無届けでPRPを使うと50万円以下の罰金が科されることがあります。
多血小板血漿(PRP:Platelet-Rich Plasma)とは、患者自身の血液を遠心分離にかけ、血小板を高濃度に濃縮した血漿成分のことです。健康な成人の末梢血には1μLあたり平均約20万個の血小板が含まれていますが、PRPにはその3.5〜4.5倍、つまり70〜90万個/μL程度の血小板が凝縮されています。
つまり自己由来の材料です。
PRPが注目される理由は、血小板が「止血」だけでなく、多様な成長因子を放出する"再生のスイッチ"としての役割を持つからです。血管が損傷されたとき、血小板は損傷部位に集まり脱顆粒を起こします。その過程で放出される成長因子が、周辺の細胞増殖・血管新生・組織修復を連鎖的に促進します。
歯科臨床においては、インプラント手術、GBR法、サイナスリフト、歯周外科、抜歯後の骨欠損部などへの応用が広く知られています。PRP単独での使用よりも、人工骨や自家骨と混合して用いるのが一般的な使い方です。
再生医療の核心ということですね。
なお、PRPによる治療は「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」で定める第三種再生医療等技術に分類されます。第三種は比較的リスクが低いとされるカテゴリーですが、それでも実施前に認定再生医療等委員会の審査と地方厚生局への届出が義務づけられています。実際に、厚生労働省の集計では全再生医療提供計画のうち約60.7%がPRP関連であり、その半数以上(1,546件)が歯科領域での届出です。歯科がいかにこの技術の中心的実施領域であるかが、数字からも明確に読み取れます。
参考:歯科領域におけるPRP療法の再生医療等提供計画ひな型(日本再生医療学会)
歯科領域における自己多血小板血漿(PRP)療法再生医療等提供計画書のひな型について|日本再生医療学会
PRPの臨床的な価値を決定づけるのが、血小板の脱顆粒によって放出される複数の成長因子です。これらは単独ではなく協調的に働き、組織再生のカスケードを引き起こします。代表的なものを整理すると、以下のとおりです。
| 成長因子 | 略称 | 主な作用 |
|---|---|---|
| 血小板由来成長因子 | PDGF | 細胞増殖促進・血管形成・肉芽組織形成 |
| 形質転換成長因子-β | TGF-β | 骨芽細胞分化促進・コラーゲン合成 |
| 血管内皮細胞増殖因子 | VEGF | 新生血管の形成促進 |
| 上皮細胞増殖因子 | EGF | 上皮細胞増殖・創傷治癒促進 |
| 線維芽細胞増殖因子 | FGF | 線維芽細胞・骨芽細胞の増殖 |
| インスリン様成長因子-1 | IGF-1 | 骨基質の合成促進 |
ある研究では、PRPが通常血漿と比較してTGF-βを約3.5倍、PDGFを約4.4倍に濃縮することが示されています(奥羽大学歯学部口腔外科による研究)。成長因子が複数含まれているということですね。
歯科臨床での具体的な作用を考えると、インプラント手術時にPRPを骨補填材と混和して使うことで、骨形成細胞(骨芽細胞)の増殖が促進され、インプラント体と骨の結合(オッセオインテグレーション)が早まります。また、GBR法やサイナスリフトとの併用では、骨再生に必要な「生きた細胞」「足場」「成長因子」の三要素がそろいやすくなります。
これは使えそうです。
さらにPRPには凝固反応によりフィブリン網を形成する性質があり、このフィブリン網が細胞遊走の足場として機能します。抜歯窩や骨欠損部への充填後、術後の腫脹・疼痛軽減効果も報告されており、患者にとっての術後QOLの改善にもつながるとされています。
参考:PRPに含まれる成長因子と各作用の詳細
多血小板血漿(Platelet-rich plasma)を用いた変形性関節症治療|昭和大学
PRPの作製は、採血から手術時の使用までを歯科医院内で完結させるのが基本的な流れです。患者への侵襲を最小限にしつつ質の高いPRPを得るためには、各ステップの正確な理解が欠かせません。
作製の流れを順に説明します。
まず、手術直前に患者から30〜55mL程度の末梢血を採血します。採血量は使用するキットや術式によって異なりますが、歯科領域では1cc程度のPRPが得られれば十分な処置が多いため、30〜40cc程度が目安です。
採血後は抗凝固剤(クエン酸ナトリウムなど)を入れた専用チューブに移し、遠心分離機にかけます。一般的には「二段階遠心法」が用いられ、まず低速(約1,000〜2,000rpm)で赤血球を分離し、続いて中速(約2,000〜4,000rpm)で血小板を濃縮します。これにより血小板濃度を最大5〜9倍程度まで高められます。
遠心分離が完了すると、チューブ内は3層(赤血球層・バフィーコート層・血漿層)に分かれます。上層の血漿と、その直下にあるバフィーコート(血小板が集中する層)を慎重に回収することで、PRP完成です。
PRP完成が条件です。
