔管理を担うことで、患者の利便性が向上し、治療の継続性が保たれます。専門医療機関と地域歯科診療所の連携体制を構築し、情報共有を密にすることが理想的です。


患者が成人に達した後も、定期的な咬合管理、顎関節症状のモニタリング、補綴治療の必要性評価など、長期にわたるフォローアップが求められます。ヘミフェイシャルマイクロソミアは一時的な治療で完結するものではなく、生涯にわたる口腔健康管理が必要な疾患であるという認識を持つことが大切です。


日本形成外科学会による第一第二鰓弓症候群の詳しい解説
第一第二鰓弓症候群(ヘミフェイシャルマイクロソミア)の定義、症状、治療方法について、患者向けにわかりやすく説明されています。