治療用義歯は保険では作れません。
治療用義歯は自費診療のため、歯科医院によって価格設定が大きく異なります。一般的な相場としては、片顎あたり20万円から44万円程度が目安となっています。具体的には、上顎または下顎のどちらか一方で20万~30万円程度、上下両方で製作する場合は40万~60万円程度が多く見られる価格帯です。
パイロットデンチャーと呼ばれる治療用義歯は、最終義歯を製作する前段階として、患者の口腔内環境を整え、適切な咬合位を見つけ出すために使用されます。
つまり、リハビリ用の仮義歯ですね。
この治療用義歯の費用が高額になる理由は、単なる仮の入れ歯ではなく、精密な診査診断と複数回の調整が必要だからです。治療期間は通常3~6ヶ月程度かかり、その間に咬合状態の確認や顎関節の位置調整、歯肉の健康状態の改善などを行います。
歯科医院によっては、治療用義歯の費用を最終義歯とセットで提示するケースもあります。例えば、治療用義歯33万円+最終義歯55万円で合計88万円といった料金体系です。この場合、治療用義歯単体の価格よりも、トータルでの治療計画と費用を患者に説明することが重要となります。
尾崎デンタルクリニックの料金表では、治療用義歯(パイロットデンチャー)が33万~44万円、完成義歯が片顎55万円と明確に記載されており、患者への説明資料として参考になります。
さらに、材料費や技工士への外注費も価格に影響します。治療用義歯であっても、最終義歯と同様の精度で製作するため、使用する印象材や咬合器、技工士の技術料などが費用に含まれています。
患者に費用を説明する際は、治療用義歯が単なる「仮歯」ではなく、最終義歯の成功率を高めるための重要なステップであることを強調することが大切です。治療用義歯を省略してしまうと、最終義歯が患者に合わず、結果的に作り直しが必要になるリスクが高まります。そうなると、かえって時間と費用がかかってしまうことになります。
費用対効果の観点からも、治療用義歯への投資は患者の満足度を高める重要な要素と言えるでしょう。
治療用義歯は健康保険の診療項目に存在しないため、保険適用で製作することは不可能です。これは歯科医療従事者として必ず理解しておくべき重要なポイントです。
健康保険制度では、入れ歯の製作に関する保険点数が明確に定められています。保険適用の入れ歯は、部分入れ歯で5,000円~15,000円程度、総入れ歯で15,000円前後(患者3割負担の場合)という低価格で提供できます。しかし、この保険診療の範囲内では「治療用義歯」という概念自体が認められていません。
保険診療で認められているのは、最終的な義歯の製作のみです。そのため、治療用義歯を保険で作ろうとすること自体が制度上不可能なのです。
加えて、保険診療では使用できる材料やパーツに厳しい制限があります。床の部分はレジン(プラスチック)のみ、クラスプ(金具)も特定の金属に限定されており、設計の自由度も低くなっています。治療用義歯では、患者ごとに最適な設計を探るため、様々なパーツや材料を試す必要がありますが、保険診療の枠組みではこれが実現できません。
山下歯科の治療用義歯に関する説明によると、健康保険で治療用義歯を製作して費用を節約し、その後自由診療で最終義歯を作りたいという患者の要望は基本的に断っているとのことです。
その理由は明確です。
混合診療に該当する可能性があるからです。
混合診療とは、同一の疾患に対する一連の治療において、保険診療と自費診療を併用することを指します。日本の医療制度では、ごく一部の例外を除いて混合診療は原則禁止されています。入れ歯治療の場合、「歯の欠損」という状態に対する治療の最初を保険で行い、途中から自費に切り替えることは違法となる可能性が高いのです。
患者から「保険で仮の入れ歯を作って、後から自費で良いものを作りたい」と相談された場合、歯科医療従事者としては明確に「それはできません」と説明する必要があります。曖昧な対応をすると、後でトラブルの原因となります。
また、保険診療には「6ヶ月ルール」という制限もあります。保険で入れ歯を製作した場合、歯型を取った日から6ヶ月以内は新たな入れ歯を保険で作り直すことができません。このルールも、治療用義歯を保険で作ることができない理由の一つです。