実際の手術では、使用直前にトロンビンや塩化カルシウムなどの活性化剤を加えてPRPを活性化させます。これにより脱顆粒が起こり、成長因子が放出されます。活性化したPRPはゲル状になり、人工骨や自家骨と混和したうえで骨欠損部に充填するか、縫合前に患部に塗布して使用します。
なお、抗凝固剤は「血小板を活性化させずに生きた状態で保存するため」に必須です。採血から使用まで時間がかかる場合も、抗凝固剤を適切に使用することで血小板の機能が保たれます。処置と採血を同時並行で準備することが、PRP療法を円滑に行うポイントです。
参考:PRP精製過程の詳細(奥羽大学歯学部の研究より)
多血小板血漿(PRP)精製過程における研究(PDF)|奥羽大学リポジトリ
PRPが第一世代の血小板濃縮物だとすると、PRF(Platelet-Rich Fibrin)やCGF(Concentrated Growth Factor)はより進化した第二・第三世代の材料です。それぞれ特性が異なるため、術式や目的に応じた適切な選択が臨床成績に直結します。
意外ですね。
まず大きな違いは、抗凝固剤の使用有無です。PRPは採血後に抗凝固剤を加えて遠心分離しますが、PRFやCGFは抗凝固剤を一切使わず、自然凝固を利用して作製します。つまりPRFやCGFは「完全自己由来」であり、人工的な試薬を一切含みません。これは安全性の観点で大きなメリットです。
形状も異なります。PRPは液状〜半ゲル状で、骨補填材との混合に向いています。一方CGFは、より緻密なフィブリンゲル(固まり状)として取り出せるため、GBR法の膜として使用したり、縫合で患部に固定したりすることができます。薄く伸ばせば生体由来の「膜」としての利用も可能です。
成長因子の含有量については、CGFの方がPRPよりも高い成長因子濃度を示すという報告もあります(東北大学の研究報告)。また作製手順の簡便さという点でもCGFに優位性があり、遠心分離の操作がPRPより少ないため、手技のバラつきが出にくいとされています。
| 特徴 | PRP | PRF | CGF |
|---|---|---|---|
| 世代 | 第一世代 | 第二世代 | 第三世代 |
| 抗凝固剤 | 使用 | 不使用 | 不使用 |
| 活性化剤 | 必要(トロンビン等) | 不要 | 不要 |
| 性状 | 液状〜半ゲル | ゲル(膜状可) | 硬いゲル(膜状可) |
| 作製の簡便さ | やや複雑 | 比較的簡単 | 比較的簡単 |
| 主な用途 | 骨補填材との混和 | 抜歯窩の充填・保護 | GBR膜代用・骨欠損充填 |
CGFが条件です、という場面も増えています。ただし「CGFやPRFも届出なしで使用できる」と誤解しているケースが散見されますが、これは正確ではありません。フィブリンゲル(CGF・PRF)や多血小板血漿(PRP・PRGF)を用いた治療を行うすべての歯科医療機関に届出が義務付けられています(一般社団法人 日本総合医療協会)。
参考:CGFとPRPの特性比較
CGFとPRPの違い|トリプルエープラスデンタルクリニック(広島)
PRPをはじめとした血小板由来の再生療法は、2014年11月に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」によって厳しく規制されています。この法律は、自由診療であっても例外なく適用されます。
法的には第三種再生医療等です。
第三種再生医療等の届出には、大きく分けて2つのプロセスが必要です。第一に「特定細胞加工物製造届」の提出(院内でPRPを作製する場合は「様式第27」を使用)、第二に認定再生医療等委員会の審査・意見書の取得を経たうえでの「再生医療等提供計画(様式第1の2)」の地方厚生局への提出です。
この手続きを踏まずにPRP療法などを実施した場合、第二種・第三種の無届け実施については「50万円以下の罰金」が科される可能性があります(m3.com・再生医療法違反報道より)。さらに厚生労働大臣による業務停止命令・中止命令も受けうるため、医院の存続にも関わります。
痛いですね。
一方で、届出後の運用にも継続的な義務が伴います。
- 定期報告(年1回):提供計画受理日から1年ごとに、実施件数・有害事象の有無などを地方厚生局へ報告。実績ゼロでも報告は必要です。
- 疾病等報告:有害事象発生時は速やかに(重篤な場合は直ちに)委員会・地方厚生局の両方へ報告。
- 変更届:実施医師の変更や治療内容の軽微な修正でも、変更の日から10〜30日以内に届出が必要。
再生医療等委員会の審査には数週間〜数ヶ月を要するケースもあるため、PRP療法導入を検討している歯科医院はスケジュールに余裕を持って準備を進めることが重要です。委員会の一覧は厚生労働省の公式サイトで確認できます。
参考:地方厚生局へのよくある質問(PRP関連手続き)
再生医療等安全性確保法についてよくあるご質問|東海北陸厚生局
参考:再生医療提供計画の届出・実務フロー
再生医療の届出を確実に通すための法規制と実務手続き完全ガイド
参考:成長因子を活用した最新インプラント治療とPRPの届出事例
成長因子(PRP/PRGF/CGF)を活用した最新インプラント治療|インプラント東京