スピーの湾曲を「ゼロにすること」が矯正の正解だと思っていると、治療後の後戻りリスクが2倍以上になります。
スピーの湾曲(Curve of Spee)とは、下顎歯列を側方から観察したときに、犬歯から第二大臼歯の咬頭頂を結んだ線が描く凹状の弧のことです。 正常範囲では、この湾曲の深さは1.5〜2.0mm程度とされており、臨床的に「平坦かわずかに弧を描く程度」が生理的な状態とされています。 makino-ortho(https://makino-ortho.com/archives/22004)
重要なのは、「深い=異常」という単純な話ではないという点です。深さが5mm以上になると、犬歯と第7番遠心の高さを結んだ線との間に大きなギャップが生じ、顎が後方に固定されやすくなり、顎関節症や全身的な体調不良の原因となることが報告されています。 ethica-dent(https://www.ethica-dent.tokyo/occlusal-plane/)
これが基本です。臨床では1.5〜2.0mmを基準に判断してください。
スピーの湾曲を円弧で近似した場合、切歯点から第1大臼歯付近に適合させた半径はおよそ220mmと計測されており(はがきの対角線約2枚分の長さ)、精密な解剖学的根拠を持つ数値です。 この半径のイメージを持っておくと、模型上でのカーブ評価に役立ちます。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/occlusion/20048)
矯正治療における抜歯・非抜歯の判定にはトータルディスクレパンシーが使われます。その計算式は以下の通りです。 dental-note(https://dental-note.com/clinical/orthodontics/%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%91%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%BC%EF%BC%88total-discrepancy%EF%BC%89%E3%81%AE%E6%B1%82%E3%82%81%E6%96%B9/)
| 構成要素 | 内容 |
|---|---|
| ① アーチレングスディスクレパンシー(ALD) | Available space − Required space(模型上で計測) |
| ② セファログラムコレクション(CC) | 頭部X線規格写真で下顎切歯歯軸の移動量×0.8(または×2で左右分) |
| ③ スピーの湾曲(Curve of Spee補正値) | 最深部の深さから算出した加算値 |
トータルディスクレパンシー = ALD + CC + スピーの湾曲の補正値
この総和が−4.0mm以下になると抜歯適応と判断するのがTweedの基準です。 スピーの湾曲が深いほど「矯正によってレベリングするためのスペースが余分に必要になる」ため、マイナス方向に加算されます。 oralstudio(https://www.oralstudio.net/dictionary/detail/6047)
つまり、スピーの湾曲の計算は抜歯判定に直結します。
具体的には、スピーの湾曲の深さ(mm)から補正値を求め、ヘッドプレートコレクションの距離にALDを加えた値に加算することでトータルディスクレパンシーを算出します。 この計測を模型上で正確に行うことが、計算精度の鍵を握ります。 shien.co(https://www.shien.co.jp/media/sample/s1/BK06794/pageindices/index5.html)
「矯正ではスピーの湾曲を完全にゼロ(フラット)にするべき」という認識は、現在のエビデンスと必ずしも一致しません。 過剰な平坦化は、咬合の機能的バランスを崩し、かえって後戻りや咬合力の偏在を招くリスクがあることが複数の研究で示されています。 note(https://note.com/keizo3333/n/nf85b762db459)
現在の臨床的見解では、以下のアプローチが推奨されています。
- 過度に深いSpeeカーブ(深さ5mm超)は修正の対象とする ethica-dent(https://www.ethica-dent.tokyo/occlusal-plane/)
- しかし目標は「完全平坦」ではなく「生理的に適切な1.5〜2.0mm程度の弧」 makino-ortho(https://makino-ortho.com/archives/22004)
- 顎関係・咬合状態・性別差などに応じたカスタマイズが必要 note(https://note.com/keizo3333/n/nf85b762db459)
意外ですね。完全フラット化が正解ではないのです。
ワイヤー矯正においてはリバーススピーカーブ(reverse curve of Spee)と呼ばれる技法が使われます。ステンレスやTMAなど硬めのアーチワイヤーにあえてスピーカーブと逆向きの湾曲を付与することで、レベリングを促進する方法です。 このアーチワイヤーを使うタイミングと量の調整が、過矯正や過小矯正を防ぐ上で臨床的に重要です。 makino-ortho(https://makino-ortho.com/archives/22004)
レベリングの過不足が後の治療ステージ全体の精度を左右します。慎重な設定が条件です。
マルチブラケット法と異なり、インビザライン(アライナー矯正)でのスピーの湾曲管理には特有の難しさがあります。2023年の研究では、バイトランプや顎間ゴムを使用せずに上顎の垂直移動でスピーの湾曲を修正しようとした場合、治療計画通りの変化が達成できない症例が一定数あることが示されています。 docswell(https://www.docswell.com/s/kyousei-ronbun/524D47-2024-03-30-150702)
これは使えそうな知見です。
インビザライン治療計画で見落とされやすいのは、アライナーによる圧下・挺出の「表現率」の問題です。ソフトウェア上でシミュレートされた動きと、実際の歯の動きには差が生じます。特に下顎前歯の圧下や後歯の挺出による湾曲修正は、補助装置なしでは計画値を下回ることが多いです。
対策として、Speeの湾曲が深い症例(3mm以上)でインビザラインを使う場合は、ステージの段階的な修正計画を治療開始前に確認しておくことが重要です。具体的には、クリンチェック(ClinCheck)上でのレベリングステップを明確にし、必要に応じてバイトランプの付与を検討する選択肢が有効です。 docswell(https://www.docswell.com/s/kyousei-ronbun/524D47-2024-03-30-150702)
臨床でほとんど語られることがないが重要なポイントとして、スピーの湾曲は年齢とともに変化するという事実があります。 成長期の患者では湾曲が増強する傾向があり、成人後に安定するため、矯正開始のタイミングによってレベリングに必要なスペース量が異なります。 makino-ortho(https://makino-ortho.com/archives/22004)
また、性別差も無視できません。男性は顎骨の発育が女性より遅く完了するため、同じ年齢でもスピーの湾曲の深さが異なる場合があります。 これはトータルディスクレパンシーの計算に直接影響するため、特に成長期の患者では定期的な再計測が必要です。 note(https://note.com/keizo3333/n/nf85b762db459)
再計測が原則です。
たとえば中学生(12〜14歳)の早期矯正症例では、治療開始時と2〜3年後でスピーの湾曲が1〜2mm変化することもあり得ます。このわずかな変化がトータルディスクレパンシーに加算されると、当初の非抜歯判定が覆るケースもあります。成長終了の確認(手根骨X線や下顎骨の形態変化)と合わせて、スピーの湾曲の再計測を治療計画の節目に組み込む習慣が臨床精度を高めます。
スピーの湾曲についての基礎・臨床エビデンスが詳しくまとめられています(Speeカーブの完全平坦化の是非について)。
Speeカーブ(Curve of Spee)は本当に平坦にしないといけないのか? – note
トータルディスクレパンシーの計算式・各構成要素の求め方の参考。
トータルディスクレパンシー(Total discrepancy) – Dental Note
抜歯基準の診査手順(セファログラムコレクション・ALDの詳細手順)の参考。
抜歯基準の診査 – クインテッセンス出版 異事増殖大事典
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