治療用義歯は自費診療として位置づけられるため、これらの保険診療の制約を受けずに、患者一人ひとりに最適な治療を提供できるというメリットがあります。費用は高額になりますが、その分、質の高い最終義歯を製作するための重要な投資と考えるべきでしょう。
治療用義歯と最終義歯は、目的も構造も大きく異なります。この違いを理解することは、患者への説明において非常に重要です。
治療用義歯は、最終的な義歯を製作する前の「リハビリ用」または「診断用」の入れ歯です。
主な目的は3つあります。
第一に、長期間入れ歯を使用していなかった患者や、不適合な入れ歯を使っていた患者の口腔内環境を整えることです。第二に、患者に最適な咬合位(噛み合わせの位置)を見つけ出すことです。第三に、最終義歯の設計を決定するための情報収集です。
具体的な使用期間は3~6ヶ月程度で、この間に複数回の調整を行います。治療用義歯を使用することで、顎の位置が本来の正しい位置に戻り、歯肉の炎症が改善され、咀嚼機能が徐々に回復していきます。つまり、口腔内のリハビリテーションということですね。
一方、最終義歯は、治療用義歯で得られた情報をもとに製作される「本番」の入れ歯です。治療用義歯での調整結果を反映させ、患者に最も適した設計で作られます。審美性も考慮され、長期間快適に使用できることを目指します。
設計面での違いも重要です。治療用義歯は、残存歯への治療が必要になった際に修理しやすいよう、金属部分を少なくするなど、あえてシンプルな設計にすることがあります。対して最終義歯は、薄い金属床を使用したり、より精密なパーツを組み込んだりして、装着感や機能性を最大限に高めます。
山下歯科の治療用義歯の説明では、「元々使用していた入れ歯の問題点を解決した入れ歯」として治療用義歯を位置づけ、残存歯の治療時に修理が簡単にできるような設計にしていると述べられています。
患者によっては「治療用義歯をそのまま使い続けたい」と希望するケースもありますが、これは推奨されません。治療用義歯はあくまで調整用であり、長期使用を想定した耐久性や審美性は最終義歯に劣るためです。
歯科医療従事者としては、治療用義歯の段階で「これはまだ仮の段階です」と患者に明確に伝え、最終義歯への移行の必要性を理解してもらうことが大切です。特に高齢の患者では、治療用義歯で十分だと感じてしまうことがありますが、長期的な口腔健康を考えると、やはり最終義歯まで完了させるべきでしょう。
治療用義歯は70点の義歯を90点以上にするための必要なプロセスです。この考え方を患者と共有することで、治療の全体像を理解してもらいやすくなります。
治療用義歯は自費診療で高額ですが、医療費控除の対象となるため、確定申告で税金の還付を受けることができます。
これは患者にとって大きなメリットです。
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、所得税や住民税が軽減される制度です。基本的に、年間の医療費が10万円を超えた部分(または所得の5%を超えた部分、どちらか少ない方)が控除対象となります。
治療用義歯は、機能回復を目的とした治療であるため、保険適用・自費診療に関わらず医療費控除の対象です。審美目的のみの治療は対象外ですが、治療用義歯は明確に「咬合機能の回復」という治療目的があるため問題ありません。
具体的な還付額の計算例を見てみましょう。年収400万円の方が治療用義歯30万円、最終義歯55万円、合計85万円の治療を受けた場合を考えます。医療費控除額は85万円-10万円=75万円です。所得税率が20%とすると、還付される金額は75万円×20%=15万円となります。さらに住民税も軽減されるため、実質的な負担軽減効果は大きいですね。
国税庁の歯科治療費の医療費控除に関する説明では、歯科医師による診療または治療の対価で、その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額は医療費控除の対象となると明記されています。
医療費控除を申請するために必要な書類は以下の通りです。
📄 治療費の領収書(原本)
📄 医療費控除の明細書
📄 確定申告書
📄 源泉徴収票(給与所得者の場合)
通院時の交通費も医療費控除の対象となります。公共交通機関を利用した場合は、日付と金額をメモしておくだけで大丈夫です。ただし、自家用車のガソリン代や駐車場代は対象外なので注意が必要です。
