フロスを歯間に「ただ通すだけ」では、歯肉縁下のプラークは7割以上残ったままです。
市販のデンタルフロスには大きく分けて「ワックスタイプ」と「アンワックスタイプ」の2種類があります。ワックスタイプは糸の表面が滑らかで、歯間が狭い患者や初心者でも挿入しやすいという特徴があります。アンワックスタイプは繊維が広がりやすく、歯面への接触面積が大きいため、プラーク除去効率がやや高くなります。
歯科従事者が患者指導を行う際は、まずワックスタイプから始めることを勧めましょう。慣れてきたら、歯間の状態に応じてアンワックスタイプや膨張タイプに切り替えるとより効果的です。膨張タイプ(スポンジフロス)は、補綴物周囲や歯肉退縮部位への使用に適しています。
形態別の分類もポイントです。ロールタイプ(糸巻きタイプ)は必要量を自分でカットして使う汎用性の高い形式で、45〜50cmにカットして使用します。これはA4用紙の短辺(21cm)の約2倍強の長さです。ホルダータイプ(Y字型・F字型)は操作しやすく、器用さが不十分な患者や子ども、高齢者への指導に向いています。つまり、患者の年齢・歯列・運動機能に合わせた提案が原則です。
| フロスの種類 | 特徴 | 適した対象 |
|---|---|---|
| ワックスタイプ | 滑らかで挿入しやすい | 初心者・歯間が狭い患者 |
| アンワックスタイプ | 繊維が広がり除去効率高め | フロス習慣のある患者 |
| 膨張タイプ(スポンジ) | 補綴周囲・広い歯間に対応 | 補綴物装着者・歯肉退縮患者 |
| ホルダータイプ(Y・F字) | 片手操作・奥歯に対応 | 高齢者・小児・運動障害患者 |
糸巻きタイプのフロスを正しく使うには、いくつかのステップを順番に踏む必要があります。手順を誤ると歯肉を傷つけたり、プラークを取り残す原因になります。これは臨床指導でも見落とされがちなポイントです。
準備:切り取る長さ
まず約45〜50cmの長さにカットします。これは肘から手先くらいまでの長さの目安です。短すぎると指に巻けず操作が不安定になり、長すぎると扱いにくくなります。
巻き付け方と持ち方
- 両手の中指の第一関節に2〜3回巻きつける
- 左右の指先の間が約10〜15cm程度になるよう調整する
- 親指と人差し指で糸を持ち、操作部分は約2cmを確保する
- 奥歯(下顎)では脇を開き、手を「床と平行」に保つ
- 奥歯(上顎)では手を逆手にし、上向きに押し込む形にする
挿入と操作の手順
1. のこぎりを引くように前後に小さく動かしながら接触点を通過させる
2. 接触点を越えたら、手前の歯の歯面にC字型に沿わせる
3. 歯肉縁下1〜2mmのスッと入る位置まで静かに挿入する
4. 歯面を2〜3回、上下にこすってプラークを掻き出す
5. 続いて奥側の歯にも同様にC字型操作を行う
6. 取り出す際も前後に小さく動かしながらゆっくり抜く
7. 次の歯間へ移る際はフロスを少しずらして清潔な部分を使う
C字型操作が基本です。ただし、フロスを無理に押し込んだり、スナッピング(ドンッと一気に押し込む動作)は歯肉乳頭を傷つける原因となるため注意が必要です。詰め物が引っかかって抜けない時は、フロスを一方の指から外し、歯間から横に引き抜くことで補綴物への負担を避けられます。
厚生労働省 eJIM:歯間部清掃(デンタルフロス・歯間ブラシ)正しい使い方の図解
理想は1日3回(毎食後)ですが、現実的な生活スタイルを考えると、継続できる頻度を優先することが重要です。1日1回の就寝前フロッシングでも、プラーク除去と歯周病予防に十分な効果があると臨床的には認められています。
なぜ就寝前が推奨されるのか、理由を整理しておきましょう。睡眠中は唾液分泌量が減少するため、口腔内の自浄作用が大きく低下します。就寝前にプラークを取り除くことで、細菌が繁殖しやすい夜間の環境を整えることができます。これは患者への動機づけにも活用できる情報です。
