歯ブラシだけで磨いても、プラークは58%しか落ちていません。
患者さんに歯間ブラシを勧める際、「なんとなく歯の間も磨いてください」という説明で終わっていませんか。実際に数字を示すと、患者の受け取り方がまったく違います。
1975年に日本歯周病学会誌に発表された山本らの研究によると、3分間のスティルマン改良法によるブラッシングだけではプラーク除去率が58%にとどまりました。しかし、歯間ブラシを併用すると95%まで向上し、デンタルフロス併用では86%という結果が出ています。つまり歯ブラシだけでは、残り42%分の汚れが毎日積み重なっていることになります。イメージとしては、お皿を洗うときに片面しか洗えていない状態が毎食続くようなものです。
この数字を患者に伝えるとき、言葉だけでは伝わりにくいのが現実です。
だからこそ、動画の活用が有効になります。数字を示しながらビジュアルで補足することで「なぜやるのか」という動機づけが格段に強まります。大阪大学歯学部附属病院のページでも「歯ブラシ+補助用具で除去率が80〜95%に向上する」と情報提供されており、エビデンスの引用元として活用できます。
つまり「データを示す→動画で動作を見せる」がセットです。
なお、上記の95%というデータは歯間空隙が開いた患者を対象にした研究で、使用直後の測定値です。臨床の現場での状況とは多少の乖離がある点も念頭に置いておくと、患者からの「本当にそんなに変わるの?」という疑問にも落ち着いて対応できます。
大阪大学歯学部附属病院「歯ブラシだけでは磨ききれない場所がある」:歯間部プラーク除去率の解説ページ
歯間ブラシの動画指導を行う際、「ただ動画を見せる」だけでは患者の行動変容にはつながりません。動画をどう使い、何をどの順番で伝えるかが重要です。ここでは歯科衛生士として指導する際に外せない4つのポイントを整理します。
① サイズ選定を先に行う
患者が自分でドラッグストアを訪れると、「しっかり磨きたい」という心理から大きめのサイズを選ぶ傾向があります。しかし大きすぎるサイズを使うと歯間乳頭が潰れ、歯と歯の間に隙間が広がる原因になります。これは見た目にも影響するため、特に前歯部では注意が必要です。「きつすぎず、スーッと入るサイズ」という感覚を実際に確かめてもらい、適切なサイズを診療室で決定することが前提です。
② 動画は「前歯」と「奥歯」で分けて見せる
I字型は前歯向け、L字型は奥歯向けという使い分けがあります。奥歯にI字型を使う場合は、ブラシ根元の樹脂部分を折り曲げて使用するのが原則です。サンスター社のClubSunstar動画ライブラリーなど、動作別に分かれた短い動画素材を活用すると、患者が自宅で見返しやすくなります。
③ 挿入角度と動かし方を実演で補足する
上の歯に使用する際は「斜め上から下へ」、下の歯では「斜め下から上へ」と角度をつけて歯間に挿入します。ゴム製歯間ブラシの場合は根元を折り曲げないことも重要です。動画で見た後、必ず院内で実際に手を動かしてもらい、鏡で確認させる実演セットが定着率を上げます。
④ 頻度の目標設定は「1日1回、寝る前」から始める
「毎食後使ってください」という指示は患者の負担になりすぎて、継続率が下がります。まずは就寝前のブラッシング時に1日1回使うことを目標にするのが現実的です。これだけでも十分な効果が期待できると伝えることで、ハードルが下がります。
Club Sunstar Pro「お役立ち動画のご紹介 ~歯間ブラシの使用方法編」:歯間ブラシの指導ポイント動画と解説ページ
患者指導に使う動画を選ぶとき、「わかりやすそうだから」という理由だけで選んでしまうと、指導内容に誤りが含まれているケースがあります。これは思わぬクレームや再指導の手間につながります。
確認すべき点は次の通りです。
| チェック項目 | 良い動画の基準 | 注意が必要な動画 |
|---|---|---|
| 制作者 | 歯科医師・歯科衛生士が監修 | 監修者不明・企業PR色が強い |
| 挿入角度の説明 | 上下で角度を分けて解説している | 「まっすぐ入れる」だけの説明 |
| サイズ選定 | 「歯科で確認を」と明示している | ドラッグストアで好きなものを、という内容 |
| 使用頻度 | 1日1回でもOKと伝えている | 毎食後必須と強調しすぎ |
| ゴムタイプへの言及 | 素材の違いと特性を説明している | ワイヤータイプのみで完結している |
動画の長さにも注意が必要です。