患者から医療費控除について質問された場合、歯科医療従事者として以下の点を伝えると親切です。
まず、領収書は必ず保管しておくこと。
次に、確定申告の期間は翌年の2月16日から3月15日までであること。そして、5年前までさかのぼって申請できることです。
診断書が必要かどうかについては、基本的に領収書があれば診断書は不要です。ただし、税務署から問い合わせがあった場合に備えて、治療の目的が機能回復であることを説明できるようにしておくと安心です。
医療費控除は家族全員の医療費を合算できるため、配偶者や子供の歯科治療費も含めて申請できます。治療用義歯の費用だけでなく、他の医療費も合わせると10万円を超えるケースは多いでしょう。
患者にこの情報を提供することで、高額な自費診療への心理的ハードルを下げることができます。実質的な負担額を正確に伝えることが、インフォームドコンセントの一環として重要です。
治療用義歯の費用は決して安くありませんが、患者の経済的負担を軽減しつつ質の高い治療を提供するための工夫があります。歯科医療従事者として知っておくべき独自の視点をご紹介します。
まず、治療用義歯の必要性を見極めることが重要です。すべての患者に治療用義歯が必要なわけではありません。例えば、初めて入れ歯を作る若年者で、残存歯が多く咬合が安定している場合は、治療用義歯を省略して直接最終義歯を製作できるケースもあります。
逆に、治療用義歯が必須となるのは以下のような患者です。
🦷 長期間入れ歯を使用せず顎位が不安定な方
🦷 重度の顎関節症を併発している方
🦷 咬合高径が著しく低下している方
🦷 歯肉の炎症や骨吸収が進行している方
これらの患者には治療用義歯が不可欠ですが、軽度の症例では省略可能なこともあります。患者の状態を正確に診断し、本当に必要な治療を提案することが大切です。
デンタルローンの活用も有効な選択肢です。多くの歯科医院では、信販会社と提携したデンタルローンを取り扱っています。例えば、治療用義歯30万円を月々1万円程度の分割払いにすることで、一時的な経済的負担を軽減できます。金利は年3~8%程度が一般的で、医療費控除と組み合わせることで実質的な負担はさらに減ります。
院内での分割払いシステムを導入している歯科医院もあります。信販会社を通さず、患者と直接分割払いの契約を結ぶ方法です。金利が不要または低金利で設定できるため、患者にとってメリットが大きいですね。
治療計画の段階で総額を明示することも重要です。治療用義歯と最終義歯の費用を別々に提示するのではなく、「トータル治療費」として一括で提示し、その中で治療用義歯がどのような位置づけなのかを説明します。例えば「総額88万円の治療計画のうち、最初の30万円が治療用義歯です」という説明の仕方です。
材料や技工所の選択も費用に影響します。治療用義歯は最終義歯ほどの審美性は求められないため、使用する人工歯や床材料のグレードを調整することで、コストを抑えつつ機能面は確保するという方法もあります。
ただし、精度を犠牲にしてはいけません。
患者への説明資料を充実させることで、治療の価値を理解してもらいやすくなります。治療用義歯を使用した場合と使用しなかった場合の成功率の違い、長期的な口腔健康への影響などをデータやグラフで示すと説得力が増します。
また、治療用義歯の製作過程を写真や動画で記録し、患者に見せることも有効です。どれだけ手間と技術がかかっているかを視覚的に理解してもらうことで、費用への納得感が高まります。
セカンドオピニオンを促すことも一つの方法です。患者が費用に不安を感じている場合、他の歯科医院での見積もりを取ることを提案します。これにより、自院の価格設定が適正であることを確認してもらえますし、患者の納得度も高まります。
最後に、保険診療と自費診療の違いを明確に説明することです。「保険で安く作れるのに、なぜ高額な自費診療が必要なのか」という疑問に対して、材料の質、治療にかけられる時間、設計の自由度、長期的な成功率などの具体的な違いを示すことが重要です。
治療用義歯への投資は、最終義歯の成功確率を大幅に高めるものです。この考え方を患者と共有することで、費用に対する理解が深まるでしょう。

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