注意点が1つあります。プラークは2〜3日で石灰化が始まるため、2日に1回以下になると歯石形成リスクが高まります。歯石になると自己管理では除去できず、スケーリングが必要になります。つまり「毎日1回」が最低ラインというのが原則です。
患者への指導では「まず夜の歯みがきとセットにする」という形で習慣化を促す方法が効果的です。複雑に考えさせず、行動をシンプルにまとめることが継続につながります。これは使えそうですね。
アセス公式コラム:歯周病予防に有効なデンタルフロスと歯間ブラシの使い分けと頻度
フロスを使い始めると出血する患者は少なくありません。「痛いし血が出るからやめた」という声は、歯科指導の現場でよく聞かれます。しかし、この出血を正しく解釈できるかどうかが、患者の継続意欲に直接影響します。
出血の主な原因は2つに分かれます。
1つ目は歯肉の炎症です。プラークが蓄積し歯肉炎が起きていると、健康な組織に比べて毛細血管が増加・脆弱化しているため、フロスが触れるだけで出血します。この状態では正しくフロッシングを続けることで、1〜2週間程度で出血は治まるのが一般的です。
2つ目は誤った操作による外傷です。フロスをスナッピングで一気に押し込んだり、歯肉に対して過剰な圧力をかけると、健康な歯肉でも出血します。この場合は操作方法の修正が必要です。
出血が2週間以上継続する場合は、歯肉炎が進行しているか、歯周ポケットが深くなっている可能性があるため、来院を促すべきです。「血が出たら危ないサイン」ではなく「血が止まるまで正しく続けることが重要」というメッセージが、患者指導の核心になります。
健康な歯肉なら問題ありません。逆に、フロスで出血が全くない患者でも、歯間部に深いポケットがある場合があるため、過信は禁物です。定期的な口腔内検査と組み合わせることが重要です。
なんばアップル歯科:デンタルフロスの使い方と出血・歯垢除去率に関する解説
デンタルフロスと歯間ブラシは「どちらが優れているか」ではなく「どちらが今の患者に適しているか」という視点で選ぶことが、歯科従事者として重要な判断です。適切に使い分けることで、歯間部プラーク除去率を最大90%程度まで引き上げることができます。
選択の判断軸
- 歯間が狭い・歯間乳頭が充填している場合 → デンタルフロスを推奨。歯間ブラシが通らない箇所に有効
- 歯間が広い・歯肉退縮がある場合 → 歯間ブラシが適切。フロスだけでは歯面の清掃面積が不足する
- 矯正装置装着中 → スーパーフロスやフロスレッダーを使い、ワイヤー下を清掃する
- ブリッジや補綴物周囲 → スーパーフロス・膨張フロス+歯間ブラシの併用が効果的
東京医科歯科大の研究でも、歯ブラシ単体の除去率(約60%)に対し、デンタルフロスまたは歯間ブラシを追加すると80〜90%まで上昇することが示されています。 shinodadc-nakano(https://shinodadc-nakano.com/2015/02/post-442.html)
フロスと歯間ブラシを「どちらも使う」という指導が最も効果的な場合も多くあります。例えば、大臼歯部は歯間ブラシ、前歯部はフロスという使い分けは、患者の清掃効率を確実に高めます。これは歯科衛生士として知っておけば大きな強みです。
歯間ブラシのサイズ選定に迷う場面では、患者に実際に試してもらいながら「スッと入ってきつくない最大のサイズ」を選ぶよう指導すると、定着しやすくなります。患者が「何を使えばいいかわからない」状態を解消するには、選択肢を絞って具体的に伝えることが必要です。これだけ覚えておけばOKです。
アセス公式コラム:歯周病予防におけるデンタルフロスと歯間ブラシの使い分けの考え方
阿倍野みどり歯科:歯間ブラシとフロスの正しい使い分けで汚れ除去率を劇的アップさせる方法
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