院内で患者に見せる動画は2〜3分程度に収まっているものが望ましいです。長すぎると途中で集中が切れてしまい、肝心なポイントが届かなくなります。サンスターの「Club Sunstar Pro」では患者説明用の短い動画が複数公開されており、部位別・手順別に使い分けることができます。自院のYouTubeチャンネルを開設して独自動画を作成している歯科医院も増えており、患者が自宅で復習できる環境を整えることが継続率の向上につながります。
「動画で見たはずなのにできていない」という患者が多い場合は、実演なしで動画だけを見せている可能性があります。動画視聴はあくまで補助ツールです。実際に患者の手を動かさせることが最も重要で、動画はその動機づけと復習用に使うのが正解です。
歯間ブラシの指導で最もトラブルになりやすいのが「サイズ選び」です。サイズが合っていないまま使い続けると、歯肉を傷つけたり、逆に清掃効果が不十分になったりします。指導の核心部分です。
正しいサイズの目安は「一回り小さい」こと
歯間ブラシのサイズは、歯と歯の隙間より「一回り小さいもの」が適切です。ぴったりや少しきつめを選ぶと、ブラシを入れる際に歯間乳頭に力がかかります。長期間繰り返すと、歯肉が退縮して「ブラックトライアングル(歯茎が落ちて三角形の黒い隙間ができる状態)」が生じることがあります。これは見た目に直結するため、患者からのクレームになりやすい問題です。
サイズ選定は診療室内で行う
一般的な市販品はSSS〜LLまで多段階に分かれており、メーカーによって基準が異なります。患者が自己判断で選ぶと、ほとんどの場合、大きめを選んでしまう傾向があります。指導の際には、実際にブラシを歯間に通しながら「スーッと入るが、抵抗なく抜けない」サイズを一緒に確認することが大切です。
部位ごとにサイズが異なることを伝える
前歯部と臼歯部では歯間の広さが大きく異なることが多いため、同じ口の中でも複数のサイズを使い分ける場合があります。また、矯正装置装着中の患者や、ブリッジが入っている患者では、専用の使い方が必要になります。ブリッジ下部のポンティック周辺はワイヤータイプの歯間ブラシをアーチ状に通す方法が有効です。これは動画で動作を見せると格段に理解度が上がる場面の一つです。
ゴムタイプかワイヤータイプかの判断基準
コクランデーターベース(2019年)では、ゴム製歯間ブラシと歯ブラシの併用が1ヵ月後の歯垢減少につながる可能性があると報告されています。清掃効率ではワイヤータイプがやや優れているものの、ゴムタイプは使用感がよく継続率が高い傾向があります。歯間ブラシ未経験の患者や、ワイヤー恐怖がある患者にはゴムタイプから導入するのも一つの選択肢です。継続できることが最優先です。
よぼう歯科 418「歯間ブラシの最適なサイズの選び方と患者さんへの指導法」:歯科衛生士向けに詳しい指導ポイントを解説したページ
歯間ブラシを先に使うべきか、歯ブラシの後に使うべきか。これは歯科衛生士が患者からよく受ける質問です。そして、多くの臨床家が「歯間ブラシを先に」と指導しているでしょう。ところが、エビデンスを見ると少し違う景色が見えてきます。意外ですね。
「どちらが先でも差がない」というシステマティックレビューが存在する
2022年にInternational Journal of Dental Hygieneに掲載されたシステマティックレビュー(Silva et al.)では、フロス(あるいは歯間ブラシ)を歯磨きの前に行っても後に行っても、プラークインデックスに統計学的な有意差は認められなかったと結論付けています。つまり「順番はどちらでも変わらない」というのが現在の最新エビデンスの状況です。
ただし、臨床的な工夫として「歯間ブラシを先に」指導することは理にかなっています。
多くの患者は歯ブラシを使った後に満足感を覚えてしまい、そこで終わりにしてしまう傾向があります。「歯間ブラシ→歯ブラシ」の順で指導すると、歯間ブラシを使う習慣がつきやすく、結果としてセルフケアの質が上がります。エビデンス上は差がなくても、習慣づけの観点からは「先に使う」指導が有効です。これが原則です。
患者に伝えるときの言葉の工夫
「どちらが先でもいいんですよ、でも最初に歯間ブラシを使う方がお忘れにならないですよ」という伝え方にすると、患者が自分で選んだ感覚を持ちながら、自然と正しい順番を実践しやすくなります。指示されたという受け身の印象を与えずに行動を促す工夫です。これは使えそうです。
動画指導にこの情報を組み込むと、「なぜ先に使うのか」という根拠まで患者に届けることができます。指導の説得力が増し、患者の納得度も高くなります。
よぼうワーク「エビデンス:デンタルフロスや歯間ブラシは歯周病・う蝕の予防に有効か」:最新コクランレビューと臨床研究の整理ページ